機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第37話

 

 

重度の衝撃を受けてその青き巨人は仰け反り、砂塵を巻き上げながら大地へと叩きつけられる。

それを横に見ながら、黒き巨人と白き巨人が対立していた。

 

『フレイ、彼等の相手をしている時間はそれ程多くはない。このまま行けばバスターの攻撃でAAが撃沈されるのも近いだろう。デュエルのビームライフルが地面に落ちているだろう?それを上手く拾い上げて、装備するんだ。』

 

白き巨人、ガンダムが小盾を構えながら刀身を形成されていない、ビームサーベルの柄を持ちブリッツとの距離を一定に保ちながら、睨み合いをしている。

 

「どうやって取るの?それに、取ったところで行くまでに後ろから撃たれるわよ?」

 

『勘を信じろと言ったろ?後ろに気を配りながら、ステップを踏むように動けばそうそう当たるものじゃない。』

 

言うは簡単であるがそれが出来たら苦労しないだろう。

 

しかし、軽口を言うようにフレイはコックピットの中で一人、それに納得していた。今の彼女の感覚は非常に研ぎ澄まされている。

その感覚を増幅させているのは、彼女が離さずに持っているT字の部材だろう。彼女の感覚が強くなるほどに、その淡い光は増しているのだ。

 

NJによる電波妨害によって、対峙する2機も周囲との連絡が出来ない。

機械に頼る戦闘をしているのなら、それよりも遥かに研ぎ澄まされた感覚に、それが勝てる通りはない。

 

「イザーク…、どうしましょうかこの状況は…。」

 

ニコルは眼前に対峙するガンダムを睨みながら、一人呟く。その声には焦りが有り、同時に自分では相手には勝てない事を理解していた。

既にその反応速度は、コーディネイターでも上位にあるであろう自分達を凌駕し始めている。

 

2対1に持ち込んで、始めて互角に相手出来るとすればこの状況は最悪なものだろう。

トリケロス最大の弱点である、近接防御と格闘戦が分離出来ない点もそれに尾を引いた。

 

 

 

地面に倒れ数十秒、デュエルはその四肢を動かすことも無く、ただ力無く大地へと沈んでいる。

件のデュエルの内部では、額から血を流しコックピットの中で気絶しているイザークがいた。

正気を取り戻せば、彼には激痛が襲うことは確実だ。

 

ニコルに幸いであったのは、目の前のガンダムがバッテリー温存の為にサーベルを握っているにも関わらず、刀身を形成していないことだろう。

互いに隙を読み合っているからこそ、膠着が生まれる。

 

どちらが先に仕掛けるか、フレイは既にブリッツは眼中にない。その後ろに転がるビームライフルのみ、全神経を集中している。

 

一歩も引かぬそれに、動き出したのはガンダムの方であった。ブースター出力を最大にし、一気に駆け出すと共に真っ直ぐにぶつかり合うようにブリッツへと機体を進めるとサーベルを展開する。それを避けるように横へとブリッツは動くと、単調な動きを牽制する為に抜けていく背後にビームを撃ち込むと、ガンダムは目もくれず機体をステップさせた。

 

そして、まるで砂漠でスケートでもしているかのように滑る、さながらスピードスケートの様に盾を地面へと突き刺しつつ犠牲にして、ライフルを左腕で手に取ると、今度は逃げるようにAAの方へと駆け出した。

 

ニコルは予測射撃を駆使して撃ち続けるが、一向に当たらない。精度の問題ではない、もはや未来視をしているかのように引き金を引いた瞬間には回避されている。

それも、振り返りもせずに。

 

彼の脳裏には1つの仮説があった。ガンダムのパイロットがアスランの言うように、本当にナチュラルであるのなら、それはナチュラルがナチュラルのままコーディネイターを超える存在になり得るのではないか?と、そして目の前にその出来事が起こっているのだから、それを実感せざるをえなかった。

 

追うにも、イザークを置いていってはいけない。

 

「イザーク大丈夫ですか、イザーク!」

 

コックピット周辺を小突くようにすると、直ぐに応答があった…。

 

「痛い……痛い痛い!!」

 

