機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第30話

 

タッシルの街並みを背景に、多くの人々が崩れかけた建物を崩し、水と土とを混ぜ合わせた日干し煉瓦を積み上げては、簡易的な建物を直ぐ様建てあげる。

 

流石のAAも、街一つ分の人数を収容する事はできない。

長期間の滞在も不可能な状況下に、簡易的な建物は非常に重要な事を意味する。

タッシルのような砂漠の街は、夏季には途轍もなく暑くなるが、冬季ならば気温はさほど上がることはない。

 

従って、日干し煉瓦で建物を作ることにより、気温を調節する事も可能となる。

所謂避暑地ができる訳だが、短期間ではその程度の事しか出来ないだろう。

故に、瓦礫を撤去すると同時に飲料水であるAAの備蓄水をそれに使うしかないのが……、痛いところだ。

 

2機のMSが銀灰色の体躯をノロノロと動かし、瓦礫を割れ物のように扱って運んでいく姿は、まるで老人が物を運んでいく姿に似ている。

それもそのはずで、これに搭乗しているのは正規のパイロットではなく、ヘリオポリスからAAに乗り込み、そして今まで艦内作業を行っていた面々であるからだ。

 

「おい!!それはこっちに運ぶんだ!いやいや、そっちじゃねぇぞ!!」

 

「わ、わかってるんですけど!」

 

操縦に不慣れなのは仕方の無いことだ、そもそも操縦していた二人が異常なだけだと言う事でもある。

そんな怒声が鳴り響く現場作業を一歩引いたところで見守りながら、物資の集積状況を見守るラミアスは、そのメカニックマンとして明晰な頭脳をフルに回転させて、目の前のMSの内の1機ガンダムを訝しげに見つめていた。

 

「やっぱり…、彼女にしか反応は無いのね…。」

 

彼女の手元には、GAT‐Xシリーズの基礎設計図があり。それを見ながらも、その挙動プロセスや運動量を逐一計測している。

既に艦長職となってしまったが故に、あまり関わる事が出来なくなっていた、本来自分が受け持たなければならない筈の仕事…。

それをやっている間だけは、艦長としての仕事を忘れられる。それだけに、心の隙間が僅かに震える。

 

そして、同時に懸念事項でもある。

 

GAT‐X101ガンダム

 

それのパイロット補助機能に関して、一連の検査を行う良い機会となっていた。

要するに、学生達を使用した人体実験であるが、その結果は芳しくなかった。

 

「ラミアス少佐、浮かない顔ですな。」

 

「マードック曹長……、ええそのとおりよ。」

 

マードックもまた、フレイの操縦に関して憂慮していた事があった。

人が変わったように強烈な挙動を行うガンダムは、その駆動系統への途轍もない負荷に耐え兼ねて、金属疲労にも似た現象が発生している。

それはフレーム全体に波及しており、ガンダム以降に製造されたデュエル以下のシリーズのフレームでは、きっと破綻していただろう。試作の試作それ故の過剰な程の強度、それを持たせていたが故に、まだ保っている状態とも言える。

 

「戦闘データと、急加減速。その時に生じるフレーム強度限界を知ってないと出来ない挙動。

普通はこんな動きをすれば直ぐに破綻するわ。けれど、まるで設計者みたいに動かせるなんて…。」

 

メーターに出る不具合等を全て考慮して、センサーがそれを周知するのだが、全てを全て戦闘中に表示する事など出来ない。

では、それをどうやって感知しているのか…、まるでで勘で全てをやっているようなものだ。

 

「ましてや、あの娘はそれまで1度もMSに触れたことが無いのよ?おかしいじゃない、こんな動かし方なんて。

キラ君の動かし方ならわかるわよ?少しずつ最適解を探しながら動かしているのだから、でもこれじゃあまるで…。」

 

「最初から答えを知っているような動きと……。」

 

静かにラミアスは首を縦に振り、マードックはそれを受けて次にラミアスから言われていた、ガンダムのコックピット内部に存在しているブラックボックス、秘匿名称〘PF〙とされているものをなんとかして解析しようとしていた。

