爆発による砂煙が舞い落ち、あらゆるものの上に降り注ぐ……。そんな中をまるで潜り抜けるように影が現れ、その白亜の船体が姿を露にする。
AAが地雷原であった場所を通る頃には、その大半の地雷は打ちのめされもはや意味のないクレーターだけが、その姿を下していた。
「――レ…レーダーにっ!」
カズィが勢い込んで口を開き、舌をもつれさせる。
彼の正面に映り込むレーダーにいくつかの光点が浮かび上がり、レジスタンスのそれとは別に、IFFにUnknownの表示がなされる。
それがゆっくりと、中心点へと進んでいくのだ。
その数は、1人で捌けるものではない。
それを見てトノムラがそれを引き受けた。
「レーダーに敵機とおぼしき影!撹乱ひどく、数は補足不能! 一時半の方向です!」
それに続いて、戦術レーダーの方に映し出される敵の大まかな目標をチャンドラが読み取って答えた。
「その後方に大型の熱量二!敵空母、及び駆逐艦と思われます!」
レセップスだけが敵の打撃戦力ではない、必ずと言って良いほどに、艦艇というものは必ず僚艦を随伴し、艦隊を形成するものだ。単艦運用を前提に作られるものなどない。
だが、これは予想の範囲であった。
ラミアスはそれを見据え、一呼吸、息を整える。そうして、戦闘開始の指示を出した。
「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!」
それに続いてナタルが各砲門への仰角指示を事細かく出していく。それに付け加えるように、ラミアスは一言発した。
「敵艦の位置を逐一、全方位へ発信!いるかはわからないけれど、何かの助けになるかもしれないわ。」
もしも、昨夜の音楽を聞いていれば何かしらのアクションを起こすかもしれないと、確証のない友軍への支援砲撃要請を意図した座標を送り続けるのだ。
「ストライク、カタパルトスタンバイ!」
ミリアリアの艦内アナウンスが格納庫中に響き渡ると、忙しなく動き回っていた整備員達は、邪魔にならないようにと退避していく。
それと同時に、マードックは操作パネルに齧り付き確認するようにキラとの通信を始めた。
「本当にエールでいいんだな!?」
マードックは念を押していた。出撃すれば戻ってこれないかもしれない、最後の分岐点だ。
「はい!バクゥ相手には、火力よりも機動力です!」
そうやって元気に見せるキラの顔を見て、マードックはにぃと口角を上げる。
だんだんと互いの事を信頼して来た証として、笑い合うのだ。
キラは通信を終えると、カタパルトデッキに運ばれたストライクの中で、再度戦い方を考える。
一人ではない、フレイもいる。死んでなるものか、死なせてなるものか。と。
「スカイグラスパー一号、フラガ機発進どうぞ!」
ランチャーパックを装備したフラガの機体が、カタパルトから押し出されていく。
その光景を見るわけでもないが、何となく想像できてしまった。
ミリアリアの声が響き渡っている。完全に密閉された空間の中で、目の前の状況を淡々とこなすそれは慣れというものが見えた。だが、その光景も長くは続かなかった。
「……スカイグラスパー二号、ト…トール機発進スタンバイ…!」
キラはその耳を疑った。
どうしてトールがいるのか、彼は戦ったことなど無いというのに一体全体どうなっているのかと。
そんな中、トールから通信が入った。
「キラ、どうしたんだよそんな驚いた顔しちゃってさ。」
「だって…、僕はそんなの聞いてないよ!」
トールは渋い顔をしながら、理由を手短に話す。
「AA人手不足だろ?特にキラとかの方はさ、だから少しだけ手伝おうってさ。大丈夫、観測員ってわけだからさ囮くらいにはなるよ。」
「だからって!」
「あんまり話せないけど、これからは俺もお前等の役に立ちたいんだ。」
それは善意からであったろう。だが、キラの初陣とは比べ物にならない程に絶望的なこの状況下で、果たして彼は生き残れるのか?キラの脳裏には今にも撃ち落とされる彼の姿が見えていた。
「っと、そろそろ時間だから!」
「ちょっと、まって!」
しかし無情にも、通信は切断された。再度復帰させようとしたところで、声が響いてきた。
「スカイグラスパー二号、トール機…発進どうぞ!」
この時のミリアリアの声は震えていた。
