宇宙という広大な空間に、ちっぽけな建造物がずらりと並び、その中には様々な人々が暮らしている。
砂時計を象ったような形のコロニーが、中には建造中のものすらあるが、その工事は止まっているようだ。
放置された電製品は、太陽風をもろに受ける為に其れ等は劣化していた。
そんなコロニー群の中の一つから、1隻の民間船舶が出港しようとしていた。
「それではアイリーン君、エザリア君、良い結果を期待しているよ。」
金髪に筆ヒゲを蓄えた男、シーゲルがアイリーンと呼ぶ女性は、プラント最高評議会議員の証である、〘青緑色のジャケット〙を着込みながらその言葉に答えるように答礼した。
そして同じく、青緑ジャケットの銀髪の女性も答礼する。
戦時中にも関わらず、民間船舶の往来は未だ止まず、定期的な航路でそれを運用出来ている辺り、宇宙の支配権は未だにプラントの手にあると言えよう。
アイリーンが乗り込んだ事を見送ると、シーゲルは隣に歩み寄って来た男の方をちらりと横目で見る。
プラントで言う、軍属の人間が着ている紫色の服に見を包んだ男、パトリックである。
彼が横に並ぶと、シーゲルは徐ろに話し始めた。
「まさか、連合の方から話し合いの場を指定してくるとはな、我々としては今回のこの会談で良い返事を期待したいが…。」
「それは無理筋だろう、現にナチュラル共は我々の独壇場ではなく、地球の中立国オーブを、会談の場に選んだのだ。こちらの再三の要求にも関わらずな。そんな物を信じられると思うか?」
2人の思想は平行線そのものである。
ナチュラル憎しで、今まで行動してきたパトリック。彼の思想は言わずもがな、コーディネイターこそ新人類と信じて止まない者だ。
対するシーゲルは、コーディネイターは所詮はナチュラルと同じと考え、差別の撤廃を要求していた。
目的地は違うが、その道が似通っていたからこそ今のプラントの政治体系がある。
「パトリック、ナチュラルではない。理事国だ。それを履き違えてはならないと、私は君に何度も言っていると思うのだが?」
「わかっていないのは貴方だ、どの国もコーディネイターの迫害を辞めることはない。オーブですら、コーディネイターは自らをそうだと言って過ごす事は難しいと聞くが?それでも理事国と違うというのか?」
宇宙港で、そのような事を言い合う必要がどこにあるだろうか?
普通に邪魔でしかない。
「違うではないか!オーブは…」
延々と続く討論を、護衛官は静かに目をそらす事で乗り切ろうとした。
巻き込まれてはたまらない、どんなに頭が良くとも人と人の間に割って入れる、人間になれる者などそうそういやしない。
二人の溝は深まるばかりだ。
……
「このままインド洋を横切ると思うが、敵の戦力に追跡されたまま航行する場合、この場所がネックになる。」
AAの艦橋において、健康的な小麦色の肌をした偉丈夫。キサカはそう断言した。
「追跡している敵のボズゴロフ級と……、ここカーペンタリアのザフト軍がネックになっていると、そう言いたいのですよね?」
「ああ、挟み撃ちにするには持って来いの場所だろう。側方に逃げようにも、このマラッカ海峡は狭すぎるからな。」
マラッカ海峡、平時では世界で最も船舶航行量の多い海峡として有名であり、またその量に対して幅はたったの65キロ。
長さばかりは900キロもあるという、非常に狭い場所となっている。
また、それ故に深度もそれほど無い為に岩礁に乗り上げる船さえあるという。
そんなマラッカ海峡を前にしていた。
「貴方方はどうしてこうも、私達に力を貸してくれるのかしら?」
「………、俺もカガリも死にたくないだけだ。」
当然のようにそう語るキサカであるが、同時に単独であればキサカ程の男であれば生き残ることは造作も無いことだろうに、どうしてかカガリに括る彼の姿に、ラミアスは益々もってこの二人の関係に疑問を持った。
「それよりも良いのか?こんな航路を教えるんだ、見返りを要求されるかもしれないぞ?」
「それは心配していません。この艦に乗艦している以上、貴方方は私達と行動をともにしなければならない、その理由がある筈ですから。」
ある種の信頼関係だろう。尤もそれが、建設的なものかといえばそうではないが…。
「……そうか。」
「総員警戒は怠らないで、ここからが正念場だから。」
