「いったいどういう事ですか!何故、我々の攻撃が中止になるんですか!」
オーブ近海をその船体を白日の下へと曝しながら、領海へ侵入しないようにとまるでハイエナのように群がる数隻のボズゴロフ級潜水艦。
その中の1隻、嘗てはモラシムの旗艦であったそれは今や主を亡くし、ザラ隊の下で行動していた。
そして今現在、攻撃を中止させられたことへの抗議を行う為に、ザラ隊の隊長であるアスラン・ザラはカーペンタリアへと通信を行っていた。
「コレはプラント本国からの指示なのだよ、我々だってこのような事には抗議したいが、どうしようもないのだ。」
「ですが!我々には!」
アスランの言葉には明確な焦りがあった。あと一歩、あと一歩で足つきを停戦させ、ラクスをそしてキラを救い出せそうだったのにと、そんな私怨を持っていた。
「君もわかってくれたまえ、コレは高度に政治的な問題なのだ。それに付け加え、君達には行って欲しいところがある。」
「何故ですか!まだ我々は…」
「少しは話を聞きたまへ、良いかね?コレは君達への特務だ。ザラ隊への直接命令だ。」
アスランの後ろには苛立たしげにしているメンバーがズラリと並び、直ぐにでも抗議の声を上げようと待機していた。
「アスラン・ザラ、並びにザラ隊の面々へ命令する。
これより貴官らの乗艦である、ボズゴロフ級へと人員を輸送する。それを受け取り次第、オーブへと入港せよ……、以上だ!」
「………、いったいどういう…?」
誰が乗り込み、何を運べというのか?そして、オーブへと入港するのだと?
突然の連絡に、彼の頭はそれを深く考えようと思考をしようとする中で、それを見兼ねたニコルが声を上げた。
「その人員とは、いったい誰なのでしょうか?」
「大西洋連邦宇宙軍エドワード14世少将……、単なる捕虜だ。」
それを聞いて、彼の言うオーブに入港せよという、その意味を彼等は理解した。
本国は捕虜交換をするつもりだと言うことだ、では誰を?
勿論決まっている。
「では……、我々の行ってきたことは。」
「そう言うな…、だからこそ貴官がいかなければならないのだよ。」
嫌な政治的な駆け引きの材料に、この時のアスランはされていた。
……
「指示に従い、艦をドックに入れよ」
前後をオーブの護衛官に挟まれながら、AAはゆっくりと島の方へと動いていく。
傷付き、一部剥離すらしていた船体を足を引きずるように進んで行く姿は、悲哀に満ちていた。
そんな中でも、必死に艦内の異常点検を怠る事が無いようにと、現状維持をしていた。
一方で、艦艇の頭脳たる艦橋では異様な雰囲気に包まれていた。
ラミアスの座る艦長席のすぐ横に立ち、現状いかなる場所に誘導しているのかと、キサカは話した。
「オノゴロは軍とモルゲンレーテの島だ。衛星を使っても、ここを発見する事は出来ないだろう。」
何のために秘匿するかのように、そんな秘密軍港へと艦を入港させるのか、そんなもの決まっている。
連合が、AAをオーブのこの場所に寄港させたのも、大きな政治的駆け引きがあったに違いない。そのついでに、AAは入港させられたのだと。
「それで、そろそろ貴方の正体も明かしてもらえるのでしょう?」
戦闘下と言う極限状態から脱したラミアスは、そう気安く彼に問いかけると、それに反応したのか背筋を伸ばして彼は対応した。
「オーブ陸軍第二十一特殊空挺部隊、レドニル・キサカ一佐だ。これでも護衛でね。」
一佐、大西洋連邦で言えば大佐の位の人物である。
しかも、特殊部隊を率いる筈の上級士官たる彼が、直々に護衛しなければならない存在など、どこにいるのか?
