「主砲、撃て!」
砲口から眩い光がほとばしり、それが海戦の合図となった。
「前方ナスカ級よりモビルスーツ発進を確認! 数3つ!機種特定!ジン2、中1機から識別信号、イージスです!」
その声を聴いた瞬間、キラは戦慄を覚えた。
アスラン・ザラが来たという事実に、〘自分が相手をしなければならない〙というある種の恐怖にも似た感情を抱いた。
それを映像越しに見ていたミリアリアが、どこか気遣わしげな表情で、インカムに向けて叫んだ。
「キラ!フレイ!発進です!」
「…了解。」
「了解!キラ、赤い方頼むわよそっちの方が性能良いのよね?」
と言う、フレイのお節介とも言える言葉が彼を突き動かした。
機体側のハッチが開き、そこから解放されたゲートを越えて星々が、不気味なほどに鮮やかに光る。
吸い込まれそうな錯覚と、既に何度か経験した戦闘への恐怖が沸き上がり、自然とレバーを握る手が震えだす。
それでも、自分がやらなければならないという強い使命感が、彼を包みこんだ。
「キラ・ヤマト、ストライク行きます!」
彼の身体はグッとシートに引きつけられて、その機体は宙を舞った。
一方のフレイは、同じく宇宙を目の前にしてやはり、恐怖を実感していた。
『大丈夫、君には僕が着いているから。』
そんな、聞こえるはずの無い誰かの声が聞こえる気がする。
気の迷いかどうか、彼女にそれは判らない。
それでもその声は、何処か彼女へと安らぎを与えるには充分な力を持っていた。
そして、そのおかげだろうか彼女の手は震えることも無く、心臓がバクバクと速く脈打つ事もない、何故か慣れたようにその宇宙を見られるようになっていた。
「フレイ・アルスター、ガンダム行きまーす!!」
大きく声を張り上げてそれを言う事に、自らを鼓舞すると言うのは古今東西何処にでもある事だ。
互いの機体はメタリックなグレーから、各々の色へと変化していく。
「後方より接近する熱源3! 距離67! モビルスーツです!」
艦橋では、チャンドラが一足早く、敵の機影を捉えていた。
来たかという考えが、艦橋クルー一同が心を1つにして思った事だろう。
その敵の量は、予想よりも多いものであった。
「対モビルスーツ戦闘用意! ミサイル発射管、十三から二十四番〘コリントス〙装填! 〘バリアント〙両弦起動! 目標データ入力急げ!」
ナタルは艦長のラミアスが判断するよりも早く、その行動を示した。
元来の士官と技術士官の違いというのは、こういう時に現れるのだろう。
正規の兵士に混じって、トールたちも真剣な表情でコンソールに向かっている。
ここで操作にもたつけば、一生を不意にすることは必至。全員が、〘生き残る〙という目標を1つに戦いを始めた。
「機種特定! これは……! Xナンバー、デュエル、バスター、ブリッツです!」
「鹵獲したGを全機投入してくるの!でも、これは多すぎる!」
マリューは動揺した、そして同時にAAに搭載してある火器では、G兵器に有効なものは限定的である事を、開発者として知っていた。
それだけに、この状況がどれ程難しい状況であるかを、一番理解していた。
「クソが…、直ぐに2機を呼び戻せ!」
「駄目です!!既に…、ストライクはイージスと交戦中。
ガンダムもジン2機を相手に戦闘しています!」
戦艦対MS、一見すれば絶望的な状況だがAAにとって、G兵器に対する迎撃は意外な程に相性がいい。
まず、通常この時期のザフトのMSが実弾主体なのに対して、G兵器はビーム主体。
AAの装甲はラミネート装甲となっている為に、G兵器の所持するビーム兵器に対しては一定の抗堪性があるのだ。
唯一、ブリッツとバスターの実弾兵装にだけ対処すれば、自ずと戦闘を長期化させるだけの悪あがきが行う事だって出来る。
