彼女の機体、ガンダムが建物を経った時。既に戦闘は、激化していた。
侵入するメビウス・ゼロがセンサーに掛かり、友軍であると機体は反応するが、パイロットであるフレイ・アルスターはその事に対してまるで無沈着に、いや焦りと緊張によって気が付かない。
戦闘の真っ只中にいるという事が判っていない彼女は人影を搜そうと、あっちをフラフラこっちをフラフラと搜そうとしていると、今度は逆に向こう側ザフトのMSである黄色いジンが飛び出してきた。
ズガガガガ
と、装甲にぶち当たり火の粉を上げる銃弾は、それをものともしない装甲に阻まれる。
外部はなんの損傷もない、だが内部はそうもいかなかった。
揺れるコックピットの中で彼女は
「キャー、辞めてよ!」
等と、その行為に恐怖した。
それに呼応するかのように、機体は反撃の為のツールを彼女に示す。
それは、肩部に着いている28口径5吋支援砲。
ジン相手であれば攻撃力は申し分ないものだが、しかし彼女にそれを当てられる技量があるかと言えば無いと、即答できるだろう。
もしそれが出来れば、こんなコロニー内部までザフトが侵入できる理由が無いのだ。
誘導されるがままにそれを選択すると、射角の調整用マニュアルシステムが展開される。
そう、この機体のこの装備マニュアルとオートの2種類が有るが、現時点ではマニュアルになってしまっている。
そんなもの、緊急事態で何より1度も戦闘を行ったことが無い少女が出来るだろうか?
「こっのぉ!!ここからいなくなれ!!」
なんという事だろうか、彼女は瞬時に射角を固定して砲撃を行い、それに対して回避行動を取ろうとしたジンは、右腕に砲撃が直撃しそれを全損する。
あり得ない、普通どんなに凄い戦士であろうとも最初の戦闘から全力バリバリでマニュアル操作でそんな芸当できる物なのだろうか?
いや、出来ないだろう。彼女がコックピットに入ってから徐々に、このガンダムはその機体の特性をフルに活用するように、彼女を誘導している。
ただ誘導しているだけならまだしも、彼女の脳波はその機体のそれに相似したものへと変化しつつある事に、彼女は勿論のこと誰にもわからないのだ。
そんな状況に対してジンは直ぐ様不利を悟ると一目散に逃げ出した。
懸命な判断だ、それはそれとして彼女はそれを追撃しようとして、また固定された射角を弄ろうとして、今度はそれが瞬時に出来ないことを悟る。
ジンの方角とコロニーのシャフトが弾道上で重なり、それを瞬時に理解した彼女は、
「チィッ!こうもなろうものか!いや、機体の特性を生かせていないのは、私か。」
苛立ちを覚えた。
それと同時に、機体が何かを発見する。
コロニー内部でのっそりと動く巨大な物体、それは彼女は見たこともない船であったが、同時に機体はそれに反応した。
「アー…クエンジェル?あの船の名前なの?味方?」
彼女はその反応を見るやいなや一目散にそれに対して駆けていく、もはや敵の事などどうでもいい頼れる人達がいる場所へ、一刻も早く行きたい。と、彼女の生存本能がそう言う。
怖い思いはもう沢山だ、だから一人にしないで欲しいと、まるで機体はその反応に応えるように、ガンダムは跳躍する。
PiPiPi
という音がコックピットに鳴り響く、それは無線を開けという合図だが、彼女はそれを知らない。
だけど彼女はそれを聞いて、何故だか判らないけれど直ぐにコンソールの無線を開いた。
「ガンダム、聞こえるかガンダム!」
頭上で行われる戦闘が目に見える、彼女はそれを見ながらその声を聞き、少しの間安堵するとそれに応えた。
「はい!ガンダム聞こえます!」
本当は助けてくださいと、そう言いたかったのだろうに
口から出て来た言葉は、力強く良くも知らない機体の名称を言う言葉だった。
彼女は、本能と新たに創り出された理性との間のせめぎ合いを、本能に赴くままに動いた。
……
少し時間は巻き戻り、このときのアークエンジェル(以下AAと呼称)の状況を説明しよう。
