AAの貴賓室に来たキラは、少しばかり緊張していた。普段、軍人としての格好をするような事もなく、ただ流れに流されるだけの昨今を過ごしてきた彼に、大きな岩のように目の前に現れたのだ。
「し、失礼します…。」
そう言いながら一室に入る、彼はオーブ国民である。オーブ国民の中で、ウズミと言う人物を見たことがないと言う者は殆どいない。
学生の身分であれば〘あ、あの人見たことある顔だなぁ〙なんてくらいの認識だろうが、そんな人が目の前にいるならば緊張するのも当たり前だろう。
「うん…、そこに座りなさい。こちらから突然出向いたのだ。それに、今の私は一人のウズミとして来ている。
緊張する必要はないぞ?」
「え、あはい。」
と、生返事すると何を話せば良いのか全くと言って良いほどで、どうしようかとしていると。
先にウズミが口を開いた。
「君は、キラ・ヤマトと言ったね?改めて、私はウズミ・ナラ・アスハだ。君のご両親とは旧知の仲でね、艦を降りたカガリから君のことを聞いて、少し話をと思ってここに来たんだよ。
連合軍に参加して、MSのパイロットまでやっているそうじゃないか。」
自己紹介から始めるところであるが、それを失念していた事にキラはこの時初めて気が付いた。
尤も、向こうは既に自分の事をよく知っているのだから、あまり気にすることでも無かったのだが。
「両親と旧知?の仲だったんですか?初耳です。」
「いや、旧知と言ってもそれこそ15年も前の話だがね。
そうだな、今頃は君達ヘリオポリスの学生組はご両親との面会を許されている頃だろう。君はどうする?」
両親と会える。それだけにキラは嬉しく思ったが、それと同時に不安に思うこともあった。
「会いたい…です。でも、会うのが怖いんです。」
「何故だね?」
ウズミは、初めて会ったにしては彼にかなり食いきで聞いていた。それこそ、何かを心配しているように。
「会った時に言ってしまうかもしれないんです。どうして、僕なんかをコーディネイターにしたのかって…、それが怖いんです。」
「そうか…、この状況下だ、そう思うのも無理は無かろう。だが、会っておいて損は無いと思うぞ、2人はそんなに器量が小さい人では無い。きっと、そんな君も愛している筈だ。」
それだけ言うと、ウズミは徐ろに立ち上がりキラの肩をその力強い手で掴んだ。
「彼等には私から話しておこう、だが気が変われば直ぐにでも連絡をくれ。あの、じゃじゃ馬娘を君に付けよう。そうすれば直ぐに連絡出来るだろうからな…、君のように育ってくれたらどうなっただろうか…。今更ながらに、教育とは難しいものだな。」
そう言って、大きく笑うとキラはそれにつられて少し笑った。
「君の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいが…、まああんな娘だが、仲良くしてやってくれ。
戦争が終わったら、改めてな。」
「はい!」
そう言うとウズミはその場をあとにした。
時を同じくして、AAの別の部屋。作戦室をこの時充てがわられた人物と、フレイは会談していた。
2人して立ち、テーブルを挟んでいる構図はまるで何か対立しているかのようだった。
「それで、どうして私の事に気を使うんですか?MSのパイロットなら、キラもいるでしょう?私がナチュラルだからですか?」
フレイがそう言うと、金髪の男。ムルタ・アズラエルは手持ち無沙汰にしていた手を後ろに組み、微笑んだ。
「ええそうですとも、君はナチュラルでありながらあの、砂漠の虎を討ち取り剰え多数の戦果を挙げた。
しかもそれが、連合の新兵器MSなのですから気を使わないわけがありません。
しかも!それが、私達の同胞の娘だというそれだけで、どれだけの利用価値があると思いますか?」
回りくどいやり方を嫌うのだろう、彼は率直にそう返すとフレイ
の顔をマジマジと見ながら、会話を続けた。
二人の会話は、AAの艦橋に筒抜けである。
初め、儀礼的に始まったそれは、連合の状況、世界の経済の話から始まり、そしてフレイの話題に収束していっていた。
「勿論、中立国の人間でありながら、同胞と殺し合うコーディネイターの少年。
それも宣伝材料として良いですが、如何せんインパクトに欠けますからね。」
