何かが爆発するだとか、辺りに銃弾が飛び交うだとか、そんな気配のけの字も無い、別に珍しくもない平和な街並み。
それは今ここでこそ珍しくもないものだが、世界を見渡せば今現在戦場になっていない場所は、このような日常も存在しない。
だが、今ここではそれが当たり前であり、人々はそれを当然と思い今を生きている。
「次はこっちよ!」
「あっ、待ってください〜。」
「ファッションと言うものはよくわかりませんね。」
カタリナがもしもの時の護衛という事で付いてきているが、ミリアリアはそんなものお構いなしである。
彼女はラクスの腕を引っ張ると様々な店に入っていくのだ。
するとどうだろうか、荷物が増えに増えていく。
彼女に腕を引っ張られながら、ピンク髪のラクスは街を散策する。
彼女にとって、ショッピングとは帯同する人々が周囲を埋め尽くし、警備等で雁字搦めにされて行うものだった。
だが見よ、誰も彼もが彼女に目を向けるものはいない。
ここでは、彼女は一人の少女として世間を謳歌出来るというのだから、環境というものは馬鹿にできない。
だが、そんな環境にも関わらず一人だけ苛立たしげにしているものがいた。
ここには9人の男女がいるが、ヘリオポリスの学生組を含めた人数である。
さて、ラクスを除いて更に一人がいるとすれば誰か、可愛らしいワンピースに身を包み、オーブの南半球特有の夏空を麦わら帽子を被って、仏頂面している人物。
カガリ・ユラ・アスハだ…。
「父様に言われなきゃ、命令されなきゃこんな格好…。」
「まあ、カガリ様。お似合いですわよ、可愛らしくて。どうしてその様な格好がお嫌いですの?」
ラクスが本心からそう聞くが、当の本人からすれば有難迷惑であろう。褒められて嫌な事は無いが、今の彼女の立場的にそれは不味かった。
「バっ!おまえ、私の名前をここで出すなよ!」
こんな姿周囲に見られたら最後、きっと色々と誤解されるのではないかと、そんな気持ちでいっぱいである。
「そうよねぇ、そんなに似合ってるのにどうして普段はあんなガサツな格好してるのかって、聞きたくなるわよねぇ…。みんなもそう思うよね。」
ミリアリアが周囲にそう聞くが、男連中はそんな事に一々興味を持つこともない。
格好よりも、カガリがこういう服で外出出来ている事に驚いているのだから。
「私は!ただ、こういう服動き辛いだろ?走ったりさ、木に登ったり出来ないだろ!マーナに言われなきゃ、こんな服」
「それはそうだけどさぁ……」
キラはそれを聞いて少し呆れるも、昔からこんな性格なのかと思うと、何処かおかしく笑いが込み上げてきた。
「あ、おい!笑う事は無いだろ!」
「いや、だって小さいカガリ想像したらさ…。」
掴み掛かりに行くも、ワンピースであるから動き辛くキラはそれをヒラリと躱すが、悪い事にそのままカガリは転倒しそうになる。
キラに掴みかかろうとしていたのを解っていた周囲は、それを受け止めることが出来ない。
このまま彼女が地面とキスをするのも、時間の問題だとそう思われた。
「うわっ!!」
「大丈夫ですか?」
ちょうどその道を歩いていた黒髪の同じ年齢くらいの少年が、彼女を受け止めるとその顔を眺める。
胸の内にすっぽりと収まるように、胸が彼の二の腕に当たるのだろう、彼は顔を赤らめていたが次には目を丸くしていた。
「お前は…!」
恥ずかしいのか、頬を染めていた彼女もその少年の顔を見た途端に、態度を変えた。
「なっ!貴様!」
「もうっ!アスラン何してるんですか!」
少年、アスランの後ろから中性的な緑髪の少年が現れると、アスランを取り巻く環境が異様な事に気が付いた。
