機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第22話

青々と広がる空の上を、太陽が東から西へと横断しようと動いていく。

それと同時に影が動き、その下を4人の人影が蠢いている。

陽炎が辺り一面に広がり、その大地の熱が異様な程に高い事を示すと同時に、そこに住みゆく生物が居ないことを示していた。

 

「おいおい、どうなっちゃんてんだ砂漠って場所は、どんだけだよ。」

 

「そんなに文句言わないでくださいよ、仕方ないでしょ?こんな場所、プラントにだって早々無いんですから。」

 

赤いパイロットスーツを纏っている彼等は、AAの降下を阻止しようと低軌道から大気圏へと突入し、アフリカのサハラ砂漠へと軟着陸した。

大気減速を行ったがために、PS装甲の過剰使用が祟り彼等の機体はその機能を殆どを喪失。

要救助用のガイドビーコンが、気休め程度に生き残っていた。

 

「食糧は保って3日分、降りてくる時に近くに街が見えた。そしてレセップスと思われる艦艇も確認出来た。

ここで待っているしか無い。」

 

アスランはそう、現状を冷静に分析し慌てても仕方が無いことを彼等に話す。

無論彼等も解っているのだが、どうにも年齢から来る精神的な落ち着きの無さが、現状を悪くする可能性もある。

 

「ニコル、貴様本当に見たんだろうな?ラクス・クラインが足つきに居たというのを。」

 

「何度も見せたじゃないですか!きちんとブリッツの戦闘データにあったのを、それなのにまだ疑いを持つんですか?」

 

クルーゼ隊が現在も捜索している筈の、ラクス・クラインが足つきに捕まっているという情報。

それは、新鮮な情報故に一刻も早くプラント本国へと連絡しなければならない。

 

しかし、彼等にとってその連絡手段を絶ったのは、他でもないプラントの技術であった。

 

「NJなんて面倒くさいもの、良くもまぁこんだけ広大な場所に落としたんだな。今、俺達に出来ることなんて何にも無いぜ?」

 

NJは、本来核分裂を抑制し、戦術、戦略核の使用を行わせない為に作り出された、防衛用の兵器。

それを大量に地球上へと降下させた為に、地球上での核分裂はほぼ完全に抑制された。

 

その副次効果として、電波障害が発生しているのだが…、それによって自らの首を絞めてしまっていたのだ。

 

「おい!ありゃなんだよ。」

 

ディアッカが何かを見つけた。

大きく黄色っぽくなった巨大な砂塵の塊が、彼等のいる方へと迫って来ている。

 

「砂嵐……というものかもしれません。砂が肺の中に入ったら、最悪呼吸困難で窒息死するようですよ?」

 

「各自、MSに戻れ。少しの間、我慢するしか無いようだ。」

 

砂漠はその気候上、一見すれば冬も暑いと思われるだろうが、実際のところそれ程暑くはない。特に2月のこの時期は日陰にさえいれば、若干肌寒い程度である。

 

彼等はMSに乗って砂塵をやり過ごそうとする、それは良い意味で最良の選択であった。

 

 

……

 

灯り一つ無い場所に、満天の星空が輝いている。そこは、生命の灯火を感じることすらできない、辺り一面砂の海。

大海洋も砂漠も生命の少なさからは、同じようなものであるがそこに飲水が無いのは同じことである。

 

しかし、そんな場所でしか味わえないものもある。

見よ、この塵一つ無い静寂の中まるでプラネタリウムを大きくしたかのように、星々の瞬きがその神秘性を讃える。

 

そんな場所に、場違いにも一隻の戦艦が降り立っていた。

第八艦隊が総力を挙げて地球へと降下させた艦、AAはあろう事かそんな場所に存在していた。

 

「キラ、もう大丈夫なのかよ?」

 

「大丈夫平気だよ。ちょっと熱中症になったくらいだから、ごめんね心配かけて。」

 

大気圏への単独突入という無理無茶を押し通したキラは、内部の極限の暑さの中意識朦朧と成りながらも機体を帰投させた。

だが、それは彼だけの行動のせいでは無く、AA全体が彼を助けたい一心で動いた結末であった。

 

そのおかげか、彼は無事……、ではないがこうして生きている。最も、医務室のベッドの上で水を補給しながらだが。

 

 

「本当だよ、フレイなんかずっと看病してたんだぜ?」

 

「え……?なんで?」

 

「どうせパイロットだから、やれる事なんてたかが知れてるしって。良いなぁ…、綺麗な娘に看病してもらっちゃってさ。」

 

