機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第29話

 

「う〜ん、ひょっとして僕はジブラルタルの連中に信頼されていないのかねぇ?」

 

バルトフェルドは徐ろにそう呟くと、手に持った書類をデスクに放り投げた。

すると、彼の隣にいた艷やかな黒髪をした美しい女性がそれを諭すように言った。

 

「アンディ、どうかしたの?」

 

「どうもこうもないよ。先日バクゥを撃破されたばかりだってのに、それを見越したかのように補給部隊が到着したんだ。ナイーブな僕の心はちょっぴり傷ついちゃったよ。慰めて欲しいな、アイシャ。」

 

彼はそう言ってアイシャと呼ばれた女性の腰を抱き寄せる。

 

「ゔうん」

 

すると何処から咳払いが聞こえ、その音の当人の方へとバルトフェルドは顔を向けた。

 

「おや、いたのかいダコスタ君」

 

「……その書類を持ってきたのは私なんですが」

 

呆れ顔のダコスタを見て、済まないとそう言う顔をしながらも全く反省の素振りもない。ダコスタは溜息をはいた。

 

しかし、バルトフェルドの言った通り補給にしても早すぎたのは確かで、7機もの戦力を失ったバルトフェルドを、まるで見越したように寄越された戦力は過剰に見えたほどだった。

 

「撃墜されたバクゥと同数のバクゥ7機に、ザウートを2機。それに……、」

 

バルトフェルドは舷窓か甲板を見やった。レセップスにたった今到着したばかりの輸送機から多数のMSが搬入されている。

その中には、ザフトの技術系列とは全くかけ離れた外見の4機のMSが存在していた。

 

「クルーゼ隊の4人の若きエース達……ね。季節外れのサンタにでも来てくれたのかね?」

 

バルトフェルドは彼等を嘲笑するように言った。

言い方としては棘がある。若きエース、つまりは赤服と呼ばれる服装をしている、経験が浅いエリート達に対する侮蔑を込めていた。

彼等がなんの為にここへと来たのか、それはAAに囚われているお姫様の救出の為、という建前の為だろうと。

 

いつもならばそんなジョークに対して小言を言うダコスタであったが、この時の彼の考えは上官と同じものだった。

 

「にしてもだ、いくら赤服と言ったところで彼等には地上戦の経験なんて無いんだろう?かえって邪魔になるんじゃないかい?」

 

「エリートですから……。」

 

ダコスタはそう相槌を打った。実際、厄介なお荷物が増えたと言った気分である。

そもそも、クルーゼ隊生え抜きのパイロットともあればきっと自意識過剰なまでに、プライドが高いに違いないとそう思っていたのだ。

 

「そもそも、クルーゼ隊というものが気に入らんな。俺、あいつが嫌いでね。」

 

「……、ラウ・ル・クルーゼがですか?」

 

ラウ・ル・クルーゼといえばザフトきっての名将と名高い、〘砂漠の虎〙と並び称される存在である。

そんな二人の間には何かしらの確執があったのだろうか?と首を捻る彼に対して。

 

「人に目を見せないやつなんて信用できるかい?」

 

と、第一印象で彼は語った。

なんの根拠もないそれだったが、実際二人の性格は相容れないものだろう。

そんな彼等の会話の間にも、輸送機から淡々と物資が運び込まれるていく中、遂にその問題の彼等が姿を現す。

 

名簿の中にあった者達の名前は、全員が現プラントの最高評議会議員の子息であった。果たしてどんな庭で育った者達なのだろうかと、バルトフェルドそう思いながら眺めていた。

 

強い風が吹き、砂塵が舞うとそれが目に入らないように腕を盾にしながらも進む彼等の姿。

その姿にはお行儀よく育てられた庭木の様な清潔さはなく、寧ろ雑草にも似た何かを感じ取った。

 

「ダコスタ君、彼等は僕のところに来るのかな?」

 

「え?まあ、来ると思いますが…。」

 

バルトフェルドは少しだけ口角を上げながら、彼等を見ていた。

バルトフェルドは徐ろにデスクの引き出しから、コーヒーメーカーと豆を取り出すと、ミルを使い豆を挽き出す。

 

「な…、何やってるんですか?」

 

「うん?歓待の準備をと思ってね。」

 

彼は静止することもなく、それを続ける。

 

 

暫くすると艦長室を誰かがノックする。

 

「入り給え。」

 

「失礼します!うっ…。」

 

四人の少年が彼の前に並び立ち各々が敬礼をする。リーダーとおぼしき黒髪の少年がバルトフェルドを見る、そこから自己紹介を始める。

 

アスラン、ニコル、イザーク、ディアッカは、それぞれがパイロットとして赴任した旨を言い、形式的な編入をバルトフェルドは淡々と行った。

 

「ようこそレセップスへ。指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ。」

 

コーヒーにゆっくりと口をつけながらそう言う彼を見る目は、何処か珍しい物をみるようなものだった。

侮っている等と言うこともなく、どちらかといえば矢張り奇異の目であろう。

 

宇宙(そら)から大変だったね、ところで君たちコーヒーは飲むのかい?」

 

