見つめ合う二人の少年は、互いに一歩も動くことなくまるでここに彼がいるという事を否定しようとするかのように、ただじっとしている。
その時間は永遠にも感じられる程のものであったが、一瞬の出来事であった。
一つの声が二人を現実へも引き戻した。
「ほぉ、君達は知り合いなのかい?まったく、今日は愉快な日だね〜。」
バルトフェルドはニヤリとしながらも、その何を考えているのか分からない顔で2人を見る。
対してカガリはその二人を交互に見ると同時に、アスランが彼女の顔を見て驚いた…。
「キラ……!お前…、兄弟がいたのか!!」
アスランのその声が部屋に響き渡る。
直感的に2人が似ている事に気がついたのだろう。2人が立ち並ぶと、確かに髪色は違うが互いに同じ色にすれば確かに似ている。
「……、私も気が付かなかったなぁ。」
なんて言うフレイは、一転して人格が戻ったかのような反応をして、それを受けてキラはホッとしつつ、カガリの顔をじっと見つめた。
カガリはそれを受けて顔を少し赤らめるも、この時間を直ぐに切り抜けようと、声を上げた。
「おい!私コイツの兄弟だとかそういうんじゃないぞ!!」
バルトフェルドを置いてそんな会話が進む中、アスランはハッとして現状を思い出した。
「隊長!失礼しました!」
「良いよ良いよ、感動的な対面だろ?間を突くのは野暮ってものじゃないの。」
そうやって呑気に静観しているバルトフェルドに、アスランはたじろぐとその混乱した頭を切り替えようと言葉を、紡ぎ出した。
「か…彼等とはどうやって…!」
知り合ったのか、そう聞きたい所であるがアスランはこの部屋にもう一人、見知らぬ人物がいる事にやっと気がついた。
全くと言って良いほどに分からない顔、それでいてその人物はアスランの顔を見てまるで毛嫌いするように眉間に皺を寄せている。
「うう〜ん?ああ、露店で出会ってね少し話をしようとね…。」
「ですが彼等は!」
続く言葉は、敵なのですよという事だろう。相変わらず言葉足らずな人間である。
しかし、キラはその言葉を聞いて少し悲しい気分になった。
アスランにとって、自分達はとうに敵なのだとそう思ったからだ。
一方で、この部屋の主であるバルトフェルドはこの状況に、少し悩んでいた。
元々は、面倒事を起こさずにそのまま少し様子を見て帰ってもらうつもりだった。
しかし、そんな状況下に元クルーゼ隊の人間が乱入した事は、彼にとっても想定外であり、この状況に手をこまねいていた。
だが、逆に良い方向に転んだ事もあった。
それは、連合の少年とアスラン・ザラが旧知の間柄であるという事だ。しかも、相当に親しいものなら今直ぐに殺し合いに発展する、なんて事は無いだろうと踏んだ。
ただ、もうそろそろ帰ってもらうつもりでいたのだから、どうしようかと考えたところで、ふと自分の立場を思い出した。
「じゃあそろそろ帰りたまえ。今日は話ができて楽しかった。」
「た…、隊長待ってください!彼等は!」
再度そう言うアスランは焦っていた。今は最大のチャンスなのだ、ラクスの件もある。今こそ全てに決着をつけられると。
「ここは戦場ではない。そうだろう? 歌姫の騎士様?」
しかし、バルトフェルドはその言葉の真意に気が付かない。というよりかは、気が付かないフリをした。
もう、とにかくこの現状が面倒くさくなってしまったのだ。
そして、同時にアスランの事を買っていた。
将来、上に立つような人間はこういうものなのだろうかと、目上でありながら浅い経験を、下の人間の協力の下得ようとする。
努力家で実直である彼を好きだった。
だからこそ、あまり長く話をさせて未練ばかりを増やすのは忍びないと判断したのだ。
それに対して自らの立場上反論出来ないアスランは、その言葉を聞くしかなかった。
「あ!…そうだ、君達の名前聞いてなかったな。一応言っておくが、僕の名前はアンドリュー・バルトフェルドだ。」
最後に自己紹介をとそう思うくらいが良いだろうと、そう言葉を出した。
「――私、フレイ・
真っ先に言ったのは赤髪の少女だった。
コーディネイターか、そうでないか正直その判断に困っていたバルトフェルドは、この言葉で全てを理解した。
何故、彼女は攻撃的な人格を作り出したのか、それでも何故自分で戦おうとしたのかを。
大西洋連邦がプロパガンダで流している、ジョージ・アルスターの戦死。そして、未だにプライバシーで表に出て来ていない筈の、一人娘の存在。
それが、彼女で合致した。そして同時に、この事で彼は現状を呪った。終戦を考えていた人間の娘が復讐に身を窶していると言うことは、これをプロパガンダに使う奴らには格好の材料である事を。
