白亜の巨艦は、今日も両脚を水に浸しながらインド洋を東走していた。
モラシム隊の襲撃から、既に3日が経とうとしていた…。
「何よこれ…。」
AAの艦橋にてミリアリアがそう発したのは、地球軍の定期的に周囲へと発しているプロパガンダ用のレーザー通信を、映像に戻した物を見たからだった。
「……、コレは酷いプロパガンダもあったもんだな。」
ちょうど艦橋に来ていたフラガはそう口にして、真剣な眼差しでそれを見た。
彼もまた、エンデュミオンクレーターで生き残った後、使われた事を思い出しているのだろう。その後、喪われないために態と輸送部隊の護衛等という仕事をやらされていたのも、その為だった。
「プロパガンダって…、こういう事やるんですか?!」
フレイ・アルスターを使用したプロパガンダ映像、本人の許諾なしで流されるそれ。
勿論そんなもの見るのは、彼等は始めてだ。
因みにだが、この映像を作ったのは一昼夜の内なのだから中々に腕が立つ。プロモーターは嘸かし凄腕だろう。
「………、私の口からは何も言えないわ…。上の考えている事なんて、分からないもの…。」
映像に映っていた物を要約するとこうだ。
悲劇のヒロイン、フレイ・アルスターは父の仇を取るために、新造戦艦と愛機であるMSと共に日夜ザフトと戦っている。
間違いはない、間違いはないがAAのところにはそれを若干黒くしたような、似た艦艇が置かれている位だろう。
未成年であるから、そんな中でも節度を守っているのだろう、一切顔が見えていないのが救いと言えた。
「フレイが見たら、何ていうのかな。」
カズィが懸念するのも無理はない。
実際同じような事にはなっているが、画面のようにフレイは笑って等いない。全員がここ最近見ていないのだ。
寧ろ、いつも鬱屈とし険しい表情をしている。
当に演出されたものだというのだ。
「何だコレ…ノイズ…?……!ちょっと待ってください!」
チャンドラはそう言うと、何処からか紙とペンを出すと徐ろに書き出していく。
アナログなやり方だが、コンピューターに映し出された波形を、そのまま何かにしようなどと、普通思わないからだ。
そんな装置があったとして、果たして使うために量産するか?しない。用途が限られすぎている。
「…………、わかりました…。この映像は、プロパガンダに似せたモールス符号です。」
チャンドラが解析し終えると、徐ろに学生達が疑問符を頭に浮かべた。
「モールス……?モールスってなに?」
「ほら……、えっと昔使われてたっていう…通信手段…だっけかな?」
CEになってまで、そんな古いものを使っているのは大西洋連邦くらいなものだろう。
水上艦艇や、宇宙軍の艦隊が無線封止して行方をくらませる。
1900年代ならば当たり前であったこの技法を残しておいたのは、こう言ういざとなったときの為だろう。
プラントは勿論のこと、コレを知る由もない。
彼等にとっての通信手段とは、レーザー通信や電波通信であり、単に光を符号に当てはめるそれではないのだ。
だからこそ、今まで大西洋連邦の艦隊はザフトに完全に狩られると言うこともなく、隠密に動けていた。
温故知新という諺があるが、当にこういう事だろう。
「我々には、オーブに寄港せよとの事です!」
「オーブにですって?何故?」
流石に内容を全てバラす程に馬鹿ではない、目的地を設定してやるだけで彼等にとっては御の字なのだ。
アラスカよりも近い位置だからこそ、安堵もある。
だが、問題は果たして無事にオーブへと寄港出来るか?と言うことだ。
行って、どうぞお入り下さいなどとなるだろうか?
