機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第1話

それは何時の記憶だろうか、私の背は低くカーペットの敷かれた廊下は、それはそれは広く雄大な大地のように見える。

でも、それとは裏腹にその廊下は何処か静かに震え、暗がりが灯るように照らされている。

 

その廊下を真っ直ぐに歩いていくと、一つの部屋に辿り着くだろう。

私の知る中で家の中で一番大きな部屋、リビングルームよりも遥かに広く堅実な迄の造りをした部屋。

そしてそれを隔離する大きく壮厳な扉は、私を見下ろすようにそこに立っていた。

 

中から声が聞こえる、誰の声だろうか?

いや、一人の声は身に覚えある聞き慣れたその声は、私に対して何時も暖かく私を導いてくれる、大好きなパパの声。

でも、何処かその声は張りがあり若々しく、何より怒鳴り散らすような荒々しささえあった。

 

「あの様な娘をどうして貴方のような方が育てているのか解りませんが、それが貴方の使命というなら私は止めません。

ですが、アレは我々の共有財産という事を肝に命じてください。」

 

「私の知っている事はもう貴様に筒抜けだろうに、それともいまだ、幼い命を狩ろうというのか?」

 

誰だろうか?でも聞いたことがある、誰に似ているんだろうか?

そんな声の主の事を考えながらも、目の前にある大きな扉は恐ろしくも私を見下ろしながら何かを待っている。

 

そうして私はその声を聞いて、目の前にある大きな扉を開くのだ。

 

 

……

 

 

「また……、変な夢だ。」

 

そうつぶやきベッドから少女は起き上がると、赤い髪を梳くためにベッドから離れる。

簡素な調度品とは裏腹に、それらにはブランド物の銘柄がズラリと描かれていて、彼女の家が如何に裕福であるかと言うことを表していた。

 

時はCE71年1月、地球と連合の戦争が始まってから8ヶ月の月日が流れた。

 

しかし、そんな戦争の最中でも中立国オーブが所有するこの資源コロニーであるヘリオポリスは、そんな事お構い無しと言わんばかりに中立国であるオーブの力を行使していた。

 

「あぁ〜もぉ〜、まったく。

こんなに苦労するならヘリオポリスになんて来るんじゃなかったなぁ、何が〘世界で一番安全な場所〙よ、使用人がいないんだから大変なだけじゃない。」

 

ブツクサとそう言いつつも、髪をセットしお湯を沸かしてティーポットにお湯を注ぎ、優雅に紅茶を嗜む姿は何処か貴族のような立ち居振る舞いを見せていて、彼女の生まれの良さを実感させる。

 

文句を言いながらもフライパンにオリーブオイルをタップリと注ぎ、そこにベーコン、ソーセージ、卵から目玉焼きを作り上げ、先日の夕方からの作り置きのベイクド・ビーンズを暖める。

 

その間に、コロニーでは比較的高い生鮮食品であるトマトに、パプリカ、レタスを和え、そこにフレンチドレッシングをかけたサラダを作る。

 

そうして作り出されるのは、所謂イングリッシュ・ブレックファスト。

 

一見華奢な彼女はそれを毎朝平らげるのだ、どれだけ肉体の代謝が良く効率的な運動をしているのか。

正直言って羨ましくなるような、付くところにはきちんと付いた筋肉に、年頃よりも少し大きめなバストと、そこから流れるようにクビレ腹筋が薄っすらと見えるそんな身体。

 

そんな彼女は朝食を食べつつ、今日の予定を思い出す。

学校だけではない、ショッピングも欠かさず自らをコーディネートして、周囲の人間に舐められないようにするのが、カーストのある女性社会の生き抜き方だ。

羨ましいと思わせた者勝ちというものだ。

 

「そう言えば、今日は港の方に行っちゃ駄目なんだっけ?