AAはザフトの攻撃に晒されて、港からコロニー内部へと侵入、そこで1機のMSストライクガンダムと出会う。
そして、そこでキラ・ヤマト少年に協力を強制し、再度侵入してきた敵に対して迎撃戦闘を実施している真っ最中であった。
そんな中、レーダーにてとある反応があった。
市街地方面から、IFF反応。
それも、味方を表す周波数のものが出現しそのことに対して、担当者は声を発した。
「IFFに反応、これは…ガンダムです!」
「味方なのか!!」
「ガンダム…、どうして?」
反応は2つあった。
1つは喜びを表す、AA元来のCIC要員からの反応。
そして、もう一つは成り行きで艦長になってしまった、マリュー・ラミアスの反応だ。
どうしてラミアス艦長の反応だけが、疑問形となっているのか。それは、〘GATX−101ガンダム〙という機体がこの地に存在しているという、有り得ない事象が起こっているからだ。
本来、このガンダムという機体はスクラップにされるのを待っていた。そう、待っていたのだが書類上は既に廃棄された事、となっていた。
それ故に、モルゲンレーテの工場に置かれたのではなく、解体工場にいたのだ。
だが、どうしてかその解体作業が行われず留め置かれた。
そんな事を知らない彼女は、ガンダムという機体がそこにいる事に疑問を持ったのだ。
そして、同時にこのオーブという国に対して一種の不信感を持つには充分な動機であった。
「ガンダム、聞こえるかガンダム!」
そう言う声は、ロメロ・パルというオペレーターから、そのガンダムへと返答を願う声だった。
もしも、この時このガンダムが敵に落ちていた場合AAに対して非常に大きな脅威となる。
それは、そのガンダムという機体の現在持ち得る火器の脅威度が、それを表している。
実弾兵装である5吋砲は、センチに直せば127ミリ。
対して大きくなさそうなものだが、海上艦艇では主力兵装となりうる速射砲と同等のものであり、耐ビーム能力があるAAに対して最も有効な戦闘方法である、砲爆撃を行えるという強みがあったのだ。
もし、返答なくばAAはそのいきなり現れたガンダムに対して戦闘を行わなければならず、ただでさえ鈍重な巨大な船体は動く的でしかない。
そう言う事から、CICはある意味では戦慄を覚えていたのだ。
頼むから味方であってくれよと。
2度、3度と声をかけるとガンダムから反応があった時、CICは安堵の音である溜息が流れた。
しかし、次の瞬間その声に驚愕した。
「はい!こちらガンダム聞こえます!援護の必要を感じられます、敵の情報をお願いします!」
力強くそう言われると、頼みたくなるのが人の性だ。
しかし同時に、ラミアスはその言葉に違和感を覚えた、いや覚えざるをえない。
何故なら、眼の前に映るコックピット内部の映像には、見覚えのない赤髪の少女が鋭いまるで戦士の眼光を持って存在しているのだ。
年齢にそぐわぬその態度、まるで熟練のパイロットのような落ち着き様。
一つの答えが脳を駆け巡るが、それを頭から否定したかった。
あのガンダムに搭載されているシステムの中で、1つ連合から特注で付け加えられたものがあった。
それは、誰にも起動させる事が出来なかったものだが、どんな効果を示すのか、それは彼女にもわからない。
「こちらよりデータを送る、現在我々はザフトとの戦闘状態に陥っている。G兵器であるデュエル、バスター、ブリッツ、イージスを奪取され、既にイージスとの戦闘状態にある。」
簡潔な内容に、その言いようにどうやらバジルール少尉はその事に対して何の疑問も持っていない。
いや、持つ余裕が無いとも言える。
れっきとした戦闘要員は殆どおらず、艦長はお飾りでは気張るのは副長以外いないのだから。
「ありがとうございます。これより戦闘に参加しますが、現在ビーム兵装を所持していません。イージスに対する効果的な戦闘がおこなえません。」
「承知している。」
「換装パーツは一応AA内にあります。換装は、戦闘後になりますが、なんとか迎撃してください。」
