機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第27話

 

焼け落ちた街の外から、ゴウゴウと鈍い音を立てながら、1台1台バギーがその場所へと到着する。

到着したそれに乗車していた者たちは、我先にと慌ててそれから降りると大きな声を上げながら、その街の人々へと近付いていった。

 

「父さん、母さん、無事か!?」

 

「あんたァ! 家が……!」

 

各々がそう言いながら、想い人や家族へと駆け寄り、時には力強く抱きしめ合い、互いを確かめ合う。

そこへ少しして、AAからのバギーが到着すると上空を旋回しながら待機していたスカイグラスパーは、その機動を変えてその大地へと降り立った。

 

「少佐、これは……?」

 

ナタルは、目の前のその出来事に目を丸くしている。

そして、その光景に助けを乞うようにフラガの顔を見ながらも、現状のその景色に驚きを隠せなかった。

辺り一面煙が立ち込めており、其処かしこの建物は崩落しているものだってある。

にも関わらず、この場所にはまるでこの街の住人全てが集結するかの如く、避難させられているのだ。

 

そこへ、サイーブが現れると指示を出しながら、周囲のレジスタンスは大きな声を出しながら誰かを探し始めた。

そして、カガリが一人の少年を見つけると、声を張って言った。

 

「ヤルー! 長老!」

 

と、喜色を浮かべて声を上げる。すると、サイーブもぱっとそちらに目をやった。どうやら少年は彼の息子らしい。

 

「無事だったか、ヤルー。母さんとネネは……?」

 

「シャムディンのじいさまが、逃げるとき転んで怪我したから、そっちについてる」

 

少年が、気丈にそう言うとサイーブはそれに安堵したかのように、口を曲げた。

 

「そうか…。」

 

それに満足したのか、今度は顔色を変えてリーダーらしく振る舞い始める。

 

「どれくらいやられた?」

 

「……死んだものはおらん」

 

問われて長老と呼ばれていた人物が答える。それに足してサイーブは意外そうな顔をすると同時に、拳に力を込めた。

理由がなんとなく解ったのだろう。

 

「どういうことだ……!?」

 

対照的にカガリはその意図に気がつくことが出来ない。年齢の差からくる、経験値の量によってそれは仕方のないことではあるだろうが、それに対して一部の人間がどう動くのか。

予想だにしない事態も起こり得る。

 

「最初に警告があったわ。〘今から街を焼く、逃げろ〙とな……」

 

「そうか……、そういうことか…。」

 

警告射撃をするという事は、余裕の表れだろう。即ち、砂漠の虎の意図はそう言うことだ。

 

「なるほどねぇ〜。」

 

と、気怠気に言うフラガはその後に続く言葉の予想が着いていた。

 

「……警告のあと、〝バクゥ〟が来た。そして焼かれた……家も、それに食糧、燃料、弾薬、すべてな……。

だが、たしかに、死んだ者はおらん。今はな……。 じゃが、すべて焼き払って、やつらは明日からわしらにどうやって生きろと言うんじゃ……。」

 

サイーブはその言葉に怒り心頭であった。そして固く握った拳を振り下ろす場所に戸惑った。

彼には奴の意図がなんとなく理解できてしまっているからこそ、振り下ろす場所がないのだ。

 

「ふざけた真似を……! どういうつもりだ、虎め……!」

 

「だが、手立てはあるだろ? 生きてさえいりゃさ……」

 

フラガがそう言うと、周囲の団員は一斉にその目を彼に向ける。受け入れ難い言い方に、機嫌を悪くしたのだろう。

そしてそれを聞いて、カガリは今にでも飛び付きそうにしている。

 

と、その時だ。上空から航空機の飛行音が聞こえてくる。

スカイグラスパー2号機だ。

組立作業が終わってから、搭乗者のいなかったそれが誰かの操縦で現れたのだ。

 

直ぐに集結した人々の側へと着陸すると、パイロットがそこから現れた。

太腿にT字の何かを着けて、パイロットスーツのバイザーを開くと、そこから現れたのはフレイ・アルスターだった。

 

「済まない、操縦マニュアルのそれに手間取った。どう言う状況か?」

 

屈託もなければ、遠慮もしないその言いようにフラガは一瞬にして、目の前の少女がいつものそれとは違う事を理解した。

しかし、それを周囲に覚られないようにそっと口を出した。

 

「よう准尉、遅かったな。まあ、見ての通り住民は(・・・)無事だ。」

 

その言葉に彼女は少し目を細めて、何かを理解したように言葉を紡ぎ出した。

 

「早いところ再建を始めた方が良いだろうな、これだけの被害で済んだんだ。

砂漠の虎は案外フェアな男なのだな。」

 

その言葉を聞いて、誰よりも先にカガリは彼女に飛び付いた。

 

「なんだとぉ!!」

 

逆上するカガリは、フレイに近づくと遠慮はなしに詰め寄った。胸ぐらを掴まなかったのは、単に掴むところが無かったからだろう。

 

「街を焼かれたんだぞ! 住む場所を奪われたんだぞ!」

 

「でも君達はあの時、バクゥのパイロットを殺しただろう?