「あるとすれば…、あの少女の件よね…。」
ラミアスはそう溢すように言う。
そう、フレイとは別の得体の知れない少女、カガリ・ユラ。
彼女の正体が何者なのか、このAA内で知るものは彼女のお付きである、あのキサカと呼ばれる大男だけなのだ。
大西洋連邦の高官の娘、と言う立場では無いのは確実だろう。実際のご令嬢はMSで戦闘をしているし、キサカのような目立つ程のガタイの男がいれば、女の間で噂になるだろうからだ。
ユーラシアでも無いだろう。
人種が混ざり合っている昨今とは言え、地球環境特にこの周囲の地理を良く知っているのなら……、自ずと応えは見えてくる。
「ま…、詮索したところでどう言う事でも無いわね。」
そう言うと、目の前の航海に神経を注ぎ始めた。
……
「オーライ…オーライ…オーライ、はい止め!あんまり揺らすなよ!燃料抜いてあるって言えど、引火したら最悪だからな!」
そんな声とともに、ジンオーカーからガスタービンが取り外されると、宇宙において鹵獲していた遠距離用ジンのバックパックが接続されていく。
元々空間戦闘用の代物であったが、地球上でも問題なく機能することは解っていた為、そのあまり在庫の処分としてジンオーカーの再調整を行っていた。
それを覗き込むように、キラとカガリは2人並んでまるで双子のように、同じ方向を向いては目を逸らし新しいものがあればそっちへ向いたりとしていた。
「にしても…、お前等も大変だよな。色んな環境の勉強に、MSの内部機構だとか…、自分での整備も出来なくちゃならないんだろう?」
「うん?ううん、そうだね。まあ、だけど死にたくないからね。だから出来る限り努力はするつもりだよ。」
他愛ない会話をしようとすると、直ぐに物騒な言葉が返ってくる。カガリはなんとなく聞いただけなのだが、直ぐに顔を顰めて悪い事を聞いたなと胸中で謝った。
それを知ってか、キラはそれに対して答えた。
「別に気分は悪くないから…、たださ…。フレイの事が心配なだけだよ。」
「……、そう…なのか。そう言えばさ、アイツってアルスター家のご令嬢なんだろ?って事はさ、ナチュラルな訳だけどどうやって操縦してるんだ?」
アルスター家は大西洋連邦でも有数な家である。特にブルーコスモスに所属している事を公言しているような家の人間が、コーディネイターである訳が無いとの一般論。
そして、素朴な疑問であった。
本人に聞いてみたほうが速いが、カガリとしてはあまりそういう事で波風を立たせたくなかった。
特に、フレイを見ていると自分も他人事ではないのではないかと、そう考える事もあるからだ。
彼女は自分の父親のことを思い出す。
いつも厳格で、事あるごとに怒り。それでいて理由を聞いてくれる父親と、自分を甘やかして来る周囲の人間。
やっている事、やろうとしている事が大人にとっては駄目だとハッキリと言う事にかけて、父親の右に出る事は無いとそう思っていた。
だが、戦争になって少しずつ周囲も鬱屈としてきて、オーブの理念の為に奔走する父親の後ろ姿に尊敬を抱いた。
だが、そんな幻想を打ち砕いたのがこの艦とMS達だった。
中立を謳い、平和を願っていながらも強い力を持とうとし、長いものに巻かれるように、これらを作っていた国営企業。
平和を願い平和の為にと歌いながら、結局はこんな物を作っている。しかも、戦争当事国の為に…。
そして、オーブ国民すら戦場に駆り出されているではないか…。
「カガリ……カガリ…?」
「……え?あっ、なんだ?」
気が付くと考えるのに没頭していたようで、キラの顔が目の前にあった事にカガリは驚くことも無く、そう返した。
「いや、何ていうか考え込んじゃってたからさ、何か悩み事でもあるのかなぁって。」
キーボードを叩きながら、何かを製作しながらそんな事を聞いてくるキラに、彼女は毒気を抜かれたのだろう。
あぁ、とコイツは戦争に向かないんだろうなと、無意識に思った。
それを遠目から眺めていた人物がいる。フレイと、まるで小鴨の様に彼女の後ろを付いて回るカタリナだった。
「マスター…、そのように睨み付けてどうしたのですか?」
2人はジンの改修に立ち会っていた。
マスター、マスターと後ろを付いて回るカタリナに鬱陶しさを感じるも、年齢に対して少し幼さも残る彼女の言動に、寧ろ心を和ませる要因となっていた。
「……ちょっとね、別にそれぞれの道もあって良いかなって、そう思っただけよ。」
「でも、悲しそうに見えますが?」
顔から表情を連想する訓練でも受けているのだろう、彼女は的確にそう突く。