その間に、ストライクかガンダムの一方が戦闘を終え、帰還してくる事を祈るしか無い。
……
ハァ…ハァ…ハァ…という息遣いが、狭いコックピット内部に反響し、己の声を耳にする。
フレイは、イージスをキラに任せ2機のジンの相手を買って出ていた。
バババババ
と、ジンが牽制を兼ねて突撃銃を乱射するのを堪らず回避するように、フレイの脳内へと何かが語りかけ、それに沿うように彼女の肉体は急激な操作でフットバーを蹴り飛ばし、操縦桿を操作する。
PS装甲であるのだから、本来ならばそのまま突撃しても良いだろうにと、内心そう思いながらフレイは戦闘をする。
しかし、避けた次の瞬間先程までいた場所へ緑色の光が横切ると、もう一機のジンの方へと目を向ける。
大型のビーム砲を携えたもう一機のジンが、それをフレイの駆るガンダムへと向けているのだ。
実弾兵装よりも速度の速いそれが生まれた瞬間、避けに撤しなければきっと彼女の機体は胴体に風穴を開けていたことだろう。
堪らず彼女は冷や汗を流すと、今度は回避を予測していたのだろう、近接のジンが重斬刀を構えて斬り掛かってくる。
それに対して、彼女は〘自己判断〙で回避を最優先しロックしていたターゲットマーカーを一時的に切ると、無誘導で肩部のミサイルを解き放つ。
それに対して急制動を掛けたジンは、弾幕に飛び込む寸前に機体を急上昇させる。
そこに対して、再度ロックすると彼女は今度は右肩のビーム砲を解き放つ。
ビームはジンの方へと進んでいくと、右側に逸れて行った。
「ウソ!こんなの欠陥兵器もいいとこじゃない!」
『それを念頭に入れないからそうなる、次が来るぞ!』
「煩いわね、わかってるわよ!!」
彼女は無意識の内にそう口走っていた。
それを、戦闘管制を行っていたミリアリアは怪訝な顔をしながら聞いてしまった。
「フレイ、どうしたの!」
「何かあったのか、ミリアリア・ハウ!」
さて、この声はフレイにしか聞こえていない未知の言葉だ。即ち、それに返事を返すということはつまり独り言を喋っている事に他ならないわけで、傍からみればおかしくなっていると思われても、致し方ない。
「後で艦長を問い詰める事が出来たな、今は戦闘中だ!他に何か変調があれば報告しろ!」
「わ、わかりました!」
このときのミリアリアの顔は、妹を心配する姉のように慈愛に溢れていたことだろう。
最も、画面の向こう側にいるフレイにはそんな事今はどうでも良いことであって、目の前の状況をどうにかするのが先決だった。
一方、そんな彼女の側とは違い幼馴染どうしの再びの邂逅は、悲劇的な物語の始まりであった。
「キラ……キラ・ヤマト!」
キラは対峙する機体から無線から入ってきた声に、はっと目を上げる。
「アスラン? ……アスラン・ザラ!?」
「やはりキラ? キラなのかっ?」
断言していたわけではなかった、信じたくはなかった。
あんなにも優しかった彼が、戦争なんてものに身を窶していないと。
自分の勘違いであってほしかった、そんな彼の希望にも似た妄想は、モビルスーツ越しに聞こえてきた、嘗ての親友の声に、ただ呆然とするしかなかった。
そして、その静かなる思考の空白の後、彼を襲ってきたのは激しい裏切りの感情と、それを依り代にする怒りだった。
「なぜ……なぜ君がっ!」
彼は叫んだ!それは、あらん限りに。その現実を払拭したい一心で、泣きそうになりながらも。
もしかしたら自分の勘違いかもしれないと。
しかし、無情な事で世界はそんなもの嘲笑うかのように、現実をまざまざと眼の前に持ってくる。
「ぼく達は〘ヘリオポリス〙にっ…中立のコロニーに住んでいたのに、なんでこんなことをっ…!」
