機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第56話

 

他人の家に入っておいて、そこがあたかも自分の家のように振る舞う存在に、心を許したいと思うか?答えは、否 であろう。

だが、そんな態度を表に出したほうが良いのだろうか?と言う問いに対して、様々な意見がある。

大人の対応で、スルーするのか。やんわりと諭すのか、それとも激怒するのか。

 

この時のフレイの判断はこうだった。

 

「そんな顔しなくてもいいじゃあ、ありませんか?そんなにも僕のことが嫌いですか。」

 

アルスター亭の客間にて、優雅に出された紅茶を嗜んでいるのは、大西洋連邦きってのやりて経営者の一人ムルタ・アズラエル。

 

彼の顔を見て、言った台詞はこうだ。

 

「お久しぶりですね、どうですか紅茶でも飲みますか?(帰れ)

 

である。

 

それに対するアズラエルの言葉は、

 

「是非いただきます。」

 

であったことから、それを気にも返さないと言う踏み倒す荒業を持って対抗してきた。

 

「いやぁ、実に良いお邸ですね。こんな古風なところ(古臭い)に住んでみたいですよ。」

 

「ふぅん、そうですか。でも、アズラエルさんの新しいお家(成り上がり)も中々良いものなんじゃないですか?」

 

互いに互いを罵り合うような風景は見られないが、奥底には何かを抱えている者同士のそれだった。

 

「それで、早く話を始めてください。午後から車が壊れてしまうので、出かけられなくなっちゃうじゃないですか。」

 

「それもそうですね、修理工を呼んで置きましょう。」

 

そう言って紅茶を飲み干すと、アズラエルは今度は真剣な眼差しで彼女を見ると、話を変えた。

 

「貴女の御父上であるジョージ氏には僕は大変お世話になりました。僕がブルーコスモスに入ったのは、彼の影響も大きいとそう思っています。」

 

「……、それで私もブルーコスモスに入れたと…?くだらないわね、別に私はそんな事望んでいないのに。」

 

「望んでいなくても、貴女は何れ入る事になっていたと思いますよ?何せ、創設者の家系なんですから。」

 

アルスターと言うのは古い家である。それも一癖も二癖もあるような、様々な時代を生き抜いてきた旧世紀よりの。

だが、逆に言えばその様な家は没落したものを含めれば意外と少なくはない。

だが、彼女の家系が何故こうも続いてるのか。

 

「地球にはいろいろな方々がいるんですよ、貴女のような家柄の人が。

人類を存続させようという、そう言う理念を持った方々も僕の会社の製品を買っていったりしていますよ?」

 

一癖も二癖もあるようなそんな者を相手に立ち振る舞って来たのが、目の前にいるムルタ・アズラエルと言う男である。

中々に手強い相手になるだろう。

 

「さて、貴女から管理を委託された鉱山から色々な物が出てきましたよ。もっとも、それを有効活用出来るかは分かりませんがね、見てみますか?ここに何があるのか、君のお父様が何を隠してきたのか?貴女に持参してきて頂いた、それも含めて。」

 

チラリと目を向ける。AAから持ってきた物の中で唯一自分の物ではないそれを。

確かに興味のあったものであった、故にフレイはその言葉に静かに首を縦に振らざるおえなかった。

 

 

彼の案内で護送されるようにその場へと辿り着く、夢の中で見た場所が目の前にあるのだ。

彼女は無意識の内に息を呑むと、徐ろに意識を持ってきていたそれに向けた。

 

『ねぇ、貴方みたいな物がここにあるの?』

 

『いや、俺のような者はここにはいないさ。ただ、俺が感じた事の有るものに近い存在は感じる。』

 

その語りを口に出すことも、態度に出すこともないが目の前に飛び出してきた情景は、異様の一言であった。

 

「MS……?なんで?」

 

そこは閉じきった空間である。MSが入るような場所も無ければ、大きな資材を運ぶようなスペースもない。

あるのは、小分けに仕分けられて持ってこられた小さな精密機器類だろうか?

