機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第21話

 

AAの降下が始まったちょうどその頃、キラとの共同戦線を構築していたフレイは、NJの濃い戦域でAA降下の指令を受信した。

 

「AAが降下するの?」

 

『戦略上は良い手だが、向こうも黙ってみていてくれるわけじゃない!』

 

緩慢な動きをするガンダムは、砲撃仕様のその肩部砲の仰角を微調整しながら、襲い来るG兵器の群を相手取るキラの背後から援護射撃を行っていた。

 

『フレイ、突っ込みすぎるなよ。』

 

「判ってる、でも私に出来るかな。」

 

今、ガンダムの操縦を行っていたのは彼女だった。その操縦テクニックは、初めて搭乗した時とは比べ物にならない程に滑らかであり、一端のパイロットと言える程度にはその腕は出来上がってきていた。

 

しかしながら、その挙動一つ一つにはあの鋭く尖ったような急激な機動もなければ、未来を察知したかのような意に反した動きも無く。

良く言えば一人前、悪く言えば通常のコーディネイター程度の動きをしているだけに過ぎない。

 

さて、なぜそのような事をしているのか。くどい用であるが、このガンダムに取り憑いている、亡霊である男がフレイに乗り移っていれば、こんな動きせずとも戦場を駆けることなど造作も無いことだ。

しかし、この男の操縦方法に問題があったのだ。

 

本来MSと言うのは、センサー索敵範囲の敵の行動を察知してパイロットに警告を送り、そして回避行動を取るものだ。

しかしながら、この男の動きは索敵範囲の敵をマニュアルで叩きのめし、警告を発する前に既に動き始めるという。

言わば、未来予知めいた動きをするのである。

 

そんな動きをした機体はどうなるか?勿論、間接駆動系に問題をきたす。

現にガンダムの駆動系は悲鳴を上げていて、この出撃ですら本来ならば待った(・・・)をかけられるものなのだ。

迎撃戦をしなければならないから出ているに過ぎないのだ。

 

そんな状態の機体が今度そのような動作をすれば、忽ち機体各所からアラートだらけになるのは目に見えている。

そこで、フレイ本人が操縦する手が考案されたのだ。

 

彼女は今、普通のパイロットである。

それ故に、警告通りに射撃を行い。それよりも早く危険を周知されれば、ゆったりと回避行動をとったりと機体に余裕を持たせていた。

 

それでも、一般的なザフトのパイロットから見れば、エースと言わずとも一流が駆るMSに見えるのだから、この時の彼女の操縦に無理無茶な事は無かった。

 

『次、右やや斜め上だ。』

 

それでも、センサーよりも良く察知する人物の誘導に彼女は全幅の信頼を寄せつつ、レールガンを撃ち続ける。

攻撃をかけようとするMSの体勢を崩す為の牽制射、それでも回避しなければ直撃コースだ。

 

『そろそろAAに帰投したほうが良い、AAの至近距離に近づかれたら大気圏突入時の無防備なところを撃たれかねないからな。』

 

「わかった。けど、キラは?ストライクは…。」

 

その時、彼女の目に映った光景は信じ難いものだった。

 

……

 

「ベルグラーノ撃沈!」

 

「限界点まであと五分!」

 

メネラオス艦橋で、ホフマンが叫んだ

大気圏への突入までの距離はそれ程遠くはない、寧ろ近過ぎる。このまま行けば、メネラオスは地球の引力に引かれてしまう。

 

「閣下、これ以上は……! これでは本艦が保ちません!」

 

だがハルバートンは断固として首を横に振った。

 

「……まだだ!」

 

ついに敵のバスターの超高インパルスライフルがメネラオスに命中し、艦橋にまでその振動が伝わる。

そして、バスターの保持していたライフルがガンダムの射撃によって弾かれ、第2射の軌道が反れる。

 

その正確無比な射撃は、カタログスペック上中途半端であった筈の機体を、見知ったデータ以上の性能を出す物を信じられないものを見るかのように捉えられた。

 

ストライクが必死の抵抗とともにメネラオス周囲のXナンバーとの戦闘を繰り広げながら、少しずつ後退している。

 

X102デュエルの表示がモニターに出る。が、目視した機体は記憶と外見が異なっていた。装備が変わっているのだ。

ライフルで狙撃するが、装備のために運動性が高まったのかあっさりかわされ、あっという間に迫られる。

「くうっ……!」

 

迫りくるそれを機動性で攻撃を回避するも、たった1機のMSに出来る事など知れている。

ジリジリと押されていく。

 

振り下ろされるビームサーベルをすんでのところで回避するも、その次の瞬間にはロックオンアラートが機体内部で荒ぶる。

我武者羅に避けると、直ぐにそこを砲撃が通過する。

 

艦隊内部まで侵入され、防戦一方の第八艦隊にザフト艦が一隻迫ってきていた。

 

「ローラシア級接近―!」

 

