機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第34話

砂がサラサラと舞い散り、辺り一面に広がるように自然と世界が、形作られていく…。

しかし、それは今は違う。

微振動が砂中の大型の物体を押し上げて、積り埋まった岩々が顔をのぞかせる。

 

終いには甲高い音が響き渡り、それらから発せられるビリビリとした物が、肌に感じられる程だった。

 

AAのエンジンが振動を作り上げ、それを周囲の人々は気にもすること無く、出撃の準備を進めていた。

周囲にいる男達に混じり、タッシルの人々までもがそれに参画し、忙しなく動き回る。

 

中からは怒鳴り声すら聞こえてくるものの、それを気にせずにバギーに弾薬を満載する者もいる。

家族との別れに涙するもの、必ずと言って何かを持たされるもの、泣き出すものすらいる。

そう、これが人の営みなのだろう。

 

そんな凄まじい喧騒の中で、カガリは一人の女性に呼び止められた。

砂漠の陽射しが既に顔の皺を作り上げていたが、だが紛れもなく誰かの親であろう事は分かった。

そして、カガリはその人物が誰であるのか、既に知っていた。

アフメドの母親である。

 

彼女はカガリに近付き、手を出して欲しいとそう言った。

カガリはその言葉に逆らうつもりは毛頭なく、実際に掌を出した。

 

「――えっ?」

 

カガリは驚き、その手の感触を確かめる。硬いもの、それも石のように硬い何かを渡されたと。

掌を開けてみると、そこにはマラカイトと呼ばれる緑色の宝石、その原石が存在を誇示していた。

 

「これを…、どうして私に?」

 

「……あの子が以前、見つけたものだよ」

 

困惑するカガリに女は言葉を続けた。そして、これを見つけた人物が誰であるかなど、カガリには検討がついた。

 

「アフメドが……。」

 

ポツリと声が出てくると、目の前で冷たくなっていく彼の事を思い出し、悔しそうな顔をした。

そして、同時に何かを考え直ぐに口火を切った。

 

「受け取れない…だってそれは大切なものじゃないのか?」

 

「もらってやって。あの子が、カガリにやると言っていたから。」

 

その言葉にカガリは彼に初めてであった頃を思い出し、そして同時にその意味を理解した。

きっと、そう言う事だったのだろう。だからこそ……、私と共にいてくれたのだろう。守りたかったから。

 

「この石は邪悪なものを吸い取り、危険が近づくと知らせてくれると言うわ……。持っておきなさい」

 

呪いにも似た迷信のようなものだろう、だが信じる事は悪いことではない。それだけで、成果が違う事すらあるのだ。

そうして、女はカガリの手をそっと握らせる。しっかりと、それを手放さないようにと。

 

「あんたは生きて戻るんだよ……」

 

カガリはその言葉に涙ぐんだ、そして同時に首を縦に振る。

 

「ありがとう。」

 

それを聞いて女は離れていった。

と、女とすれ違うように筋骨隆々な男が、カガリの前へと現れた。キサカである。

 

「それは?」

 

「アフメドが……私にって」

 

キサカが質問すると、石を撫でるように手に握りしめる。

今度こそ、無くさないように大切なものを失わないようにと。

 

キサカはそれを見て何かを察したように、黙りこくってカガリの傍らへと立ち尽くす。

そこへ、大きな声が周囲に鳴り響いた。

 

「――行くぞォ!」

 

サイーブの声を合図にして、戦闘のバギーが動き始める。

カガリ等もそれに遅れまいと、直ぐに自らのバギーへと急ぐ。

戦闘が始まる。それはこの大地で起きた中でも大規模部類なものであり、余程のことが無ければ負け必至。

しかし、ボードゲームにあるように終盤を読み違えれば、その力関係が逆転することもある。

 

 

……

 

 

「――動き出しちゃったって?」

レセップスの艦橋に入ってきたバルトフェルドの問いに、オペレーターが答える。

 

「はっ! 東へ向かい進行中です」

 

モニターを見てアスランたちはごくりと息を飲み込んだ。

バルトフェルドは地図を確認し進行方向にあるものを確認した。

 

「タルパティア工場区跡地に向かってるか……。ま、ここを突破しようと思えば、僕が向こうの指揮官でもそう動くだろうからな。」

AAの現在位置を既に把握していたのだから、相手が何をしたいのか手に取るように判る。

そうして判断したものを、まるで大目に見てやるように言う。

「隊長……。」

 

命令を待つダコスタの顔を見て、バルトフェルドは困ったように、だが楽しげに首を振った。

 

「もう少し待って欲しかったんだが…、まあしかたない!」

 

「出撃ですか!」

 

その言葉にイザークは声を弾ませて言った。

この数日の間、砂漠戦を想定して訓練を続けそれをやっと日の目に出せる。

そして、自分たちに対してこれまで辛酸を舐めさせた相手を今度こそ、討ち取って見せようという気概を見せた。

 

「レセップス、発進する! コード02!

