機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第41話

 

「艦長!お言葉ですが、敵の発見等まだされていません!」

 

「わかっているわ。でも……、今は私を信じなさい!!」

 

艦橋において、そんな一悶着が散見されるのはここAAでは珍しい事でもない。

士官での副長と、技術士官の艦長という歪な関係であるがゆえに意見の対立はままあるのだと。

だが、この時の激突は周囲にいた艦橋要員にとっても、寝耳に水であった。

 

「艦長はいったい何を考えているんだ!!」

 

苛立たしげに言うナタルの声は、この場にいる艦橋要員の意見を代弁しているようであったが、同時に艦長の判断を尊重するその姿勢には脱帽した。

 

「………、ちょっと待ってください!!」

 

トノムラが叫び声を上げた。レーダーサイトは絶賛砂嵐の中、小さな光点がその中を動いているのを、一瞬だけ見えたのだ。

 

「ソナーに感あり!数は……、不明!しかし、突発音有り!」

 

ラミアスが艦内無線越しに指示を飛ばした数十秒後、彼女の懸念は現実の物となってしまった。

この事に、ナタルは密かに劣等感を覚えた。

どうして、あんなにも甘いやつがこんなにも的確に状況を判断し、CICよりも早くそれを言うことが出来たのか。

 

だが、それは誤解であるという事に気が付くのに、暫くの時間を要した。

今はただ、目の前の物事に対処するしかない。直ぐに頭を切り替えて、目の前にいる敵に対して行動を移した。

 

「第一種戦闘配備!迎撃戦闘!コリントス、ウォンバット装填!」

 

敵の正確な位置を、それを判断すべきものもなければ未だに無い。不慣れな対潜戦闘に、直ぐ様対応できるわけがないのだ。

 

「スカイグラスパー、MSの発進体制急がせろ!!」

 

「フラガ機、既に発進準備完了しています!」

 

それに対してナタルは、一瞬驚くも直ぐにその状況を受け入れて、指令を飛ばした。

 

「発進させろ!2号機トール機はどうなっている!」

 

「2号機、カタパルトスタンバイ中!ストライク及びガンダム、パイロット乗り込みました!ジンは発進位置に付きます!」

 

順次迎撃体制を整えていく中で、艦橋のドアが開くとラミアスが現れた。

 

「順次発進させろ!報告は良い!」

 

若干肩で息を切っているところから急いで来たのだろう、それでも現状把握の為に艦長室のコンソールを叩いて、状況整理に努めた。

 

「敵の数は!?」

 

ナタルが急いでいて、再確認を忘れていた物事に再度質問をしたのは英断だった。

 

「敵の数…2、音紋照合完了グーンです!」

 

数は少ない、しかし妙なところがある。何故2機で来るのか、それこそ攻撃の意思表示がないかのようで、敵の狙いが何なのかラミアスは大まかに理解した。

と、同時に致し方ない事に我慢を強いられる事を嫌った。

だが、既にその段階は過ぎている。

 

「ストライクとガンダムの通信をこちらにも回してくれる?」

 

「あ、はい!送ります!」

 

艦長席にある小さなコンソールが2つ映像が灯り、左右に互いに顔が映る。

 

「ヤマト准尉、アルスター准尉。二人共要望があれば早く言って頂戴。最大限反映するわ。」

 

「僕の方からは何も。」

 

「じゃあ私から、敵の感覚はなんかやる気が無いみたいです。」

 

「そう…解ったわ。なら、二人共無理をしないで頂戴?海中は相手の独壇場なのだから、水中戦用装備が無い2機では荷が重いと思うわ。」

 

開発者であるからこそ、気密性の問題から深々度に耐えられる装甲はPSが担保してくれると言うことはわかっている。

だが、PSに対する負荷は水中での水圧によって、地上とは比べ物にならない程に大きく、水中にいるだけでバッテリーが消耗していくのだ。

もし、水中でそれが解けるような事があれば、直ぐ様圧壊する可能性があるのだと。

 

「ストライク、ガンダム、発進準備完了しました。」

 

「出させて!!ナタル!発信後3秒、援護射撃闇雲でも良い!」

 

「――!?了解!」

 

今は撹乱こそ最善策と、ラミアスは判断していた。

 

 

……

 

水中をゆっくりと進んでいる巨大な影から、一本の筒が海面へと伸び、それが顔を出す。360°を回転した後ピタリと止まり、その一方をずっと見つめる。

 

「ほう……、判断が予想よりも遥かに早いな。我々の奇襲が読まれていたか、それとも単なる紛れか……。

何れにせよ、戦力評価としては上位だろうな。」

 

髭面の男、モラシムはそう言うと今度は水中で行動している、2機の味方機へと連絡を入れた。

 

「こちらモラシムだ。1当てしたら戻って来いと再度通達しろ!無駄な死は嫌いだからな。」

 

そう言うと、副長らしい人物と潜望鏡を交代し、今度は図面が投影されている中央デスクへと近付くと、デジタル的に視覚化された海域図を見て、唸り声を上げた。

 

「相手は対潜戦闘は素人だろう。だが、こちらも戦力全てが充足しているわけじゃない。

あまりやりすぎれば、バルトフェルドの二の舞になろうな。」

 