答えは単純なものであり、キサカは首を少し動かして件の人物を示した。
と、同時に件の人物をジッと見つめるヘリオポリス組に対して、その人物である少女、カガリは気持ちの良くない顔をしていた。
「なんだよ…。」
不機嫌な顔をしながら、その奇異の物をみるかのような視線を咎めた。
「あ、いや…。本当にお姫様なんだなー、って…」
「姫は……、止めてくれ。」
〘お姫様〙そう言われて良い気がしないのは、本物のお姫様くらいなのだろう。現にその人物は、心底その言葉を嫌悪するかのように、振る舞っている。
「そうよ、お姫様なんて似合わないわよ。これじゃ、お姫様じゃなくて単なるジャジャ馬だもの。」
そんな丁寧な言葉を知らないかのような発言をしたのは、普段はCICにいないフレイであった。
そして、それを聞いてカガリは呆れ顔をしながらも、何処か満足気にしていた。
「まあ、ではカガリ様がお姫様であるなら、私お願いしたい事がありますの!!」
「な…なんだよ…。」
ラクスはカガリの本当の身分を知って、興奮していた。
今迄生きてきた中で、お伽噺の中でしか知らないお姫様と言う権力者を目の前にして、興奮しない方がどうかしている。
「サインを頂きたいのですわ!!」
「はぁ?」
そんな呆れ声が聞こえる中、それを無視してラミアスはキサカと話を続けた。
「我々はこの措置をどう受け取ったらよろしいのでしょうか?」
AAクルーは全てがわからなかった。連合がオーブへ向かえと言った事も、自分達がオーブへ簡単に入れた理由もその目的も。
「それはこれから会われる人物に、直接聞かれる方がよろしかろう。オーブの獅子――ウズミ・ナラ・アスハ様にな。」
彼の口から出た名前に、ラミアスは緊張した。
元とは言え国家元首であった人物と、直接話をするなど自分の立場では考えられない事であったからだ。
その事に、ラミアスは静かに唾を飲んだ。
……
ぐおん、ぐおんと言う音が反響しその音にいちいち反応するものはいない。
そして、その音に混じりこんな音まで追加された。
ポ~ン、ポ~ンと言う音が響き渡ると海の中を突き進む巨大な船体は、海面へと姿を露わにした。
「こちら、オーブ海軍。貴艦の所属を述べよ!」
見れば判るだろうに、だがそれも儀礼的なものだから致し方の無い事だ。
ボズゴロフ級の艦長は、それに粛々と応対し艦をオーブ本島へと向けさせられた。
そんな船の中では、一人の髭を生やしたおじさんを監視するために、ザラ隊の面々が一つの部屋にいた。
「そんなにジロジロと見て、そんなに珍しい事かね?」
良い生地に見を包んだ、連合の将校。
キリッとした服装は、まるで捕虜には見えないようだ。
だが、これから赴く場所は捕虜交換の舞台。だが、ザフトでも若輩に当たる彼等にとっては、とても珍しい光景に映っていた。
いや、ザフトと言う組織にとっても珍しいものだった。
何せ、捕虜交換など軍隊がやるべき仕事では無いからだ。
普通ならば、非武装船で交換場へと送るべきであるのに、両艦共に戦闘艦艇、異例の出来事だ。
「君達のような子どもに、戦場に立てと送り出すプラントにどうして忠誠を誓う?」
捕虜からの質問は別に返答しなくても良い、だがこの言葉に看過された人物がいる。イザーク・ジュールだ。
「俺達は、志願兵としてここにいる。貴様らナチュラルの圧政に立ち向かう為にな!」
男の将校はそれを聞いて眉間に皺を寄せていた。
彼にとって、プラントの圧政という事は政治的に無視できないものであったからだろう。
だが、同時に疑問に思っていた。ではなぜ、それを抗議する前にコロニーを改造などしたのかと。
「そうかね、だがね?圧政と言うが、我々は慈善団体では無いのだよ。元々、プラントはその名の通り工場として造られたものだ。その莫大な建造費を、我々は諸君等が作り上げたもので払い戻ししているに過ぎない。
それを圧政と言われるのは、心外だね。」
男の言っている事は尤もであった。
コロニーを建造したのは、理事国である。そこに、当時労働者としてあぶれていたコーディネイターが乗っただけの話であった。それが、いつの間にか世代を経ると話が変わって行ったのだ。ここは自分達の国なのだと。
「敵の見解と、そう受け取りますが。では、逆に聞きます。僕達はどうすれば良かったと思いますか?」
「……、そうだな。紅茶は港に入れるものではないのと同じ様に、学者は政治家には成れないという事だよ。」
それは皮肉だろうか、変な例え方をされたとしてプラント出身者にはわかることでもない。
歴史等というものは、所詮はその地に生きる者達にしか気になるものでも無いのだから。
……
「まさか、こんな風にオーブに来るなんてなぁ…。」
「うん…。」
トールが言うと、それにミリアリアは相槌を打った。
実際、オーブ国民である自分達がまさか連行軍に参加して、ザフトと戦って満身創痍の宇宙戦艦で、祖国の土を踏む。
そんな事を考えられる人間がどれほどいるだろうか?
