機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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やっと風邪が治ったから投稿


第61話

 

『我々は彼等をその様な目で見てはならない、彼等は特別な存在ではない。

彼等という存在は汎ゆる時代において普遍的なものではない、しかし始まりのものはきっと戦いの中にあった。

彼等の事を秘匿し、同じ過ちを繰り返さぬようここに記録を残す…。

7度の宇宙戦争、その始まりと顛末を。』

 

崩れた壁画はその価値を見いだせず、ただ長い年月を掛けて風化していた。

石造りで作られた其れ等は、周囲に散らばっている様々なMSの残骸の中に埋もれる様に、まるで何かから守られるようにその地に隠されていた。

 

「解析出来たのはこの部分だけです。文章構成と文字事態は我々が使用する、所謂アルファベットと同じものですし、解読は容易ですが…、随分と破損していまして。」

 

画面の向こうに映る若手の学者風の男がそう言うと、徐ろに眼鏡の中央を押し上げて得意げに言う。

それをいつもなら余裕綽々と言った表情で聞いているであろう、アズラエル自身は眉を潜めた。

 

「ふぅん、そうですか。…それで、何か有用な情報は無かったと、そういう事で良いんですね?」

 

「あ…、いえそのすぐ近くに人が入れる大きさのカプセルらしき物体が有りまして、そこから体毛が検出されました。それでなのですが、ある人物と遺伝子の照合をしたいのです。よろしいですか?」

 

それにいったい何の意味があるのか、だが少ない情報の中で歯抜けでも彼の注意を引いた文言があった。

 

彼等(・・)とはいったい誰の事を言っているんでしょうねぇ…」

 

その言葉の意味を知るものは、既にこの世にはいないだろう。管理していた者も、皆仲良く宇宙デブリになってしまっているのだから。

 

「また続報があれば報告お願いします。それと…、機材はきちんと扱ってくださいね?精密品なのですから、それ一つで幾らすると思いますか?」

 

「は…はい、申し訳ありません。」

 

それを言って映像を切断するとアズラエルはデスクパソコンを前にして何かを始める。何をしているのか、傍からみてもそれはわからなかった。

そして、学者風の男はその通信を終えると徐ろにカプセル内部を再度確認する為に、今度は精密機材を持っていく。

だが彼は気が付かなかったそれが既に壊れてしまっている事を…。

 

 

……

 

フレイが着艦を終わらせた頃、部隊員の数は半分になっていた。MS1個中隊は完全に崩壊し、共に食事をした彼等の残留思念が彼女の内側に小縁着くのは簡単な事だった。

 

『嬢ちゃんは悪くねぇ、所詮俺達は道具だったのさ』

 

皆一様にそう言って彼女を励ましてくる。だが、どれほどそうしたとしても、短くも共に歩んで来た仲間の損失というものは辛く悲しいものだった。

戦場にあるありとあらゆる物を彼女は捉え、そして見る事が出来る。

それはとても便利な事であり、同時に一人の少女に対してこれ以上無い残酷な事だった。

 

何処まで行ったとしても、彼女は戦士ではないのだ。

 

同時にそれを既に知っているものがいた、彼女の力を引き出した者。他者と完全に理解し合った者であり、理解者を自らの手で亡き者にした者。

哀しみを背負い、ただ戦いに身を投じ自らの役割に徹した者。

彼こそが戦士であり、それ故に彼女を自らと比較した時彼女のその姿は戦士ではなく、寧ろ彼の良く知る者に似ていたからだった。

 

「これより我が艦隊は大西洋を南下し、南アフリカを目指す。同時に諸君等には今回と同様に、空中からの完全な奇襲を行ってもらう。」

 

偉そうに踏ん反り返りながら、ブリーフィングを始める司令官をフレイはジッと見つめ。

その男が何を考えているのか、それを見通そうとした。

人の意志を読むのでは無く、感じてしまうのだからそのノイズを除去した時、自ずとそれを読む事になる。

 

この目の前の男は特にコーディネイターに対する憎悪なども無く、ただ楽しんでいる。

その為だけに、何でもかんでも使おうとするのだ。戦争をゲーム感覚でやろうとする、頭のオカシイものだった。

 

だからこそ、投機的な作戦を立案する事を得意とする。

 

ブリーフィングも程々に、フレイの耳にオーブ陥落の報せが入るのはそう難しい事ではなかった。

どれほど通信が難しいとは言え、冷静な状況下での通信速度は1日を割り込む事はない。

 

格納庫で機体を調整していた彼女に、その報せを持ってきたのは、共に生き残ったカタリナだった。

彼女は経験値でもって、やはりフレイの僚機として作戦行動をとっていた。確かに、戦闘用コーディネイターとして彼女の反応速度は素晴らしいところがあり、実際にその戦果も素晴らしいと言えるだろう。

 

だが、今回のそれでカタリナ自身が実感した事は、己の実力不足であった。

その負い目から、何かフレイの気になっている事に関するものが無いかと、それで一目散に報せに来たのだ。

 

「そう……、マスドライバーは破壊されたって事は連合は目的を達成出来なかったんだ。馬鹿みたい。

でも…、朗報にはなったわありがとう。」

 

フレイがそう言うと、徐ろに何かを懐かしむように空を見上げて少し笑った。

カタリナは少し嬉しくなった。カタリナに感情は無い。

感情というものは判断を鈍らせ、誤った方向へと導き出すノイズであるとそう育てられてきた。

だが、目の前にいる存在がそれを否定していく…。

 

「さてとっ…、アンタもぼさっとしてないで一緒に食堂に行くわよ、少しでも取らないと眠り辛いし。あと、食事が終わったら私の部屋に来なさい……、いやまだ部屋割り見てなかったわね、ごめんなさい。」

 

何故謝られたのか、カタリナには分からない。しかし、目の前のフレイはどうやって部屋割りを知ったのだろうか?

