「全員、無事にジブラルタルへ入ったと聞き、安堵している。」
上辺だけのその言葉の中に、どれほどの感情が入っているだろうか?
通信室のモニターには、特徴的な銀色のマスクをつけた金髪の男が映し出されていた。
ザフトの前線基地ここジブラルタルに、4人の少年が収容され上官の指示を仰ぐ為に通信室の前に控えていたのである。
「先の戦闘ではご苦労だった。」
労いの言葉も、その口が出るそれはまるで感情が籠もっていない。
「まあ、死にそうになりましたけどね。」
と、ディアッカはそう言う。確かにその通り、そしてそれはハード面という部分でのMSの性能は、ザフトのそれを遥かに凌駕し、これが量産化された場合プラントに未来は無いと、そう実感させるには充分な存在となっていた。
「残念ながら〘足つき〙をしとめることはできなかったが、君らが不本意とはいえ、ともに地上に降りたのは幸いかもしれん。」
モニターの男、ラウル・クルーゼは今度は本心と言えるかのように口を歪ませながらそう言うと、プラント本国で先程採択された事を言い始めた。
「諸君等の報告にあった、ラクス・クライン発見。並びに、〘足つき〙の捕虜となっていると言う情報を下に、最高評議会はラクス・クライン救出の為に、諸君等は臨時の奪還部隊へと任じられた。」
特別措置による、宣伝行為。
〘私達は彼女を見捨てません、必ず救い出します。〙
という、実に簡単な方法だ。失敗しても、成功してもどちらもザフトの利しかない。
しかも、婚約者がそういう事を行うのなら、尚更その行為は高尚なものとなるだろう。
「だが、部隊運用は諸君等が便宜を最低限受けられるようというものだ。これがどういう意味か、判っていると思うが?」
「要するに、我々に一任された事と同義だと…そういう事ですか…。」
国を挙げて救出するにしても、たった一人にそれを行うには余りにも動機が弱すぎる。
だからこそ、一任する。
「その通りだ、故に諸君等は私の部隊隷下でありつつも独自に、その行動を行ってもらいたい。健闘を祈る。」
通信を終えると、少しの間沈黙が訪れそれを破るように言葉がポツリと出た。
「だ、大丈夫ですよ。僕たちは足つきを追ってまで地上に降りられたんです。今更この程度で折れるわけないですから。」
空元気なのだろうか、ニコルはそう言いながら空気を和ませようとした。しかし、言葉選びがあまり良くはない。
「でもねぇなんというか、結局上の連中はラクス・クラインを見捨てる決定を取ったんだろ?」
ディアッカの言う言葉は、事実と異なる。しかし、軍令として見ればそういう事でもある。
そして、その言葉を聞いていたイザークが徐ろにそこから出ようと歩き始める。
「おい、イザーク」
何かを深く考えようとするアスランとは対象的に、彼は既に動き始めようとしている。
「ラクス・クラインを救出する。『足つき』も落とす、俺たちはクルーゼ隊なんだ。だからこんなところで、静かに座っている訳にはいかんだろ!!」
それを横にアスランは何かを決めたように、そこから歩き始めた。
「おいおい、アスランお前もどこ行くんだよ。」
「基地司令官に打診するんだ、最低でもAAを攻撃可能な位置まで移動できなきゃ意味が無いだろ?」
アスランにしては真っ当な話をした。
今の彼の頭にあるのは、ラクスを救出する事とキラを追いたいと言う欲求だけだった。
……
「サイーブ! どういうことだよ、こりゃ!」
滑らかな砂丘の中にある岩崖、その近くにまるで半ば海のように着底したAAを、MSやそこに集る人々が必死に隠蔽している事を背景に、明けの砂漠のメンバーの誰かがそう言うが、サイーブはむっつりとして表情でその問答を無視しつつ命令した。
「客人だ、仲良くしろよ。」
突然の来訪者、無線の効き辛い事を良い事に様々なイレギュラーを受入れる他ない現状、リーダーとなっている彼の行動を咎められる者は、誰もいなかった。
フラガやラミアスと言った艦の幹部達は、彼に連れられてその奥へと案内された。
ここいらでは珍しいのか奇異の目で見られているものの、それは決して敵対しているという意志ではない。
「たいしたもんだ。だが、こんなとこで暮らしてんのか?」