あぁもう、ランニングのコース変えなきゃならないじゃない、そんなに民間人が近付くのが気に入らないのかしら。」

 

彼女はそう言文句を言いつつも、そう言う言いつけは守る質の人間だ。特に、父親の言いつけはとことん護るだろう。

 

朝食を食べ終わると、片付けそのまま歯を磨きマウスウォッシュをする。

薄く化粧をすると彼女は家から駆け出した。

 

……

 

ワイワイガヤガヤという音と共に、学生たちがワラワラとカレッジから出てくる。

単位制の学校であるが、モルゲンレーテの色濃いこの学校は工業系が得意な学生が多く、彼女もまたその学生の一人だ。

 

学年の成績は上位から数えれば早い方で、言い換えればコーディネイターも在籍するこの学校の中で、それなりの成績を出していることから、彼女はとても優秀である事がわかる。

きっとその事を聞いたら彼女はこう答えるだろう。

 

「だって、成績が下になったらパパが悲しむじゃない」と。

 

ファザコンみのある彼女だが、幼き日に母親を亡くした後遺症だろう。どちらかと言えば、ファミリー・コンプレックスと言った方が良いのだろう。

 

そんな彼女はこのカレッジのマドンナ的存在であり、成績優秀な彼女の周囲には上中下別け隔てなく、友人が集まってくる。

緩衝材のように、誰からも愛される彼女はその日も何事もなく過ごしていた、筈だった。

 

始まりはいつも突然の出来事で、彼女は友人等と共に過ごしていると、

 

ズズズン

 

と、何処からか地響きが密閉空間に広がっていく。

直ぐ様その音の後にコロニー中に避難勧告が発報され、彼女も友人等と共にそれに沿ってシェルターへと避難しようとした。

 

しかし、運勢というものは存在しうるか分からぬものだが、その時の彼女を取り巻く人々の運勢は、最悪と言って良いものだったのだろう。

一瞬の出来事、

 

『そっちは駄目だ』

 

彼女は、誰かに呼ばれた気がして、振り向くように足を止める。

友人たちはそんな時に限って、我先にとシェルターへと逃げようとする。

すると、どうであろうか先に行こうとした友人たちのいる方から、巨大な爆発が発生し彼女はその爆風に跳ばされた。

 

「痛たたたた、一体何なのよ!!」

 

と、なんとか打ち身を避けた彼女が爆発のあった方を振り向くとそこには、赤黒いナニカが散乱していた。

彼女は、それがいったいなんだったのか、直感した。いや、直感等無くても、それが何なのか判るものだろう。

何故か?

それは、簡単な話。動いていた動物の群れが、爆発に巻き込まれたらどうなるか、そんなもの誰にだって解ることだ。

 

彼女は絶句した、絶句してその場にへたり込んだ。

まず最初に心の内に湧いた言葉は

『巻き込まれなくてよかった。』

という、肯定の答え。

 

そして、彼女はそれをさも当然の事のように受け入れた。

正常性バイアス、そういったものが彼女の心を短期的に護ったのだ。

今はこれで良い、私は大丈夫、等とブツブツと彼女は小さく言いながら、心は先程自分を呼んだ声が気になった。

 

『こっち……こっちだ。』

 

彼女はフラフラと、その声に導かれる様に道を進んでいく。

進み行く道ほどに、動物であった物があちこちに散乱し、それを見る度に段々と彼女の精神はすり減っていく。

そして、最初に見た物が何であったのかを強く意識し始め、その時になって初めて、瞳に涙が浮かび始めた。

 

怖い、何故自分は一人なのだろうか、どうして自分だけが生き延びたのか、疑念と疑問が浮かんでは消えていく。

点灯したライトが次々と消えていく、既にシェルターは扉だけになっているものもあるのだ。

 

『そう、こっちだ。』

 

声に導かれながら、彼女は大きな建物の中へと入り込む。

誰もいないはずだった、周囲には人であった物が夥しい程グズグズに崩れて潰れている。

 

「あ"あ"あ"ぁ、助けてくれ……。」

 

と言う微かな声が聞こえる。

声の主を目を首を動かし探すと、あった(・・・)。下半身が潰れ、上半身だけで息を切っている物が。

 

それを見て、わなわなと彼女は手を指を口に当て、初めて口から物を吐瀉した。

それは物ではない、者である。それを彼女は意識してしまい、もはや助かるべくもない状況というものを見て、初めて彼女は人死を認識したのだ。

 