ピートリーとヘンリー・カーターに打電しろ!捕らわれのお姫様を助けに行くぞお!」

 

その言葉を聞いてクルー達は勿論のこと、アスラン等MSパイロット達も忙しなく動き始める。

それを見てバルトフェルドは腕を組み、苦笑いを浮かべた。

 

「お姫様にアプローチをかけさせてしまうなんて、無礼千万だなあ。」

 

と、一人話すバルトフェルドを、毎度の事だと無視し、全く動じないクルー達。

 

「せめてものお詫びに、盛大な花火で歓迎して上げなければね。」

 

と、そう言いながら前を見据えた。

 

この時、バルトフェルドは致命的なミスを犯した。

いや、正確に言えば彼だけのミスではない、ザフト引いてはプラント全体の戦略的なミスであろう。

 

プラントの人間に、伝統工芸品が何故価値があるのかと聞いた場合、殆どの者達が〘古い歴史があるから〙と答えるだろう。

だが、それは半分正解であり半分間違いである。

 

伝統工芸品を語る上で尤も必要なものは、その土地の歴史だけではなく。その土地の気候、立地も含まれて初めて評価されるものなのだ。

 

それ故に、昨夜AAから流されていた音楽に対して関心を示すものがいなかった。

それは、その言語が既に廃れたものでありもはや形式上しか存在しない、それ故に戦場でそれらが流れたとしても単なる音楽としか捉えられなかった。

 

それ故に、無線手は報告しなかったのだ。もし、このレセップスにアフリカ出身の者達がいれば状況は変わっただろうが、残念ながら彼等は、宇宙育ち。

その歌の意味がわからなかった。このアフリカという大地がどれ程重い歴史を持ち、ここに住まう者達がどれ程の迫害を受けていたのか、彼等は自分達を省みるばかりで知ることをしなかった。

 

 

……

 

「なんだぁ?まだ食ってないのかあ?」

 

AAの食堂で、キラのトレイを後ろから覗き込み、フラガがそう言った。

 

「――だって……、戦闘前に食べたりしたら中のもの出しちゃわないか心配で…。」

 

キラはそれに対して反論するも、フラガはキラのその見識を心外だと言いながら答えた。

 

「俺たちはこれから戦いに行くんだぜ? うんと食っとかなきゃ力、出ないでしょ」

 

確かに、これから戦闘行動に入るのだから、キチンと血糖値を上げ頭の回転を良くして置かなければ、撃墜されかねない。

パイロットであるのなら、尚更そう言う事もある。

 

ちらりとテーブルの方を覗けば、既にフレイは1人で食事をしており、何かを考えているようである。

 

「…キラ様、お待たせしましたわ。これを食べて、頑張ってきてくださいね?」

 

そんな彼等の事など気にせずに、ゆったりとラクスが現れるとキラのトレーの上へドネル・ケバブを乗せる。すこし、よそよそしくも普段と同じ様にそれは盛られる。

ナタル等が買い付けたもの一つだった。

 

「やっぱ、現地調達物は美味いねぇ。ほらほら、お前もこのヨーグルトソースをかけてだな。」

 

来たときと同じ様に奥へと戻っていくラクスを見ていたキラは、フラガがヨーグルトソースを手渡そうとしていることに気がつき、慌ててチリソースを手に取った。

 

「あ、あの、僕はこっちのほうが好きなんです。」

 

「やれやれ、お子様だなぁお前は。フレイの方を見てみろよ。」

 

からかうように言うフラガに言われ、フレイの方を見ればあの時と同じ様にヨーグルトソースをかけたそれを食べていた。

そんな彼女と比べられるのは心外だと、そう思いながら席に着きケバブに齧り付く。

 

「あ、やっぱり美味しい。」

 

人の味覚なんて、色々あるから…。カガリだってチリソース派だったし。

と1人納得していた。

そうしていると、ふとある事を思い出した。

 

「そう言えば、バルトフェルドさんもヨーグルトソース派だったなぁ…。」

 

「へぇ、虎も味はわかってるんだなぁ。ま、そんな事知らない方が良いだろうけどな。」

 

フラガにそう言われて、どうしてと疑問に感じそれを聞いた。

 

「今から殺し合いをする相手のことなんか、気にしたくないでしょ?」

 

あ、とキラはそれを実感した。

良く知っている相手と殺し合いを興じる。

それは、今の今までキラが行ってきたそれと合致しているのだ。アスランと敵対し、殺し合いをしてそして今なおこうやっている間にも、アスランは自分を殺しにやってくるのだと。

 

そんな事を考えていると、ふと…フレイの方に目が行く自分に気がついた。彼女は、自分とは違う理由で戦争をしている。互いにやりたくも無いこともある。

それをわかってあげられる唯一の相手であって、わかってくれている相手でもある。

そんな彼女の事を。

 

そんな事を考えながらモグモグと食事も終わるかと言う頃だ、鈍い重低音のする地響きのような爆音に、思考を遮られた。

 

「――!っなんだ!?」

 

その音はAAの居住区にまで響き渡り、その場で休憩を終えた者達が、急いで戦闘配置につこうとするには充分な脅威となった。

そして、それはAAの外を走行するカガリ達は、その光景を目の当たりにした。

 

