「まあ、とにかく無事で何よりだな。」
と、オジサンが彼女にそう言いながら肩を揉んだ。
通常ならセクハラで訴えられても文句は言えないが、このときだけはその行為が、彼女には救いとなった。
自分が特別変な方へと行くのを、抑えてくれようとしているのが判ったから。
艦内が、ガヤガヤと騒がしくなっていく。
どうやら、ストライクという機体が帰投するのだと、整備員の人達はフレイ・アルスターへと簡易な説明をする。
「にしても、まさか避難民の受け入れをするたぁ良い気にならんな。ま、ラミアス大尉ならしょうがないだろうがね。」
ぼやいているオジサン、マードック軍曹が彼女が近くにいながらも、そう言う。
話を聞くに、どうやら整備班長をやっているらしく色々と言いたい事とか、そう言うのが言えない立場だから溜まっているのだろうと、彼女は勝手にそう思っていた。
そんな中、どこへと案内されようとしたときちょうど、ストライクが帰投した為に、留め置かれる。
この艦の中のもう1機MSが入って来ると、説明を受けていた彼女はその機体が入庫するまでの一連の動作を見ながら、ストライクと言うものの顔を一瞥する。
似ている顔を何処かで見た思いつつ、
「ガンダムタイプがこんなにもいるのか。」
と、無意識の内に呟いていた事に彼女は気がついていなかった。
それと同時に、
「トリィ」
と言う、摩訶不思議な声を耳にする。
え?と、彼女はその声の方向へと反応すると、見た覚えのある顔の人物がMSストライクから顔を出した。
「嘘!だって、あの子サイの友達だって。」
と言う、彼女の言葉は以外にもハンガー内に響き渡る。
すると、件の人物がその聞こえるのか解らない声を、敏感な道で感じ取り、声の主を見つける。
「え?フレイ、フレイ・アルスター!」
その声を聞いて、彼女は内心安堵した。やっと、顔見知りの人に出会えたと言う、そんな当たり前の事が嬉しいのだ。
彼女はそれが確認できると、一目散に彼。キラ・ヤマトの方へと飛んでいく。
無重力の中、それは誰かに当たらない限り止まることのできない滞空。
それを見て、彼は彼女にゆっくりと飛びつつも着地点を見定めていた。
「フレイ、どうしてこんな艦の中に?!もしかして、救命ポッドの中にいたの?」
「いいえ、違うわ。私、アレに乗っていたの!」
彼女は自らが操縦していた機体、ガンダムへと指を差す。
彼はそれを見るやいなや驚きを隠せない。
彼は、彼女が完全なナチュラルである事を、友人であるサイ・アーガイルから聞いている。
そして、当然ながら軍人ではないのでそれこそ、搭乗していた事はおかしいと。
「ねぇ、貴方もどうしてアレに乗ってるの?」
自然とそう聞いてくる彼女に、彼はどう言うか戸惑いを覚えたが、彼は色々な選択肢の中で1つを出した。
それは、好きな女の子に良い格好を見せたいという、年頃の男の子なら誰しもが思う事なのだろう。
「僕は成り行きで乗っちゃったんだ、でもアレを動かせるのは僕だけだったみたいだから、皆を守りたかったんだ。
君の方こそどうして?」
彼は気がついていないが、彼女の地雷を踏み抜いた。
どうして搭乗しているのか、もしもこれがマードック軍曹なら聞くことはない。
民間人が乗っているなんて、基本的に曰く付きであるのが当然であるから、聞くなんて無粋な真似しない。
「私…わたし、目の前で友達が…死んじゃったの、それで、それで死にたくないって思って、声が聞こえてそしたらあの機体に乗せられて…、もう何が何だか分からないの…、でも貴方に会えて良かった…。」
精神的な疲労からか、彼女はそう矢継ぎ早に言う。
彼はその言葉を聞いて、自分が彼女に思い出させたくないものを思い出させた事に、後悔した。
「ごめん……、えっと。この艦にはサイやミリアリア達も乗ってるんだ!だから、もう一人じゃないから。ね?」
「う、うん。ありがとう。」
そうやりとりする彼等の姿を生易しい目で見つめる整備士達、手を動かしつつもそんな光景は彼等にとって、かけがえのない護るものの1つだった。
とはいえ、今彼等は別の問題が山積みとなっていた。
目の前の2機のMS、それも顔は似ているがパーツの互換性は完全では無いという事実が。
……
「ガンダムのパイロット、彼女もやっぱり軍籍は無かったの?」
「はい、ヘリオポリスの学生達に確認したところ、フレイ・アルスターであると確認取れました。」
「アルスターっていや、俺達の親玉のジョージ・アルスターと同じだな、だとすればそういう可能性もあるな。」
