機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第40話

 

海洋というものは、生物学的に言えば砂漠と言われるような場所である。そこに住まう生き物たちは、非常に数が少なく浮遊生物。所謂プランクトンと呼ばれる者達が大半を占める。

それ以外は珍しく、太陽光だけが浸透する海の中で栄養価を生産するものがいないのが、この砂漠化の原因だろう。

 

そんな大海洋の中、光の届く比較的浅い深度を航行する大型の潜水艦の姿があった。

水の抵抗をあまり考えていない設計を施されている、奇怪な艦様をしている潜水艦は見るだけで地球産でないのが判る。

所謂ボズゴロフ級と呼ばれているそれは、プラントで生産された地球侵攻用の兵器である。

 

MSの搭載を考慮されているが為に、その大柄な姿は対潜戦闘においては、何を考えているのか分からないほどに音を反響させるだろう。

だが、NJの影響によってレーダー波が届かない中で、浮上航行するのも可能なものなのだから、一概に悪い事ではないのだろうが、どれ程レーダーが影響を受けようがソナーはその影響をうけることはない。

 

そんな見つかりやすい形状をしている最大の理由は、見つけて欲しいというものがあったのだろう。

水上艦艇は潜水艦を見つける時には速度を落とさなければならない。スクリュー音が、潜水艦の音を消してしまうからだ。

 

そうして、速度を落とした相手をMSという新兵器でボコボコと沈めていったのが、所謂ザフト海軍とでも言える面々。

 

そして、この日もインド洋を航行する1隻の潜水艦がいた。

ザフトの猛将が1人、マルコ・モラシム。〘紅海の鯱〙呼ばれている人物であった。

 

「バルトフェルド隊の敗走、我々は彼等の戦力を侮っていた。元はと言えば我々が逃した事が大きいのですから、心配するのも分かって頂きたい。」

 

「ふん、バルトフェルドがやられるとはな。」

 

髭面の男、モラシムは1人部屋でインスタントコーヒーを口に含みながら、映像に映し出されている仮面の男、クルーゼを見ながらそう言った。

モラシムは、クルーゼの言葉を嫌味に受け取っていたが、自分達が相手取るであろう敵に対して、充分に警戒すべきだとこの時気を引き締めた。

 

「わかった…。それで、それだけの理由で俺に連絡をよこしに来た訳でもないだろう?」

 

彼は苛立たしげにそう言うと、画面に映るクルーゼを睨みつけるように見た。

それを知ってか、クルーゼはなんの感情も抱いていないように、淡々と用件を言う。

 

「近々、オペレーションスピットブレイクを発動する為に、私も地球へと降下する事が決定していましてね、是非貴方にも参加して欲しいとそう言うことです。」

 

「そうかよ…。」

 

そう言うと彼は、通信を切断する。用件がそれだけならば、聞かずともいずれこちらにも頼りが届くような、そんな事を態々モラシム本人に言う。

 

「クルーゼめ、こんな通信を送ってくること自体が下手な挑発だぞ。」

 

モラシムは苦い顔をしながらそう言った。

実際、彼等は完全な海上優勢を築き上げている訳では無い。彼等に港を提供している大洋州連合がいるからであり、そう言う協力関係がなければこの海に出る事すら叶わなかった。

 

しかし、宇宙から地球を見下ろす彼等はその現状を楽観視しているところもある。

地球に降下した者たちは、現実に直面し見掛けだけの諱を付けられ、宣伝の道具と成り果てている。

 

オペレーション・スピットブレイク

 

それが指し示すところが何にせよ、現状彼等が海上から敵の根拠地へ強襲する事は出来るが、生存は絶望的になるのは明らかだ。

宇宙での前線指揮官であるクルーゼが言うのは、そう言う現実を知ってなお動かず協力出来ない、アフリカ戦線と海洋戦線にいる自分達への当てつけとも捉えられた。

 

アフリカ大陸を東進し、バルトフェルドとの戦闘後行方を眩ませた彼等を、予測する形で彼はその場所を割り出していた。

だが、襲撃するにしてもその現有戦力で果たして撃沈可能かどうか?

