機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第20話

 

「ナスカ級3、ローレシア級2、包囲グリーン8アルファ500、会敵予測15分後です!」

 

メネラオスの管制から敵艦発見の報せが届くころには、AAの艦橋でもその動きをとらえていた。

ラミアスはその報告には思わず立ち上がった。

おそらくずっと彼らを追ってきた敵だろうが、増援部隊が到着したということか?

それにしても、これだけの艦隊を相手にしかけてくるつもりか? AA一隻のために。

 

この時、彼等は誤解していた事がある。

まず、クルーゼ隊はシルバーウィンド号の生きていた管制に、AAの事が映っていた記録を入手したと言う事を掴み、再度の接触を求めてやって来たのだ。

 

という事は、主目標は行方不明となっているラクス・クラインの捜索となっており、それが確認出来ない現状目の前の障害に対して攻撃を仕掛ける事は愚の骨頂である。

しかし、AAを地球に降ろすという事はザフトの危機的状況を助長する事は、確定的に明らかである故にそれを無視する事も出来ない。

だからこそ、彼等の選択として一番有効な手立てを行うだろう。

 

そして、ラミアス等にはアレ等がクルーゼ隊だとは解りもしないが、フラガはこの敵もクルーゼ隊だという事を確信を持って言い放ったのだ。

 

ラミアスは冷たい汗が背中を流れていく事を錯覚しながらも、それを振り解いて命令を下した。

 

「搬入作業は完了しているわね?メネラオスへのランチは!?」

 

「既に出ています。ですが…、この状況下では…。」

 

出ない方がマシである。

暴風の中に手漕ぎボートで海に漕ぎ出すようなものだ、それ故にこの事態の対処を急がなければならなかった。

 

「わかったわ。―総員第一戦闘配備!」

 

これから始まる戦闘に、冷や汗を流しながらもこれさえ凌げればと言う、高い士気の元彼女は敵を見据えた。

 

……

 

「総員第一戦闘配備! 繰り返す、総員第一戦闘配備!」

 

 

カタパルトデッキに行き、キラはあたりを見回した。ヘリオポリスからの避難民はここでランチに乗り、メネラオスへ移動してからシャトルで地球へ降ろされるという手はずになっていた。

回りくどいようであるが、シャトルの無いAAでは行えない事だったのだ。

もう、シャトルはいないようで彼はホっと胸をなでおろしだ。

 

「ガンダムが出れないってどう言うことよ!」

 

「しょうがねぇだろう?!関節部の消耗がストライクの比じゃねぇだ!なんならもっと気を使って乗りゃ良かったんじゃねぇか?」

 

あんまりな言葉が聞こえてくる。

そう、ガンダムは彼女の操縦に追従する為に、関節部へ過負荷が掛かっていたのだ。

それがどう言うことを引き起こすのか、それは考えるに難しく無いだろう。

 

「でも、出せない訳じゃないんでしょ!!」

 

「そうだけどよ、これから大気圏に突入するってぇ時に、誰がMSを出せるってんだよ!」

 

そんな口論を他所に、キラはストライクへと近づいていく。

キラの操縦に素直に動いてくれるストライクは、彼の戦い方にピッタリとなっている。

それ故に、負荷は最小限となっていた。

 

「こちらキラ・ヤマト、ストライク発進準備に入ります。」

 

「キラ、そっちで口論してるみたいだけど、フレイの機体ちょっと挙動がおかしいみたいだから、あんまり戦力として宛に出来なくなってるみたいなの。」

 

うん知ってると、そう口に出そうになったところで、彼は思い留まった。

そんな軽口を言うよりも、現状の把握を優先した結果であった。

 

「敵の数は判る?」

 

「まだ、レーダーとかでも数は把握出来てないみたい。

だけど、この前よりも多いかもしれないって。

ほら、ガンダムタイプ……、ストライクとかそう言うのを纏めてそう言うらしいんだけど、それが投入される可能性大だって。」

 

だとすると、相手はアスランだけでなくアレ等が全てになるかもしれない。

そうなればどうなるだろうか、唯でさえ防戦で手一杯の中に相手は対空火器が効かない相手、自分だけが相手を出来る事になってしまう。

 

「なんとか、フレイの機体は出せないの?」

 

「なんか、高機動を出さなきゃ行けるって話だけど…。」

 

だとすれば、フレイの機体は前線から一歩下がった位置で戦うことになる。

そうなれば、彼女が傷つく可能性は低くなるかもと、キラはいつの間にやらフレイの事ばかりを考えていた。

 

「判ったよ。フレイには後ろで戦って欲しいって伝えてくれる?」

 

「了解しました、ヤマト准尉!なんてね。ストライクカタパルトデッキへの移動を開始します。」

 

キラは、その言葉の通りに機体を操作した。

地球低軌道での戦闘、重力に引き摺られる可能性のある戦いを、覚悟をしながら機体を進めていく。

 

「ストライク、エール装備です。」

 