イザークが負傷した、それだけニコルは彼を下げようと決意した。

 

「イザーク、後退してください。一人で行けますか?」

 

「く…、クソッ!!」

 

この時のイザークは屈辱に塗れた己に怒りを覚えていた。しかし、傷によって右目は血に濡れ視力を一時的に失っている。それが前線に出ていれば足手まといにしか成り得ないことを、彼の冷静な部分が勝った。

 

「後退……する…。だが、ニコル!頼むぞ!」

 

「わかっています!」

 

ブリッツはガンダムを追うように、AAへと機体を向けた。

 

 

……

 

ディアッカはバスターの兵装のセンサー有効射程にAAを収め、今当に攻撃を行おうとしていた。

しかし、それは思わぬ妨害によって食い止められる。

 

ディアッカが引き金を引くよりも一瞬早く、バスターの足元が急激に盛り上がり軸線がぶれた。

その隙を突いて砂の中から現れたるは、砂漠の色でコーティングされた、ジン。所謂ジンオーカーと呼ばれるそれが連合のエンブレムを肩に刻み、砂中よりディアッカを攻撃する。

 

意識外からの攻撃に対応が遅れるが、そこはGATシリーズである。直ぐにバランスを立て直した。

 

「おいおい、こんなやつまでいるなんて聞いてないぞ!」

 

慌てるように言うが、性能差は確実にある。だが、バスターは中、遠距離戦が得意な機体であるがゆえに格闘兵装を持っていない。今はそれが非常に痛いものだった。

 

さて、このジンが何故砂の中にいたのか、と言えば偶然の産物であった。

このジンのパイロットは、現在連合の残党として活動しているのだが、この工場へと先見調査をしていただけだった。

彼等連合の残党は1箇所に留まることは出来ないものであったからこそ、と言えるだろう。

ジンオーカーが目の前に現れたバスターに、条件反射的に隠蔽を解いただけだ。

 

ジンオーカーの武装は重斬刀以外に、残弾乏しい重突撃銃だけだ。正面切って戦おうなどとそう言う気持ちは無かった。

だが、バスターの照準がぶれた事が幸いを呼んだのは、不幸中の奇跡であった。

 

AAの艦橋付近で、敵艦砲が爆発した。衝撃で電気系統がショートして、コンソールから火花を噴出し、みなが悲鳴を上げる。

いぜんAAは身動きが出来ない状況だった。

 

ノイマンはさっきからあちこちのスラスターを作動させ、浮上しようとするが、金属のギシギシたわむ音が聞こえるばかりで、抜け出す事ができない。

そのとき偶然、バスターの放ったビームが建物の残骸を吹き飛ばした。

 

「――外れた!」

 

ノイマンが思わず歓声に近い声をあげ、操縦桿を引く。建物の破片を振り落としながら、AAの巨体が持ち上がる。すかさずマリューが命じた。

 

「面舵六○度!――ナタルっ!」

 

促されるまでも無く、ナタルも叫んでいる。

 

「ゴットフリート照準ッ!」

 

視界が開け、砂の海に浮かぶ巨大な空母が見えた。

 

「――てェェーッ!」

 

AAの主砲、ゴットフリートがその大口径からによるビームが、レセップスの後部主砲を吹き飛ばし、そばに配置されていたザウートが誘爆する。

それによってレセップスは、黒煙を上げて砂の海で座礁したように動きを止めた。

 

 

……

 

 

周囲で繰り広げられる戦闘に気を取られる余裕もなく、キラはイージスとラゴゥの猛攻に、なんとか耐えていた。

ラゴゥの砲口から放たれたビームをシールドで防ぎ、そのままイージスに向けてビームを放つ。

 

しかし、イージスはそれをひらりと躱すとそのまま応射してくる。迫るビームの光りをシールドで受けるも、ラゴゥの姿が見えないことに気付いたキラは、慌てて周囲を見渡した。

 

その隙を目掛けて、ラゴゥがバーニアを吹かしストライクに飛び掛った。

キラは慌てて体勢を立て直そうとしたが、次に想像した衝撃は一切来なかった。

一瞬遅れて、イージスがサーベルに持ち替え、キラに襲い掛かる。接触回線が開き、相手の声が漏れ聞こえてきた。

 

「ラクスを返してもらうぞ、キラ!」

 

ハッとして顔を上げたキラは、慌ててラゴゥを索敵するとその機体はストライクを無視して、AAへと走っていく。

 

「――しまった……!卑怯だぞ!」 

 

「ラクスを盾にしようとする時点で、お前らに言われたくはない!」

 

ラクスを救助しただけなのだ。本来ならば、感謝こそすれ批判は門違いといったものだった。

 

イージスがシールドでストライクを思い切り弾き飛ばす。

――強い!

