暗がりを灯す炎は、ドス黒い光を放ちながらその骸となった者達を讃える。
そこに存在し得るのは、漆黒のMSブリッツと銀灰色のMSガンダムの2機のみである。
既に損傷した者達は海へと帰り、帰還の判断を遅れたブリッツのパイロットニコルは、ガンダムを目の前にして焦りを覚えていた。
「ブリッツの弱点を見事に看破していますね…、トリケロスがなければ何も出来ない。ですが向こうも機体のエネルギーは限界の筈です!」
唯一残ったもの、周囲にあるディンの武装の内どれか一つでも手に入れることが出来れば、一発逆転の可能性だってある。
何故なら、目の前のガンダムはPS装甲を落としているのだから、実弾への防弾能力はそれほど高くない。
多く見積もっても、ジン程度だ。
この時、ニコルは自軍に対して救難信号を出していた。しかし、既に数分経っているにも関わらず一機も来ることはなかった。つまりそれが何を表しているのかと言えば…、味方の全滅判定だろう。
出来ることなら面制圧のショットガンが良いと、贅沢を思っていながらもアーマーシュナイダーを引き抜き、その間合いを見極める。
ガンダムもビームサーベルだけしかもう無い、全ての武装を使い切っているのだから。
そして、ビームサーベルの刃を形成していないと言うことは、エネルギーはそれほど多くない。
持久戦に持ち込めば勝てる。
この時、ニコルは致命的なミスをした。
彼は思考型の戦闘を好むものであるから、致し方ないのかもしれないないが、その思考時間。
0.何秒と言う瞬きの時間、たったそれだけの時間が彼の生死を分けた。
周囲に落ちている武器を遮蔽物である残骸を使って取ろうと動き始めようと、した瞬間ガンダムは急激に機体を加速させブリッツに近付いたのだ。
まるで瞬間移動でもしたのではないか、コーディネイターをしてそう思わせるのに充分なそれは、機体の脚部に対する高負荷とスラスターに対する高負荷を担保に行った、クイックブーストと呼ばれる戦技。
本来であれば敵の動きの核心を持った時のみ、そうやって動き出せるのだが、まるでニコルがそう動くのを事前に知っていたかのように、ブリッツが動き出したのと完全に同期する形で動き始めたのだから、尚更恐ろしい。
サーベルを展開し、ライフルへと伸びた腕にそれが接触すると、火花を散らしながらそれを、溶断する。
そうなればもはや、彼に勝ち目はない。
改めて彼は現状の把握に努めようとしたが、返す刀で同じ側の脚を切られる。
生き物とは片端づつならばなんとかバランスを取れるのだが、全く同じ方向を破壊された場合。もはや身動きすら取れなくなるものである。
人型であるMSにもそれは顕著に現れた。
身動きの出来ないコックピットでは、絶望的な状況にパニックに陥りそうになるも、なんとか彼は冷静さを保っていた。そして、現状を鑑みて降伏信号を送った。
と、同時にガンダムのコックピット内部では別の問題が起きていた。
『なんで!どうしてとどめを刺しちゃ駄目なの!!』
フレイは目の前にいる相手に対して、引導を渡そうとしていた。
どれほど降伏の意思を見せようとも、キラの目の前で民間人を虐殺したザフトである。
降伏に見せかけて、今度はAA内部でそんな事をされるかもしれない。
そんな恐怖が、彼女にはあった。
『降伏を求めて来た相手を殺すのは、秩序の欠如だ。流石にそれを認めるわけには行かない。』
ニコルが投降するに当たってまず最初に行ったことは、如何にしてまだ戦闘を行っているであろう味方に、時間を残すかと言うところだ。
例えば、まず周囲に救難信号を出したもののそれをキャッチできないと見るや、完全に投降する為にコックピットを開放したこと。
人間を肉眼で確認できるようにしたという点に置いて、それがもし撮影できていれば儲けものだ。
相手は分かっていながら、それを殺す事など出来やしない。それこそ、相当相手を憎んでいなければだが。
『だけど!!』
『それとも、君のお父さんを殺したのは彼か?