換装パーツはあるにはある、だがそれは別にこの機体が来るから乗せたというわけではないのだ。
要するに廃品回収を行う他に、他の機体よりも早く搬入していただけの事だ。
ビーム兵器は連合の革新技術が詰まったものである。建造協力国であるとはいえ、対外的にそれを残しておくのは後にプラントへとその技術が渡るリスクがある。
それならばと、どうせビーム兵器を主体とするのならばPS装甲等紙同然となる。
機体には革新技術がない以上、それを持っていく必要もない。
ならばと機体の廃棄は建造国のオーブで、兵装は連合持ちとなった、単なる偶然の産物なのだ。
「了解しました。でも、どうやら戦闘は決着がつきそうですね。」
冷静な言葉と共に、刻一刻と変化する戦闘の様相はストライクによるもう1機のジンの破壊と、コロニーの崩壊という出来事によって混沌という言葉が似合うほどの状況へとなっていった。
ガンダムはその崩壊に巻きこまれぬよう、AAの直ぐ近くに寄り添うように佇んでいた。
……
崩壊した大地を目の前にしつつ彼女は目下の目的である、〘安全な場所〙を求めて直ぐ近くにいたAAへと機体を向けた。
おかしいと誰もが思う。
そして現に、彼女フレイ・アルスターはその言葉を胸の内に秘めたまま、AAへと着艦した。
自分は正規のパイロット教育を受けていないにも関わらず、軍事用MSを動かせるだけでなく、まるで恐怖を克服したように戦うことが当然と思っていたのだ。
一種の洗脳に近い状態と言った方が近いのかもしれない、しかしその機体の動作は彼女の一挙手一投足に限られており、バーサークモードと言うよりかは、意識の転換と言ったほうが良いだろう。
正しく恐怖を勇気に、悲しみを怒りにと言う風に。
AAに着艦し、さあコックピットから降りようとそう思った時、不思議と体がコックピットに縛り付けられたように、動かなかった。
動こう動こうとしても、手がびっしりと操縦桿を握りしめ自分の力でそれを外すことが出来ない、誰かに助けを呼ぼうとしてもまるで声が出ないのだ。
そうなると不思議と瞳から涙が溢れてくる、いつの間にか抑制されていた恐怖が、自ら生きたいと願ったものが溢れ出してくる。
「ストライクが格納されるまでコックピットハッチを開けないであげて、搭乗者はパイロットスーツを着ていないわ。」
そんな優しそうな女性の声が、分厚い壁越しに聞こえる。
普通、そんなもの聞こえる訳が無い。
まだまだ、外部との音が遮断されている筈である、勿論集音マイクの設定など彼女はしていないのだから、接触回線でも開かない限り、声は聞こえてこない。
それでもお構いなしに、その声は〘頭に響く〙ように聞こえてくるのだ。
彼女は思った、きっと自分は頭がおかしくなって夢でも観ているのだ。
いつも見る夢のように、理由のわからない内容を頭に叩き込まれているのだと。
周囲のコックピットの一部、特にシート後部が仄暗く薄紅色に発光していた事に彼女は気が付かない。
暫くそんなことを考えながらじっとしていると、俄に外がガヤガヤと騒がしくなった。
「ハッチ開きますぜ。」
という声とともに、ハッチは自動的に開いていく。
眼の前に現れたのはむさ苦しい叔父さんたち、格好良いかと言われればそうは見えないが、ダサいか?と言われればそうでは無いと言える人々。
「おいおい、こっちも女の子が操縦してるのかよ。」
という声が聞こえるが、そんな物お構い無しに彼女は助けを呼ぼうと声を上げ用としたところ、シートから身体がフワリと外れた。
まるで、誰かが見ているときは動かないようにしていたかのように。
「あの…、この船って地球軍の…ですよね。」
「はぁ?…あ、いやもしかしてお嬢ちゃん民間人か?」
当たり前でしょうと言いたい彼女だが、そんな気力彼女にはとうに無かった。
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