キラは荒い息をつきながら、ゲージに目をやりはっとする。パワーが残り少ない。こんなところでモタモタしている暇は無いのだ。

一刻も早く戻らなければ、AAが落とされる。今度こそ、全てを失ってしまう。

キラはそれを守ろうと固く決意すると、目の前から霞が晴れるように、周囲がクリアとなった。

 

この時、アスランはキラの動きが明らかに変化した事に気が付いた。

 

 

アスランがキラを足止めしている間に、AAへと向かうラゴゥの中では、アイシャが黒煙を上げるレセップスに気が付いた。

 

「……まずいわよ、アンディ」

 

そう言われてバルトフェルドも舌打ちをする。

 

「足つきめ! あれだけの攻撃で、まだ!?」

 

早晩墜ちると思われていたそれが、体勢を立て直し空へと浮かび上がる。それとは対照的に、自分達の船は黒煙を上げ今にも撃破寸前と言った具合だ。

 

AAを追討すべく放ったバクゥは、その尽くがたった2機のMSによって破壊され、空を覆うようだったアジャイルはスカイグラスパーによって叩き落とされていた。

既に戦局は傾いていた。

 

それだけではない、艦隊を組んでいた僚艦も何処からか降り注ぐ砲弾によって、中破相当の損害を出しつつある。

そんな戦局に、バルトフェルドは歯噛みをしてラゴゥを駆る。

 

ついに眼前まで迫ったところで、一機のMSの姿を認めた。

同様の所謂〘ガンダムタイプ〙と呼ばれる機体が、2機束になって目の前にいる機体を相手していた筈だった。

なのに、目の前にはその件の機体が存在したのだ。それだけではない、明らかに友軍ではないジンオーカーの姿が見受けられた。

 

周囲には残されていたザウートや、少なからずいたジンオーカーの残骸、そしてバスターの所持していた火器類の残骸がある。

機体の部品そのものが判別出来ないが、細切れにされていないならば機体自体は無事なのだろうと。

 

「ほお〜、余裕の表れなのかな?ご自慢のPSを落として、一人待っていたのかい?」

 

「アンディ、気を付けてあのパイロット…、私達を見て動揺もしていないわ。」

 

その堂々とした佇まい、現状を完全に把握しているのだろう。それ故に、バルトフェルドは自嘲気味に苦笑いした。

 

「アイシャ、もう少しだけ付き合ってくれるかい?」

 

「ええ、もちろんよアンディ。」

 

その言葉の意味を理解しているのか、互いに何か覚悟を決めた。

その時だ、ガンダムの方から通信が入る。

 

「勝敗は決しました。今からでも遅くありません、投降してください。」

 

その声は聞き覚えのあった少女のそれであった。そして、それを聞いてバルトフェルドは、返した。

 

「戦争に明確な終わりというものはないのだよ、だからこそ僕はここで戦いを辞めるわけには行かないのだよ!」

 

ラゴゥは駆けていく、その距離は徐々に近づく。アイシャは牽制射撃を行い、それでも撃墜を狙っているがそれをスレスレで躱していく。

PS装甲という絶対の防御を敢えて外して、駆動時間を伸ばしているのだろう。

バッテリー限界も近いはず、バルトフェルドはそう考えガンダムにトリッキーな動きを強要するように、アイシャと連携しているというのに、相手は最低限の挙動で避けていく。

 

そして、ラゴゥの口部サーベルを展開しブースターによる加速で飛び上がりつつ、切り込んでいく。

それに対して、やはり最低限の動きで屈みつつサーベルを展開し、バルトフェルドは己の限界の反応でそれを避けるも、前脚部を損傷してしまった。

 

