ナパーム焼夷弾、それはパーム油とアルミを主原材料として作られた油脂焼夷弾の一種である。
元々は木材等に使用することにより、その燃焼行為による火災を発生させる事を目的としていたものだ。
ただし、副次効果として周辺の酸素を燃焼の際に多量に使用する事から、周囲の人間は往々にして酸欠で死亡する。
何故このような事を言うかと言えば、今回ジブラルタル基地に対して行われた攻撃はまさにコレを使用してでのことだった。
民間居住区に対しての攻撃は憚られるものであるが、軍事基地のど真ん中で使用するのならば話は別である。
マイクロミサイルの弾頭に使用されたこれは、基地中枢を文字通り火の海と変えた。
さて、コレが使用された根本的な理由であるが、プラントという特殊な環境下に存在した彼等に、これらの消火ノウハウが欠如していると言う問題がある。
プラントでの消火方法は主に、居住区や工場区の酸素供給を止めたりする方法が殆どである。だが、地球ではそれは不可能だ。
水資源や界面活性剤を主に使用するが、純粋な火災というものに対してその消火ノウハウが欠如している。
言ってしまえば、消火に対しては素人である。
戦争において、殆ど使用されることのない焼夷兵器というものの消火行動は、使用された兵器の特徴をいち早く判断し適切な方法が必要であるがそう言った類の事を彼等は、してこなかった。
基地への直接攻撃など、殆ど無かったからだ。
侵攻という攻撃によって、防御を殆ど経験してこなかった為に判断は遅れに遅れる。
「こちらα、敵レーダー施設並びに中枢の破壊を確認。これより、帰投行動に移行します。」
「了解。」
フレイはその真っ只中にいた。
実弾兵器を使用し終え、次はビーム兵器、へと移行する。実弾兵器は全て、この地に置いていくことになるだろう全てデッドウェイトになるからだ。
火の海から得られる光は、機体にエネルギーを供給してくれる。尤も、その火は誰かの身体を燃やして得られているものなのかもしれないが。
そうしてみると、フレイの頭の中に気持ちの悪い感情が外からもたらされてくるのだが、途中でそれが切断される。
『今はこうして俺が余計なものを切断しているが、もし俺がいなければ君はこの感情の奔流を身一つで受けなければならない。』
それと同時にそう言って言葉が走る。
フレイは自分がどうやって敵を殺し回っているのか知っているが、その敵の思念を今まで無視できていなかった。
その力としてはそれが正常だと言うが、どうしてかそれが彼女にとっては余計なものに感じられた。
『余計なものと断じないでほしい、その感覚を失ってしまえば俺のようになってしまう。』
この声の主であるが、どういった人生を歩んで来たのか。未だに彼女にも分からないが、だからといって人がこの力をどういう風に使うかというのに、あまり口出しをしてほしくなかった。
あくまでも、彼女の目的は復讐。その為に、この力は実に有効に働いている。
そう思案しながら大西洋に向けて移動を開始し、暫くすると妙な感覚を覚えた。
〘誰かに見られている〙
そう思った彼女の判断は早かった。
「全機散開!ロングレンジ攻撃がくる!」
言うが早いか、彼女は機体にビームショットガンを構え収束モードにすると、その感覚の方へと射撃を二、三行う。
すると、その感覚が幾つか消えたもののそれは徐々に近付いてくる。
基地内からの迎撃戦闘が開始される合図となったのか、ジンの反応もチラホラと散見される。
尤も、浮足立っているのは変わらないがだからといって、油断するわけにも行かない。
未だ基地内なのだから、早晩ここから出なければ機体のエネルギーが底を着く事だろう。
そして、ロングレンジ攻撃が着弾する。
基地内、自軍施設であるにも関わらず遠方から砲撃が開始された。
既に壊滅状態である事を見越しての攻撃だろう。
それでも、それはあまりにも高火力過ぎた。何故なら、壊滅していない、近傍の防衛部隊もそれの巻き添えになったからだ。
コレが、内部への反撃方法を知らないという表れであるが、フレイ等にとってコレは嫌な敵であった。
進行方向でないにせよ、背中から一方的に撃たれることになるからだ。
「皆、光学センサーを駆使して!逃げが第1、戦闘は二の次!」
そう言うと、フレイは機体を最後列に位置づけると迎撃戦をしつつ彼等に着いていく。
殿を務めると言うのは、尤も死亡確率の高いものである。
また、コレは練度に依存した。
「へっへ、了解しま…」
その言葉を最後に爆風に巻き込まれるものがいた、きっと即死だろう。
それとともに、断末魔が空間を駆けるがそれも僅かに脳裏にノイズを靡かせるだけとなり、ただ彼女の戦いの妨げになるようなものにはならなかった。
「急いで!敵は確実に」
突出した彼等を包囲しようと、必死の追跡が始まろうとしていた。
彼等の武装は限られている、その中でバッテリーを気にしながら戦うということが、どれほど彼等の神経を削りに来るのか、それは当事者のみぞ知る。
……
フレイ・アルスターと言う娘は、連合にとって非常に厄介な存在としか言い表せない。
宣伝塔の役割を持っていながら、ブルーコスモスとの強い繋がりを持ち、尚且つ非常に優秀な戦績を持っている。
問題はその地位を上手く利用する事が難しいところであろう。
実際今回の作戦での彼女の戦闘力は過小評価されていたところがある。コレは、彼女という存在を悲劇のヒロインに仕立て上げることで、
何せ、彼女がいなくなれば彼女の財産は分与権を持つ親族が分割する事になるが、それがいないのだから国が接収する事が出来るのだ。
だが、コレには非常に厄介な問題があったそれは。
「まさか本当に帰還するとはな…」
帰還支援の為の砲撃を程々にしつつ、そう言い放つのはこの艦隊の司令官である。
尤も、連合の犬と形容すべき存在であり今回の作戦で彼女が死亡すればそれを報告するだけの、そんな存在であった。
「未帰還機6ですか…、思った以上にいますね。それにしても、見てくださいよ彼女の機体を、被弾一つ無い。」
コーディネイターの操る機体ですら、こういった事もない。どれほど早く避けたとしても、少なくとも被弾するものだ。
だが、彼女の機体は煙に煤けているがそれがないのだ。この時司令であったこの男は、改めて〘本物〙を見たと確信した。
ジョージ・グレンがどれほど足掻こうとも、一流のスポーツマンの中で2位止まりであったことも。
技術者として、さして突出していた訳では無いと言うことも有り、それを崩し得る存在が目の前にいるのだとそう考える。
だが、そんな彼を認識出来ていないだろうに、彼女はそれを睨みつけるようにしていたなど、当の司令にはわかることでも無かった。
「全機回収作業終了しました!」
「よし、ではこれより南下を始める。良い予行になっただろう。」
艦隊は進路を変え、一路南アフリカを目指す。そこにあるのは、連合にとっての戦略目標マスドライバー、ビクトリア港。
彼等は取り戻すのだ、嘗て大金を掛けて創り出した其れ等を我儘に泳いだ、宇宙を。
今回短めです。
熱に浮かされ、なんとか執筆しましたがなんとも言えない…。