メネラオスの直ぐ側にまで接近を許したのは、単にNJのせいだけではない。

混戦状態となったが為に、艦隊の相対速度が速まっていたのだろう。それを気にする暇もない状況こそが、最大の敵であった。

 

「ガモフ、出過ぎだぞ! 何をしている!?――ゼルマン!」

 

ヴェサリウスの艦橋で、アデスが身を乗り出して叫んだ。もともと突出ぎみだったガモフが、今は完全に敵の隊列の内側へ入り込んでいる。通信回線が開いた。

 

「……ここまで追い詰め……引くことは……元はと言えば我ら……」

 

ガモフ艦長のゼルマンだった。距離があるため、ジャマーの影響で映像も音声も酷く乱れている。

ノイズの合間に時折聞こえる声は、妙に平静でアデスはゼルマンが既に覚悟を決めていたことを知る。

 

単独行動中、アルテミスでAAを仕留めきれなかったがゆえの現状に対する、罪滅ぼしのようないらないプライドでやっているのだろう。彼だけの責任では無いにも関わらず。

 

「――クルーゼ隊長……」

 

アデスはやりきれない気分で上官の顔を見やり、ふいにぞっとした。

ラウはモニターを見つめていた。そこにはメネラオスの巨体に突っ込んでいくガモフの映像が映し出されている。

一心に見入るその口元は、かすかに笑っていた。

 

遮二無二砲撃を加えながら、捨て身の攻撃をするガモフに、メネラオスは迎撃戦を展開しようとするも、既に火線は敵艦隊だけで手一杯である。

それを迎撃しようと、駆逐艦がメネラオスの目の前に展開し妨害を図った。

 

「――刺し違えるつもりか!?」

 

ホフマンがそう言うが早いか、ハルバートンは命令を下した。

 

「すぐ避難民のシャトルを脱出させろ」

 

虚をつかれたホフマンが、その意味するところを悟り、顔色をなくす。ハルバートンはそんな彼を叱咤するように叫んだ。

 

「ここまで来て、あれに落とされてたまるか!」

 

ストライクが援護を行おうとするも、デュエルとの戦闘に余裕がない。

 

ならばと、空白時間によって出来た余裕によって主砲をガモフへと指向する。

しかし、その直後バスターからの一射がそれを破壊し、対応不可能となってしまう。

 

直撃ルート、慣性航行であれば当たることはないが、ガモフのエンジンは全力を出していた。

そこにAAの方向から、一射の曳光がガモフのエンジンを貫いた。

直後にガモフの背後が大規模な爆発に見舞われ、軌道が反れる。

 

「なんだ!?」

 

数キロ離れれば狙撃は難しいもの、それも地球の引力圏を計算してそれを行うのは、どれ程難しい事だろうか?

 

メネラオスから一機のシャトルが放出され、徐々に離れて姿勢を制御する。ホフマンはそれを見て安堵の表情を浮かべた。

しかし、次の言葉でそれは絶望へと変換される。

 

「シャトルからの信号が……、発信されていません!!」

 

民間人が搭乗しているというそれが、この戦闘宙域に出ている者たちにとってどれだけ認識出来る事だろうか?

 

「なんだと?」

 

これが何を現すのか、撃ち落されても仕方が無い状況になりかねない。

 

しかし、その状況下において艦艇の近くにいれば居るほどに、その状況が悪化していく事は誰もがわかった事だった。

 

「面舵!――本艦はこれよりこの宙域を離脱する!」

 

ハルバートンは直ぐ様命令を飛ばす。

艦隊そのものの損害は馬鹿には出来ないが、このままでは艦隊が全滅する。

 

わずかに軌道を反れたガモフが、メネラオスの眼前にまで迫りそれは左舷の装甲を抉るように擦り通って、艦橋内に鈍く嫌な音が響いた。だが、それだけであった。

 

航行能力を失ったガモフはそのまま戦闘空域の外へと吸い込まれるようにして、ただ漂うのみである。ハルバートンはふうっと深いため息をついた。

あとは、AAが無事に目的地にたどり着くだけだと。ハルバートンはAAの姿を目に焼き付けるようにじっと見つめつづけた。

 

……

 

「艦長! フェイズスリー―突入限界点まで二分を切ります! 融除剤ジェル、展開用意」

 

ノイマンの声に、ナタルが反応する。

AAは既に降下まであと少しと言ったところであったが、肝心のガンダムとストライクはまだ帰艦していなかった。

 

「ストライクとガンダムを呼び戻せ!!」

 

ラミアスは手に汗を握りながらモニターを見つめていた。

満身創痍のメネラオス、残存艦隊が力を振り絞って帰路へつく。それに追いすがる多数のジンを、必死にメビウス達が応戦する。

その姿は敗残兵と言っても過言ではないが、見方を変えれば勇士の帰還であった。

 

少しずつ離れていくメネラオスに向けて、彼女は拳を強く握りしめた。

 

「ストライクに通信を、ガンダムは…。」

 