全く関係のない話を振ると、それぞれがそれを否定もせず肯定もしない。ただ一言言うのならば、飲んだことが無いと言うだろう。そもそも、免疫系統を強化されたコーディネイターに、カフェインは効果が薄いのだ。

 

「―バルトフェルド隊長、いきなり不躾で申し訳ありませんが、我々はすぐにでも砂漠戦の訓練に入りたいのです。どなたかに、教官役を頼みたいのですが。」

 

キリッとした態度でアスランがそう言う。

それに対して彼を見るとニヤリと面白そうな物をみるかのように、バルトフェルドは口を歪ませた。

 

「教官かね?…、だが知っての通り、この艦には赤を着るものはいないのだがね?君たちを除いてね。」

 

皮肉であろう。上の立場になれる者がここにはいないがどうするのかと、暗に言っているのだ。

 

「――承知しております。」

 

彼等はバルトフェルドの挑発的な物言いに、不機嫌になることも無くその言葉通りにバルトフェルドを見ていた。

ダコスタは、それを意外に思っていた。

奢り等無く、プライドの塊と思っていた彼等が、実に誠実な方法をとっていたからだ。

 

「良いねえそういうの、嫌いじゃないよ。

すぐに準備させよう。ダコスタくん、頼んだよ。彼らに砂漠でのいろはを教えてやってくれたまえ。」

 

「へっ!? あ、了解しました!――って、えぇっ!?」

 

面倒事を押し付けられたと、ダコスタは頭を抱えたくなった。

 

「ほら行った行った。直ぐに始めるのだからね。

ところで、補給もさることながら大所帯で来たものだね?」

 

彼はコーヒーを飲み干すと、徐ろに甲板に並べられたMS群を見やると、その真意を問うた。

 

「ジブラルタルの基地司令から直々に、自分達に預けられた部隊です。きっと……、ラクス・クライン救出に熱心なのでしょう。」

 

緑髪の少年、ニコルがそう言うとバルトフェルドはふぅ〜んと、興味なさげに言う。

が、その実その過剰とも言える戦力を送る意味を、見出そうとしていた。

 

「我々は、本国からラクス・クライン救出を一任されました。しかし、戦力に関して言えば現地調達を旨とすると、そう言い渡されています。」

 

「なるほどねぇ……、では君達〘歌姫の騎士団〙に力を貸すことによって、忠誠心を見せなさいとそういう事なのかねぇ?」

 

周囲の彼を見る目が変わった。彼は失言のような事を言うが、実際本国との確執がある事にはあるのだ。

地上を知らない彼等がどう考えているのか、それをヒシヒシと感じている程に。

 

「でもねぇ、この早すぎる補給はなんなんだろうねえ?」

 

「私が進言致しました。これでも、最低限の戦力であるとそう考えています。」

 

バルトフェルドはそれを聞いて、鋭い眼光を彼に向けた。

 

「僕は舐められているのかな?」

 

「あなたが、あの〘砂漠の虎〙であるからこそ意味があると判断致しました。」

 

堂々とした物言いに、バルトフェルドはアスランを真っ直ぐに見据えその意味を理解したように、彼らしくなく手を後ろに組んだ。それを見計らったように、アスランは更に付け加えて言う。

 

「これでも、少ないくらいです。」

 

「あの艦は、それほどの相手とそういう事で良いのかな?」

 

バルトフェルドは再度、4人を見下ろすように目配せをすると、ふぅ

と、息を吐く。

 

「君達、コーヒーは飲むかい?」

 

それは彼なりの、歓迎の言葉であった。

 

 

……

 

 

「じゃ、4時間後だな。」

 

威勢良く車から飛び降りたカガリがそう言い、続いてキラとフレイもその地へと降り立った。

着飾った服装にポシェットを肩にかけて社交的なフレイの性格と、それなりの格好をする内向的なキラの性格が良く表れている。対象的な2人と、現地の服装に合わせたカガリは、何処からどう見ても一般的な学生に見える。

 

いつもならばカガリに付き従っているキサカも、この時は側へと来ることはなく車の方へと残っていた。

 

「気をつけろよ。」

 

「そっちこそ、アル・ジャイリーってのは気が抜けない奴なんだろ?」

 

と、互いに心配そうにしているところに、この2人はどこか単なる相棒と言う関係ではないのだろう。

そんな2人のやり取りのあとに、共に乗車していたナタルがくれぐれも気を付けるようと、再度付け加えていった。

そうして、彼等の乗車した車は走り去っていく。

 

この街はバナディーヤ、タッシルよりも更に東に位置する砂漠の虎の駐屯地。

要するに彼等からすれば、敵の根拠地であり危険地帯である。

しかし、軍政下とは思えないほどに活気に溢れ様々な物品が売られているその風景を見るに、キラとフレイは只々圧倒されていた。

 

キョロキョロと、まるで初めて都市部に来た田舎者のように、周囲を見る二人にカガリは痺れを切らした。

 

「おい、なにボケッとしてんだ!」

 

声のする方を向くと、頬を少し膨らませてむくれているカガリが待っていた。

 

「お前ら……、一応護衛なんだろう?」

 

護衛と言われたところで、この場にいる全員が元々民間人である。いったい、誰が誰を護衛するのか?