俺の記憶では白いMS、クルーゼとか言う奴だと思ったがな。
君の友人達が死んだ時だって、それをやったのは彼ではないだろう?』
声はフレイをそう誘導していた。
オーブでの出来事だ、キラと共に座っていた彼女の後ろでニコルは、他のヘリオポリスの学生達と共にいた。
その時言ったのだ。
《自分はヘリオポリス内部で戦闘はしていない》
と。
確かに、フレイには復讐の為に戦うという意思がある。
だが、それは虐殺したいというそう言う意味のものではない、だからこそ彼はフレイを止めるのだ。
『……、分かったわ。』
「そこのパイロット武器を捨てヘルメットを取った後、両手を頭の後ろに回しなさい。」
淡々という彼女の言葉に、パイロットであるニコルは従う。
互いに見知った相手であるが、ニコルはマイク越しのこの声が本当にフレイのものなのかどうか、訝しんだ。
本当に、あんなナチュラルの女の子が自分達よりも遥かに強いのかと。
「わかりました、手荒な真似はしないでください。」
それを聞くとフレイはAAの方を向く。まだそれほど遠くにいるわけではない。帰投するなら早いほうが良い。
何より、ガンダムのフレームが悲鳴をあげていたのだ。
それが行けなかったと、後悔することになる事に彼女は気が付かなかった。
……
キラとアスランの戦いも佳境に入っていた。
砂漠戦からというもの、アスランはキラの底しれぬ強さに恐怖を覚えていた。
あんなにも戦いを否定しているにも関わらず、こんなにも強い彼のその運命と言うものに。
既にイージスは片腕を欠損していたが、それでも近接戦を得意としていた彼は、ストライクを遂にPSダウンに追い込んでいた。
勿論イージスも余裕があるわけではないが、それでもアスラン優位の状況に持っていったのは、周囲の人間の支えがあってこそであった。
残骸だらけのその道を、切り開いた茨の道をアスランは進んでいたのだ。
それでも、キラは諦めない。
ストライクの稼働時間いっぱい、ストライカーパックを切り離してより身軽にして、アーマーシュナイダーを抜き放つとその姿をしてイージスの盲点の一つである。破壊された左腕の方へと全力で走る。
流石にそんなものをやらせはしないと、アスランはそれに対応すべく距離を取ろうとするが、キラは隙を逃さず懐へと入っていく。
ガリガリガリ
と、アーマーシュナイダーとPS装甲が接触し途轍もない音と火花が飛び散る。
すかさずアスランは、足先のそれを使ってストライクを引きなすと今度はわざと隙を作り出し、それでもストライクを無力化しようとしている。
状況的に、不利有利がわからないが一応のところイージスが優勢なのだろう。
「キラ、お前はどうしてそこまで!」
「僕には護らなくちゃならない人達がいるんだ!」
二人の心はすれ違う、嘗てコペルニクで共に育ち育みあった者同士がどうしてこんな事になるのだろうか。
アスランの胸中は絶望的な現実に、暗くなっていた。
だが、そこで思いもよらぬ出来事があった。
戦闘中とは言え、僚機の信号というものは必ず確認しなければならないものである。
だが、もしもだ。信頼し合っていた者が、突然消息不明になったらどうなるか?
「…!そんな、ニコル。キラ!そこをどけ!!」
「行かせないしない。フレイは、もう充分戦ってるんだ。君を行かせるわけには!」
執拗に弱点を狙うキラには致命的な隙があった。
それまで、キラの操縦に的確に連動していたストライクの右腕が、左脚が突如として機能不全に陥ったのだ。
それは何故なのか、キラをしてこの一瞬で其れ等を精査する事など出来ない。
キラはソフト面は非常に強い。
だが、ハード面はどうだろうか?整備士のように完璧に其れ等を見ることが、把握することが出来るだろうか、いや、出来ない。
コーディネイターと言えど所詮は人の子なのだから。
そして、その致命的な隙をアスランが逃す筈もない。一か八かの賭けだった。
イージスをMA形態に変形させ、自爆したのだ。
このとき、イージスは既に武装の尽くが尽きていた。僚機の消息は無く、敵のど真ん中。なら、選択肢は2つに1つ。
降伏か、特攻か。
そして、アスランは特攻を選んだ。それが一番派手で、パイロットの消息不明というものを演出出来るとそう踏んだのだ。
だが、事態はそれよりも良くない方向に動いた。
イージスの自爆の出力が思いの外強かった事、そしてストライクがPS装甲に通電していなかったこと。