それだけが心配事であった。

 

「足つきが…どれ程のものなのか試してみるのも悪くはないか…。」

 

彼はカップを飲み干すと、足早に艦橋へと赴いた

 

 

……

 

 

「やぁ、アスラン君達。心配をかけたみたいだねぇ。」

 

医務室の中でベッドに横になっているバルトフェルドは、呑気そうにそう話す。アスラン以下、ニコル、ディアッカ、そして退院したばかりで未だに包帯を巻いているイザークがそれを聞いていた。

が、彼のその裏には愛しき人を喪ったということを、悟られないようにしようというそんな腹積もりがあった。

 

「いえ!!意識を取り戻しになられたと聞き、急ぎ来た所存です。」

 

「ハハハ、正直でよろしい!」

 

「隊長、あまりうごかないでください。後、コーヒーを飲むのは控えてくださいね。」

 

ダコスタがその横で話をすると、彼は苦笑いをしながらダコスタを見た。

 

「さて、ダコスタ君に君達を呼び出して欲しいと言ったのだけれどね、君達に言わなければならない事があるんだよ。」

 

「は?、何でしょうか?」

 

「実はね、僕達バルトフェルド隊は、これからここを離れて宇宙に帰らなければならなくなったんだ。」

 

それは突然の事だった。そして、当たり前の事でもあった。

大損害を出し、何の成果も得られずただ敗走したと言う結果を残し、それによって連合の根拠地であったスエズは更に頑強になってしまったからだ。もう、士気はうなぎ登りであろう。

 

「それでは、我々も?」

 

「そこなんだがね?君達にはこれを渡しておこうと思ってね。」

 

アスランがそう言われ受け取ったのは、紙媒体で造られたのだから地図。所謂勢力図というものだ。

現在、ザフトが占領し影響力のある地点、その点と点を線で結んだもの。

その中から、彼等が目指すべき場所を示していた。

 

「コレは…?」

 

「君達は今日付けで正式に、〘ザラ隊〙となった。僕も聞いていなかったんだけどね、クルーゼも低軌道上で大損害を出したでしょう?

その責任を取らされる形で、クルーゼ隊も縮小されたらしいんだよ。

それで、結果だけを見れば僕を救い、足つきを追撃する旗頭が欲しいらしくてね、どうだい?受けるかい?」

 

それはバルトフェルドからの配慮でもあった。

このまま宇宙に戻っては、彼らは断ぜられる。例え、議員の子息達であろうとも、実力社会のプラントで任を解かれる可能性もある。ならば、彼等の希望通りさせてやろうというものだった。

 

「謹んでお受けします!!」

 

「うん!よろしい!!

さて、その地点ではある部隊と合流して貰うことになる。彼もかなり曲者なんだけどね、たぶん君達は気に入られるとそう思っているよ?」

 

モラシム、やはり彼がアスラン達を受け入れるものとなろう。だが、問題があった。

既に彼は深々度へと潜航し、通信の届き辛い場所へと赴いていたのだった。

 

 

……

 

海上を航行する巨体がその遥かに速い船足で、海を切りながら進んでいく。

道中なにもない事を祈りながらの航海は、物語の序章の様に和やかな環境を艦橋へと提供していた。

 

「だから!!パッシブソナーはそうじゃないって!!」

 

AAの正規クルー達は、基本的には宇宙軍出身の者達で構成されている。宇宙航行の勉強をしていても、地球上しかも海上での戦闘経験や、訓練経験等それこそ新兵の頃に齧った程度で、職業軍人であろうとも素人同然だった。

正規クルー達の喧騒を他所に、CICを任せられているミリアリア達は其れ等にクスクスと小さく笑っていた。

 

ナタルはそれを横目に見ながら、呆れ顔をしている。ここにきて、彼女の気も少しは緩んでいるのだ。慣れという物は恐ろしい、初めてであるにも関わらず緊張していない。

 

「お前達!いい加減にしないか!!」

 

辞めることのない喧騒に、少し声を掛ける。その程度の余裕さえあった。

 

一方艦長であるラミアスは、副長であるナタルが艦橋にいる事で少しの間の休憩へと入っていた。

そしてそのついでという形で、フレイとキラを呼び出し共に艦長室でくつろぐようにと誘いを入れた。

 

「あの…。」

 

「なんでここに呼んだのか、そう聞きたいんでしょうけれど、今回は別にそんな深い理由はないわよ?ちょっと、話し相手になって欲しいそう思っただけなの。」

 

「そうですか、で?どんな話をします?」

 

二人が呼ばれたのは、トールとカタリナという新たな戦力を得た事による、予備兵力があると言う安心感からだった。

今まで、AAはその艦の運用能力の半分も無くそれでいて様々な脅威に晒されてきた。

そこからの脱却というものは、人をここまで緩めるのだろう。

 

「そうね…、二人共最近調子はいかが?頭が痛いとか、そう言う事は無い?」

 

余裕が生まれたことによって、今までの極限状態に晒されてきた二人に対して考える余裕が、彼女に出来ていた。

それは生来の彼女のメンタリティであり、それの発露と言えよう。

 

「私は特にありません…。艦長は知ってるから言いますけど、今の私は本人ですからね?」

 