その言葉通りにエールパックが装着されていく。

にも関わらず、彼の頭には恐怖は無かった。寧ろ、落ち着いている。何故だろうか、その時の彼には解らないが、もしも言うのであれば、守りたい人がいる。

と言う事が、彼に力を与えたのだろう。

 

 

……

 

 

「全隔壁閉鎖、各科員は至急持ち場につけ!」

 

ローラシア級ガモフ艦内に、戦闘が近づいていることを報せるアナウンスが響く。

「モビルスーツの発進は三分後、各機システムチェック」

その放送を聞きながら、イザークはコクピットの中で息をついた。彼が搭乗するデュエルのその姿は、鹵獲した時のそれとはまるで違うものに見える。

 

「アサルトシュラウドの力で押し切れればいいが……、奴が出てくるか?」

 

本来ジンの増加装備となっているそれを、急遽デュエルへと取り付け、そのシンプルな機体は実質的に火力が底上げされ、対艦戦闘能力が飛躍的に上昇していた。

 

「ずいぶん弱気じゃないか、イザーク」

 

茶化すように言うディアッカであるが、彼のその言葉の端からは何処か恐怖にも似た感情があった。

 

「そうもなるさ、だがな。それを乗り越えてこそだろう?」

 

そりゃそうだと、互いに軽口を言う姿からは今までギスギスしていた姿は無かった。

 

「今回も足つきが主目標だからな。クルーゼ隊長達は、連中がラクス嬢の行方を知っているのではと、そう思っているらしいが…。」

 

「だとしてもよ、落とさない訳にはいかないよな。」

 

そう言う返答を聞きながら、イザークは苦笑いした。

 

「アスランとニコルも出るんだ、これで突破出来なければ笑い者だな。」

 

そう独り言ちると、デュエルを発進させた。

 

 

……

 

地球連合の駆逐艦、戦艦からメビウスが飛び立って行く。そしてザフト艦からもモビルスーツが放出された。

互いにその数は、大きな艦隊戦とすら言えるような規模となっており、ここに来てAAが戦って来たそれとは比べ物にならない程の戦力が激突した。

 

「全艦密集陣形にて迎撃態勢!」

 

所謂ボックス隊形と言われる、爆撃機が戦闘機に対して行っていた対空戦闘のように、艦隊を一纏めとする事で火力を密にするよう通信機を通して、メネラオスのハルバートン提督から命令が下される。

 

短期的な対空戦闘において、これ程火力の伴うものはない。

だが、問題としては懐に入られたら最後。

艦艇どうしの戦闘距離の近さから、互いに防空戦闘が出来なくなるというリスクがあった。

 

コレを、選んだハルバートンの狙いとしては、AAが地上へと降下する為の時間を稼ぐ為でもあった。

この戦闘において、どれ程の艦艇が殺られようともアラスカにAAが到着した瞬間に、連合は戦略的な勝利を得られる。

そう言う、大を取り小を捨てる判断をしたのだ。

 

「AAは動くな。そのまま本艦につけ!」

 

そして、MA母艦であるメネラオスの周囲へと置く事により、そのMA隊によって防空戦闘を行えるよう判断を下したのだ。

 

AAの艦橋では、重苦しい不安を感じながら、みながモニターを見つめた。

 「イーゲルシュテルン起動! 後部ミサイル管コリントス装填!」

 

 ナタルが次々と武装システムの立ち上げを命じていく。

 

 「ゴットフリート、ローエングリン発射準備!」

 

次々と命じられる事を、淡々とこなしていくブリッジ乗員。もはやそこには、ヘリオポリスからの勇士と言う姿があった。

 

この時の正規クルー達は内心ホッとしていた事だろう。最低人数での艦の運用など、御免被る事だ。

一人一人の負荷が半端ではないのだから。

 

だが、ラミアスの胸中は複雑だった。少年たちの決意がありがたいと同時に、重荷となって彼女の肩にのしかかる。

彼らなりに思うところあっての決意なのだろうが、それはあまりに幼く、甘いものだ。今後の彼らの人生に、この決意はいったいどんな影を落としていくのだろうと、彼女は考えずにはいられなかった。

 

 

……

 

 

ジンが散開し、その類稀なる機動性で持って暗い真空の海にポツポツと光点を作り出す。

それに追従するかのように、メビウスがその火焔の尾を引きながら移動するさまは、実に壮観なものだろう。これが戦争でなければ。

 

メビウスがミサイルを放つが、ジンはそれを見事に躱し重突撃銃を叩き込む。

すると、見事な花火が世界を彩り赤き閃光を広げる。

 

しかし、ただ黙って見ているMA隊ではない。

これまで、どれ程のMAがMSに葬り去られたのだろうか?

