機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第49話

 

真夜中、皆が寝静まった頃ウジウジとしながらも、キラは画面を見ながら作業を続ける。もう、出港まで日が無いというのに、彼は一向に両親と会おうとはしなかった。

確かに怖かったのもあるが、それよりも心配事があった。

 

フレイの事だ。

独り身になってしまった彼女は、あの得体の知れない存在と共に戦争を生きて行こうとしている。

それは、明らかに良くない事だということだけは、彼にも分かっていた。

 

既に、サイとの婚姻はサイの両親から正式に取り下げられて、本格的に独り身の彼女を、同じ様にMSを搭乗しているという、そんな境遇だけで同一視しようとした自分に恥じながら、それでもと心配していた。

 

両親にその事を話したらどうなのだろうか…、そう頭を過ることもあったにせよ、結局はこの(ふね)と共に出港しなければならないという、その現実だけはどうしようもない。

もしかしたら、二人ならば彼女の事だって受け入れてくれるかも知れないと、そう願いながらも現実には勝てないだろうと思う自分もいた。

 

それに、フレイの事だけが気掛かりなわけではなかった。

街中で出会ってしまったアスラン…、彼と話したことを思い出す。

どうしてキラが地球軍なんかにいなければならないとか、キラは戦いをするべきではないとか、キラが引けないという事を言うと、それこそ怒り心頭に彼はがなりつける。

 

アスランがああなるのにも一利あるのだが、それを認める事など出来ない。

それを言ってしまえば、今までこの手で殺した相手にすら恨まれるのだろうという事に。

 

それから共に来ていた、ニコルという少年が止めなければきっと自分は殴られていた筈であることも。

次にあったら、今度こそ殺し合う事になるだろう。もう互いに引けないだろうと、殺したくないのに殺し合い、恨んでいないのに恨まなければならない。

 

そんな色んな事を考えていると、

 

はぁ~

 

と、溜息が自然に出る。

出撃が無いから、夜更かしをしながら一番無心になれる作業をしているにも関わらず、こんな事を考えてしまう…。彼の心は押し潰されそうだった。

 

だからこそ彼は両親にそれを話さなければならない、にも関わらず怖いからと言ってそれを話すことを躊躇する。

終わりの見えないメビウスの輪のように、同じことをグルグルと考えてしまっていた。

 

 

……

 

同じ頃、寝よう寝ようとしながらも眠りにつけない者がいた。

 

AAよりも一足早く出港し、水中にてそれが出てくる事を監視し続けなければならないという、なんとも嫌な事をしている。

だが、戦争であるからそう言った嫌らしい方法も、戦術の一つなのだから、咎めようがない。

 

そんなボズゴロフ級のローテーションにおいて、休息している筈のアスランは一人自室で画面を見ながら何かのOSを組み立てていた。

いや、彼の組み立てているものは戦争用のそれではなく。寧ろ、戦前に恒例行事と成りそうであった、ラクスのハロのそれをやっていたのだ。

 

彼も同様に悩んでいた。

平和な空間の中、奇跡的にキラと再び出会う機会を得た。それを振り返りつつ、どうして自分達だけがこんな事になってしまったのだろうと、嘆きを覚えていた。

 

キラは戦いをするような奴ではないと、本人も口にしていたのだが、状況がそれを許さない。

結果的に今尚敵として現れる可能性があるのだから、彼の胸中は複雑であった。

 

決して憎いわけでは無いのに殺し合いをしなければならない。だが、それは戦争というものの見方に毒されていた己を、見つめ直すには充分な部分があった。

互いに妥協を見出すことで、戦争というものは終わりを迎える。

 

だが、片方が妥協を示さなければそのまま戦争は続いていくと、歴史がそれを示している。

プラントの実情と、自らの地位。取り巻く環境を根底に、連合が何故妥協をしないのか、プラントが何故妥協をしないのかそれが問題の大元であると、若い彼にはそれが分かってしまった。

 

キラと共にいた少女フレイ・アルスター、復讐に身を窶したと思われた彼女は、辛口にも彼を蔑視した。互いに分かり合えることが出来ないだろうとそう思われる事すらも、思想の違いが育てられた環境によって反映されるのなら。この戦争はどこまで続くのだろうかと。

 

だが、光明がなかったわけではなかった。

カガリと言う名のもう一人の少女は、アスランとフレイの間に立ち話し合いでの解決を模索しようとした。

 