「続いて、ストライク、ガンダム、発進スタンバイ!」
彼女は直ぐに切り替える。今は彼を信じる他無いと、胸に秘めて。
そんな彼女の姿をモニター越しに見るキラは、いたたまれなかった。あんな訓練も禄に出来ていない筈の状態出ていくのだから。
そこで再度、フレイに通信を入れる。
「フレイ!トールがスカイグラスパーで出撃した!」
「わかってるわよ!でも、止められないのは仕方ないじゃない!」
フレイもフレイで慌てていたようだ、それでももう出て行ってしまった手前どうすることもできない。
そもそもな話、2人が街へと行っていた時に決まった事なのだ。2人が知らないのも仕方が無かった。
そうこうしている内にエールパックの装着が完了してしまう。そして、直ぐに出撃準備が整った。
「ストライク、発進どうぞ!」
間髪入れずにミリアリアはキラに出撃の合図を出す。その瞳にはトールを頼むという、そんな意思が宿っているように見えた。
「ミリィ……。キラ・ヤマト、ストライク行きます!!」
リニアカタパルトより射出され、キラはすぐさま周囲の状況をとらえた。
遠方にまるで小粒のように見える、レセップスとおぼしき艦影とそれに付き従う、一回り小さなそれが見えた。
空にはアジャイル戦闘ヘリや、インフェストゥスVSTOL戦闘機が無数に飛び交っている。
振り向くと、それがAAに鳥のように群がっている姿が見えた。
トールのスカイグラスパーは…?
そう意識して見渡すと、それがハッキリと見えた。高高度を悠然と飛行し、戦闘機を振り切りっている。
お世辞にも上手い操縦ではないものの、MSに乗っているよりも遥かに安全だろうことがわかった。
「キラ!!ボサッとしてないで!!」
直ぐ様にフレイの機体が出撃してくると、キラに不注意を注意した。
レジスタンスのバギーが携帯対空ミサイルを打上げて、そんな敵を追い払おうとしているも、焼け石に水だろう。
それでも、彼等がいるだけでAAへのヘイトは少なくなっていた。
と、そのすぐ後にフラガのスカイグラスパーは曲技飛行のような運動をして、機銃を掃射すると瞬く間にアジャイルが2機墜ちる。それだけではない、その気流に巻き込まれる敵機を次々と葬り去っていく。伊達に〘エンデュミオンの鷹〙と、そう呼ばれているわけでは無いのだ。
それにフレイも加わって、AAの防備は格段に向上したが……、センサーが反応を示した。
遠くに見えるレセップスの格納庫が開き、そこからバクゥの群れが現れたのだ。
それをキラは、コーディネイターの優れた視力でそれを見た。
「バクゥだ……数は……、4……いや5機!」
先日戦った時と数が変わらない。寧ろ、これだけの短時間でその数を投入してくるという事は、それ即ち予備戦力が存在していると言うことだ。
「フレイ!敵機確認、バクゥが来る!」
それを聞いたが動きが早かった。ガンダムは腰部マウントに接続されていたレールガンを着脱し、突撃銃と交換すると未だに鳴ることのないセンサーとは関係なしに、それを解き放った。
『センサーだけに頼るな、君には素養があるからな。感覚を信じろ。』
今、フレイには見えないものが見えていた。いや、感じていたと言ったほうが正確なのだろう。
彼女が感じていたものは複数ある。目の前にある恐怖の感情と、遠方からこちらを指し貫くような殺意が。
「っ!当たれ!!」
強烈な閃光が銃口から放たれると、弾道を描いてバクゥのメインカメラである顔面から、コックピットまでを貫いた。
数度の砲撃の後、出現したバクゥの内3機が行動を止め、その場で爆発を起こした。
「……、凄い…。」
キラは無意識の内にそう呟いた。彼は負けじと他方から近付いてくるバクゥを確認すると、それに近付き熱対流を計算してビームライフルを放つ。
一射目は囮、ニ射目は本命と言うように確実に仕留めていく。
トールはそれを高高度から見下ろしていた。
そして、その戦いを目に焼き付けながら、AAへと近付いてくる新たな敵影をレーザー通信で報告していく。
彼は、この戦場における最重要任務をこなしていることに、気がついていないかもしれないが、AAの目となり耳となっていた。
……
「ほお…、これは凄いな。数日前に戦った時とは比べ物にならないな。」