遊び仲間であろう、9人の男女。それも何かのサークルかと思われたが、一人に見覚えがありすぎた。
特徴的なロングなピンク髪に、楽譜の小説線の様な髪飾りを着けてい者などそうはいない。
何より…
「「アスラン……」」
彼女ともう一人、あった事の無い少年が彼の名前を呼んでいたからだ。
11人の男女がいる。
いよいよ大所帯と言ったところで、2対9という対立構造が見えるように、彼等は地球軍とザフトという真実敵同士であった。
「あのさ、こんなところで立ってるよりあっちで休憩しながら、話をしないか?ここ暑いからさ」
誰が言ったのだろうか、緊張感がまるで無いものであったがそれはこの場では、助け船であったろう。
彼等は近場のファミレスへと向かった
座り方はどうするのか、そんな声が聞こえてくるだろうがそれに注文を付けたのは、アスランであった。
キラ、アスラン、ラクス。そして、何故かそこに部外者である筈のカガリとフレイを加えたメンバー。
まるでキャバクラのように、席に座っているのだが緊張感はその比ではない。
それを他所に、ニコルは他のメンバーと共に座っていた。横にはカタリナがいるあたり、彼女は警戒しているのだろう。
最悪の場合、この男を殺してしまおうというそういう思考だ。
「えっと…、始めまして。ニコル…アマルフィと言います。」
始めましてという自己紹介から始まった、彼らの奇妙な団欒に花が咲くのは時間の問題であった。
対して、アスランとキラがいるその場所は針の筵であった。
「アスラン…、どうして君がここに。」
「俺達は任務でここに来ている。それよりもだ、どうしてラクスがこんなところに…!」
アスランが興奮気味にそう言うが、それを制したのは他でもないラクス本人であった。
「アスラン、辞めてください。ここは戦場ではないのです。」
「わ…わかっていますが。」
キラに対して砕けた口調をする彼も、ラクスの前では借りてきた猫である。
だが、同時にラクスは彼の事を恋人と思う事は出来ないのだと、断言出来た。彼よりもむしろ…キラの方に無意識に立とうとするという事を。
「僕達…、ラクスと友達になったんだ…。だから、お別れをと思って…。」
「友達だと…?」
アスランは困惑した。友人という存在になれる程に、ラクスは彼等との親睦を深めていたのかと。それと同時に、どうしてそんな関係になれるのか理解に苦しんだ。相手は、あの血のバレンタインを引き起こした、地球連合なのにだ。
「囚われてるのね…、私と同じ。」
その思考に割り込むように、フレイが口を出した。
「同じだと…?」
「死んだ人間に引っ張られてるって事よ、どうせママの事でも考えたりしてるんじゃないのって事。
別に茶化してはないわよ?寧ろ、プラントのコーディネイターも同じ人間なんだなって、そう思っただけ。
ラクスだけが例外じゃなくて、本当に良かったって。」
アスランにして思えば目の前の女、フレイは目の上のたん瘤である。
散々辛酸を舐めされられ、剰えこうやって自らを嘲笑するようにしている姿に、腹が立つ。
この女こそが、キラを誑かしたのかもしれないとそう思う程には。
そんな四人を傍から見るカガリには、この奇妙な空気をどうにかしようとする気兼ねはあったのだが、良い方法が思いつかない。何より、自分の立場というものがそれを更に駄目にする。
ここで騒ぎを起こせば、自分は二度と自由にすることすら出来なくなるかもしれないと。
だが、彼女の持っている生来のそれはそんな理性的なものよりも、寧ろ感情を選んだ。
「おい!アスランと言ったよな、お前何か誤解してるかもしれないが、フレイは別にお前を馬鹿にしてるわけじゃないからな!