にも関わらず〘砂漠の虎〙は一人の死者も出さずに街だけで済ましてくれたんだ。それだけで御の字じゃないか?」

 

「だがッ!!」

 

といったところで、カガリの言葉を長老が制した。

 

「これから儂等はどうすれば良い?住む場所も、食べる物も無いというのに。」

 

まだ年端もいかない少女にそんな事を聞いてどうすると、周囲の目は向くだろう。だが、フラガだけはそんな言葉に同意見を述べたかった。

フレイはフラガに目配せすると、彼は肩を竦めながら了承のジェスチャーを行った。

 

「ここを出るまでの間なら、MSとパイロットをお貸ししましょう。数日の間だけですが……」

 

その言葉を聞いてナタルはハッとして注意しようと躍り出た。

 

「アルスター准尉!!貴様……、そんな事が許されるとでも思っているのか!!軍の機密に…!」

 

「既に4機も強奪されているのに、今更そう言うんですか?」

 

その言葉に信じられない物を見るように、ナタルはフレイを見た。一月程前まで民間人だったとは思えないほどに腰が据わり、ナタルに対して睨みつけるような態度を取る彼女。

まるで、歴戦の猛者を相手取るような感覚を。

 

「まあ、良いんじゃないの?俺たちにだって彼等に恩義はある訳だし、お互い協力し合っていくって事でさ。」

 

軽々しくその間を取り持とうとしたフラガによって、事態の悪化だけは防がれた。

 

だが、そんな言葉とは対照的にレジスタンスの血気盛んな若者達は、何をしようと独自の判断で動こうとした。

 

「……そうだ、昨日だってバクゥを倒したんだ!

あいつは卑怯な臆病者だ!

我々が留守の街を焼いて、それで勝ったつもりか!?

我々はいつだって勇敢に戦ってきた!」

 

「――だから臆病で卑怯なあいつは、こんなやり方で仕返しするしかないんだ!何が砂漠の虎だ!」

 

そんな蛮勇、いや単なる無謀を抱く彼等は現実を見れていない。昨日の戦果は、奇襲であったからこそ成立した事であり、真正面からでは相手にならない等、頭に血が上っていた彼らには考え付かないことだった。

 

そして同時に、フレイに対して軽蔑の眼差しを彼等は突きつけた。

 

「はあ……、身の程を弁えてない。アンタ達って本当に馬鹿ね、あんな紛れ勝ちで浮かれてるなんてさ。

相手をしてるこっちが馬鹿みたいじゃない。」

 

それは彼女の本音だろうか、雰囲気が切り替わり年相応の物言いに、先程までのそれとはまた違った態度に、周囲は少し動揺する。

 

「勇気と無謀を履き違えてさ、そんなこと一緒に戦って死にたくなんてないわよ?」

 

その言葉に、煽られたと感じたのだろう。彼等は息巻いた。

 

「やつらが街を出て、まだそうたっていない!今なら追いつける!」

 

そう言う彼等は当に、救いようの無い馬鹿なのだろう。

男達は口々に言い始めると、バギーの方へと急ぎ向かおうとする。

それに対してサイーブが止めようと声を掛ける。

 

「馬鹿なことを言うな!そんな暇があったら怪我人の手当てをしろ!

女房や子供についてやれ!そっちの方が先だろう!」

 

しかし、男達は止まらない。

 

「それでなんになる!?見ろ!

タッシルはもうおわりさ、復興のしようがない! 

――なのに、女房子供といっしょに泣いてろとでも言うのかよ!?」

 

「まさか俺達に虎の飼い犬にでもなれって言うんじゃないだろうな、サイーブ!」

 

〘虎の飼い犬〙そうなりたくないからこそ、こうしてレジスタンスをしているのだと、男達の扶持はそういうものからだった。

だが、彼等は目的と手段を履き違えている。

友を母を児らを守る為に戦っていた筈なのに、いつの間にか戦うことこそが、目的となっていることに。

 

もはや止められない、それを悟ったサイーブは共に行く決意をする。その判断が良い方向へと進むはずも無い事が解っているのにも関わらず。

 

それに着いていこうと、カガリはそれに近づくも。

サイーブによって止められる。

 

「お前は残れ!」

 

この言葉は、部外者が俺たちに付き合う必要はない。そう言っているに等しい。

しかし、彼女はそれを素直に受け止められない。それは、若さゆえの過ちというものだった。

 

するとそれを見越してか、アフメドのバギーが近づいてカガリに乗れと言う。彼女はそれについて行こうとして、声を上げた。

 

「私たちはバクゥだって倒せるんだ!それだけの意思と力がある!」

 