尤も、ブラックボックスである。もし、壊れでもすれば戦力が大幅に低下する可能性がある為に、慎重を期する。

 

それ故に、現在他者によるガンダムの操縦訓練という隠れ蓑に、その効果を見ているのだ。

だが、その効果が現れるというものでもなく、誰にもフレイ・アルスターのような操縦が出来ないのだ。

 

「それでも、なんとか設計図面に辿り着けただけでも御の字ね。」

 

「しっかし…、何なんですかねぇ。」

 

ラミアスは現在の作業が始まる前に、コックピット周辺の配線を確認していた事を思い出す。

図面上、ブラックボックスに接続されている筈の配線は完全なるダミーであり、そこに通電は確認出来なかった。

それがいったい何を示すのか、或いはどういう代物なのか?全くと言って良いほど検討がつかないのだ。

 

どこにも接続されていないにも関わらず、それが機能するということはつまり。

 

人の脳に直接接続している……?ありえないわ……。

 

どんな技術にせよ、何かしらのハードが必要なものばかりがある。もしも、物を介在せずに直接的に接続出来るならば、それは完全なるブレイクスルーだろう。

だが、知っての通り彼女は技術者。しかも、連合きってのMS開発の第一人者である。

そんな彼女が、操作系統の技術に関して聞いたことがない物など殆ど無い筈なのだ。

 

ラミアスは再び街中でゆったりと動く2機を見る。

その瞳は、疑念に溢れていた。

 

「皆様〜〜、お昼ご飯ですわよ〜。」

 

という、ラクス・クラインの声だけが呑気に響き、そんな疑問だらけの脳裏に木霊する。

 

「考えすぎたところで、答えを見られる訳では無いのよね。まるで」

 

パンドラの箱のようだと、ラミアスは考えを断ち切った。

 

 

……

 

 

ガチャガチャと響き渡る食器の音の中少年たちは、大汗をかいた後の空腹には耐えきれず、雪崩のように食堂へと足を運んだ。

 

「うめぇ〜!嘘だろ、これ。これが艦内食かよ!」

 

何処からかそんな声が響いてくる。

それを聞いて、静かに胸を張るラクスは得意げに口をニンマリと釣り上げる。

彼女は数日の間に、見る見る内にその手腕を発揮し既にコック長に並ぶのではないか?と、そう言われる程にその磨かれた腕を振るう。

 

コック長はそれを見て、

 

「これがコーディネイター……?いや、元々そう言う才能があるだけか…。」

 

と一人納得している。

 

そんな食事を食べながら、少年たちは愚痴を言い出した。

 

「キラとフレイ…すげぇよな。あんなの動かせてさ……、本当に同じ人間なのかな。」

 

「キラはコーディネイターだろ?問題はフレイさ、ナチュラルなのは確定なのに、俺たちを置き去りしてさ。」

 

それを聞いているミリアリアは、正直なところあまり良い気がしなかった。

彼女はラミアスと共に、フレイの現状を知っているものの一人だ。このまま、彼女がどうなってしまうのだろうかと、戦々恐々としている。

 

「でも二人共…、怖いんじゃないかしら。私達、ずっと後ろで眺めているだけだから、わからなかったけど…。

あの中、周りが全部見えるわけじゃないから、下手すれば棺桶みたいだって…、そう思ったわ。」

 

「そうだけどさ、じゃあ僕達がアレを動かせるのかって言われれば…、たぶん無理だろうなって。」

 

「そうだよなぁ〜、でもスカイグラスパーならまだなんとか成りそうな気はしてるんだけどね。」

 

トールがそう言うと、ミリアリアはそれを聞いて彼を睨みつけた。

 

「トール、冗談は辞めて…。」

 

「でもさミリィ、俺たちキラとフレイに守られてばっかじゃん?少しでも、助けたいって思うのが友達ってものじゃない?」

 

そうだけど…」と、小さな声でミリアリアは返す。

そんな会話をただ、黙ってサイは聞いている。

彼は、ずっと考えていた。どうして、フレイが乗れて自分は乗れないのか。なぜ彼女ばかり、不運な目に合うのか。

なぜ、彼女が自分を振り払ったのかと…。

 