「それだけですか?」
フレイにとって、自分が良いように使われるのはどうでも良い事であった。ザフトと戦えるのであれば、別に気にするような事でもなかった。
「……、そうですね。では率直に言いましょうか、フレイ・アルスターさん。今、貴方のお父様ジョージ・アルスターさんの遺産は国が管理していますが、それを僕に譲渡して欲しいんです。」
「は?嫌よそんなの!」
愛していた父親の形見を譲渡出来るほど、フレイは大人ではない。寧ろ、そんな事を言われて冷静にいられる者などいやしない。
「まあ、そうですよね?鉱山の採掘権をと、思っていたのですが…まあ良いでしょう。
今日は顔合わせ程度で済ませます。すみませんね、無理を言ってしまって。」
鉱山等、そんなもの聞いたこともない彼女にとってそれは寝耳に水であった。
そう、フレイ・アルスターは父親が死亡後、外務次官である父親の莫大な資産を相続する事となる。
そこには保有する株や土地の相続も入ることになっており、それこそ遺産税が発生する程のものだろう。
まだ未成年という事によって、彼女にはそれが課せられていないが、成人した後に自動的に払う事は規定されている。
さて、何も知らない彼女がそんな事を運用出来るか?そんな物を習ってすらいない彼女に、それが可能か?無理だろう。
少し考えた後、彼女は口を開いた。
「待ってください……、遺産相続の話を少しだけしてください。」
「おや、わかりましたか…。流石は親子ですね、僕も昔個人的にお世話になりましたから、その恩返しと思ってください。」
善意からか、或いは裏があるのか。
フレイ・アルスターに対して、このときのアズラエルは優しく接していた。
フレイは、裏があることを訝しんでいたが、現実問題もし戦争を生き延びれば、これが重くのしかかって来るのは明白だった。
『前向きに生きようって、そう言う努力は俺は好きだよ。相手がどんな奴だとしても、利用出来るならすれば良いさ。それが君の選んだ道ならね。』
『こんなドス黒い人だって政財界の人なわけでしょ…、一応よ…。生き延びたらって…それだけ。』
自分が利用されることなど、既にわかっている。だが、彼女が生き残った場合の保険を作るのは、当たり前の事だった。
だからこそ、彼女が彼と接近する事を拒む事を声の主はしなかった。
そんな事になっているフレイと違い、ラクスは窮地に陥っていた。いや、窮地というのには語弊がある。
ラクスはプラントへの帰国を、許されたのだ。
AAに乗艦したのは、何もアズラエルやウズミだけではない。もっと重要な人物も、乗艦したのだ。
艦橋に呼出されたラクスは、軽薄そうなM字ハゲの小太りの男とであった。
「貴方がラクス・クラインさんですか、私は地球連合外交官の一人、ジュノーと申します。
今回皆さんがこの国に立ち寄って頂いた理由を説明します。
掻い摘みますが、ラクスさん。貴方を捕虜として扱い、交換する事が決定しておりまして、直ぐにでも会談を開けるようにしてあります。」
ぽか〜んとして、口を半開きにするラクスとそれを見守る周囲の人間と、大真面目な男。
それを見ているラミアスは、文官に対して口を挟む権利を持たない。
シビリアンコントロール下であり、尚且つ中立国内で面倒事を起こさない為でもあった。
「あの…、私帰れるのですか…。そう…ですか…。」
一瞬、ラクスは喜ぼうとしたが直ぐに何を思ったのか、ポツポツと話をするくらいしか出来なくなっていた。
彼女は、寂しいのだ。
短い間でも出来た友人という存在がいることが、色々な人を見ることが出来た事が。
もしプラントに帰れば彼女はきっと、大衆の望む自分を演じなければならなくなる。そうなったら最後、彼女に自由というものは存在しなくなるだろう。
だからこそ、彼女は少し躊躇したのだ。
それを見ていたヘリオポリスの学生組は、彼女のその姿を不憫に思ってある行動に出た。
「それって直ぐに帰るってことですか?」
トールがそれを聞くと、外交官は首を横に振る。どうやら、数日間の猶予があるらしい。
「ラクスさん、一緒にオーブの街を観ない?お別れになっちゃうのよね。だからね。」
「皆様……、あ…あり、ありがとうございます。」