「お前こそ!どうしてそんなものに乗っている!?コーディネイターの君が……何故地球軍のモビルスーツなどにっ…!!」
アスランがそう叫び返す。互いに互いの事が心配なのだろう、そして現状の確認がてら互いにそれを否定したいのだろう。
「同じコーディネイターのおまえが、なぜ俺たちと戦わなくちゃならないんだ!?」
アスランの言ったことはキラにとって、不可解な感情を覚えさせた。
〘同じコーディネイター〙
その言葉は、キラにとってどうでもよかった事柄を重く受け止めるアスランという構図に、キラは驚きを隠せなかった。
アスランは人種意識の塊となっていたのだ。
これが、この戦争の終わらない根本的な部分。互いに互いを憎み合い、羨ましがり欲しがる。昔から続く、人間の起こす戦争に違いはありはしなかった。
「おまえがなぜ地球軍にいる!? なぜナチュラルの味方をするんだ!」
アスランにとっては、同じコーディネイターのキラがどうして眼の前に敵として現れたのか、本当に理由のわからないものであったのだろう。彼は一種の混乱に状態へと突入していた。
「あの艦には仲間が…、友達が乗ってるんだ……!」
そんな声も、今の頭が混乱しているアスランにはどうしても理解しがたい事だったりする。
彼が思うに、キラの言う〘友達〙は彼を良いように使う為に、地球軍が彼を騙しているのではないかと、勝手な解釈で閉じている。
これは頭の回転が速い人間が陥りやすい典型的なパターンで、結論を先に出そうとする悪い傾向だ。これでは、いくら話をしてもどう仕様もないのだ。
……
AAが迎撃戦闘を行っている間にも戦況は刻一刻と変化していく。それは、彼らにとって良い方向へと向かうものとなっていた。
『良いな、俺の意志通りに動けている。』
「黙っててって言ってるでしょ!!」
フレイがそう言うが早いか、身体は機体を急制動させ足のスラスターを巧みに使い、ジンが一直線に並ぶ位置へと機体を誘導した。
「いただき!!」
左肩のミサイルは撃ち尽くされていたが、右肩のビーム砲が明滅すると、見事に機体を2枚抜きした。
「やった!!これで」
と言ったところで
pipipi
とロックオンアラートが機体を包み、今度は完全に彼女の意志とは関係なく身体が勝手に動き、機体を操作していく。
その動きは常人のそれではない、機体に急激なGがかかるとそれが肉体へも影響を及ぼす。
フレイは、この時一時的に呼吸が出来なくなるほどの強烈なそれを感じながら、その行為がどう意味なのかを一瞬遅れて理解した。
ロックされた場所を、太いビームが駆け抜ける。
それを受けて機体にはデータが立ち上がり、その相手が何なのかを彼女に告げていた。
「フレイ!バスターブリッツがそっちに行った!気を付けて!!」
「言うの遅いのよ!!」
遅れてそう言われると、彼女の頭に血が上る。
だが仕方の無い事なのだろう、ミリアリアはこの時まだまだ慣れていないのだ、情状酌量の余地はある。
ただし、ガンダムがこの時フレイの肉体を駆っていなければ、彼女は死んでいたと言う事実だけは言わなければならない。
「ガンダムタイプが2機、私に出来るか?いや、やれる!」
今の彼女はまるで別人のようにそう振る舞った、実際今の彼女を見ればやはり別人のように見えるだろう。
一方でフレイはキラの方へとチラリと一瞬目を向けると、そっちにはデュエルが向かっていて、互いに2対1の状況に持ち込まれている。
既にジンを落としたとはいえ、既にミサイルは無く盾の40ミリは半数を使い切り、突撃銃の残弾は残り弾倉が2つ
それもPS装甲には効果が限定的であるという、圧倒的ハンデがそこにあった。
彼女は額から汗を流すも、その顔に焦燥は無く寧ろ安心しきった顔をしていた。
『接近戦だな、まずは遠距離の機体を攻めたほうが良い。』