暫くそうしていると、声は聞こえなくなる。

そして今度はまた別の声が聞こえた。

 

「こんな……、ところに来るなんて…、どうやって…、入ったんだ?」

 

声の主は、彼女のいる大きな空間の奥にある小さな人の通れる通路から現れた。

なんということだろうか、その人物は腹部を押さえ込み辛そうに彼女を見ると、周囲を見て目を瞑る。

 

「これも……、報いというものか…。君…、こっちに来なさい、ここにいては危険だ。

今から安全な場所へと連れて行くから…、着いて来なさい。」

 

そういう男の直ぐ後ろを付いて行くように歩くが、男は腹部を抑えながら歩いていく。

その足取りは次第に遅くなり、彼女はそれがじれったくなり肩を貸した。

男はそれに苦しげに顔を歪めると

 

「ありがとう……。」

 

と、顔を顰めた。

 

暫くの後、長くても3分であろうか?そこを歩いていくと、布が被せられた物が横たわっていた。

 

「解体待ちだったんだが、まさかこうなろうとはな。

着いて来たまえ、こっちだ。」

 

シートをずらしながら這い上がっていくと、男は金属質のそこへと手を起き、出現した小さなキーボードを叩くとそこが上昇するように開く。

どうやらコックピットのようだ。

だが、それが彼女には直ぐに判ったがどうしてここに連れてこられたのか、解らない。

 

安全な場所、それがもしもこれを指すのなら周囲の状況は最悪なのだろう。

 

「一応、OSは移動だけなら良いが戦闘は無理だろう。

一番の問題は、コイツが君を気に入るかだ…。まともに動かせたやつ等、誰一人いない。コーディネイターでさえ…、あぁ願うことなら空間認識能力があるものにやって欲しかった。

データが…データが足りなかっただけだったのに。」

 

「あの、そんなものに私を載せるんですか?」

 

『そうさ、だが大丈夫。俺が護ってみせるよ。』

 

また声が聞こえる。それが眼の前のこれから聞こえてきているのなら、彼女は自らの正気を疑ってしまうだろう。いや、既に自らが正気で無い事等、承知の上だろう。

 

「君の名前は?」

 

「フレイ・アルスター…、ねぇ答えてください。」

 

「声帯認証登録シマシタ、ばいろっとハ搭乗シテクダサイ。」

 

電子音がそう響き、キーボードを叩いていた男はそれを聞いて口角を上げた。

 

「良いぞ…、気に入ってくれたか…。ガンダムよ…、白い悪魔よ今だけで良い。今だけ、その名の意味を少女を守り給え。」

 

「ちょっと何を言って……!」

 

そう言うが早いか彼女は男を見た。男は何かに祈りを捧げ事切れていた。

少女はそれを見て目を強く瞑り、目の前の光景を受け入れるしかない現実に嫌気が差しながら、少女は男をそこから引き上げてシートへと座り込む。

 

少女は不思議な既視感を覚えた、目の前の光景が何故か(・・・)見覚えがあるように、乗ったこともないもののはずなのに、彼女はそれを知っている。いや、理解出来るのだ。

 

既にコンソールに光は宿り、簡易操縦プログラムのガイドが始まる。

コンソールの指示通りに動けば良い、なのに手はそれの誘導よりも一瞬早く動く。

 

フェイズシフトに電力が周り、機体の硬度は急激に上昇する。スラスターユニットは正常に起動し、機体は建物を突き破って立ち上がる。

その余りあるパワーは、建物を倒壊させても脱出するに足る力を示す。

 

コンソールは、その機体の名を示す。

 

〘GAT-X101 ガンダム〙

 

 

【挿絵表示】

 

 

その機体は、唸りを上げながら彼女を乗せて歩き出す。

彼女が必死に歩みを進めている間に、OSは勝手に書き換えられていった。

次第に足取りが軽くなるその機体の挙動を、不思議とも思わずに彼女は戦場の真っ只中へと身を置いた。

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。

後日、機体設定等を投稿いたします。
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