ラクスは泣いた、それはもう泣いた。彼女が泣く姿等、恐らくは誰も見たことはないだろう。彼女は悲しかった、そして嬉しかった。こんなにも、皆から自分が愛されていた事を知ったから。
「ならさ、キラとフレイも連れて行こうぜ。皆で行けばさ、きっと盛り上がれるからさ。
ね、ラミアス艦長。」
いきなり振られたラミアスは言葉を選んだ。
そして、最善を尽くそうと決めた。
「なんとか…、頼み込んでみます。」
周囲に笑顔が咲いた。
それが糠喜びになるかならないか、それはさておきラミアスの苦労は絶えない。
こんなとき、一見吠えるだろうナタルが物事を静観していた。ラミアスはその事に感心するように、ナタルの成長を嬉しく思っていた。
……
大型の奇妙な船体をした船がオーブの表の港へと入港して行くと、それを先導していた護衛艦達は砲門を向けることなく、大人しく静かに隣へとその姿を付けた。
それは、AA入港から大凡4日程たった頃だろう。
更にそこから2日経ったある時、アスラン等ザラ隊、並びに乗船していた艦艇の人間に思わぬ言葉が聞こえてきた。
「上陸許可が出た!?」
中立国である。
そんな国に、敵でも味方でもない軍隊の軍人がいても良いのだろうか?
そんな考えが頭を過るのは、当たり前の事だろう。
つい数日ほど前まで戦争をしていた艦艇が入港しているのにも関わらず、そんな事をしてもよいのだろうかと。
「一応ですが、これを装着する事を義務付けられるそうですが、立入禁止箇所以外では自由に過ごせば良いと…。なんなんでしょうね。」
ニコルはそう言うと、徐ろに無地の白いブレスレットを手渡す。それはシリコン製に見えて、より強靭でありナイフ等では切ることが困難な代物だろう。一度装着すれば、港外で外すことは難しいに違いない。
「どうします?」
「どうしますって言われてもなぁ、どうするよ。」
そんな事で規律を乱したくないのだろうが、興味と言うものは誰しもあるものだ。
直ぐに下船許可を言い出す者達が現れた。
「わかった…許可は出すが、羽目を外し過ぎるなよ。」
この艦艇で尤も階級が上のものは、アスランである。よって、許可も不許可も彼次第だが、あまり根を詰めすぎると暴動が起こるかもしれない。
そうならないように、適度なガス抜きをする。
「で、半舷休息だけど俺達は全員残っていると…。いる意味あるのか?」
「今日は、この艦に賓客が来るからな。誰だと思う?」
ディアッカが、聞くとアスランが答え更に誰が来ると思うかと、問うた。
「イザークのお母さんですよね。それと、カナーバ議員も。」
続くようにニコルが答えた。
イザークはその事を知っていて、口を噤んでいた。いや、嘘だと思いたかった。そのせいでいつもならば突っかかってくる彼が、物静かにしている。
だが、どうして、プラントの最高評議員の内の2人がこんなところにいるのだろうか。
だとすれば、自分達が連れてきたあの大西洋連邦の軍人が何らかの手がかりだろうと、アスランは勝手に想像する。
確かに彼は、入港後直ぐにオーブへと上陸して帰ってくることはなかった。
つまり、捕虜交換で使われたということなのだろう。
だが、イザークは母親が来ると聞いて頭を抑えた、自分のこの顔を見たらどう思うかと。
それを解っていたディアッカは、アスランに言った。
「ニコル、それとアスランも外に行って来いよ。」
「は?なぜそうなるんだ。」
相変わらずアスランは鈍い、イザークはあまり見られたくないという事を、わからないのだ。
人の羞恥心と言うものは、そう言うところがある。
「あ…、そうですね。わかりました。じゃあお言葉に甘えて行きますか?」
「え…?あ、わかった。だけど、くれぐれも。」
アスランは押されるように艦を後にする事になった。
着ないだろうと思っていた私服を徐ろに着込み、て渡されたブレスレットを着けて、外へと繰り出す。
その横には一見楽しげなニコルの姿もあった。
だが、この時2人は想像していなかった。まさか、AAのクルー。それもヘリオポリス学生組と共に、このオーブを観て回る事になろうとは。
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