 

「やっぱりそう思いますよね、いや〜連れてきて良かったですよ。パイロットの主観で見て貰うのが確実ですし、コーディネイターなんかにこれを見せられる訳行きませんしね。」

 

「コレは何ですか……。」

 

「見ての通りですよ?貴女のお父様が管理していた場所は、MSの墓場です…。と言っても、我々が作ったわけじゃない…、埋まっているんですよ。コレ等は。」

 

一つだけではない、よくよく見れば様々なパーツが埋まっている。それは、まさに墓場というに相応しい。

 

「貴女と貴女のお父様の行方がわからなかったので、勝手に大西洋連邦名義で解析させてもらっていたんですけどね、どうも上手くいっていませんよ。

 

そもそも、装甲材は削れてもPS並みに硬い通常金属なんて、それこそL1で研究していたものくらいなものですが、それも今は大多数が喪われてしまいましたから。

 

ですからコレを見つけた時は喜んでいたんですけど、どうもわからないんですよねぇ。

それにMSも動かないんですよ、動力炉をきちんと丹精込めて精査したのに、一体何が足りないのやら。」

 

『それはそうだろうな、場の量子論を解析出来ていない時点でアレを動かすことは出来ない。

それどころか、大統一理論すら不完全ならアレを見つけ出すところまでいっていない何よりの証だ。』

 

『難しい話みたいだけど要するに時代が追い付いてないってこと?』

 

頭の中でそう響く声に答えるが、それに対する反応は以外なほどにあっさりとしたものだった。

 

『時代が通り過ぎたのさ、使わないものは自ずと退化する。研究する余裕すらない、そんな時代があったんだよこの世界には…。』

 

感慨深げに言う言葉は、全てをまるで見ていたかのように話す。そして、それを聞きながらアズラエルの言葉を、聞き流しながら目の前の現実を静かに彼女は、受け入れる他なかった。

 

 

……

 

客室に案内されたカタリナは、周囲から非常に刺々しい視線を受けていた。

それもその筈で、ここはブルーコスモスの根城とでも言うべきアルスター邸である。

 

ここに仕えているコーディネイターもいるにはいるが、ここに忠誠を誓うといういやに古めかしい文化の中、余所者が現れるとそれを隔離しようとするのは当たり前の光景でもあった。

 

「お嬢様のお付きであるのなら、これくらいの作法も知っていなければおかしいではないか!」

 

そういうのは、年老いたメイドである。

到着から二日目の朝食時、ナイフとフォークを使ったテーブルマナー。

一流の捌きというものをネッチリと言われるも、ナチュラルの言うことは絶対であるという彼女の思考の中では、それもまた仕方の無い事だと理解していた。

 

「お前は戦闘用コーディネイターなのであろう?ナチュラルに絶対服従と言うのは何事か!!

意思を持って心からお嬢様に、忠誠を誓う我等とは雲泥の差よ。

だが、我等はMSに乗れはしない。

今からお前には、例えナチュラルで有ろうともお嬢様に危害を加える者あらば、それに立ち向かう意思を叩き込んでくれる!!」

 

いけ好かないと言うのだろうが、彼等なりに彼女の事を気にかけている。

元来ソキウス達と同様に、遺伝子レベルでの擦り込みが行われていて、特に彼女のそれはほぼ完璧に近いものであった。

それ故に、あらゆる場面において彼女はナチュラルに逆らえない。

 

だが、そんなもの機械と変わりない。言ってしまえば、軍隊にそんなものいらないのだ。

だからこそ、廃棄処分が決まっていた。戦争がなければ今頃無縁墓地に埋まっていた事だろう。

 

「了解しました、なんなりと」

 

「違う!少しは反論せんか!良いか、お嬢様の身にもしものことが無いように、お前はお側で護らねばならぬのだ!」

 

貴族とは、誰よりも前線に立つもの。

それ故に、彼等の認識の中ではフレイが戦場に立つことは、何ら問題もない事だと受け入れられている。

だが、だからこそ失いたくないものでもある。

 

それから数日の間は、様々な叱られ方をして許されてきた。

出立の前日までに、色々と小言も言われたりもした。時折それにイラッとする自分がいる事に、驚く程に。

 

「良いか、頼むぞ。」

 

それを聞くと綺麗に敬礼をする。自然とそういう形を取れるのは、擦り込みだけではない。

何処かで彼女は感謝しているようなそんな気がしたのだと。

 

 

……

 

 

「〜〜♪」

 

精良な歌声が聞こえてくるのと、微睡みの中から意識が浮上してくるのは殆ど同時とも言って良い程に、彼にその歌声は良い物と認識していた。

まるで、心の氷塊を溶かすように何も考えたくなくなるほどに、それを聞いていたいとそう思うほどに、決心をつけられない心は段々と強くなるその想いに、勇気付けられていく。

 

「ラクス…、ありがとう。」

 

「いえ、どういたしまして…ですわ。キラ様は、充分に戦いましたもの、今はゆっくりと休んでくださいまし?」

 

その言葉は甘い毒のように、キラの脳裏へと溶け込んでいくかのように、彼をこの微睡みに誘導していく。

浸かっていたい程のこの微温湯は非常に心地よく、もはや抜け出す事など到底考えられないような、そんな錯覚さえ覚えていた。

 