地平線をまるで何かがなで上げるように、目の前に届く限りの地雷原が一斉に起爆されたのだ。

地雷原に何かしらの飛翔体が降り注ぎ、それが小粒な何かをばら撒いたと思った瞬間、それが炸裂して連鎖的に全てが粉塵に飲み込まれる。

そしてそれを見ていた明けの砂漠の面々には、強い動揺が走った。

 

「うろたえるな! 攻撃を受けたわけじゃない!」

 

サイーブは混乱に直面しようとする面々に、怒鳴り声を上げた。

確かに、彼等は攻撃されたわけではない。

しかし、隠匿していた筈のそれを全て把握されている可能性もあり得る。現に、この地域の地雷を除去する為に強引な手を使ってきたのだから。

それ故に、彼らの心理的ダメージは計り知れない。

 

「あれだけの地雷を、一瞬で……?」

 

その一言にどれ程の感情があったのだろうか?

その光景を見ていたカガリは静かに、歯を食いしばった。

 

先日見た、派手なシャツを着た敵将の姿と、死んでいった仲間の顔が思い浮かぶ。

――あんなふざけたやつに……!

と、激情に駆られるのを必死に堪え目の前の惨状を受け入れようとする。そこには確かに彼女の成長があった。

 

「――〘虎〙もいよいよ、本気で牙をむいてきたようだな……」

 

皆わかっているのだ。自分達に対して、相手は一度も本気で攻めてきたことが無かったということを。

それ故に、たった2機のMSと1機の戦闘機、1隻の戦艦がそれを引き出しているという事実に、その力を実感する。

 

だからこそ、彼らと共にその虎を狩ろうとしているのだ。

 

 

 

格納庫内部では、スカイグラスパーがその姿を今か今かと待ち望んでいるかのように、運ばれていく。

カタパルトへとスタンバイし、発進後直ぐに航空優勢を築こうと言う算段なのだろう。

 

実際、地を這いつくばるMSの天敵というものは通常戦力であれば、真っ先に航空戦力であると言えるのだ。

モビルディンのような、空を駆るMSもあるにはあるがその戦力は実際の所空を飛ばす必要性が無い程度である。

装甲のないMSなど、戦力になりはしない。

それに、その飛行方法は砂漠でアジャイルが使われている理由でもあった。

 

「ストライク!エール装備でカタパルトスタンバイだ!ぐずぐずするな!次にガンダムは機動ユニット!」

 

互いに機動性を中心に考えられている装備、敵がどのような戦力を投入してくるかは解らないが、機動性の低い者が戦場ではどうなってしまうのかは、古今東西その定めは全滅だ。

 

「フラガ少佐!レジスタンスの地雷原、爆破されたって聞きました?」

 

フレイは起ち上げたばかりのコンソールを弾き、互いにコックピットコンソールを間に挟んで、そんな会話をし始めた。

 

「ああ!どうやらそうらしいが、連中には悪いが……レジスタンスの戦力なんぞ、はっきり言ってアテにならん。」

 

「……、そうですね。あの人たち、生身ですから。」

 

キラがその会話に入ると、フラガは再度確認するように目配せをし、作戦を説明し始めた。

 

「良いか!?まずは俺が出て航空戦力を引き付ける、その間にお前等は出撃してAAと連携しろ!

欲張って敵に引きつけられて、それでおしまいなんて俺だって聞きたかぁ無いからな!」

 

少しキツめに言う彼だが、彼なりに心配しているのだ。

彼の勘は警笛を発しているのだ、この敵は強大な戦力をぶつけてきていると。

 

「はい、ストライカーの変更が間に合わない可能性も視野に入れろ、ですよね。」

 

「そうだ。アルスター!お前の方はストライクよりも継戦能力があるみたいだからな、その時は時間稼ぎしてやってくれよ!」

 

「言われなくても!」

 

フレイの顔は落ち着き払い、フラガの顔は普段のそれとは対照的に引き締まったものへと変わり、キラの顔は緊張に強張っていた。

フラガは通信を切り、出撃準備に取り掛かる。

 

その間にもフレイとキラの通信は繋がったままだった。

 

「フレイ……、こわくない?」

 

「……。」

 

フレイは沈黙の回答をする。

 

「僕は怖い…、きっとアスランも出てくると思うと、彼と戦わなくちゃならないって考えると。

でも……、僕には守らなくちゃならない人がいるって知ってるから。」

 

「……、私も怖いわよ。でも……、ほっとけない人がいるから…。」

 

2人はモニター越しに互いを見つめ合う。

その時間はゆっくりと流れるようで、一瞬だった。

 

『いい雰囲気のところ申し訳ないが、今回俺は手出し出来ないかもしれない。機体のそれを見たが、君の操縦に任せるしかない。すまない。』

 

「ふふ……。キラ、背中任せるわよ?」

 

「僕の方こそ。」

 

そうして、ストライクが運ばれていく。カタパルトへと、戦場への道へと。

 

 




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