自分から進んで、そんな事になったわけでは無いのに羨ましがられても困る。第1、君等にはMSの操縦なんて出来ないだろう?僕の気持ちなんて……〘知らない癖に。〙

 

と、一人そんな心境をしつつもキラは言葉を発せなかった。

 

低軌道上での彼の活躍は、AAでも語り草となっていた。

MSでの初の単独突入という大業を行い、瀕死に成りながらも生き残るという、そんな伝説的なものへと昇華してしまうのではないか?と、知らぬ人は思うだろう。

 

だが、彼の胸中にはそれ以外の事があった。

戦闘を続けるデュエル、それの視界端に捉えられたシャトルと、その中にいた人達。

誰もが生きたいと、そう願っていた人達が目の前でデュエルに撃たれた。

守ると約束したのに、守れなかった。彼にそれは追い打ちのように心に深い傷を残した。

 

目を閉じれば夢を見る、〘なんで生きているんだ?早くこっちに来い〙〘お前だけのうのうと生きやがって〙とか、そんな誰も言っていない事だらけに、彼の睡眠の質は最低を記録した。

 

「にしてもさキラ、罪な男だよな。」

 

「はぁ?どうしてそうなるんだよ、僕は何も悪いことは。」

 

トールのその言い草に、彼は少々頭にきた。まだまだ完全に回復していない事も相まって、彼の精神は過剰な反応を示しただけだが…。

 

「いやさ、サイがフレイと交代しようと此処に来たときにね、一悶着あってさ。何があったと思う?」

 

「何があったの?」

 

「〘キラの苦労も知らない癖に、どうせサイと私の婚約はパパ達が決めた事で、もうそんな義理もないんでしょ!なら、関係ないじゃない。〙なんて言うもんだからさ……。」

 

その言葉にキラはどう言う事が起きていたのか、理解に苦しんだ。

キラは確かに苦労している。友人達の間でも、自分がコーディネイターだからと言って、最近では特別視されている事に薄々気が付いている。

それがストレスになって、変な夢もみて挙句の果てには人を守ることすら出来ない無力感を感じている。

 

そんな人物が他にいるだろうか?

 

いや、いた。コーディネイターだからとかそう言う理由じゃない。身内を目の前で亡くして、あまつさえ家族が一人しかいなかった少女が、完全な孤独となってしまったのだ。

それはどれ程辛い事だろうか?

そんな彼女がキラの事を知ろうとしている……。

キラは内心嬉しくなった、と同時に彼女に対する依存度が少し上がった。

 

「………、ゴメン。」

 

「いや、キラが気にする事じゃないと思うけど。辛かったら色々と相談にのるからさ。

で、話を戻すけどその後さラクス・クラインが通りがかって、フレイと交代しようって言ってたんだけど、今度はキャットファイトが始まってさ……、で泣く泣く僕が今此処にいるってわけ。」

 

おどける彼の姿に、ホッと胸を撫で下ろすもどうして二人がそんな事をするのか、まるで判らなかった。

 

 

……

 

静かな艦長室に、3人の人影があった。

一人はラミアス、一人はナタル。そしてもう一人は、フラガであった。

 

「ここが、アラスカ」

フラガの指が、モニター上の一点を指す。その指がつつっと下がり、世界地図を横断していく。

 

「――で、ずうっと下がって……ここが、現在地。」

 

止まった先は、アフリカ大陸の北端に位置するサハラ砂漠と言われる、巨大な砂漠が広がる大地。

何も無い不毛の地である。

 

「やなトコに降りちまったねえ。みごとに敵の勢力圏だ。」

 

そして、今現在ここは地球上でのザフトの勢力地、そのど真ん中であった。

 

「しかたありません。あのまま彼らを見捨てるわけにはいかなかったのですから。」

 

ラミアスは機械的にそう言い捨てると、現状辛い事を考えても仕方がないと、コーヒーに口をつけ一口飲み下す。

苦みが口いっぱいに広がり、安物のあまり良くない味が脳を疲労から回復しようとする。

それはカフェインによるドーパミンの抑制という、ある種麻薬めいたものの効果であるが、冷静な判断には必要不可欠であった。

 

北アフリカは、嘗てはアフリカ共同体という、

 

サハラ以北の地中海沿岸から大西洋沿岸

 

までを勢力圏とする北アフリカの連合勢力が纏め上げていた地域であった。

プラント、連合間の戦争勃発後、彼等はプラントからの支援を求めて、親プラントを表明しザフトをこの地に呼び寄せた。

それによって、この地域一帯はザフトの勢力圏となったのだ。

無血開城とすら言えるだろう。

 