「確かに、既に哨戒機が挙げられていますから、最悪の場合こちらの位置すら特定されるやもしれません。撤退しますか?」

 

モラシムは顎髭に手を当て、少し考えると戦闘前に拾ったある通信の事を思い出した。

 

「我々の任務は、かの艦を追っている〘歌姫の騎士〙達を乗せろとも言われている。

そちらを最優先すべきだろうな。

バルトフェルドがやられたのだ、相応の敵だろう。

ダウントリム10潜航深度0400、微速前進。

1当てした部隊の回収をしつつ、お客様がいる場へと向かうとするぞ。」

 

巨大な潜水艦はゆっくりと動き始め、その巨体からは信じられない程に機敏に、船足を進めた。

 

 

 

一方件の部隊はと言えば、水中からAAを捉え魚雷を今か今かと願いながら発射態勢へと入っていた。

 

「グーンさらに接近………、突発音数増える!魚雷を発射したもよう!!」

 

「緊急回避!!離床!」

 

その声が発声される前に、ノイマンはAAのエンジン出力を上げ機体を離床する体勢に入っていた。

緊急時の動きは、操舵手に一任されている訳では無い。しかし、艦橋内部での操舵であるから、命中する前に動く事があるとわかれば、それを実施する事は可能なのだ。

 

段々と海から離れていくAA、船体の最下部が海面から離れ水しぶきを上げながら天へと登っていく様は、最早芸術的なものとさえ言える。

だが、それと同時にその後5秒後には真下を魚雷が通過しようとして、時限信管によって魚雷は作動した。

 

高性能炸薬によって一気に膨張と収縮を行った水は一気に海面へと登り、海面をまるで沸騰した鍋のように気泡だらけにする。

もしこれが離床する前に起こっていれば、AAの竜骨は粉々になっていた事だろう。大型艦に対する攻撃方法には、魚雷を敵艦の真下で起爆しバブルパルスによる、艦艇破壊行為。どれほど重防御に優れた艦であろうとも、これを喰らえば致命傷は免れない。

魚雷とはそれ程までに恐ろしい兵器なのだ。

当に間一髪であった。

 

「ストライク、ガンダム、発進どうぞ!」

 

既にスカイグラスパーが水中にいるグーンを相手に戦闘を行おうととしているが、如何せん相手は水中である。

ビームは海水で減衰しその力を発揮出来ず、ミサイルは残弾限りある。

 

水艦相手ならばそれを狩るだけで、頭を抑えることで敵の攻撃をさせない事が出来るのだが、相手は水中用MS。的が小さいのもさることながら、すばしこく何より見つけ辛い。

トール機は、禿鷹の様にAAの周囲をグルグルと回りながら、フラガ機は的確にグーンの近くへと寄っていた。

 

だが、やはり攻撃手段が乏しい事から決定打にかけている。

 

AAの甲板には突撃銃を装備したジンオーカーがいるが、機体特性上それ以上の戦闘は望めない。

元々砂漠戦用の機体であるから、そうなるのも無理もない。

バックパックを鹵獲した通常機体のそれと交換しようとしていたが、やろうとしたタイミングでこれである。

 

一方、ストライクはソードで出撃し水中戦と言うことから、ビームライフルは使えず、バズーカを装備。

ガンダムは、キャノンを両肩に乗せ突撃銃を持っていた。

だが何度も言うが、敵は水中用MSである。

海での機動性は敵に分があると言うことはわかっている。

 

「潜らないと駄目なんでしょ?」

 

キラはそう聞くが、海中の恐ろしさを彼は知っている。

もしも戦闘中にバッテリーが切れれば、確実に死ぬだろう事を。

背中に冷たい汗が流れるのを感じていても、やらなければならない事もある。

 

「キラ……、バズーカを私の指示する方に向けて撃てる?」

 

「え?」

 

そんな緊張感の中、フレイはキラにそう言うが当の本人はその言葉に疑問を持った。

レーダーに映らない物を、どうやって指示するのかと。

 

画面の向こうにいる彼女は操作レバーから手を離して、何かに祈るかのように目をつぶってい手を合わせていた。

 

「カタリナ…、あなたも。」

 

「了解…。」

 

カタリナはフレイのその言葉を命令と捉え、キラとは違い疑問を呈すること無くその言葉を実行しようと機体を位置につける。

 

「……………、カタリナ!!3時の方向射撃!!キラはそこから5°戻した場所に射撃!!」

 

そう指示した瞬間に、カタリナは突撃銃をバラ撒く。闇雲な射撃だろうが、なにもないところを空を切る。と、次の瞬間キラが射撃をしたちょうどそのタイミングで、キラの放ったその方向にグーンが現れると、それが見事に着弾した。

 

キラは驚いた、どうしてそんなに相手の動きがわかったのかと言うことを。

 

「次は!!……、逃げていく…?」

 

フレイの言葉通り、その攻撃が終わった後に再度攻撃を行おうとする敵は、ついぞ現れることは無かった。

 

 

……

 

 

「手酷くやられたな……。おい!お前等、俺の言う事を聞かないからこういう事になる。どうして攻撃を続行した、お陰でグーン一機に貴重なパイロット1人が死んだんだぞ!!」

 

ダンっ!