「じゃあやってご覧よ、死んだって私は知らないから。アンタ達の事なんて………、なんとも思ってないから。

自殺志願者に、着いて行こうなんて真っ平御免だわ。」

 

それに更に激昇した彼女は言い放つ。

 

「自殺などしない!私たちは戦って勝つんだ!」

 

それに対してフレイは、侮蔑の視線を向けるだけだった。

そうして彼女達の背中は小さくなっていく。

 

それを前にして、ラミアスは無線越しにその顛末を聞いて頭を抱えながら言った。案の定、彼女も呆れてはいたが…。

 

「なんですって!? 追っていった? なんて馬鹿なことを! なぜ止めなかったんです、少佐!」

 

「止めようとしたんだけどねえ……。あの嬢ちゃんたち、駄目だわ。周りが見えていない」

 

AAと通信をしているフラガの後ろでは、ナタルが怪我をして泣いている子供達に手を焼いているようだった。

 

「えー?い、痛いのか?……、あっほらもう泣くな!」

 

と、慣れていないながらもそれをあやそうとする彼女。

ポケットの中から少ないスナック菓子を出すと、それを見た子供たちは我先にと、彼女へと群がる。

それに慌てた彼女は、普段見せないような困り顔をしながらもあやそうと、必死になっていた。

 

そんな光景を見ながら、フラガは自分の役割とフレイの言った言葉を考えながら、街の修復を手伝うキラを一瞥した。

 

「モビルスーツ隊を発進させます。見殺しにはできません。」

 

「でもよ、フレイの嬢ちゃんが言ったことは真面な事だぜ?」

 

非情に慣れないラミアスは、そう言う解答を黙殺する。

 

「それでも…、見殺しになんて出来ません!!」

 

「だってよ、どう思う?そちらさんは…。」

 

フレイを見つつ、その内側にいる誰かに声を掛けるフラガは、その誰かさんに意見を問うた。

 

「無駄な戦闘は避けるべきだ。彼等には悪いが、我々にはそんな余裕は無い…。」

 

その言葉を言うと、周囲の景色を一瞥し若い男達が少なくなった街を物悲しげに見る。

 

「だが……、このままこの街が死んでいくのを見るのは…、忍びないか……。それでも良いかい?」

 

誰かにそう言うと、フレイは一目散にスカイグラスパーへと走っていく。

 

「やれやれだな…。おい!!キラ!聞こえてただろう?直ぐにバギーを追跡してくれ!スカイグラスパーは発進に少し時間が掛かるから、お前の方が速いはずだ!」

 

「え…?はい!!」

 

先程の会話をずっと聞いていたのだろうキラは、直ぐ様機体を翻しエールストライクの加速性を持ってして、機体を急速に彼等のいなくなった方角へと走らせた。

 

「これより追跡を始める。それで良いかい?艦長さん。」

 

「ありがとう…。私だけの意見では駄目だったのでしょうね。」

 

そういうわけでも、ないんだがなぁ…。と内心言葉を紡ぐフラガの前に、長老が現れた。

 

「ありがとう…ございます。これで、我々の未来は潰えないで済ます。」

 

「礼はいらないぜ?どうせザフトは叩かなくちゃならないからな。

だけどよ、俺達の戦力だって若い命で成り立ってるんだ。そこんとこ、良く考えておいてくれませんかね?」

 

嫌味の1つも言いたくなるだろう。

それを聞いて、長老は再度深々と頭を下げて五体投地した。

 

 

……

 

 

「隊長……もう少し急ぎませんか?」

ダコスタは制服の襟をくつろげながら、やれやれと言う。するとシートにふんぞり返ったバルトフェルドが片目を開けた。

 

「そんなに早く帰りたいのかね?」

 

「じゃなくて……追撃されますよ、これじゃ」

 

ダコスタの懸念は尤もだがそれをよそに、バルトフェルドは目を閉じた。しばらくして、またぼそっとつぶやく。

 

「……運命の分かれ道だな」

 

「は?」

 

会話が続いているのか、それとも独り言なのかわからず、ダコスタは思わず聞き返した。

 

「自走砲とバクゥじゃ、ケンカにもならん……」

 

戦力差は愕然としたものがある。普通ならば戦うことを拒むだろう。

バルトフェルドはふと目を開けて、そのまま空を見上げた。

明るくなっていく空はかすかに夜の名残をとどめ、甘く優しい青に染まっている。彼は唐突に訊いた。

 

「……死んだ方がマシ

という台詞はけっこうよく聞くが、本当にそうなのかね?」

 

「はあ……?」

 

バルトフェルドの本業は広告心理学者、その名の通り相手の感情を揺さぶり、次の行動を予測するのにうってつけの職業。

そんな彼だからこそ、〘死んだ方がマシ〙と言う心理状況がどのような事なのか疑問に思っていたのだ。

だからこそ、タッシルへの心理状況を利用して住民のみを無事にしたのだ。

単なる脅しとして…。

 

 

 




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