故郷に帰ってきたにも関わらず、土足でそれを踏もうとしても許可なく降りることすらできない。
なんと言う事だろうか。
そんな思いを秘めた彼等にとって、今この時すら家族というものに会いたいという、年相応の心がある。
ウズウズとしながらも、艦長達が自分たちをどういう風にするのだろうかと、今更ながらに疑念が湧いてくる。
ヘリオポリスの学生達は、そうやって一通り考えを巡らせていると、一人だけ該当者ではない事を思い出した。
「フレイはどうしたいんだ?」
この中で唯一の部外者、ヘリオポリスの学生でありながらその国籍は大西洋連邦にある。
そんな彼女が、オーブに降りたいかと言えば降りたい訳では無い。だが、そんな彼女には予感めいたものがあった。
「私は……、降りたくないって言ってもたぶん呼ばれると思う…。キラも一緒に。」
なぜ?そんな疑問が周囲に広がるものの、その答えは案外直ぐにやって来た。
「フレイ・アルスター准尉、並びにキラ・ヤマト准尉はブリッジに…。アルスター准尉とヤマト准尉は…。」
艦内放送でそれを言われると、2人は一目散にそこへと向かった。勿論、暇なヘリオポリス組も共にそこへと向かうと、艦長以下クルーが勢揃いしていた。
「お前達は、呼んでいないのだがな…。まあ良い、もうじきオーブ軍の将校が迎えに来る。ヤマト准尉はそれと共に貴賓室へと向かえ。
アルスター准尉は…。」
「それは私が言うわ。」
ナタルの言う事を制すると、ラミアスが口を開いた。
「アルスター准尉…、いえフレイ・アルスターさん。貴方の現在の身元引受け人と名乗る人が、ここオーブに来ています。」
保護者?いったい誰であろうか、そんなものフレイの身に覚えはない。
だが、悪い予感のようなものを感じているのは気の所為では無いようだ。
アルスター家の私財は、どことも知れない人物に管理されていると言うことだ。
「その人が、オーブ軍の将校と共にここに乗り込んでくるそうです。驚かないように、相手が誰かを教える事は私には出来るから。」
何をそんなに溜めているのだろうか、だがラミアスにとってはその人物は良い印象の無い人物なのだろう。緊張と、嫌悪が見て取れる。
「ムルタ・アズラエル…、今貴方の身元引受け人となっている人で…、ブルー・コスモスの盟主がここに来ています。」
ブルー・コスモスの盟主、その言葉だけでこの空間は凍りついた。いや、ある種の恐怖がラミアスにはあった。
と、同時にキラに対して心配の眼差しを向けたのだ。
ただでさえコーディネイターであり、連合のMSを操縦していた彼を、フレイの保護者として態々来て、アズラエルが糾弾するのではないか?と、そう言うことだった。
……
カツカツと歩く音が響き渡り、そこにある巨大な船体にゆっくりと一団が進んで行く。
そこには立派な髭を蓄えた、壮年の男と金髪の薄情そうな顔をした年若そうな男が共にいた。
「いや〜、ありがとうございます。まさか、ご同行させていただけるとは、感謝仕切れませんよ〜。ウズミ・ナラ・アスハさん。」
ウズミと言われた男は、露骨に嫌そうな顔をしながら共に歩く男を横目で見ると、そのニコニコとまるで毒気の無い顔を憎たらし下に見ながら、言葉を発した。
「MSの件がなければ、貴様等に協力などしたくはなかった。ムルタ・アズラエル。」
「おやおや、お褒めの言葉と受け取りますよ。いや〜、良かったですよ、まさか我が社の技術を貴国の国防産業が
いや〜、良い商談でしたよ。ウズミ元代表様。」
今この男に対して、ウズミが言い返せる事など何もなかった。寧ろ、言い返せる材料を探す事に辟易していた。
連合とのMS開発。
それによって破壊された、ヘリオポリスの件。その責任をとって辞任すらしなければならなかった。
頭の痛いことが続き、それに拍車をかけたのは娘がまさか連合の戦艦に乗っているという事実だった。
それだけ条件が揃えば、痛くない腹ですら痛くなる。
特にウズミは、カガリのその行動に頭が痛かった。
「それにしても楽しみですね、どうです?貴方がたに協力して頂いたMSがここにあるんですよ、是非ともパイロットに会いたいじゃあ無いですか。」
それが本心からなのか、それともお遊びかこの時の腹の探り合いは、アズラエルに軍配があった。
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