「まっ…考えてても仕方ないからさ、今は出来ることだけやるしかないよ。」

 

そんな他愛の無い会話は、彼等の日常風景になろうとしていた。

 

 

 

……

 

「はぁ〜〜〜」

 

と言う溜息を吐きながら、ドッサリと紙袋に入れられた荷物を腰掛けた椅子の隣に置くと、キラは草臥れたようにその場に突っ伏した。

彼の頭の中は疑問でいっぱいだ。特に、一番大きいのは

〘女の子ってなんでこんなに買い物に時間が掛るんだろう。〙

と言う、なんとも学生らしいものだった。

 

その間にもアチラコチラを見て回る二人の光景が目の端に映り込む。

ふと、腕時計を見るともう時間はお昼を回っていた。

ワイワイとしている2人は、昨今の不仲が嘘のようにブランド品等を見て回っている。

 

2人揃って、そういうものに目が効くようだ。特にカガリの様な、ガサツなタイプがそんな物を知っているなんて…という失礼な感想を抱いている。

暫く待っていると、二人はまた紙袋を抱えて戻って来る。それをまだ持てと言うのか、と抗議の視線を送るが果たしてそれは叶えられた。

 

「これでだいたい揃ったか――おいフレイ、お前さっきからなに読んでんだ?」

 

「うん?これ?〘世界の歌姫〙っていうんだけどね…、ラクスが買ってきてって言ってたのよ。」

 

「はぁ?」

と正直な反応を見せるカガリに、フレイは付け加えて

 

「一応彼女プラントの歌姫じゃない?そういうの気にしてるみたいなのよねぇ。」

 

へぇそうなのか…、という言葉を呟きながらそんな興味がなさそうに答えると、キラのいる方へとヅカヅカと歩いていく。

そんな姿に、今までの女性らしい仕草はどうしたと、そう嘆くキラであった。

 

『いつの時代も歌というものは人気があるんだな。』

 

「でも、歌ったところで誰かが救われるわけじゃないけど?」

 

『そういう感想も悪くはないが、救われる人もいるんだ。否定はしちゃいけないよ?』

 

フレイはそうブツブツと一人で話をしている。それを見たカガリは、フレイの事を可哀想な奴と認識している。

どちらの親もいない、それだけじゃなく目の前で殺されて今も戦場に身をおいている。歳は自分と同じなのに……、と同情を買う。

 

そんな空気を吹き飛ばすように、カガリはフレイとキラを食事に誘った。

 

「……なに、これ?」

 

見たこともない食べ物だ。しかし、悪く無さそうな匂いが漂ってくる。

薄く平べったいパンのようなもので、肉と野菜を包んだ料理。匂いは少し独特だが、多少の香辛料の香りが食欲を唆る。

 

「ドネル・ケバブさ!あーっ、腹減った。さ、二人共食えよ! このチリソースをかけてだな――」

 

意気揚々とソースに手をかけたその時、

 

「あいや待った!」

 

と、何処からともなく現れたのはアロハシャツを着て、サングラスをしている得体のしれない男。更に、麦わら帽子を被って気が抜けているのだろう。

だが社交的な男なのだろう、互いに初見であるにも関わらずそんな事を言うのは、頭がおかしいか、そう言うのに慣れているしかない。

 

「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ、キミは! ここはヨーグルトソースをかけるのが常識だろうがッ!」

 

拳を握りしめて演説する男の手には、白く白濁とした液体が入ったボトルが握られている。

 

「へぇ……、じゃあ私はヨーグルトソースにしよ〜っと!」

 

「あっ!お前!人の忠告を無視するな!!」

 

「君は私の同志なのだな、さあ!!そこの少年もこのヨーグルトソースを!!」

 

わちゃわちゃとし始めるテーブル、一人黙々と食べ始めるフレイそして白と赤のミックスソースがベトベトにかかってしまった、キラのケバブ。

 

「アハハハ、こ…これもまた美味しいのかなぁ…。」

 