他人事のようにバルトフェルドはそう言うが、戦局は未だどちらにも傾いていないにせよ、自軍のみが被害を出している事に思うところがあった。
「バルトフェルド隊長!敵のMSと、既に交戦しているのですか!」
凛とした声が、爆発音の聞こえてくる格納庫の高い天井に跳ね返り、バルトフェルドは振り向いた。
彼は鮮やかな虎柄をしたパイロットスーツに身を纏い、今にも出撃をしようとしていた。
自らが陣頭指揮をしなければ、被害が拡大する可能性がある為に、彼は出ようとしたのだ。
そこへ現れたのは、アスラン達であった。
「私たちが出ます!」
それを聞いてバルトフェルドは肩を竦めると、調子よくそれに答えた。
「うちに残っていたバクゥが、やられてしまったよ。君たちに頼んでも良いのかい?」
「その為に、訓練させていただいたので。」
その言葉に満足するように、バルトフェルドは彼等に命じた。
「じゃあ、お願いするよ?」
「はっ!」
彼等はそのまま各MSに流れるように搭乗すると、ハッチを閉めた。
そうして各機が出撃していくと、それに続くようにレセップスの僚艦からバクゥや、ザウートが次々に出撃していく。
「――歌姫の騎士団が行く、か…。」
バルトフェルドは愛機に向かいながらそう一人ごちた。
彼の独白を聞いていたアイシャが、ふふっと笑ってラダーにつかまった。彼女も淡いピンクのパイロットスーツに身を包んでいる。二人はコックピットに引き上げられながら、バルトフェルドも笑う。
「……肩入れしすぎているかな?」
「いいえ」
そう言うとアイシャは笑いながら返答する。彼の事を良く理解しているのだろう。
「でも、良い子達ね」
「ああ、そうだな。あんな子が欲しいのかい?」
「さあ?」
恋仲であった二人であるが、その二人に子供はいない。遺伝子上、二人の間には子供が出来辛いのはふたりとも知っているのだ。それでも、2人は後悔などない。
どんなに子供が出来なくとも、互いを愛し合っているのだから。
2人は愛機のコックピットの中へと収まると、互いの役割を良く解っているかのように、定位置へと移動する。
バクゥをベースに作られ、背中には二連装のビーム砲が装着され、口にくわえるような形でビームサーベルが装備されている機体、ラゴゥ。
副座式コックピットの前席には射撃手、後席には操縦士が座る。
驚くべき事に、アイシャは射撃手でありその腕はバルトフェルドのそれよりも良い。彼の隊の中で最良とすら言えるものだった。
こんなにも熱くなったのはいつ以来だろうかと、バルトフェルドは思いながらもこの機会に感謝した。
「じゃ、艦を頼むぞ、ダコスタくん」
「はっ!」
モニターに映るダコスタは、苦り切った表情を作りつつどことなく嬉しそうだった。
日ごろ、指揮官たるものは前線に出て戦う必要は無い、などと説いているくせに、やはり彼にとってもバルトフェルドは、モビルスーツのコックピットにおさまっている時が自然なのだろう。
「――バルトフェルド、ラゴゥ、出る!」
勝者を決める為に、彼は戦場へと歩みを進めた。
……
砂塵降りしきる戦場を誰かが覗いていた、それは双眼鏡を覗き込み息を潜めるようにゆっくりと動き出す。
無限軌道から生み出される砂塵は、戦場のそれよりも遥かに少ないながらもその威容を誇っていた。
「車長!味方とおぼしき艦より連絡、レセップス東方より、更に一隻が接近中とのことです。」
「ほお…、囮か…。しかし…、我々の戦力で足止め出来るかね?」
「やって出来ないことも無いかと…。」
戦車の中、騒音で声が聞こえ辛い中でそう言うと彼等は、この車両の中で、音楽を流していた。
白い肌、黒い肌、黄色い肌。
人種問わず編成されたその部隊に、可愛らしい声が響き渡る。
「連中には散々辛酸を舐めさせられたんだ。横合いから殴りかかるのも悪くないだろう?
1stとの通信は?」
「良好です。彼女の仕事は如何します?」
この戦車隊に随伴しているはずのジン、それは今この場所にはいない。いったいどこへと行ったのだろうか?
「囮なんてさせたかないね、奴は若いんだ。上の連中みたいに卑屈なやり方はやりたかぁねぇ、俺たちには俺たちのやり方でやれば良いのさ。」
そう言って、車長は煙草に火をつけた。
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