実際のところ、フレイは心の何処かで嫉妬していたのだろう。カガリがAAに乗船してからと言うもの、何処かキラと一緒に行動するところが目立っていた。
実際、初対面こそいい雰囲気では無かったが、互いに何故か支え合っているようでいて、実のところカガリがキラのいたらないところを積極的に突いているのだ。
だが、傍から見ればその光景は微笑ましいものに見える。
例え二人にそんな感情がなくとも。
実際、赤面するような事もなく淡々と話をしているだけなのだが、それを見るフレイはモヤモヤとするのだ。
『その感情をもっと大切にした方が良いんじゃないか?』
「煩いわね……、あっごめんね貴女に言ったわけじゃないのよ?」
「いえ、お気になさらずに。」
反射的に言った言葉をカタリナに聞かれたと思い、フレイは堪らず謝った。
実際は、服従遺伝子によって彼女自身の行動は抑制され、精神的に何の苦痛も感じていないのだが、正常な判断が出来るならば謝りたいだろう。
「おおい、アルスター准尉殿。そこの嬢ちゃん……、カタリナ准尉殿、少し動かして見てくださいませんか?」
マードックはナタルから階級が上のものに対する君呼びや、坊主等の呼び方を改めるように言われてからというもの、それに気をつけていた。
「……、解ったわよ。さ、始めましょうか。」
いつの間にか、パートナーとなっている2人。
ストライクに対してスカイグラスパー2機をあてがい、ガンダムに対してジンを1機あてがう。
確かに戦力比としては妥当なのだろう。
それが常態化するのには、なんら時間はかからなかった。
……
物を落とすと…コーン、コーンと音が響き逃げ場のない重圧感がひしひしと空気を作り出す。
ザラ隊としての門出は、モラシム隊との合流であった。
高圧的なモラシムと、それを受けても柳のように受け流すアスランとは、水と油のような関係で始まった。
「ですから!我々の目的は!」
「ラクス・クラインの救出……、何度も聞いたがなそんな絵空事に付き合えないと、言っとるんだよ!!」
この2人の対立は用兵思想の違いと言ったところだろう。
アスラン率いるザラ隊は、ラクス・クラインの救出を前提とした作戦を持ってくる。要するに、敵艦の制圧を前提として武装解除を行うものだ。
対してモラシムやカーペンタリアに常駐する潜水艦乗り達は、その船体の特性上奇襲攻撃を前提としなければ、海上戦闘となったら最後手も足も出ないと言うことが多々ある。
それ故に、モラシムの用兵思想は敵艦の殲滅が前提としてあるのだ。
言わば、人質救出と拠点破壊と同じ様なものだろう。
全く性質の異なる者同士がそれをやろうとすれば、衝突するのも仕方の無い事だ。
互いにそれが分かっているのだから、更にたちが悪い。
一歩も引けないのだ。
だが、ここは水面の下。
潜水艦乗りであるモラシムの言っていることのほうが優先されるべきだろう。普通ならば。
だが、アスランは本国からの人間である。と言うことは、どちらの方が上かと言われれば…、ザラ隊の方が上なのだろう。
だが、アスラン達はまだまだ若い。それに気がつけるという訳では無い。彼等は潔癖過ぎたのだ。
さて、そんな救出される立場であるラクスが何をやっているのかと言えば…、
「コレを動かせば良いのですね!」
と言って、MSのコックピットにいた。
「程々にしときなさいよ、アンタこれでも捕虜…保護対象なんだから。」
「わかっていますわ。ですが、いざと言う時に動かせないと私も心配です。」
その言葉が何を意味するか、AAの内部での反乱か?それとも、ザフトとの対立か?はたまた、全く別の何かなのか。
「シミュレーターで何度もやっていますけれど、そんなに操縦は得意ではありません。」
「でも上手いもんよ。流石はコーディネイターなのでしょうね。」
「ラクス・クライン…、何かをやろうとすれば直ちに射殺する事も可能だということを忘れるな?」
1人物騒な事を言うのは、カタリナだろう。
尤も、ラクスの操縦を手伝っているのは彼女なのだが、コレはフレイによる命令だろう。
「それじゃカタリナ、程々に相手して上げなさい。」
「……了解しました。」
正規兵として訓練を受けてきた彼女は、フレイやキラと違って比較的に教育をしやすかった。
基本のきの字を知っているものと、センスで駆るものと勘で駆るものは基本的に相容れないのだから。
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