と、彼はそれに齧り付く。

実際、チリソースとヨーグルトソースは良く合う。

しかし残念かな、彼の口にヨーグルトソースは合わなかった。どうやら、味覚はカガリよりのようだ。

 

「うっ……、ヨーグルトソースって意外と合わないんだねぇ…。」

 

「むっ!君は邪道を行くものか!!」

 

「ほら見ろ、矢張りチリソースこそが至高だろ!!」

 

と、男の事など無視を決めてカガリはチリソースをかけるとそれに齧り付き、「美味い!」と声をあげる。

 

「う〜〜ん、やはりそこの少女だけが私の同志のようだな。」

 

サングラスの奥で眼光が光る。

 

『フレイ、気をつけたほうが良い。』

 

なんで?

 

『男の事じゃないぞ?』

 

そう言われてフレイは周囲を見る。確かに、何やらザワついているのだ。

声や光ではなく、何か砂漠の街であるのに薄ら寒い、そんな感覚があった。

 

「――しかし、すごい買い物だねえ、パーティでもやるの?」

 

アロハ・サングラスの男は、そう言って何をしているのか聞いてくる。関係のない事には首を突っ込んでくる。これはどちらかといえば、おかしい奴のやる事だ。

だが、悪気が無いのが一目で分かる。悪い性格はしていない。

 

「えっと……、友達の家でパーティを開くんです。」

 

「パーティーねぇ…。」

 

と何かを訝しむ男は、一瞬何かを睨みつけると男が動いた。

 

すると同時にフレイの身体は彼女の意志に反して動き出し、テーブルを突き倒しながらその影へと隠れる。

キラは、その類稀な動体視力で全てを瞬時に判断し、直ぐ近くにいたカガリを抱えてこれまた、テーブルの下へと隠れた。

 

次の瞬間――、劈くような音が響き渡り周囲を土煙が覆う。

様々な音が鳴り響き、

パパパパパ

と、気の抜けた音が響いたと思った瞬間、キュインという金属同士のこすれ合う音が周囲を包む。

そして、更に何かが飛来し店内から爆風が吹き荒れる。

 

「――無事か!?」

 

帽子が吹き飛ばされた意外に外傷がない、アロハの男がそう聞き返すと。

 

「問題ない、少し対応が遅れたが…。」

 

と、先程の少女の反応とは違う口調でフレイが返す。

キラはその間にも、カガリを守ろうと必死に抱いている。

この時、彼女の胸を感じていた筈だがそんな事今はどうでも良いだろう。

 

「死ね、コーディネイター! 宇宙の化け物め!」

 

「青き清浄なる世界のために!」

 

そんな声が響き渡る。

銃撃の中でも声を張り上げるに、実にその思想に染まっていると言えるだろう。

 

「ブルーコスモスかっ!」

 

と目を見開いて、そう口にするのをフレイが耳にする。

 

「なるほどな、確かにこれではこうなるだろうな。」

 

努めて冷静に分析するフレイの姿からは、恐怖は感じない。

だが、それと同時に男の正体に疑念を抱きその答えに合点がいったのか、そんな感想を漏らした。

 

そして、そんな銃声の発生源とはまた別の方向から銃声が鳴り響くと、先程まで威勢良く銃を撃っていた者達が大人しくなっていく。

 

「かまわん、すべて排除しろ!」

 

アロハの男がそう言うと、銃撃は激しさを増し直ぐに静けさを戻した。

 

「隊長!ご無事で!?」

 

店内の幾人かがアロハの男にそう声を掛けるが、男はそれを無視してフレイの方へと向きながら行った。

 

「いい動きだったよ、まさか判っていたのかい?お嬢さん。」

 

「貴方がアンドリュー・バルトフェルドであると、そういう事がか?」

 

その声色は、途轍もない程の威圧感を伴っていた。

フレイの肉体は、威風堂々とした立ち振舞いをしつつ、そこには一切の迷いが無かった。

それを見ていたキラは、フレイがどうなってしまっているのか、心配で仕方がなかった。

キラの傍らでは、それを聞いたカガリが息を潜めるように、生唾を飲み干した。

 

 

 




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