その言葉が発せられる前に、上部甲板に機影が現れた。

レーダー、センサー類を掻い潜ったブリッツであった。

時間がゆっくりと流れる中、ブリッツはトリケロスを艦橋へと向けようとする。

 

大気圏への突入に対する断熱圧縮を掻い潜るべく、展開されたPS装甲がその姿をまるで死神のように映した。

そんな中でブリッジの扉が大きく開かれ、一人の少女がその姿を現す。

 

眼前に映る光景を目の前に、大きく目を見開く彼女。

ブリッツがトリケロスを構え、狙いを着けた瞬間。搭乗者であるニコルはそのコーディネイトされた知覚でそれを知った。

 

「ラクス……、クライン?」

 

クルーゼ等が探していた人物がAAにいる、こんな事を知っている人物はこの時のザフトにはいなかった。

それどころか、自分達はその艦を撃沈しようとしているではないか。

この時、ニコルは思考してしまった。

 

次の瞬間。

 

「――ッグ!!」

 

機体に衝撃が走る。

ビームライフルのそれではないだけマシなのだろうが、それでもAAから弾き飛ばされるには充分な衝撃であった。

センサーの死角から射撃をしたガンダムが見える。

それはまるで、AAを守護するようにブリッツに成り代わり、甲板へと降り立った。

 

「大丈夫ですか!」

 

そう言うフレイはブリッジの安全を確認する。

 

「助かったわ、これより降下を開始します。突入までの迎撃を…。」

 

ラミアスがそう言い掛けた時、フレイの頭に痛みが走った。

ズキリとしたその現象が何なのか、それは彼女には解らない。だが同時に、悲しみが伝播したような感覚があった。

 

『過ちを繰り返すか…』

 

そんな言葉と共に、彼が何を感じたのか彼女は察した。

それは、人の死。それも、意図せず行われた虐殺というどうしようも覆らない行為。

 

「アスラン!ディアッカ!イザーク!ブリッツは引力に引かれています!来ないでください!」

 

レーザー通信が、そんな言葉を拾う。

今撃てば、目の前のブリッツは落とす事ができる。だけど、彼は何かを見つけた。それが良い事ならば、それを落として良いのだろうか?

 

「今攻撃すれば、足つきだってただじゃすまないだろ!!」

 

「その艦には、ラクス・クラインが乗っているんです!」

 

「なんだと!!」

 

望外にあった物事が今、目の前にある。

そして、もしそれを手に掴めるのならば、大いなる壁を突破しなければならない。

正確無比な射撃が彼等を襲う。カタログスペックとして、大気圏突破が可能であるらしいが、それもPSがあってこそ。

それを消す為に、ガンダムからの射撃が続く。それによって、近付く事もままならない。

 

イザーク駆るデュエルは、ストライクとの戦闘によってもはや地球に引かれ戻るタイミングを逸し、墜ちていく。

それと同様に、ストライクもまた同様に墜ちていく。

 

「フェイズスリー! 融除剤ジェル展開!」

 

ミリアリアからの懸命な呼び掛けにも関わらず、引力に逆らうすべを持たないストライクは、もがきながらも必死にAAに行こうとするが、その速度はお世辞にも必要充分ではなかった。

 

「キラーっ!」

 

サイが、トールが叫んだ。艦橋のモニターにAAに戻りきれないまま大気圏突入をするストライク、が映し出されていた。

 

「あのまま……降りる気か?」

ナタルが焦ったようにつぶやく。だが、いまさら収容できるはずがない以上、カタログ・スペックを信じてそうするしかない。今AAのハッチを開けば、高温の大気で内部を焼かれるか、降下姿勢を保つ事ができなくなるかだ。

 

そのときパルが声を上げた。

 

「本艦とストライク、突入角に差異! このままでは降下地点が大きくずれます!」

 

艦橋に沈黙が漂よった。

しばしの間ののち、沈黙を破り、ラミアスが決断した。

「艦を寄せて!AAのスラスターなら、まだ使える!」

 

「しかしそれでは、艦も降下地点……!」

 

ノイマンから上がった抗議を、ねじ伏せるように封じ込める。

 

「たった一機だけアラスカに降りても意味がない! はやく!」

 

大気を掴み船体が大きく動き始め、宇宙のそれとは全く異なる挙動が発生するも、それをノイマンは巧みな操艦で乗り切ろうとする。

 

「ただちに降下予定地点、算出して!」

 

ラミアスがパルを振り仰ぐ。

 

「ちょっと待ってください」

 

パルは慌てて計算している。

その間にも艦は横滑りするようにストライクへと進む。

 

「本艦降下予定地点は……」

 

パルが叫ぶ。

 

「アフリカ北部ですっ! 北緯29度、東経18度!」

 

その声がうわずっている。

一同が、声に反応して凍りついた。

 

「……完全に、ザフトの勢力圏です!」

 

たった一隻の軍艦が、敵のただ中へと降り立とうとする中に、4機の流れ星は同じ場所の違う地点へと堕ちていった。

 

 




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