そんな、理由のわからない編成をしているが保護者の一人もいない現状は、逆に安全とも言える。

 

軍人というものは無意識の内にその所作によって、同じ軍人ならば分かってしまう事もある。

しかし、正規の訓練を受けていないこの3人であれば、どうやっても怪しまれる等と言うことはない。

何処からどう見ても、観光客や学生にしか見えないからだ。

尤も、それが平時ならば更に良かったのだが。

 

さて、彼等がここに置いていかれたのは、日常品の買い付けという、切っては切れない買い出しである。

といっても、日常品であるからそれほど重要なものでもないが。

 

雑踏の中を、慣れた様子のカガリは歩き回り、それにフレイも慣れたように付いていく。キラはそれに置いていかれそうになっている。普段からどう言う生活をしているのかこの時点でわかるだろう。

そんな中を歩きながら、ふとポツリとキラはつぶやいた。

 

「ほんとにここが『虎』の本拠地?ずいぶんにぎやかで平和そうだけど……。」

 

呑気にそう言うキラに対して、苛つきを覚えたカガリはグイッと手を引きながら雑踏を掻き分けて進んでいく。

一人になるとまずいと思い、それにフレイも付いていく。

数分ほど歩いた頃、カガリは徐ろに立ち止まりそれが見えるところへと移動を終えた。

 

「平和そうに見えたって、そんなものは見せ掛けだ。」

 

そう言うカガリが見つめる先には、瓦礫の奥の壊れた建物の上から周囲を見渡すように現れた、軍艦の艦橋がある。

 

「―あれが、この街の本当の支配者だ。逆らう者は容赦なく消される。ここはザフトの砂漠の虎のものなんだ……」

 

苦々しく言うカガリは、それを見てキラがどう思うのか気になったようだ。

 

「それでも……、見せかけだけでも平和を作れるって…、凄いことなのかな」

 

キラがそう言うと、カガリは眉間にシワを寄せまるで彼を軽蔑するように見る。

 

『それでも、仮初の平和でもそれを維持できるのなら、その軍政は間違ったものではない。と言う事でもある。

人心を掌握する事は、戦争に勝つための布石でもあるわけだからな…、こういう相手は強かでやりづらいぞ?』

 

そうなんだ

 

と、一人ポツリと呟くフレイの言葉は二人には届かない。

 

「ま、今更気にしたってしょうがないでしょ?それよりも、早いとここの注文の商品を探しましょ?

時間は無限じゃないんだから。」

 

フレイはその空間の嫌な空気を変えるべく、話をそらしに掛る。カガリはそのやり方に不満を持っていたが、確かにフレイの言う事も一理ある。力のないものが、大きな力を持つものに対抗するには些か、物が足りなさ過ぎると教訓があった。

 

 

……

 

郊外の比較的大きな庭のある屋敷の中に、会談に勤しむ者達の姿があった。

方や、サイーブとナタルを中心とした反ザフトの者たち。

それに相対するのはここ、バナディーヤを中心に店を構えている武器商人アル・ジャイリーと呼ばれている男であった。

 

「しかし驚きましたよ〜、まさかあなたのような方が私の下へとやって来るとは…。」

 

驚きも何も感じていないにも関わらず、そう言い放つ彼は口先だけの物言いにナタルは苛立ちが積もる。どう考えても足元を見られていると。

 

「水を抑えて優雅な暮らしとはなジャイリー……。俺も出来ることなら二度とお前の顔など見たくはなかったのだがな。」

 

どうやら、サイーブと彼との間には昔何かしらの因縁があるのだろう。だが、今はそれを差し置いても必要なものがある。

それは、タッシルの住民の食料だけでなく。

AAの当分の間の武器弾薬諸々全てが、足りなくなる計算となるからだ。

 

もし、ここいらに連合の勢力がまだ残っていたのなら、それを使いたかったが、今はそんなものどこにもいないのだから。

 

「同胞は助け合うもの、具体的な話はファクトリーの方で…」

 

そう言うと笑いを上げながら席を立ち、何処かへと歩き出そうとする。ナタルはそれを見て、少し困惑気味に付いていこうとすると、ジャイリーは徐ろに何かを思い出したかのように、歩みを止めた。

 

「あぁ、そういえばそこの女性の方…、バジルールとおっしゃいましたね?

実は、私の友人の方から言伝を頂いていまして、出来ることなら交渉の後にその話をしたいのですが、よろしいですかな?」

 

「はっ?はぁ…?」

 

ナタルにはこんな場所に住んでいる友人どころか、知り合いなどいない。だとすれば誰がそんな事をするのだろうか。

 

「実はですね?サイーブ、貴方がたに支援をと、そうお申し出をするお客様がいましてね、既に金子は頂いているのです。」

 

その言葉にサイーブは驚愕した。そして、同時にそんな存在がいるのかと訝しんだ。

だが、誰もがその相手が誰なのかと言うことを直感で理解した。

要するに、連合の特殊工作員か何かがこの街に潜り込んでいる可能性があるのだと。

 

 

 




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