そしてその言葉は杞憂になる事は無い、気を見ていたのは敵の方であるのだから。
AAから、
ポ~ン
と言う探針音が出される。定期的な周期で行われるそれは、所謂アクティブソナーと呼ばれる自分で音を出し、海中での音響から距離や物体の形状速度を割り出すものだ。
AAにもパッシブソナーと共に取り付けてあるが、実際のところパッシブソナーよりもアクティブソナーの方が水上艦艇には有利なのだ。
何せ、海中では自らの場所を炙り出す事になりかねないのだから。
「……!前方から音響!スクリーンに出します。形状照合中、出ました!前方グーン8!後方2!レーダーにも感あり!ディン前方15、後方……2…いえ…コレは!識別信号!Xナンバー!」
「…、来たわね。」
トノムラの叫びに呼応するように、ラミアスは気持ちを切り替えた。
「トノムラ曹長、パル軍曹が来るまで両方をお願い。総員迎撃戦闘用意!」
生き残る為の戦いが始まった。
……
ドォォォン
稲光の様に前方の巨大艦、AAの側方が明滅するとそれに遅れて光弾のようなものが、機体のスレスレを掠める。
その後遅れて0.数秒後に途轍もない轟音と衝撃波が機体を揺する。
空を飛ぶ翼人、モビルスーツディンのパイロットはその一瞬の出来事によって、機体の飛行バランスを著しく崩し海へと墜落しようとするのを、なんとか踏ん張るようにブースターを吹かせ、なんとか水面とのキスを思いとどまらせた。
AAに搭載されている110cmリニアカノン・バリアント。
その巨大な弾丸が横を極超音速で飛翔すると、周囲の空間を一瞬真空状態としそこに衝撃波が生まれる。
ただでさえ薄いディンは空力特性を獲得する為に、まるで小葉のような羽を持つ。そんなものが通り過ぎればどうなるか、考えるに難くない。
AAが長距離対空戦闘を行っている間に、出撃準備を終えたフラガとトールは、キラ等MS乗りより一足先にカタパルトにいた。
「おい!ケーニヒ!」
「え…?は、はいっ!」
無線でやり取りする2人に余裕はない。
フラガですら、言葉に棘があるようだがそれでもトールを気遣っていたわ
「良いか、砂漠だと下に敵がいたが今度は空中にもいやがる。無理だと思ったら直ぐに上空に待機しろよ、戦闘機は居るだけで戦力になるんだ。わかったか?」
「はい、敵の脅威になれってことですよね?」
そう言う事だと、フラガは返し二人の機体は空へと駆け上がる。未だ、敵機は来ていない。だが、AAは中距離防空戦闘に意向した。
各ミサイル発射管から飛翔する、対空ミサイル群が敵機影へと接近していく。
その間にもカタパルトには、MSストライクとガンダムがセットしていた。
「ストライク、カタパルトスタンバイ。エールストライカーを装着します。ガンダム、カタパルトスタンバイ。機動ユニット接続します。」
2機に機械がそれぞれを接続していく。一足先に換装し終えたストライクは、発進体勢に移行する。
「ストライク進路クリア、発進どうぞ!」
急加速して行く機体と、それに合わせてシートにより掛かるキラの表情は真剣なものだった。
ガンダムの換装は、ストライクのそれよりも10秒遅れて完了する。発進体勢に移行する間に、フレイの脳内で声が響いた。
『MSでの空中戦か、君に教え忘れていたかもしれないな。』
この時フレイは、声に出そうとして辞めた。また、何かブツブツ言っていると、余計な事まで聞こえてしまうかもとそう思ったからだ。
『何よそれは?』
『ちょうどこの機体には、空を飛ぶための翼が無いだろう?上手い方法があるんだ。その時になったら、身体を借りるよ?』
その間にもガンダムの発進体勢が整う。
「進路クリア、ガンダム発進どうぞ!」
「フレイ・アルスター、ガンダム行きます!!」
カタパルトから射出されると直ぐにバックパックに火が灯る。上部甲板の上に立つが、これでは身動きも取れない。
「ビームライフルの射程に入るまで、私の仕事は何も出来ない訳ね。」
彼女の望む方向には敵機の集団がある。
ストライクは、後方より接近しているXナンバーの相手をする為に、後方をフラガと共に守るようだ。
実際、脅威度としてはディン等よりも余っ程恐ろしいのだから。
だが、そんな中でも空中である程度戦闘行動が出来るストライクと違い、ガンダムは滞空こそ出来るもののバーニアに頼るものであり、バッテリー機の欠点がここに出て見えていた。