板挟みになり、考え込んでいたキラとは違いより中立な立場で物事を考えてくれる。

連合でもなく、プラントでも無く。オーブとして、中立な力が必要なのだと。

 

だが、目の前に迫る物事を乗り越えるには、それはあまりにも遅すぎた。

もしも、彼女のようにオーブに力があったならそもそも、こんな戦争起こりようもなかったのかもしれないと、そう考えたとしても、キラを殺さなければならない日にちは刻々と近付いていた。

 

 

……

 

AAの出港を明日に控え、艦内の各部のチェックが進められていくと、不備の有無が集計されていく。

オーブという勤勉な国民性の国家故に、AAの各部には異常は認められずその行動は比較的スムーズに進んでいった。

 

「皆ご苦労さま、それぞれ休憩に入って。ナタル、貴女は先に休んで頂戴。ちょっと確認事項があるから。」

 

「は!ですが、手伝いましょうか?」

 

この1週間の間、余計な緊張感が無かったおかげか、これまでチリチリとしていたナタルとラミアスの関係は、良い方向へと推移していた。

 

「大丈夫よ。メカニック的な部分の話だから、貴女は門外漢でしょう?なら、足手纏になるだけよ。」

 

「了解しました。では、私は休憩に入ります。」

 

そう言うと艦橋を出る。

その足で、一人の人物の元へと進んで行く。

 

「遅いわよ、バジルール中尉。」

 

「あぁ、すまない。アルスター准尉」

 

この二人の組み合わせるは、ここ最近では珍しくないものになっていた。

AAにおける展望デッキは、それ程広いものではないがナタルのような堅物の人間がいると、息が苦しいという理由で人が来ない事もままある。

それを良い方向に受け止めた人物くらいしか、彼女と共にいる事はあまりなかったのだ。

 

「こうやっていられるのも今日が最後だから…、どうしたの?」

 

「いや、いつもお前に付き纏っているカタリナ准尉の姿が見えなくてな、驚いていただけだ。」

 

ナタルはキョロキョロとすると、珍しい物を見るかのようにフレイを見つめた。

 

「ほら、ジンの変わりに搬入された機体あるじゃない?デュエルのデッドコピーみたいな機体。頭だけゴーグルにしたようなやつ。オーブで予備部品があったからって、アレのセッティングで忙しいみたいよ。キラもそれにかかりっきり。」

 

「そうか…、艦長が言っていた事はそういう事か…。」

 

二人は同じ様な境遇があった。

フレイには、親というものはいない。唯一、家名が残りそれに群がるハイエナ達が後を絶えない程にいるという。

アズラエルはそんな者達を統括しなければ、食い荒らされている頃だろう。

 

対してナタルは、大西洋連邦で伝統的に軍人の家系の出身であった。本来は軍人ではなく、ブリテン島で貴族階級だったらしいのだが、ノブレス・オブリージュの精神に則り自ら率先して前線に立つ。模範的軍人の家系だったのだ。

だが、その生き残りも彼女を残し跡を継ぐ者は誰もいない。

父親も兄弟も皆戦争で死に絶え、彼女はあまりにも重い物を背負わずにいられない。

 

だからこそだろう、二人はあまりにも不自然なほどに意気投合した。

特に、家族がいないというフレイにとってナタルとのその様な話は、自分自身を見つめ直す事に重要な物となっていたのだ。

一緒に戦っていたキラよりも、深く彼女の事を信頼するほどに。

 

綺麗事で戦争等出来ないと、ナタルが苦悩する事もフレイの脳内に響く声が、まるで答えを知っているかのように言うのだ。

それをオブラートに包むように言うと、ナタルは彼女のそれに同調を示す。

 

逆に、ナタルはそんなフレイの事を少し可愛い者と見ていた。髪色も、背格好も何もかもが違うが遠目から見ればまるで姉妹の様に寄り添っていた。

 

「ねぇ…、プライベートではナタルさんって呼んでも良い?」

 

「…、こういう場なら別に構わない。だが、公私混同は辞めてくれ。」

 

「やった、じゃあさ私のことはフレイって呼んでよ。」

 

「……、わ…わかった。フ…フレイ。」

 

この姿を見たら皆卒倒するだろう。

顔を赤らめながら、恥ずかしそうに言う姿は綺麗であった。

 