胃痛の種がまた1つ、マリュー・ラミアスはそんな事を考えていた。
高々技術士官が抱える問題の量ではない、抱えていたとしても技術者としての問題の方が遥かにやりやすかった。
こういう、交戦という門外漢でなければと。
「ま、そうであったとして、戦力として換算しない訳には行かないわな。
まだ、オーブの学生のキラ・ヤマトを使うよりかは、ハードルは低いと思うぜ?」
「私も、フラガ大尉の意見に賛同します。キラ・ヤマトは、現在オーブ国籍を所持しております。従って、我々の国の強制徴用法は、効力の外にあります。
しかし、フレイ・アルスターであるならば学徒動員として、パイロット職に就けることも可能です。」
そんな事を言う職業軍人の鏡たる二人は、確かに判断としては正しいのだろう。
自国の人間を自国の人間が、非常事態を理由に徴収するのはよくある話だ。しかし、マリュー・ラミアス彼女はその意見をあまり良く思わなかった。
「そうね、でも本人の口から聞いたほうが良いと思うの。それの如何によっては、腹を括らなければならないし、自分の意思で決めたのなら文句は言わないでしょうから。」
肯定しては見るものの、彼女の人柄からそれを完全には肯定しきれない。
非情になりきれない、彼女は艦長と言う役職をやるには少々優しすぎたのだ。
「そんじゃ、俺が聞いてくるとするよ。どうせここにいたとして、俺に出来ることはそんなに無さそうだしな。
こう言うときの雑用は任せてくれよ。」
ブリッジからそう言いながら出立する、金髪の男。ムウ・ラ・フラガは、そんな彼女の心を知ってか知らずか、それを買って出た。
それが良い方向へと転ぶかは今の時点では誰にも解らない、解ることといえば。
「本艦はこれより目的地をアルテミスとする。」
軍事上の孤立という最悪の事態だと言う事だけだろう。
……
フレイ・アルスターはキラ・ヤマトに案内されて、友人達のいる居住区画へと連れて来られた。
精神的な安定を取るのなら、そういう場所ほど本来ならば良いのだろうが、今のフレイ・アルスターにとって、それは悪手である。
彼女はその顔を見る度に、思い出してしまう。
バラバラになった、人であったものをそして想像してしまうのだ。眼の前の大切なものが、死んだときの光景を。
「フレイ、良く無事でいてくれた。他の皆はどうしたんだ?」
「サイ…、他の皆は……。」
サイ・アーガイルとフレイ・アルスターは親の決めた許嫁どうし、それでいて別に悪く無い雰囲気の間柄であったが、それが地雷を踏み抜くのは簡単な事だった。
「サイ、それは僕が説明するよ。フレイは、休んでいたほうが良いよ、大丈夫誰も文句なんて言わないから。」
「キラ……、ありがとう。」
そう言うと彼女は宛てがわれた場所へと、そそくさと逃げるようにその場からいなくなった。
と同時に、周囲の友人達からはどうしてキラがそう言われるのだろうか?という、疑問に満ちた目が彼を襲った。
「えっと…、あのさ。フレイなんだけど…、一緒にショッピングに行ってた友達が目の前で死んじゃったんだって…。
それで、あんまり僕達と話してるとそれを思い出しちゃうって、そう言ってたんだ。」
「うそ…、あの子達も皆死んじゃったって言うの?そんな……。」
「そうか、悪い事をしたな。キラ、ありがとう説明してくれて。」
皆一様にその言葉を信じた。実際8割事実なのだから、しょうがない。
しかし、残りの2割それはキラにすらフレイは打ち明けなかった事であるが、どうやら彼女はそれを悟られたくなかった。
彼女は静かに1人決心していた。
連合のMS、それを操縦出来る人材は自分とキラだけ。
戦争で役に立てるのは、それともう一人いるようでマードック軍曹が1人ブツブツと話していたのを聞いていたのだ。
それを思い出しながらも、彼女はそれならば自分の置かれた状況と、国籍を念頭に置いてそれを実行しようと決意していた。
そう、艦長等AAクルー切望の自己申告してくる志願兵の登場だ。
彼女は、密かに泣くようなものではない。自ら進んで、復讐の為ならばだいたいなんでもやるような、そんな人間であるのだ。
ここまでの道すがら、キラ本人から彼の出自を聞いていた彼女は、それ幸いと彼もそれに巻き込む魂胆である。
化け物には化け物をぶつければ良い、そうすればより多くの化け物を狩る事ができる。
そして、自分が自己申告すれば彼はどう出るだろうか?