 

と言う大きな音を立てて、モラシムの駆るボズゴロフ級の艦内に響き渡る。

彼の苛立ちも尤もだ。

被害を最小限に、敵の戦力を測るために最低限の攻撃を行い、敵の練度を測ろうとした。

 

実際、彼の攻撃は命中していただろう。だが、ノイマンの巧みな操縦テクニックとフレイの危機察知で事無きを得た事を、彼は知らない。

知らずうちに、彼にとってのAAの戦力評価は1段高いところに有った。

 

「良いか、俺達ザフトの戦力は連合よりも少ないんだ。無駄に兵力を消耗する程に余裕なんて無いってことが、分からないお前たちじゃあるまい!」

 

モラシムは頭にきていた。先だっての、クルーゼの件もそうだが目の前で命令無視をされたのでは、たまらない。

 

「罰として、貴官等には一週間の便所掃除を言い渡す!!分かったか!!」

 

ザフトにも珍しく、規律を重んじる人物が彼だった。

実際、潜水艦の中にいると見慣れた人物の顔しか見ることがなくなる。

すると、数日のうちは良いのだが次第にその感覚が狂い、正気を失うものもいる。特に宇宙よりも助かる見込みのない、深海の中に潜むのだからそうなるだろう。星すら見えないのだから。

そうならない為に、ザフトでも珍しく上下関係をしっかりとしたかった。

 

「これより本艦は合流地点とされたジプチへ向かう。お客様を乗せた後、直ちに彼奴等を追撃する。」

 

そう命令すると、さっさと持ち場へ戻るようにグーンのパイロットへと言い渡した。

 

「さて…カーペンタリアとの挟み撃ちだ、ボズゴロフ級3隻相手にして、どこまで持ち堪えるかな?足つき。」

 

1人そう呟く彼の眼光は、当に獲物を追い込む鯱の様に獰猛なものであった。

 

 

……

 

一人の男が、暗い部屋の中で徐ろに画面を覗き込みながら、片手にワインを持っていた。

彼の見ていたものは報告書の類だろう。いつもの株価や、工場の生産効率等のデータでもあったろう。

 

「ふ〜ん……、あまり芳しくはないですね…。」

 

男は立ち上がると、ワイングラスを片手に部屋の窓際に行くと暗い夜空を眺め、ワインを一口口に含む。

NJの影響によって、計画停電が実施されている地域もあるが彼のいるその場所は、そのような心配はない。

 

コンコン

 

という音が男のいる部屋のドアを叩いている。

 

「入っていいですよ。」

 

男がそう言うと、そこから現れたのは連合の軍関係者であろう。それなりの地位にいる階級章を襟に付け、堂々とした姿からは想像できないほどに、低い腰で言った。

 

「アズラエル理事、朗報があります。」

 

「どしたんですか、NJの無力化に成功でもしましたか?」

 

淡々とそういう男は、何があったのか予想して聞くが連合兵はそれに首を振り否定した。

だが、連合兵はそれとは違う言葉を言い放った。

 

「行方不明であった、ジョージ・アルスターのご息女、フレイ・アルスターの詳細が掴めた事と、それに関するある情報を持ってきました。」

 

「ふ〜ん、そうですか…。それがそんなに喜ばしい事ですか?」

 

男にとって、ジョージ・アルスターは同胞であったが同時にある種どうでも良い男でもあった。

政界の人間と財界の人間は、深く関わっている訳では無い。比較的浅く繋がっているのだから、当然の事だろう。正直、金の切れ目が縁の切れ目だ。

そして、そのジョージは既に死人なのだから。

 

「はい!まずはこの映像を…。」

 

それはどこで撮られたものなのか、画面に映し出されたそれは砂塵を巻き上げながら戦う、MS達。

アフリカのサハラ砂漠なのだろうか、そんな気もした。

 

「……あぁ、AAの部隊ですか…。まだ生きてたんですね。」

 

「問題はこの機体なのです!」

 

映し出された機体を目にする。最初にロールアウトした試作機、それが何だと言うのか。

 

「この機体がどうかしたんですか?」

 

「はい!情報提供者によれば、この機体のパイロットはナチュラルです。それどころか、まだ20にもなっていない娘。それと、この写真です…。結論から言えば、このMSのパイロットはフレイ・アルスターなのです…。」

 

それを聞いて、アズラエルと言われた男はその話題に首を突っ込んだ。彼は、彼女の何に惹かれたのだろうか、ただただ笑いを上げ口角を歪ませた。

 

「ザマァないな、お前達なんて所詮は…。」

 

〘単なる化け物に過ぎない〙

 

狩人たる少女がこの時、この男の目に止まる。男はこの事実を大々的に宣伝するように、各界にアピールに奔走するだろう。

自らのその地位、大西洋連邦国防産業連合理事。

または

 

反コーディネイター政治団体、環境保護団体〘ブルーコスモス〙盟主

としてのその地位を生かして。

 

 

 

 

 




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