そして、それは同時に友人達のこと等どうでもいいような、そんな感覚さえ覚えてしまっている。

 ハッとして、キラはそれに気が付いた。

それと同時に、彼は戦慄した。どうしてそんな事を考えているのだろうかと。

 

「ラクス!」

 

「どうかしましたか?」

 

彼女は微笑んでいる。そして、その微笑みは彼を本心から心配しているという証でもあった。

 

「僕…、行くよ。」

 

キラがその言葉を口にすると同時に、ラクスは目を見開くとキラにツカツカと近づいて言った。

 

「キラ様、充分に戦いましたでしょ?アスランとも殺し合い、戦いたくもないのに戦った…、もうそれで充分では無いですか?」

 

「それでも、僕は行かなくちゃならないんだ。友達が…、みんなが待っているから!」

 

キラは思っていた、ここでこの微睡みに身を任せてしまっていたら、自分はどんな風になってしまうのだろうか?

ラクスの歌の虜となって、何もせずに生きる事になってしまうのではないか?と。

それはあまりにもな妄想であるが、だがキラにとってはそう見えてしまう。

 

「私は…キラ様をあのようなところに行かせたくはないのです…。ですが、それでもと言うのなら…私にも考えがあります。」

 

そう言うとラクスはキラの手を取り、彼をベッドから起こすとゆっくりと歩くようにとくだす。

 

「私についてきてください…。」

 

キラの手を取りツカツカと歩いて行くと、彼女は彼をテラスへと連れて行く。

何をしようというのだろうかと、キラは思いながらベッドから眺めていた外の景色を、眼前に露わにした姿に一瞬目を見開いた。

 

プラントにおいて建造されている、このコロニーの特徴は地球環境を程よく再現する事が可能な点であろう。

底部は放射線を遮断する為に緩衝材として水を使うことにより、海洋性国家のような、そんな特性を持っているのがプラントである。

 

勿論、全てがそうだという訳では無いが、ラクスとキラが今ともにいるここは、夕陽を謳うまるでオーブのような雄大な景色が広がっていた。

それは傷を負った彼の心にポッカリと空いた何かを埋めようとする行為なのだろう。

そこにいたラクスの姿は、何故か儚げに見えた。

 

「今は…まだ行かないでください。私は…、1人ぼっちなのです。だから…」

 

おいていかないで

 

それがラクスの本心だった。

 

「マルキオ様がおっしゃられた事が気になるのは仕方がありません。ですが、どうかその傷が癒えるまでは…。」

 

「……、わかったよ…。だけど、君は一人じゃないじゃないか、大丈夫だよ。」

 

それがキラなりの精一杯の言葉であった。

 

 

……

 

「私は無力だな…。」

 

Evidence01を眺めながら、シーゲルは一人そう呟く。

プラント最高評議長の座が降ろされ、今では評議員を辞職し一人の研究者として、父親としてラクスに寄り添おうと思っていたのだが、そうやすやすと事は上手く運ばなかった。

 

彼が評議長から降ろされた時、それはラクスの安否とプラントの政治的決断に対して娘に感情移入しないようにと、自分で決めた事でもあった。

一仕事終えてからの辞職、それを以てして議長を譲り渡した。公平公正な判断を、その時の自分が出来ないのだとそう踏んで。

 

だが、それが災いした。

パトリックを止める力を持っていた彼であったが、彼という存在の求心力の低下が起こり、今では会議上ではザラ派が牛耳っている。勿論反論する余地もあろうが、それでも8割がザラ派だ。勝ち目などない。

 

元々はクライン派寄りであったアマルフィ議員も、息子のニコルの消息不明という現実にタカ派にシフトした。

残るは、カナーバ等のクライン派に任せる他無かった。

 

「あ~、ジョージ。願わくば、貴方とともにこのプラントを立ち上げている頃に戻りたい。」

 

弱音のようにそう零す言葉を聞くものは、誰一人としていない。そこには弱った顔をした一人の男がいるだけだった。

彼にとって、このEvidence01は自身の転機になった存在であった。

 

元々スカンジナビア王国で極秘裏に作られた彼であったが、それを知るものはほとんど存在しない。それどころか、今生きているコーディネイターのうち、彼のような年齢の人間は軒並みそう言った経緯を持っていた。

 

そんな中、ジョージ・グレンがこのプラントを建設すると言った時、彼は16歳であった。まだ夢見る若者であった、そんな時代にノスタルジーを感じるのは、彼にとっては仕方の無い事であった。

 

「これから海は更に荒れる。私にできることだけをするしかないが、どう転んでも行くか誰か教えてくれまいか?」

 

その言葉を聞き、答えてくれるものはその場にも世界にも、何処にもいることはなかった。

 

 




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