機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第36話

 

「ゴットフリート、バリアント、てぇっ――!!」

 

降りしきる砲撃と、雲蚊の如きアジャイルの群れの中を突き進みながら、AAの艦橋の中でナタルの号令が響き渡る。

敵艦へと、的確にダメージを与えるように自艦にもまた、大小の被弾によって振動が木霊する。

ビリビリとした振動の中に、最低限の迎撃行動。甚大なるダメージを与え得る攻撃のみに、迎撃を行う。

 

AAのバイタルパートを貫通せしむるには、未だにレセップスの巨砲は命中していない。

しかし、小規模な被害が敗北を決めた戦いなども例が無いわけもなく、日清戦争の鎮遠、定遠のように滅多撃ちにあえばそれは、戦力の損失になり得る。

 

「スカイグラスパー、トール機より戦術データリンク。弾道特性、誤差修正します!!」

 

高高度を飛行するトール機は、その役割を存分に発揮していた。

この時、ナタルの持ち出した戦法は倉庫の中で埃を被り、苔むす程の昔のもの。それこそ、人が宇宙へ飛び立つ前の方策。

 

CEという宇宙にまで足を伸ばした人類が、衛星からの測量を下に行っていた物を、航空機にまで退化させたその方法は、第二次世界大戦期のそれと告示していた。

 

一方のバルトフェルド率いるレセップス以下の陸上艦艇よりの砲撃は、近接するMSからの観測データからのそれであり、高度が足りていなかった。

一般的に、高度が高ければ高い程砲撃精度の向上に役立つ。

これは、ぽっと出のザフトと長年戦争を繰り広げたその大陸国の蓄積の差であろう。

 

それでも、艦対艦の戦いにおいて数というものは覆しようがないものでもある。

 

「艦長!ローエングリンの使用許可を!」

 

「駄目よ!アレは、地表への汚染被害が大きすぎるわ!」

 

ラミアスは拒否する。

陽電子破綻砲、陽電子を対消滅させたエネルギーを直接的に攻撃へと転換する、対消滅兵器の一種であるがそれ故に照射方面へはγ線が降り注ぐ。

放射線降り注ぐ宇宙空間ならばまだしも、レジスタンスがいる手前そんな物を使ったら最後、この土地は阿鼻叫喚の渦に飲み込まれる事だろう。

 

「しかし……!」

 

それでもナタルは食い下がるように言う。

それでも、技術畑にいたからこそその汚染の恐ろしさを知っているラミアスは、攻撃を否定する。

 

「命令です!」

 

「っ!……了解しました」

 

しぶしぶと言った具合にナタルは引き下がった。

彼女の耳にはラミアスの判断が綺麗事のように聞こえるだろうが、それでもその危険な行為を見逃す事など、彼女には出来ない。艦が墜ちたら元も子もない等思っているのなら、それでも良いと彼女は割り切っていた。

 

そんな中、朗報が流れた。

レセップスと動向を共にしていた駆逐艦とは対極に位置する、もう1隻の駆逐艦。

AAの兵装配置故に、其れ等を攻撃する事が困難であり速力で振り切ろうという算段であったのだが、その件の駆逐艦へと何処からか砲撃が降り注いでいるのだ。

 

「敵艦ブラボー、砲撃を受けつつあり。画像を出します!」

 

ラミアスの方へと送られたそれには、炎上しつつある駆逐艦の姿があった。

船体上部から、一矢乱れぬ光弾が降り注ぎ次々にそれに着弾する。次の瞬間、弾薬庫を突き破ったのであろう、駆逐艦が大爆発を起こしその足先が覚束なくなる。

不幸中の幸いなのだろう、機関が生きているせいで撤退を判断したように転身し始めた。

 

「やった……!」

敵艦の戦線離脱にアークエンジェル艦橋が沸く。だがそのとき、激しい衝撃が艦を突き上げた。

グラグラとする艦内、敵の砲撃が命中したのだ。

 

「被害状況!!」

 

「損害軽微!航行支障なし!」

 

喜び勇んでそれが糠喜びにならないように、祈るしかない戦闘が続いていく。

 

「スカイグラスパー、トール機よりデータリンク。味方と覚しきリニア・ガンタンクを捕捉!数17!通信回復せず!砲撃を継続中とのことです!」

 

トノムラが慌てて言う、これで戦力比は互角ではなくとも比較出来るようになってきた。

しかし、その距離はお世辞にも近いものではない。

 

砲撃と共にバクゥが、キラとフレイの攻撃を掻い潜り近付いていく。どれ程二人がやろうとも、多方面飽和攻撃には手が足りない。

 

「艦砲、直撃コース!」

 

トノムラがわめき、マリューとナタルが同時に叫ぶ。

 