それは血によって描かれたマニュアルの戦闘を行い始める。

 

5対1と言う戦力差を埋める為に、連合はその物量と共にマニュアル上の機動戦闘を書き換えた。

現状出来得る限り、MSに対抗する手段としてその加速力を生かすのだ。

 

すれ違いざまに、メビウスを撃ち落とそうとした機体が、今度は次々に現れる群によって蹂躙されていく。

スズメバチに囲まれた、人のようにジンは爆発四散する。

 

そんな、一進一退の攻防を余所に艦隊へと接近する4つの影がある。

そう、それは連合が奪われた4機のG兵器であった。

 

メネラオスの艦橋でそれをモニターしていたハルバートンがうめく。

「くそっ……Xナンバーか……!」

 

「確かにみごとなモビルスーツですな……だが、敵に回しては厄介なだけだ」

 

副官のホフマンがとなりで冷ややかに言った。

現実主義者であるがゆえに、それを言う事で心を冷静に保とうとしたのだろう。

 

「――セレウコス被弾、戦闘不能! カサンドロス沈黙!」

 

「アンティゴノス、プトレマイオス撃沈!」

 

 メネラオスの艦橋に、オペレータのうわずった声が響く。当初は冷笑的だったホフマンが、愕然として立ち上がった。

「なんだと!? 戦闘開始後たった六分で……四隻をか!?」

 

自分たちを救うはずの兵器で自分達が首を絞められる。それがどれ程滑稽な事だろうか?

 

「――敵ナスカ級、およびローラシア級接近!」

 

「セレウコス、カサンドロスにレーザー照射!」

 

「なにっ……!?」

 

敵の行動にハルバートンは驚愕した。

これでは神風のようではないかと。

撃沈する事をも厭わない、特攻とも言えるそんな判断を出来る奴が真艫であるはずが無い。

 

「アスランとニコルは甘いな……」

 

クルーゼが先程の行為を判断した。

戦闘能力を喪った艦艇を攻撃しない二人の行動に、そう言う判断を下す。実際それで火力が復帰すれば目も当てられないからだ。

 

「敵の戦力の中には……、ストライクがいるだけですな。ガンダムの姿が見えません。

アレが何処にいるのか、戦々恐々としますがいないのならば好都合ですな。」

 

アデスがなかば冗談、なかば本音でそう応じる。ラウは笑った。

 

「こちらもそれなりの損害を出したのだ、敵も内部に損傷を負っていたのだろう。」

 

そう言いながらも、その戦闘経過を冷静な判断で見守る姿は、智将と言えよう姿だった。

 

 

……

 

ラミアスは判断しかねていた。

このまま艦隊中央にいて、敵が来るのを待っているだけでいいのだろうか?と。

 

敵のXナンバーは明らかにAAを狙うよう、真っ直ぐに向かってくる。

ストライクはそれに対して応戦しているものの、それも突破されるのは時間の問題だろう。

 

敵の方がG兵器の数が多いのだ、数機でよってたかれば足止めされるのは明白である。

 

チラリと戦況図を見るものの、ゆっくりとした挙動を制約されているガンダムは、見越し射撃を行ってバスターからの砲撃を迎撃している。

殆ど動きが無いものの、それがどれだけ難しい事か。

 

彼女はしばし思い悩み、そして、決断に至った。

 

「メネラオスへつないで!」

 

モニターにあわただしげな表情のハルバートンが映った。

背後では怒鳴り声がしている。

 

なんだ!?

ハルバートンは怒鳴るのに近い声でただした。ラミアスは答える。

「本艦は艦隊を離脱し、ただちに降下シークエンスに入りたいと思います。許可を!」

 

「なんだと!?」

ハルバートンの表情から片手間の調子が消え、驚愕に置き換わる。横から副官のホフマンが割り込む。

「自分達だけとっとと逃げ出そうという気か!?」

 

あんまりな言い草であるがそう思われても仕方が無い。

ラミアスはきっとして答えた。

「敵の狙いは本艦です。本艦が離れないかぎり、このまま艦隊は全滅します!」

 

ハルバートンが苦いものを噛んだような顔になる。これだけの艦隊が、たった五隻の艦と数十機のモビルスーツ相手に持ちこたえられないという現実、それらを自らの部下にあっさりと告げられたのだ。それがどれ程悔しい事か…。

 

「アラスカは無理ですが、この位置なら地球軍制空圏内へ降りられます! 突入限界点まで持ちこたえさえすれば、ジンとザフト艦は振り切れます!」

 

ラミアスは懸命に訴えた。一歩も退く気はなかった。

 

「閣下!」

 

ハルバートンの顔に、苦笑が浮かんだ。

 

「……相変わらず無茶なやつだな。マリュー・ラミアス」

それに対してラミアスも笑ってみせる。

「……部下は上官に習うものですから」

 

「いいだろう!AAはただちに降下準備に入れ。限界点まできっちりと送ってやる。送り狼一匹も通さんぞ!」

 

ハルバートンがそう凛然とした顔でそう言うと、ホフマンがそれに対して舌打ち気味に言う。

 

「その無茶に付き合わされる私の身にもなって欲しいが――。ええい仕方あるまい! 良いか、必ず生きてアラスカへ届けるんだぞ!」

 

激しい戦闘の最中、AAは時を置かずして降下を開始する。それは一種の賭けに近いものであった。

 

 

 




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