それを気にすること無く、フレイは続けていった。
「そっちの金髪の子がカガリ・ユラで、そっちのがキラ・ヤマト。」
その言葉を聞いてホッとするアスラン。どうやら本格的にカガリとキラが兄弟であると思っていたのだろう。
「そうか、ありがとう。ではまた戦場で見えよう、パイロット君達。」
それを聞くとアスランは今度は我慢できなかった。
「ちょっと待ってくれ!キラ!!」
と、外へと向かうキラの腕をつかんだ。
「アスラン…。」
「キラ…、お前は俺たちと同じコーディネイターだ。お前が地球軍に入る理由が何処にある!!だから、今ここにいれば良い!!もし、何か言われても俺がなんとかする!!だから!!」
それを聞いたキラはアスランの顔を見る。そして、カガリの顔を見て、フレイの顔を見る。
再度、アスランの顔を見るとキラは何かを決意したように、彼に正対した。
「僕は、君と一緒にはいけない。僕には、守らなくちゃならない、僕の帰りを待っている人達がいるんだ。それに……、今は戦争中だから。」
「戦争中だからだと!?地球の連中は、何の罪も無いコーディネイターを殺し、家畜にしようとしているんだぞ!!」
アスランは、カッとなってキラに掴みかかろうとし、実際に襟首を掴んだ。それを見たキラは、悲しそうに顔をしかめた。
「っグ!――そう言って、ザフトの人たちも何の罪もない地球の人たちを殺してるのに?」
二人の見解の違いが、ここに来て現れていた。
まがりなりにも軍人として教育を受け、プラントでその価値観に染まったアスランと、中立国に生き戦争に巻き込まれ今まで守る為に戦ってきたキラ。
二人の意見は食い違った。
「おかしいよ、アスラン。君は自分がされた事を、自分がされたからってそうして相手にも許容するなんてさ。そんなの、単なる怨念返しじゃ……。」
それは誰に向けた言葉か?アスランか?それとも、キラの言葉を聞いて目を伏せたフレイに対してか。
しかし、これは少し言い過ぎだ。と、バルトフェルドは思った時にはアスランはキラに対して睨みつけ、今にも殴り飛ばしそうな剣幕をしている。
後一言、気に障る事をすれば彼は我を忘れるだろう。
「アスラン君…、辞め給え。」
バルトフェルドは努めて冷静にそう言った。
彼の見る先には、鋭い眼光を向けてアスランを見つめるフレイの姿があり、再び人格が入れ替わったのかとそう思うのには充分な気迫があった。
「しかし、彼らは!」
「敵の見解だよ、君がいちいち真に受ける必要はない。」
バルトフェルドは意識してハッキリと〘敵〙という言葉を選んで言った。アスランはそれを聞いて、ハッとした。
つまりキラはもう……。
「ラクスも僕たちのところにいる、もし攻撃すれば彼女も傷がつく…、それでも向かって来る?」
「キラ、お前……!そこまで!!」
ラクスを人質に取るような言葉を彼は言った。その事に、まるで信じられない物を見るように、アスランはキラを見て愕然とした。そして、悲しげに目を伏せた。
「それじゃ、また戦場でな」
バルトフェルドがそう言うのと同時に、扉をアイシャが開き彼等を外へと案内した。
そして、彼等が去った後にバルトフェルドはこの部屋に漂う異様な空気をヒシヒシと感じていた。
手を取り合い、自分達と戦うナチュラルとコーディネイター。
対して、嘗て友だった者と敵対する同胞。
この戦争の根底にある拭い去れない事実が、そこには濃縮されているようであった。
……
AAの静まり返った艦長室にて、二人の人物が相対していた。
「ナタル・バジルール以下、総員帰還致しました!」
敬礼をして、無事の帰還を報告するナタルはラミアスを前にして、少し不安げな顔をしていた。
道中、帰還の時間に30分程遅れたキラ達3人を叱咤したナタルは、彼等がバルトフェルドとあった事を聞いて頭を悩ませていた。
自分達が街にて補給を受けた可能性を、彼等が知る可能性が非常に高いということ。
こちらの動向を全て把握されていたこと、それらを全てラミアスへと報告しなければならなかったからだ。
「そう……、虎は相当にやり手なのね。こっちの事はお見通しと…、厄介なものね。」
「それと、もう一つご報告しなければならない事があります!」
ナタルはラミアスの思考を遮るようにその言葉をいうと、詳細を話し始めた。
「南アフリカの残存部隊が、この近くにいると?なぜ?」
アフリカも北部、そんなところに南アフリカに所属していた連合の部隊がいる事自体、理由の分からない事態だ。
どうしてそんな者達がいるのか、誰の予想も出来ない。