「かわせ!!」

 

「撃ち落とせ!!」

 

一瞬の隙、たったそれだけの間に降り注ぐミサイル群を撃ち落とすために、ガンダムは機体を急激に動かす。

その意思はフレイのそれではない、だが彼女は刹那の中でそれが何を示す動きであるかを理解した。

 

「「当たれっ!!」」

 

どちらが叫んだのだろうか、だがその心は1つであったろう。

レールガンを撃ち出す時、出力を上げたが為にそれが砲口を割く、もはや使い物にならないだろう。

だが、それが功を奏した。

ミサイル直前を走るそれが衝撃波と高温を発生させ、それに敏感に調定されていた信管が起動した。

その半数を道連れに。

 

だが、残りの半数がAAへと降り注ぐ。

ノイマンはその軌道を瞬時に計算した、いや彼の直感からの警笛に素直に操舵したのだ。

見事にスレスレを回避したが、数発難を逃れられなかった。

 

衝撃と爆風に煽られ、大勢を崩すAAはタルパティア工場跡地に突っ込んだ。かつてレアメタルの採掘、精製を行っていたこの工場は、現在砂漠の中に放棄されていた。

吹き寄せる砂に埋もれかけていた建物を、AAの巨体が轟音を上げてなぎ倒し、めり込むように止まっている。

 

動く事がままならないAAに、今度はバクゥが3機。まるでハイエナのように駆け寄ってくる。

衝撃に昏倒する間もなく、ナタルは必死の抵抗を選択する。

 

「ヘルダート、コリントス、てぇーーっ!!」

 

射出される各ミサイルが、唯一の砦として敵の前へと降り注ぐ。

そんな最中、レーダーが最悪の存在を検知した。

 

「――こ……これは……!」

 

各種のデータからの得られる情報を精査し、トノムラはその事態に気が付いた。

 

「レセップスより、デュエル、バスター、ブリッツ、イージスの発進を確認!」

 

報告を聞いたラミアスは、予測していたのだろう顔を顰めるも決意は硬い。

追手としている奴等を、キラ達から報告されていたのだから当然だろう。だが、状況は一時を争う。

彼女は焦り、ノイマンへと声を上げた。

 

「スラスター全開、上昇!これではゴットフリートの射線が取れない!」

 

だがノイマンが苛立ちを隠す事もできず、叫び返す。当たり前であるが、彼は既にやっているのだ。

 

「やってます!しかし船体がなにかに引っかかって……」

 

降り注ぐミサイル群は、今もなおAAへと向かっている。敵の飽和攻撃は、留まるところを知らず。

キラとフレイは次々と現れるバクゥの群れや、航空機に対して迎撃を続けており、手が出ない。

フラガもまた航空優勢を確保しているだけで、奇跡の所業だ。

 

それを上から見ることしか出来ない、トールは歯痒い思いをしながらも手が出せない己を呪った。

 

 

「これは……いけませんわ……」

 

ラクスは船内でそうポツリと言うと、揺れる船内を一歩一歩ブリッジへと向けて歩いていく。

慌ただしく動き回る、ダメコン要員達は彼女には構っていられない。

 

暫く歩いていくとブリッジへと続く、狭い廊下へと辿り着くと意を決して彼女は歩みを進める。

そして、振動で震える中ブリッジのドアを開けた。

 

彼女の脳にこの事態を処理する訓練はなされていない。努力する事は、歌を歌うこと、ダンスのレッスン、人との話し方接し方。彼女に軍事はわからない、単なる素人である彼女がその光景を目撃した。

 

「ミサイル直撃コース!!」

 

叫び声のような報告と、必死に迎撃戦闘をしようとするその怒号。見慣れない景色、焦った彼らの表情。彼女は生唾を飲み、震えながらも声を出した。

 

「私を交渉の材料にしてください!!」

 

「煩い!今それどころではないんだ!」

 

どれ程彼女がここに来ようとも、ここにいることを知ろうとも彼等が攻撃を辞めることはない。

バルトフェルドには、大義としてAAを攻撃するというものが出来ている。結果として彼女を助けられなかったとして、彼が損を被ることもない。勝てなければ、夢さえ語れないのだ。

 

ナタルが叫ぶそれを受けて、ラクスは一瞬たじろぐもラミアスの方へと向いて再度言おうとした。だが、その言葉を言う前にラミアスがそれを制した。

 

「彼らの目的が貴女だとして、彼等が攻撃をやめることはないわ。寧ろ、却って報復されるの…判って頂戴?」

 

ラクスはそれを聞いて悲しげに眉を顰めた。

 

  

……

 

 