「あのね、私の頭の中で人が喋ってるって話前にしたじゃない?」

 

「私が心配したものだな、だがフレイ。お前は大丈夫と言っていた。実際どうなのだ?」

 

フレイは難しそうな顔をすると、その質問に答えた。

 

「実際、どんな人かなんてわからない。どういう人なのかって聞くと、毎回はぐらかされるし。でも、MSの操縦とかそう言うのを教えてくれたし、何より…。ほら、人の考えている事が分かる気がするって話。それのコントロール方法も教えてくれたの、だからまだ悪い事じゃないわ。」

 

「あぁ、だがそう言った事を聞いた事がない。抽象的な事柄ばかり並べられれば余計わからなくなるが…、古来そう言う神話のような物はあるらしい。だから、お前のそれはそう言う類のものなのではないか?」

 

そうなのかしら?と二人で首をひねる。

ラミアスにすら言ったことが無いことを、ナタルにだけは話している。最初は互いに良い関係では無かったが、今ではこの通りだった。

 

「昔枕詞に聴いたものなのだがな、巨神神話というものの中に巨人と対話する人間が出てくる。声を出すことも無く、その巨神の声を聴くのだ。そう言った類のものでは?とな。

所詮はお伽噺だがな。」

 

「ふぅ〜ん、あっ!そう言えば、ガンダムって名前もそれの一つなのよね?」

 

「そうだな、人々が住まう大樹が切り倒され、大地に墜ちる時現れた。守り神とも悪魔とも言われるものだな。」

 

巨神神話と言ったものがフレイにはよくわからないが、教養として上流階級の人間ならば少しは知っている事だろう。

そもそも、そう言った神話を知っているからこそ、昔からの家だと言う事が分かるのだ。

 

「なんでパパは私にそう言うの教えてくれ無かったんだろ。」

 

「お前のお父上は、一人でお前をそこまで育てたのだ。余裕が無かったのだろうな。仕方の無い事だ。

…、どうだろうか。戦争が終わったらの話しなのだがな、共に何処かへ休暇に行かないか?」

 

ナタルにとってそれは思い切りのある行動だった。

友人というものもあまり多くはない彼女だが、それだけにフレイという存在が気がかりだった。

自暴自棄等になっていないのかと。

 

「……、良いわね。じゃあさ、その前に生き残らなくちゃね。」

 

「フレイ、貴様もな。だから、全力でやって来れ。だから躊躇などするな、後悔は後で出来るが死んだら何も出来ないからな。」

 

ナタルはそう言うと、休憩時間が終わるからと言ってフレイの前から姿を消した。

 

『優しい人なんだろうな、何より寂しがり屋でもある。君のことを心から心配しているようだ。ラミアス艦長とは、また違った観点だがな。』

 

『はぁ…、良い加減教えてくれても良いと思うんだけど。貴方の正体。

なんとなくさ、木霊って意味は分かってきてるけどさ、でも貴方他のそれとは違って完全に自我あるよね?』

 

常人には聞こえないはずの声が聞こえる。その言葉だけならばきっとホラー映画のようであろう。

だが、現実に彼女にはずっと聞こえているのだ。この戦争で死んでいった者達を、自らが手を下した相手の断末魔を。

 

『そうだな、どうしてこんなにもハッキリとしているのかなんてのは、説明が難しいが…。恐らくはサイコフレームのせいだろうな。』

 

『サイコフレーム?PFって言う貴方の依代のこと?なんで?』

 

『さあな、アレはわからないことが多い。俺が初めて知った時は、こんな機能は説明されなかったからな。寧ろ君達の方が本来の使い道すら分からないかもしれないが…。』

 

いつも意味深な事を言う。深くまでそれを見せることもないが、だからこそ何かを隠しているのだろう。

そう彼女は睨んでいる。

 

『ねぇ、じゃあさどうしてMSなんて知ってたの?

もしかして…、神話と関係あるとか?』

 

『さあな、俺はあんな神話聞いたこともないがな。それよりも、そろそろ戻ったほうが良いんじゃないか?』

 

またはぐらかされる、だけれどもフレイはこの声の主がなんとなくこの時代の人間ではないのではないかと、そう思い始めていた。

 

「さてと、それじゃあまた行こうかしら?キラ達も終わってるだろうし…。」

 

そう言うと彼女は再び格納庫の方へとあるき出した。

 

 

 




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