「くっ。 前足をやられた……!」

 

それでも冷静に距離を取ろうとする彼に、熱くなろうとする感情が起伏する。

 

「熱くならないで! 負けるわ!」

 

すると、アイシャは彼の性格を知ってかそう叱咤した。

 

「わかっている!」

 

メインモニターでガンダムを捉えると、そのビーム口がこちらを向いていた。急いで緊急回避するも、脚一本を採られその機動性は衰えていた。

だが、彼は虎と呼ばれる男。本来の意味あいである彼の、野性味溢れるその動きは、攻撃を回避した。

 

だが、2射目がラゴゥの砲を捉え被弾したそれをパージする。

 

既に満身創痍なそれは、手負いの虎という表現が妥当であろう。

 

「アイシャ…、済まないが熱くなっても…良いかな?」

 

「仕方ないわね、良いわよアンディ。」

 

既に2人は覚悟を決めている。自らが死ぬという、その運命を。

 

 

……

 

 

AAでは、続行する戦闘を今度は俯瞰的に分析し始めていた。

大半のMSを退ける事に成功した彼等は、残敵掃討に目的をシフトし始めていたのだ。

 

「護衛にジンオーカーが1機つきました、まさか本当に友軍が来るなんて思いませんでしたね。」

 

トノムラがそう気安く言え始めた。張り詰めた緊張の糸が緩み始めたのだろうが、まだ戦闘は継続中である事を忘れてはいない。

 

「まだ、戦闘は継続中です。味方のことは後でなんとかしましょう。それよりも、敵陸上艦の方はどうなの?」

 

「はっ!レセップスの動きは停止しております。しかしながら、降伏の意思表示はありません。」

 

ナタルがそう簡潔に答えた。

 

「機動部隊は、現在も交戦中です。フラガ機が現在援護に向かうそうです。また、砂漠の虎と思われる機体とアルスター准尉が交戦中のもよう!」

 

「戦況は?」

 

「こちら側が有利に進めています。」 

 

その言葉にラミアスも一息付く、始まった頃は絶望的なものであったが、蓋を開ければ奇跡的な勝利が目の前に収められていた。ただ、すくなくとも友軍が来なければどうなっていたのか、そう思うと背筋に冷や汗が流れた。

 

 

一方、アスランとの戦闘を行っていたキラであったが、己のその研ぎ澄まされた感覚によって徐々に、アスランを追い詰めていた。

既に、イージスの脚部スラスター一機が損傷し、その機動性は、10%程落ち込んだ見込まれる。

それでも、キラに食い下がる彼はやはり天賦の才があったのだろう。

 

サーベルを受け止める為の盾もなく、攻撃一辺倒な程の装備が求められていたイージス。

それを今まで殆どの被弾なく扱えていたのが、何よりの証だ。

 

だが、それも目の前にいる(親友)には意味のないものに成り下がろうとしている。

キラのそれは全てが我流であり、プラントで1から操縦を習ったアスランのそれとは違って未だ粗が目立つ。

 

しかし、そんなものを驚異の反応速度で対応してくるのだ。肉体のポテンシャルは、明らかにキラの優位であった。

このまま行けば、確実に自分が負けることは理解している。だが、目の前にはラクスがいるAAがあるのだ。

自らの大義のために、引くことが彼には許されていない。〘たった一つ〙の条件を除いて。

 

イージスのバッテリ残量は残り少ない、ジリジリと押されている自分に、アスランは苛立ちを覚えるが妥協策は無い。

せめて、バルトフェルドがAAを落とし作戦を成功に収めてくれることだけを、ただ祈るしかない。

 

が、その時一つの条件がその頭を擡げた。

 

「――バルトフェルド…隊長……!」

 

突然のIFF途絶。計器の故障か?しかし、機体はなんの誤作動も起こしていない。であるならばたった一つの可能性に瞬時に辿り着いた。歯噛みをしても、結果は変わらない。

そして彼は、ストライクを前にしてその姿を消したのだ。

 

この日、砂漠の虎は敗れたった一つの部隊が英雄となった。

 

 




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