ストライクとバクゥが空中で交差し、次の瞬間ストライクは着地し、バクゥはビームサーベルで真っ二つに切断され、後に爆発を起こす。

キラは、そんな事に息つく暇もなくそこへとミサイルが、殺到するところに、機体を横に滑らせる。

爆風に巻き込まれることもなく、全てを逸らすと近傍へと辿り着いたバクゥへとビームライフルを撃ち込むと、2機目のバクゥの弾薬庫へと誘爆を起こしてバクゥは四散する。

 

「……フレイとシミュレーションでやってたから…、でもこのままだと…。」

 

ジリ貧だ。

敵の数は徐々に減って来ているが、ストライクのエネルギーは無尽蔵にあるわけではない。

早晩エネルギー切れで殺られないとも限らない、ならそれを見越して動かなければならない。

キラのそのコーディネートされた脳は、それを判断する。

 

そんな時だ、AAが砲撃を受けて工場地帯へと足枷をはめられたのだ。

慌てて援護に向かおうとするところに、突如としてビームが降り注ぐ。間一髪で盾でそれを防ぐとその相手を見据えた。

 

「イージス…。アスランなのか。」

 

それだけではない、バクゥのようでは有るが見たこともない橙の機体がその場に現れた。

まるで2機は、寄り添うように。

 

容赦なく撃ち掛けられるビームをシールドで避けながら、キラはライフルで応射した。

 

戦場を横断する3つの影がAAへと急速に近づいていく、それに立ち塞がるように現れたのはガンダムだった。

 

「ガンダム…、イザーク、ディアッカ気をつけてください。」

 

「判っている、奴は俺達が仕留めなければならないものだ!」

 

まずデュエルがガンダムに距離を詰めながらビームライフルを撃ち込むと、ガンダムは器用に小柄な盾を使ってそれを防いでいくと牽制を兼ねて突撃銃を放つ。

いつものように正確なそれを受けても、彼等は意に返さず突き進んでいく。

例えコックピットに当たったとして、気をしっかりと持てば失神するような振動でもない。

 

それを見たガンダムは、バスターを警戒したのかデュエルとの直線上を保ちながらそのスラスターを吹かせて密着していく。

それに合わせるように、イザークは機体にサーベルを持たせアサルトシュラウドの莫大な推力で迎え討とうとする。

 

サーベルが振り下ろされる当にその瞬間、ガンダムはスルリと盾を割り込ませタックルの容量で盾をぶつけると、振りかぶった右腕でコックピットを思い切り殴りつけた。

慣性の法則と、度重なる意識外の振動にイザークのメットはヒビ割れ、彼の顔面を切創する。

 

そうして転ぶように大地へと身体を着地させ、人のように受け身を取る姿にニコルは違和感を、覚えた。

 

「イザーク大丈夫ですか!宇宙で戦った人じゃない、戦い方がまるで違う。」

 

そう、宇宙でのガンダムの動きは一切の無駄のない洗練されたそれだったが、今目の前にいるそれは死中に活を見出すような、非常にギャンブルに似た戦いをしているのだ。

 

「ディアッカはAAへの攻撃を続行しましたか、僕も…なんとか持ちこたえなければならないですね。」

 

 ニコルは既に勝利を放棄した。元々存在していた力量差を埋める為に、彼は努力を重ねシミュレーションを行っていた。

だが、目の前にいる機体のその戦い方のせいで彼のそれは水泡に帰した。

 

「貴様!!許さんからなぁ!」

 

興奮状態のイザークの声が聞こえたのだろうか、ガンダムはそのまま2機と睨み合う。

本当ならばAAへと向かいたい筈なのに。

 

「ハァ…ハァ…、こっ…、これでいいのよね?」

 

ガンダムの中ではフレイがそう一言を、こぼしていた。

 

『そうだ、盾も使いようによっては敵を無力化、弱体化させる為の武器になる。』

 

ジリジリとした睨み合い、動き激しい戦場と違いここでは止まる事は死を意味することを知ってなお、彼らを止めなければならない。

滅多撃ちにされているAAには、もう家族とすら呼べる仲間たちがいるのだから。

 

「だんだん…、慣れてきたわよ。」

 

『君には素養があるからな、あとはそれに飲まれないようにしてほしい。』

 

彼女には見えていた。

対峙するブリッツには、こちらを撃破するほどの意思がない事。デュエルのパイロットは顔面に負傷した事。

断片的なその感情を汲み取り、彼女は頭が痛くなる思いをしていた。

 

殺到するミサイルを避けつつ、バスターを追おうとするも幾度も邪魔をするブリッツと、非常に感情的に操縦デュエルの相手をするのは今の彼女には荷が重かった。

 

戦場は未だ静かにならざる。

ただ砂だけが、その景色を携えていた。

 

 

 

 




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