「これは、無線の周波数と彼等の残存兵力を表したものです。戦力としては、明けの砂漠と大差はありませんが……、敵のジンを一機鹵獲しそれを戦力化しているそうです。」
「眉唾も良いところね、実際貴方にその情報を寄越したアル・ジャイリーは信用に足る人だったの?」
それは尤もな話であった。如何に戦力がいるとして今までどうしてそんな戦力を隠し通せていたのか、まるっきり疑問であったからだ。
「確かにそうです。ですが、既に我々の場所は敵に周知されている可能性も高いと、私はそう判断します。
実際、我々がバナディーヤに到着したことは敵に察知されていたのです。どちらにせよ、敵の戦力が増えたところで現状が更に悪化するような事はありません。」
絶望を上乗せするには、調味料としてはあまりにも弱すぎる。だが、逆に一機でも味方にMSが増えればそれだけで、生存確率は上がる。
「そうね……、この件は貴方に一任するわ。何にせよ、貴方がその情報を手に入れたのだから。戦力の確保としては、最低ラインね。お願いしてもいいかしら?」
「了解しました!良い報告が出来れば良いのですが。」
ナタルは敬礼し、部屋を出る。
それを見送った後、ラミアスは頭を抱えるように上を向いた。
時を同じくして、AAへと帰還を果たし今日の出来事によって出来てしまった疲れを癒すように、キラ達は各々がシャワー等を浴びて就寝に就こうとした。
キラがベッドへと入ろうとする頃、トントンとノックが響いた。
「キラ…、入っても良い?」
それはフレイの声だった。
パイロットである2人は、それぞれが個室を用意されていて充分に良質な睡眠を取れるようにと、されていた。
「フレイ……?ちょっと待ってて。」
キラは慌ててベッドから起き上がると、部屋のロックを解除した。
扉が開くとそこには、いつもと同じように船内服を身に纏ったフレイの姿があった。
「ごめんなさいね、こんな時間に来ちゃって。」
「別に良いよ…、それでどうしたの?」
フレイは部屋に入ると、ベッドの端に腰掛ける。すると言葉を紡ぎ出した。
「キラ、あのね?私の秘密……、あの時話しちゃったじゃない?それでね?……、サイとか皆には言わないで欲しいの。」
「どうして?」
キラにはその理由はわかなかったが、でも自分にもアスランという存在の事を秘密にしていたのだから、それを否定することはできない。
「私ね、復讐の為にパイロットやってるって前言ったじゃない?それでね、今あの人に色々教わってるの。あの人が、代わりに戦わなくても良いように。
それでね?ふと思ったの、キラって戦うの辛いんじゃないのかなぁって。」
「それは……」
キラは動揺した。いきなりそんな話を振られたのだから当然といえば当然であるが、それにしてもキラの事を彼女は心配していた。
「エルちゃん……いたじゃない?私、貴方が熱を出しているときにストライクの戦闘データを見ちゃったのよ。
それでね?避難シャトルが、デュエルに撃ち落とされるところを見たの。皆は知らないだろうけど、あの時私も何かを感じたのよ。何かがザワついたのを。
でも、あの時は気にしなかったわ。そんな余裕なかったから、今思い返せばアレはそれなんだってわかったの。
それでね?キラはそれに苦しんでるんじゃないかって…。」
この時、キラの脳内にはシャトルが撃ち落とされる光景が脳裏に映し出されていた。そして、それがフラッシュバックのように蘇り、無意識のうちに涙が溢れていた。
「ごめんなさい……私、キラの事何にも考えてあげられなかったから…。」
彼女の声は震えていた。それと同時に、彼女も泣いているのだとキラは理解した。
「どうして……どうしてフレイが謝るの?アレは……、僕に力が無かったから!!」
「だって!!――あの時、私と貴方しかまともに戦える人がいなかったから!!一緒に戦ってれば、そんな事起きなかったんじゃないかってそれで…。」
彼女がその言葉を言い終えるのと、キラが動き出すのはほぼ同時だった。無意識のうちに、彼は彼女に胸を差し出していた。
「キラ……。」
「フレイ…、大丈夫…。僕がいるから、一人じゃないから…。」
「キラも…一人じゃないわ…。私が……いるから…。」
2人は見つめ合った。互いにその瞳を涙で満たし、二人の顔は徐々に近付いていく。
そして2人は、互いに涙を流し……一夜を共にした。
それを誰かが聞いていた、その人物は顔を赤らめそこから走り去るように逃げていく。
そこには、一筋のピンク色の髪が落ちていた。
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