最近なんか口数が少なくなってるって、そう聞いているからたぶんコイツの話し方も悪いかもしれないが、誤解しないでやって欲しい!」
フレイは別に口数を減らしたくて減らしている訳では無い。寧ろ本当ならもっと話したいのだが、話したところでその説明が徒労に終わる事に疲れているだけなのだ。
それを熱心に説明し始めるカガリは、四人にとっては場の空気を変えるにはちょうど良かったのかもしれない。
完全に部外者が出て来たことで、アスランとしてはその思考を切り替える空白が出来たのだ。
「…いや、わかった。わかったから。」
「それなら良かったですわ。カガリ様、ありがとうございます。」
「だから名前をだな!」
そんな会話から、笑いが始まった。
……
人工的な光に照らされた、大規模な空間の中で橙色のMSが動いていた。
一機はぎこちなく、もう一機は歩く事もままならない状態であったが、一機だけはまるで違っていた。
「アサギどう?そのOSの調子は。」
ブロンド色の髪をした、恐らくは開発者であろう女性がパイロットにそう言うと、その機敏な動きをする機体のパイロットはそれに応えるように、機体を緩慢な動きから急激な動きへと変化させていく。
「今迄のそれとは比べ物になりませんよ!これなら、確実に戦えますよ、シモンズさん。」
「そう……、それは良かったわ。」
ブロンドの女性、エリカ・シモンズはそれを聞くとこの動作を可能にするMSのOSの開発者である、少年達のことを思い出していた。
オーブに寄港した、連合の船。AAの修理を受諾する時、連合へと交換条件を出したのだ。
〘MSのOSの譲渡〙
一見すればなんてことは無い事のように思えるが、それは核心的な部分であった。
どれほどハードが良くても、ソフトが駄目ならばMSは所詮は鉄の塊である。
連合の技術を密かに取得し、MS開発を行ってきた彼らにしてみれば、それは喉から手が出るほどに欲していたのだ。
だが、連合の開発度合いも自分達のそれとはあまり代わり映えがないという、そんな噂を耳にしていた彼女は、AAのMSからそのデータを抽出しようとした。
だが、それは条件とは違う話であった。その為、ではパイロットを借りられないかと言ったところで、その了承を得たのだ。
「でも、まさか普通にナチュラルの少年達がこんなものを創れるなんて……、人の可能性って馬鹿には出来ないものね。」
エリカは驚いていたのだ。
自分達開発者が、昼夜を徹して創り出したそれを遥かに上回るものを、短時間でそれもコーディネイターの協力なしで創り上げたのだという。
たかだか友人二人の為に。
「アプローチの方向が違うとはいえ、コレは凄いものよ。」
エリカ達が目指していたものは、コマンド入力から来るナチュラル用OSであった。
だが、彼等が創り出したそれは自己進化・学習能力を持ち、量子コンピュータ特有の不確定要素への思考プロセスを用いた、所謂戦闘支援システムである。
特に、ストライクとガンダムから抽出したデータによって、基本動作に限らず、新兵からベテランまで使える。
そして、パイロットがその機体に搭乗する時間が長い程に、そのパイロットの癖を補正するという、理想的なものであった。
「でも、こっちが創っていたものも無駄になるなんて、そんなことも無いはず…。荒もあるようだから、これを元にすれば良いものが出来そうね。」
オーブの為に、そこに住む者たちの為に彼女は今日も地下に籠もる。
……
「もしもし、ええこちらは万事事を上手く運べましたよ。安心してください、彼女は我々の側に着きますから。
なんです?また私兵を増やすのかと、いえいえこちらは仕事ですので。」
オーブの高級ホテル、その一室で片手間に電話をしている男アズラエルは、何か不吉な事を言いながらニタニタとしていた。
「ええ、彼女の了承も取り付けましたから
ええ、そうです。勿論、こちらも色々と根回しは出来ましたから。」
アズラエルはこのオーブという国を1ミリも信用していない。勿論、このホテルですら盗聴されていると思っている。
その為、彼の周囲には大西洋連邦から連れてこられた私設ガードが警戒している。
「そうですね、彼は目障りですから。
そういえば、あのマルキオとか言う男の動向を探って置いてください。宗教家なそうですが、あまりにも不自然すぎますよ。今回の会談のセッティングも、彼の根回しがあったからですからね。」
アズラエルは不機嫌そうにしながらも、ワイングラスにそれを注ぐとテイスティングを始めた。
「酒と食べ物だけは一級品です。この国のきな臭い雰囲気も嫌いではありませんが、私としては早いところそちらに帰りたいですよ。娘の顔も見たいですしね。」
口元を歪めながらも、彼は何かに思いを馳せるのかその目先を天井の方へと向けると一人頷いた。
「では、頼みますよ。彼女の事もだいぶわかりましたから、記録の通りであれば彼女は、所謂本物でしょうから。」
彼が見た記録とは、フレイの戦闘記録だろうか。
彼の付き人が解析した記録から、人間を超える反応速度を検出したのだ。それが、一つの指標となって何かしらの本物と定義するのなら、彼等はそれを望んでいる。
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