「解ったわ、けどどうするの?」
その答えは単純明快で、コンピューターは腰部斬刀を指し示していた。
そして、眼の前に迫ってくるブリッツに対して、今度は先程ジンがやっていた様に行動を開始した。
……
「既にジンがやられましたか…、ディアッカ!援護を頼みます!」
ニコルはガンダムを目標に据えて戦闘距離へと近付いていた。
彼等がAAを狙わないのには理由がある。
それは、驕りとも言える自信からくるものであり、先にMSを片付ければ戦艦なんて後でも良いと、そう言う理屈だ。
「わかってるよ、無理すんなよ。」
役割分担として、最後に製造されたストライクが全機体の中で最も洗練されているはずという予測の下、彼等は中でも操縦技術のあるイザークをストライクに向け、自分達だけでガンダムをというのが定番だろう。
そしてそれは、ある意味で正解である。
最も中途半端な存在であるガンダムを相手にするという事は、比較して
ニコルはデータ主義者なところがあり、この時のガンダムが中・近距離向けの装備である事から、接近戦を嫌うと思っていた。
しかし、現実は違ったのだ。
ブリッツが囮となり、ガンダムの視線を釘付けにするという前提は、最初の不意打ちであるバスターの一撃が見事に逸らされたところから、破綻していった。
急速に銃を反射しながら近づいてくるガンダムを前に、彼はブリッツを避ける方へと機体を動かすのだが、そこからが問題だった。
ガンダムはピッタリとブリッツに着いてくる、それはそれはもう気持ちが悪いくらいに、まるで次にどのように動くのか解っているかの如く。
「クックッ…、は…速い!こんな動きを!!」
そして、そうなると必然的に余計な動きのないガンダムが、ブリッツへと追い縋る。
ニコルはそれに明らかに動揺し、機体を反転させると今度は相対するように機体をぶつけに行くと……
スルリ
と、そんな音がするかのように横を避けていくガンダムがそこにいた。
「しまった……!ディアッカ!退避してください!」
そして、その時の機体の位置が問題だった。
そう、バスターとガンダムは一直線となっていて、バスターとブリッツはガンダムを狙い撃てない。
急速に近付いて来るガンダムに気が付いたディアッカは、急いで対装甲散弾を撃つがそれが遅すぎた。
その時には盾を斜めにし、滑らせるように避けられるとその盾が無くなった瞬間に右腰の斬刀が振り抜かれ、バスターのガンランチャーを見事に砲身を斬られる。
と、同時に今度は急制動すると、機体を反転させるとのを利用してバスターを足場に直角的に動くと、まるでシャトルランのようにブリッツへと戻っていく。
今度こそ落とすという気迫と共に。
「舐めないでください!」
ブリッツの武装は〘トリケロス〙という攻防盾システムに集約されている。
それを、前に構え射撃でも斬撃でも全てに対応しようとしていると、急に踵を返すように2機の前から姿を翻し、今度はイージスの方へと向かった。
一瞬ホッとするニコルだが、冷静な頭脳はそれを考えるまでもなく、別の結論へと辿り着く。
「まずい、ディアッカ!直ぐに、アスランの方へ行きましょう!あの機体は、普通じゃない!!」
「判ってるってな!言われなくたって、あんな終わり方癪に障るってね!」
この時、ニコルは思っていた。あんな機動をしてコックピット内部のパイロットは、どれ程敏感な反応速度をしているのか、どれ程戦闘向けな調整を受けたコーディネイターが搭乗しているのかと。
そんなわけがない、そんな急激なマニューバを行って内部のパイロットが、無事で済むはずなど無いのだ。
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