これ即ち、キラが死んだかもしれないとアスランは直感するのに難しくはなかった。
そしてそれは、彼にとっての後悔の始まりでもあった。
……
フレイはドリンクを片手に、錯綜する格納庫で休憩していた。
既にカタリナも帰投し、捕虜であるニコルも営倉へとぶち込んだ後暇を持て余していた。
暫くしていると、喧騒の中に何やら得体の知れない感覚があった。罪悪感か、それとも喜びか。
それがいったい何だったのか、彼女にはわからなかったが彼には分かっていた。
『あの男、何かをしたな?それも、計り知れないほど大きな代償を!なんて愚かなことを。』
それがいったい何なのか、フレイにはわからない。わからないが、唯一わかっていることがある。
キラが帰ってこないのだ。
「キラ遅いわね、まだ帰ってこないのかしら?」
そんな言葉を言うが、その言葉も喧騒に飲み込まれていく。
どうやら、AAに投降したのは一人だけではないようだ。
ディアッカ・エルスマンとか言う、肌黒い彼が営倉の方へと連れられていくのを目の端で見る。
それをしていると、横にカタリナが現れた。
「なにアレ、アンタのお土産?」
「はい、いいえ。アレはゴミ虫です。敵対するコーディネイターはすべからく。」
過激な思想であるが、それが彼女の正常運転であるから仕方がない。
が、それよりもフレイは気になっている。
まだ、キラが帰ってこないと言うことを。
彼は死んでいない、生きているのだ。彼女にはそれがハッキリと、正確に分かる。
命の灯火も呼吸も、しっかりと感じることが出来る。
だからこそ彼が帰ってこない理由がわからなかった。わかりたくなかった。彼は、必ず帰ってくる。互いに守り合おうと、そう約束したのだ。
だが、その約束した相手がまだ帰っていない。
もうしばらく待っていると、今度はズズズと言う感じを覚えながら、AAが加速して行く感覚を覚えた。
なんで、キラがまだ帰っていないじゃないと。
内心言葉を発し、急いで艦橋へと足を向けるのであった。
艦橋に着くと、急いで艦長に詰め寄った。
まだ、キラが帰ってきていない。だからまだ発進してはならないと。
しかし帰って来た言葉は残酷な程に不愉快なものであった。
「キラ君の…IFFは十分前から途絶えているの。本当は捜索したいの、けどね?いつまた敵が来るとも知れない状況なの、わかってくれる。」
本当はそんな事言いたくもない、それがラミアスの本音であった。彼女こそキラが死んだ等と考えたくはなかった。
自分達が巻き込んで戦争に加えた、哀れな少年を自分が殺す判断を下したと言うことを。
……
ガララララという小気味良い音と共に、機械が作動して暗闇のシートに絵を映し出す。
映写機という古い古い、映画という情報媒体をワインを片手に見つめるものかそこにいた。
「また、こんなものを観ているのですか?」
「ええ、これも仕事ですからね。古いものを精査するのも、ビジネスマンとしてはやっておいて損は無いでしょう。」
ワインを持った金髪の男、ムルタ・アズラエル。
彼のすぐ隣には美しい女性がいた、きっとそれは家族というものなのだろう。
その女性の直ぐ側には、小さな女の子がいた。
「これもお仕事なのですか?」
「ええ、そうですよ。ご覧、ここに映っているのは嘗て最初に撮影された短編映画です。
今では、再構築戦争で色々と無くなってしまったものがありますが、私は今。そう言う、文化財のそれの確認をしているのです。どうです?パパの仕事に興味ありますか?」
子煩悩なのだろう、娘と話す時の彼の顔はニヤケている。
デレデレだ。まあ、きっと可愛い盛りなのだろう。もう数年もすれば、反抗期に突入するに違いない。
そんな一家団欒のさなか、彼にとって朗報が届いた。
ジリリリンという、古臭い電話の音が鳴り響きそれを手に取る彼は、その瞬間からビジネスマンの顔となったが、そのあまりの嬉しさに邪悪な笑みを浮かべた。
「そうですか、連絡ありがとうございます。
いえいえ、報酬はそちらの方へは既に振り込む手筈となっていますので、はいそれではどうぞよろしく。」
「ねぇ、今のやつ何?」
「今のはね、日頃行いが良いパパへの天からの恵みがあったんだよ。」
そう言うと、彼は再び日常へと姿を消すのであった。
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