カタリナの疑問は尽きることは無い、自分達のようなコーディネイターよりも早く状況を理解し、的確に攻撃していくそんな存在がいることを。

 

だからこそ、自分の存在意義を殺すような相手である彼女こそ、自分が着くのが相応しいとそう思うのだ。

命令によって彼女の部下となったが、それでもそれなりの自由意志はカタリナにはあった。

 

「つまらない事考えてないで、一緒に来なさいな。どうせ、直ぐにこの船から降りなきゃならなくなるでしょうし。」

 

そう言われながら辿り着いた先で、カタリナは彼女から手渡された。それは、別に特別なものではないが、だが贈り物ではあった。

 

「それ、アンタにあげるわ。大層なもんじゃないし、大事にしなくても良いから。」

 

手渡されたのはターコイズ。所謂トルコ石と言われる、良くも悪くも流通している宝石だ。

手に入る物の中で、さほど珍しくもないもの。

だが、そんなものは旅の護り石として嘗て商人には人気のあったものだ。

 

「コレを私にですか?」

 

そんな石の意味をカタリナが知っているはずもない、だがフレイだけが知っていればいいのだ。所詮は気休め程度、それだけで良い。自分勝手な彼女の自己満足なだけなのだから。

 

 

……

 

「立つ瀬も無いほどに追い詰められたことなど、今まであっただろうか?いや、ないなその様な経験は。」

 

ラクスと離れて逃亡する事、早一月近く。

彼は裏でプラントの内部を引っ掻き回し、ドレッドノートを始めとした様々な機体達を、連合穏健派ないし非戦派へとリークしていた。

 

少なくとも、プラントにおけるパトリックのような奴等の手に渡らぬように、そうやって動いていた。

勿論、自らの足跡を辿らせるよう小さくだが確実に、その形跡を残し少しでもラクスが逃げ延びる時間を稼ぐ為に。

 

「だが、それもこれまでか?」

 

次第にでは有るが、確実に狭まっていく包囲線。ラクスをその外に追いやる事に成功したところから、急速に其れ等は縮まっていた。

後は、彼の協力者である誰かがラクス共々ここから脱出するように仕向けるしかない。

他力本願ではあるものの、それしかシーゲルに残された道は無かった。

 

最後に残った隠れ家に潜みながら、どこからか流されてくる電波を古いラジオで聞きながら、娘の安全を知ることが出来る唯一の手段となっていた。

そこからは、悲しみに震える自らの娘の声が聞こえてくる。気高くも、民を慮り自らを騙る。そんな娘の声が声にならない悲しみが彼には感じられた。

 

「ラクス…、すまない。お前にこんな事をさせてしまうとは…情けない限りだ。」

 

そう言うと、どこからともなくやって来た従者であろう黒服の男たちが、彼を護るように取り囲む。

 

「君達も行き給え、今ならまだ間に合う。」

 

それに答えるものはいない、彼等は今までもそしてこれからも彼には着いていくつもりだろう。

だが、シーゲルはそれを許しはしなかった。

 

「では、最後の命令だ。敵に見つかるように、わざと出て行け。そうすれば…」

 

君達だけは助かるだろう。

 

「ラクスを頼むぞ。」

 

その言葉とともに、その場にいた者達は一人ずつ彼に小さく礼をして、姿を消していく。

その最後の一人がいなくなるまで、シーゲルはそれを見送るべくそこに立ち尽くしていた。

そうして暫くすると、彼は徐ろに電話へと向かって歩くと受話器を手にしてダイヤルを回した。

 

ジ〜ジ〜ジ〜

 

と3コール目に、受話器が上がる音がした。

 

「誰だ…いや、貴様かシーゲル…。」

 

「久し振りだな、パトリック。声を聞くのも嫌という感じだな。だが、少し聞いてはくれまいか?」

 

シーゲルは話を始めた。パトリックがやろうとしていた事を、それを自らが阻止しようとしている事を、後戻り出来ない道のすれ違いがあった事を。

 

「だが、貴様は私を裏切った。その報いだと言う事を充分に理解しているはずだろう。」

 

「だが何故、私の娘をも捉えようとしているのか?それ程までに、ラクスが怖いか?」

 

ラクスがいったいどういう存在なのか、調べれば自ずとわかるだろう。だが出生、その経歴も全てシーゲルの記憶の中だけだ。

 

「……」

 

「良いだろう、私は君に屈することは無い。私が死んでも、私の後を継ぐものが直ぐに現れるだろう。」

 

シーゲルがそう話すと、直ぐに電話は切られた。

そしてシーゲルはそれが起こると、自ら家の玄関前に椅子を置きいつ誰が来ても良い様にそこに座ると、その手に拳銃を握りしめた。

 

その1時間後、シーゲル宅に数人の軍人がなだれ込み数度の銃声が轟いた後、静寂がそこを包みこんだ。

 

 

 

 




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