バーニアを吹かせば吹かすほどに、バッテリーを消費していくのでは、そもそも戦闘が出来ない。
それどころか、ビームライフルを装備可能となった今だからこそ、更なる問題となる悪循環だった。
「これなら、せめてこれがもっと長射程なら良かったのに。」
等と、愚痴を零しながらフレイはその機体を甲板で、待機している。
数秒後、同じく空中戦が出来ないジンに搭乗しているカタリナも、甲板へと到着するとイーゲルシュテルンの死角となる場所に陣取った。
甲板へと磁力を利用して足を吸着させ、急加速や制動に対応しようとしている頃、フレイの脳内に再び声が響いた。
『そろそろ敵が来る頃だ。下から来る奴等は彼女に任せるとして、空中を飛んでくる連中の相手をしなくちゃな。』
『でも、この機体空を自由に飛べる訳じゃないのよ?』
フレイの疑問も尤もだが、声の主はそんな事気にもしていない。
『大丈夫だ。足場ならしっかりと、あるじゃないか。』
『どこよ?……、いやちょっと待ってもしかして…。』
フレイがその疑問の答えに到達しようとした頃に、身体の主導権を奪われた。
『無理はしないさ、〘ガンダム〙にも出来たんだ。この機体で出来ないという道理はない。』
『何言って、ちょっと敵に!!』
もしこの光景を傍から見ればこう見える事だろう。
空を自由自在に飛び回り、AAへと接近していたディンの隊列に突如として推力でゴリ押しして来た、頭の可笑しいMSがど真ん中に現れると、何を考えているのか徐ろに接近戦を仕掛けている…。
と。
さて、このときのガンダムの動きを言うならば狂気じみていた。
ビームライフルを乱射するまでもなく、単射で機体のコックピットを抜き落ちそうになった機体に、ブースターを蒸して接近するとそれを足場にして、猫の三角跳びのように高度を上げていくのだ。
この時、フレイも勿論恐怖していた。
敵のど真ん中にいきなり入っていくと思えば、狙ったようにディンを足場にして行くのだ。
理解が追いつかない、いや理解を拒んでいる。
要するに、相手の動きを完全に把握し自身のコントロール下に置いて、初めてこの動作を可能とすることが出来るのだ。
尤も、このときのパイロットたる声の主の狙いはただ一つ。
ディンの後方より接近していた、グゥルと言うサブフライトシステムに搭乗していたジン。
ではなく、グゥルの方であった。
要するに、飛び回る相手の足場を自らの物にする算段であった。
この動作がフレイに出来るようにする為に、彼はそれこそ教導しながらやろうとしている。
彼女にそれが出来るかといえば、出来るようになるまで練習させられるだろう。
一方、キラはと言えば地球上での飛行可能な機体が、Xナンバーの内、キラの搭乗するストライクしか持っていない事を逆手に取りグゥルを破壊して、無力化を測ろうとしていた。
それに対して、モラシムは足手まといになるだろう彼等を援護しながら、ディンで出撃しストライクと対峙していたが、ディンの武装でその装甲を貫徹するものはない。
寧ろ、ディンの主敵は航空機である事からその脆弱なる装甲によって、ストライクのイーゲルシュテルンですら穴を穿つだろう。
終始有利な戦闘を行っているAAの機動戦力だが、一方で問題があった。水中MSに悪戦苦闘しているのだ。
幸いな事に、カタリナのジンによって出現するや否や反撃を受ける事を察知してか、持久戦の様相を呈していた。
彼女の手元にある武装で水中で直進可能な武器が無い、それ故に防戦一方である。
なんとか打開策を講じることは出来ないかと、ラミアスは考えた。そして、驚くべき回答を提示したのだ。
「ノイマン少尉、バレルロールは出来ないかしら?」
「……、出来なくは無いと思いますが。」
ラミアスの言葉に周囲は絶句した。だが、それを見ていたナタルは考えもつかない突拍子もない戦術を作り上げようとするラミアスに、嫉妬にも似た思いを胸に秘めていた。
この日、大天使は空を踊った。まるで、イルカのショーである。
この日のこの戦闘を振り返って、コジロー・マードックは言う。
こんなもの、二度とごめんだね。
と。
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