泣きそうな自分を庇ってくれる程優しい彼の事だ、率先してパイロットに志願するだろうと。
そんな密かな思惑が成就する機会は直ぐに現れた。
……
「キラ・ヤマト、マードック軍曹が怒ってるぞぉ?」
「なんでですか?」
と、突然やってきたフラガが言うと、キラはそれを疑問に感じ少し反抗的にすると、今度はそれを否定する。
そう、フラガ達にとってこの艦を死守するのが最優先事項である為、戦力が喉から手が出る程に欲しいのだ。
それ故に、キラという人物がどういう存在なのか、感でなんとなく解っているであろうこの男は、それを巧みに利用してまるで詰将棋のように彼の逃げ場を無くしていく。
典型的な悪い大人だ、だがそうも言っていられない状況なのだから、誰も彼を責めることなど出来はしない。
それでも、キラは戦うことが嫌で嫌で仕方が無いから、なんとか戦わずに済む方法が無いのかとそう考えている。
するとそこに、偶然を装ってフレイが姿を現した。
「あの…、フラガ大尉…ですよね。エンデュミオンの鷹の。」
「おお?これから訪問しようとしていたところだが、よかった手間が省けたよ。
それで?俺に何か用があるのかい?」
「フレイ?」
キラからすれば、彼女がどうしてこんなところに戻って来たのか、どうしてフラガの下へと来たのかと、疑問でいっぱいだ。
だが、彼女からすればそれは予定調和であり全て計画の内なのだ。
「私…、地球軍に志願したいんです。」
「フレイ!どうしたんだいきなり、君だって怖かったって。」
キラの周囲には彼の友人の姿もある、そんな彼等ですらフレイのその言動に目を大きく見開いて驚いているのだ。
そして、その言葉を聞こうとフラガは彼等のそれを手で制した。
「それで?その理由を聞かせてもらっても良いかな?」
「はい、私。目の前で友人が死ぬのを見ました。何も悪い事をしていない人達です。
そんな人達が、目の前で死んで私は辺りを見回して、怖かった。
でも、そんな事は今は良いんです。
怖かったのはそうなんです、でも今はそうじゃない。
もし、今ここで私が戦わなかったら今ここにいる友達も、ここにいる人達も皆死んでしまうんじゃないかって、そう思って。」
動機としては一丁前に建設的だ、だがそれに対して彼の発した言葉は意外な事だった。
「じゃあ駄目だな…。」
「どうして、なんで駄目なんですか!」
「そりゃそうだろう、だって嘘つきに背中を守られたい奴が何処にいるんだ?」
彼女は眼の前のフラガという人物を過小評価していた。
父から少しだけ聞いたことのある、エンデュミオンの鷹という異名を持つエースパイロットであるという事。
たったそれだけの事しか、彼女は知らない。
だからこそ、どれだけ彼が凄い人間であるか、考えたことも無い。それ故に、彼女は自らのブラフが通じない事を信じられない状況の様に、そう思っていた。
「じゃあ、本当の事を話したら…。地球軍に志願出来るんですか?」
「フレイ、君がそんな事をする必要は!僕が変わりにやりますから!」
キラは彼女を庇うようにそう言うが、彼女にとってそれはまだ最低限の事なのだ。
自らのこの手で、相手を殺さない限りその炎が消えることは無い。
「私は…、私は復讐のために軍に入りたいんです。」
「復讐か、建設的じゃないね。でも、良いぜ歓迎するよ。
フレイ・アルスター。」
それが彼女とキラの決定的な、心情の違いであった。
そして、同時に彼は彼女だけに戦わせるわけには行かないと、自らその手を血に染める事を覚悟してしまった。
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