「ここは前線基地だ。みな家は街にある。まだ焼かれてなけりゃな。」
考えているよりも大所帯であり、充実した銃火器類。
ゲリラとしてみれば、余りにも潤沢な装備にフラガは声を上げつつも、何処か違和感を禁じ得なかった。
そして、彼等の素性を知る事となる。
コーヒーカップに、物を注ぎつつサイーブは話し始めた。
彼等は周辺の街や村からやって来た、所謂義勇兵。
元々軍属であるものだとか、そこらの農民すら存在する民兵組織だと言うことを。
それ故に、余所者であろうとも普通の人々の集まりであるゆえに、軍というものの安心感があったのだろう。
ラミアス達を受け入れたのはそう云う事情もあるのだ。
「艦のことも…、助かりました。」
ラミアスが慌てて礼をいう。
軍人とは尊大なものではならない、一般市民を護るのが仕事なのだから。
「ところで、その彼女は?」
サイーブの後ろで何やら作業をしている、金髪の彼女。
カガリ・ユラと名乗った少女は、この近辺の顔立ちとは思えない素顔であり、余計に悪目立ちしている。
「俺達の勝利の女神様だ。」
そう言うサイーブの言動に、フラガは何かを納得した。
要するに、彼女はこの民兵組織の〘ケツ持ち〙か、その関係者なのだろうと、フラガはその考えに至った。
どれほどのものであろうとも、物事には金が掛る。スポンサーがいなければ、戦争すら出来ない。それは紀元前から変わらぬ定めだ。
「アンタらはアラスカに行きてえってことだがな―」
そこから、今この地。アフリカ大陸で起こっている事象を話し始めた彼に、クルーは絶望的状況を理解した。
それとちょうど同じ頃、AAの隠蔽を行っていた面々は作業の終了と共に、各々の持ち場へと戻っていく。
そしてMSを操縦していた2人もまた、機体をAA内へと運び込もうとしていた。
「キラ、私は先に戻るわよ。この子の左腕まだついてないから、早いとこやらないとなんか色々と不味そうだし。」
「うん、分かったよ。僕もこっちの作業が一段落したらストライクを戻すよ。」
軽い挨拶と、いつもの様に機体を動かして仕事を淡々と進める。もはや慣れたものだ、器用にMSを使って細かい作業も簡単にこなせる。
人の創り出したもの、本来の役割を今MSは行っているのだと、この時のキラは、考えもつかなかった。
迷彩ネットを点け終え、ストライクから少し降りて休憩をと思った頃、誰かが彼の下に来ようとしているのが見えた。
段々と近付いてくる影、よくよく見れば金髪のあの、何かキラに吠えて来ていた少女だ。
彼女はキラの前に立ち、上目遣いで睨みつけるようにして、ぼそっと、何かをつぶやいた…。
「……さっきは……、悪かっ…」
「ごめんね。」
彼女は非礼を詫びに来たのだろう。
例え二度目であろうとも、初対面とも言えるような状況であのような行動をする事は決して褒められたことではない。
しかし、そんな事キラにだって解っている。怒りっぽい性格なのは、なんとなく
そして、それを前提にカガリが何をやろうとしていたのか、それをなんとなく察して、それとは逆にフレイの行いを彼は詫びた。
それに対してカガリは、
「はぁ?」
と、拍子抜けした声と困惑とのせめぎ合いに苦しむ顔をしながら、何を言っているんだ?とそう思った。
「フレイ……、彼女本当は優しい子なんだよ。だけど、最近色々な事が重なって疲れちゃってるんだ。だから、あんな事言っちゃったかもしれないけど、許してくれる?」
「え……?いや、アレは私がどちらかといえば突っ掛かったのが悪いんだし……、と言うか気にしてないからさ…。
嫌いになるならない以前に、アイツの事全然知らないから…。」
それを聞いてキラはホッと胸を撫で下ろし、今度はニコニコ笑顔をこぼして満足そうに
「良かった…。それじゃあ、それだけ?」
「は?あ、いやそのだな……。お前と初めてあったあの日から、ずっと気になっていたんだ…。あの後お前はどうしていたんだろって。」
あいも変わらずぶっきらぼうに、まるで怒ったような顔をしながらも、彼を心から心配していたのだろう。決して、悪い人ではない事がこの時点でキラの中では確定した。
「ごめん…。」
なんでお前が謝るんだ?と内心思いながらも
「そうだ。二度とあんなことしてみろ。許さないからな!」