それを聞いてキラが目を丸くした。フレイの精神状態から、分裂症の可能性を思っていた彼は、艦長がその事を既に知っている事を知って、ラミアスにキツイ目をした。

 

「そう……、主導権は貴女なのよね?なら…、少し安心したわ。人格が塗り替えられる、なんてことになっていなくて。」

 

「艦長は…フレイのはそれを知ってたんですか!!」

 

本人も驚く程に大きい声が出る。すると、ラミアスはそれに対してフレイを見て、彼に現状を話していないのかと眉を顰めた。

 

「キラ、艦長は隠してた訳じゃないわよ?私がお願いしたの、それにミリアリアも知ってるんだから勘違いしないでね?」

 

ミリアリアも知っている、その事に愕然とした。もしかして、知らなかったのは自分だけなんじゃないかと、そう思うほどに。

 

「別にキラにだけ話してないわけじゃないわよ?ほら、それ以外の人には話してないし。」

 

「……、どうして隠そうとしたの?」

 

「だって、皆心配するでしょ?それで止められたら、MSに乗れなくなっちゃうじゃない?」

 

彼女が望んだこと、それがどれ程重い選択であったかキラは、改めて実感した。

 

「誤解は解けたようで良かったわ。

ところで、話は変わるけれど二人共MSの調子はどうかしら?一度、しっかりとメンテナンスはしたから動きは悪くない筈だけれど。」

 

ラミアスはメカニックマンとしての観点から、純粋にパイロットとしての感想を聞きたいと思っていた。

実際、こうやって落ち着いて話をすることなど無かったのだ。

 

「ストライクは、特に変わったところは無いです。ハード面は僕もあまり良くわからないですけど、多少…関節が動きやすくなったくらいですかね?」

 

「私の方もガンダムでこれと言ったところは無いです。まあ、多少限界値が良くなったくらいですかね……。」

 

ラミアスはフレイの語る、〘限界値〙というものが何か気になった。設定にある通りなら、その数字までしか反映されないのが、機械というものだ。

それが良くなると言うのは、どういう意味があるのか?

 

「フレイさん、その限界値って…?」

 

「え……?あ、そっかでも……うんそうよね…。

えっと、関節の摩耗が少なくなった気がするっていうのかな?」

 

摩耗率がわかるなら、それに越したことはないがそれは開けてみなければわからない。それを知るとはどう言うことか、フレイの状態がどんなものなのか、ラミアスはそれを考えてしまった。

 

「ちょっと!!キラも艦長も何よ、そんな顔して。別に感想言っただけじゃない!」

 

「それはそうだけど…、フレイそれどういう状態なの?」

 

キラとしてもそんなビックリ人間と言うものにフレイがなっているのではと、心配になってくる。段々と現実味のない、得体の知れない人外への階段を登っているような。

 

「どうって……、ただ勘が良くなったくらいとか…。それこそ、フラガ少佐みたいなそんなもの…………、なに?これ?見られてる?」

 

「え…?」

 

フレイは話の途中、何かあったのだろうかあらぬ方向を向くと、気持ちの悪い事を言う。

誰かに見られているとは何なのか、フラガのそれよりも遥かに鋭いそれをフレイ以外に判るものはいない。

 

『判るかい?コレが悪意や敵意といったものだ、段々とそれが判別出来るようになるさ。

だが、注意してくれ?それを感じすぎるのも考えものだからな。』

 

「フレイさん?」

 

「えっと…ラミアス艦長。艦橋に戻ったほうが良いですよ。」

 

フレイは真剣な顔をしてそう言うと、無言で部屋を飛び出した。

 

「ちょっとフレイ!」

 

キラはそれを見て直ぐに追いかける。二人の向かう先が何処かなどと、ラミアスにはわからない。分からないが、あんな意味深な事を言われればどうしても、動かざるおえないではないか。

 

「はぁ…、今回だけよ?」

 

そう言うと、艦長室に備え付けられた艦内放送用のスイッチを入れると、そこ声を吹きかけた。

 

「総員第二種戦闘態勢、MSパイロットは発進準備を初めて。

フラガ少佐、並びにトール二等……伍長のスカイグラスパーを準備でき次第発進させ、哨戒をさせて。」

 

そんな何事も起こっていないのにも関わらず発せられた命令に、艦長室にいるラミアスに対して、ナタルは抗議を入れた。

 

「艦長!お言葉ですが、敵の発見等まだされていません!」

 

「わかっているわ。でも……、今は私を信じなさい!!」

 

いつもと違う彼女の声に、ナタルはたじろぎ反論をやめた。

 

「フレイさん…、貴女の力はなんなの?」

 

ラミアスはそう一人呟くと急ぎ艦橋へと走った。

 

 




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