「ともかく……、本艦の目的、および目的地に変更はありません。」

 

自分の判断は間違っていなかったと、頭の中で斑目する彼女にはこの現状を引き起こした責任がある。それ故に、その精神的な疲れは半ばピークであった。

 

そんな彼女の疲労を知って可知らずか、フラガが前に立ちつつ言った。

 

「大丈夫か?」

 

と、彼女は少し言葉に詰まったが、

 

「ええ……。」

 

と苦笑いをしながらそれを返答した。

 

「艦長…、自分は副長として艦長の判断には間違いは無かったと…そう思います。」

 

ナタルがそう言うが、ラミアスは内心驚いた。いつも、同じ様に反発し合うだろうと、そう思われた彼女がラミアスに賛同の意を表した事に。

 

「あの時、私はストライク等放って置いてアラスカへと降りる決断を下していたでしょう。

しかし、今思えばそれをやったとして、ストライクの運用データがなければ、その量産化も目処が立たず。

かと言って、ガンダムはデータ取得の為の機体…。その役目も既に終わっているものを持っていったとして、果たして戦略に響くだろうかと…。

 

大局を見据えた時、少なくとも艦長の判断は間違っていないと、そう答えを出しました。」

 

ラミアス個人としては、そこまで深く考えての行動ではないものの、第一義に人として何かを守るならば全力を尽くそうとした結果であるだけだった。

 

「ありがとうね…、でもそこまで深くは考えていないわ。元々は技術職だったから、戦術や戦略は貴女には及ばないわ。だからこそ、貴女を頼りにしてるわ、バジルール中尉。」

 

「ハッ!ありがとうございます!」

 

堅苦しいのは考えものだが、だからと言ってそれが短所とは限らない。今はそう言う古い考えではなく、もっとそう言う観念を捨てなければならないと、二人が去っていった後、1人で地図を見ながら考えていた。

 

……

 

昼間の砂漠は捜索には向かない。

それこそ、ミイラ取りがミイラになるという諺の通りに、実際に二次災害が起こるリスクがある。

それが昼間の砂漠だ。

灼熱の大地にあぶられ、並の服を着ていればもはや耐えられたものでは無い。いかに冬と言えど、湿度が無い場所だ。いつの間にか、体内の水分は脱水してしまう。

 

それは宇宙服も同様に、熱によって汗を放出出来なくなったそれを、容赦なく照りつける太陽が熱しその中はさながらサウナであり、着続けることは死を意味する。熱を遮断するということは、湿度も遮断する事、着ていれば自ずと冬に熱中症になる。

もしもここで、ビジネススーツがあれば真っ先にオススメすべきだろう。

 

だが、気温を保つための水分も無ければ草花も無いこの場所の、2月の夜間気温は急激にそれを下げていくことになる。

時には零下を下回る事もある、そんな場所に長らくいることは出来ない。

 

「星は綺麗ですけど……、この寒さは堪えますね。」

夜間と昼間の寒暖差は、驚異の30度。

通常人間が耐えられる寒暖差ではないし、コーディネイターと言えどコロニー育ちの彼等にそんな訓練したことも無い。

 

サバイバル訓練であっても、こんな局地を想定したものは等は需要の関係上あまり行うことも無い。

 

「寒い……。」

 

「いや、昼間が嘘みたいだな。」

 

各々の感想は実に現状を良く表していた。

それでも、少ない資材で暖を取るためには加熱剤を使った簡易的な焚き火が丁度いいだろう。

 

そしてこれは、砂漠地帯では良い目印となる。そう、赤外線探知が簡単にできるようになるのが、夜間の砂漠なのだ。

 

バタバタバタバタ

 

という音とともに、何かが空を飛んでくる音が聞こえる。

彼等は音のする方向を見上げると、何やら明るいライトを点けた回転翼機が彼等を見つけたようにゆっくりと、その場に降り立つ。

 

四人はそれぞれそれに対して敬礼しつつ、安堵した。

自分達は捨てられていないと、そういう感情を抱きながら。

 

「クルーゼ隊所属アスラン・ザラは、この内の誰だ?」

 

「ハッ!自分であります。」

 

敬礼しつつ、現状の説明を始め自分達の今の経緯を大まかに纏めると、回収する物が来るからまだ暫く待つようにと言われる。

そして、その言葉に対して言った重要な内容はプラントに激震を走らせた。

 

〘ラクス・クラインは足つきと共にある〙

 

悲劇的なヒロインが敵に囚われている。そんな状況を打破しようとするものは、直ぐ様現れる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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