二度とと言うが、果たして二度目があるだろうか?あんな状況二度とごめん被りたいと思いつつ、現状はもっと大変な事になっている筈だと…、感覚が麻痺していた。
「で――そのおまえが、なんでこんなものに乗って現れる。おまけに今は地球軍か!」
そう言われてやっと、そんな事実と向き合えた。キラは密かにジレンマにハマっていたのだ。
守る為に戦っているはずなのに、守る者も守れなくて、おまけに今では戦う事が自分の意味なのではないか?と、そう思ってしまっている自分に。
「戦う力があったからよ。」
カガリがその声のした方向を見ると、赤髪のフレイがラフなシャツを着て姿を現した。
キラはそれに一瞬見とれると、直ぐに目を伏せた。変な妄想をしそうになったからだ。
「お前もお前だ!歳は……、私と同じくらいだろうに。なんであんな物に!!」
「私は、仇を討ちたいから…。それだけよ。」
仇、そんな言葉を聞いてカガリは目の前のフレイの名字をもう一度、脳裏で反目した。
フレイ・
それは、故人の名前であるが確かに娘が1人いたらしいと、小耳に挟んだことはある。
第八艦隊の多くの艦と共に宇宙に沈んだと言う事だけ、彼女は知っていた。
そして、ハッとフレイの方を見る。その目には、静かに悲しみのような物が浮かんでいるように思えた。
そんな状況の中、フレイの後ろの方から姦しい声が聞こえてくる。突き出した岩塊の角を回って姿を見せたのは、ミリアリアと、んーっと思い切り伸びをしているラクスだった。
ミリアリアはキラの姿を認めると
「キラ、仕事サボってるの?」
と、縁起でもない事を言っているという事は充分に理解出来るが、キラはそれを否定した。
それに対してラクスは、二人の労働を労うと大きくその当たりの空気をいっぱいに吸い込んだ。
そして、共にいたラクスに対して1つ疑問を呈した。
「ラクスは外に出ても良いの?」
「はい!!艦長様から、外出許可を貰いましたの!
わたくし、砂漠に来るのは初めてですの。お砂がサラサラしていて、素敵なところですわ~。うふふ、好きになってしまいそうです。」
そう言いながら楽しそうに砂漠を歩く彼女は、本当に嬉しそうで楽しそうで、陰鬱な空気を創っていたフレイとは対照的に映る。けれどフレイはそれを咎める事もせず、只々呆れている。
すると、ラクスは足を砂に取られ見事に転んでしまった。
怪我をするような場所でもない、一面砂なのだからそれこそクッションのようなものだ。
フレイが慌てて彼女を起こしに行く。その姿からは、復讐を考えているような人間には見えない。寧ろ、復讐を迷っているのだろうか、その憎悪を向けるはずのプラントのお姫様。
ラクス・クラインを気遣っているのだから、その姿にカガリは悲しげに眉を潜めた。
「あーあー。もう、何やってんのよラクス。コーディネイターなんだからしゃんとしなさいよね。」
それとは別の意味で悲しげな顔をしているラクスは言う。
「帰りましょう、もう……」
と、四人は呆れて溜息をついた。
「ところで、今日の献立はなんなの?こんなところにいたら、それを用意出来ないでしょ?」
「今日はお休みを貰いましたの…、ルーティーンワークをしなさいと。だからこうして出てきたのです。」
「ミリィも、付き添いで来たみたいだけどそっちの方は大丈夫?」
「まあ、ローテーション組んでるから。それに、偶には女の子だけで話をしてみたくなるじゃない?」
それは心からの本心であった。それと同時に、キラはこの状況は良くないのではないか?と思い、その場から離れようとする。
それと共に、カガリも要は済んだと言わんばかりに離れようとすると、グイッと何かに強烈な力で引っ張られた。
「な、何すんだよ!私は関係ないだろ!!」
「ミリアリアが言ったじゃない、女の子
それはたぶんアンタも入ってるわよ。」
「はぁ!?」
と驚いたのも束の間、カガリは3人に取り囲まれ見事に連れ去られてしまった。
キラに助けを求めようとも、ストライクを格納庫へと戻す様に操縦をし始めた彼に、それを止める術はなかったのだ。
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