機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第63話

 

そこは見知った格納庫の中であった、そこには髭を蓄えていた故ハルバートン提督の姿があって、すぐ近くにはシャトルが停泊していた。

ガランとした空間の中で、一際目立つのは搬入されたばかりの機材達。

 

少ない人数で其れ等の荷を動かしていく船員、その顔ぶれもまた懐かしくも、既に自らの手の届く範囲にないものばかりであった。

 

「ねぇねぇ、何してるの?」

 

下を見下ろすと、そこにはおさげの髪をした幼い女の子がいて、その子のその姿はヘリオポリスの避難民にいたような、そんな記憶もある。

ただ、それ程深く関わってきていないのだから、その子の名前がどんなものであったのかわかるものでもなかった。

 

「ねぇ、お姉さんはどうしてこんなところにいるの?皆のところに行かないの?」

 

軍服の袖を引くように、少女が指差すところには見知った上司。ラミアス少佐に、フラガ少佐の姿。

それどころではない、艦橋正規クルーの面々もいてこちらを見てニコニコとしている。

まるで、こちらを持っているかのように。

 

「一人だけ脱出しちゃって……、ねぇ恥ずかしくないのぉ?」

 

少女の声が少しブレるように感じると、次の瞬間それを見下ろせば少女の顔はブレて人体模型の筋肉部が露出したかのように、顔全体を筋組織が覆っていて、眼球がマジマジとこちらを覗いている。

 

それを捩るように振り払い周囲を、見渡すとあろう事か周囲にいた人々の姿が、まるで先程の少女と同じ様に筋繊維剥き出しの剥製…、いやもっと酷い。

あるものは焼け爛れ、あるものは破裂したかのような姿となりあるものは、骨まで見えている。

 

口を抑えて叫ばぬようにと、必死に藻掻くも一つの違和感に気がつく。

自らの手が赤いのだ、それだけではないヌメリテカリ濡れそぼり…血まみれだ。

 

「さあ……、一緒に逝こう?」

 

耳元でそんな声が聞こえた。

 

うわぁぁぁぁ……、ゆ…夢か…。」

 

ベッドからずり落ちるかのように、大声を出して飛び起きてみれば…身体中から脂汗が飛び出していた。

荒い息を整えながらも、辺りを見渡す。

佐官の個室…、自分等の若輩者には似つかわしくもないこの部屋に、ただ自分ひとりで眠りについている…。

 

アラスカから逃げ延びた後、自分に課せられたものは新造艦の乗組員達を練成する為の、所謂教官じみた役割。

所謂アークエンジェル級と呼ばれる艦艇、その乗員になる連中を訓練した。

数週間の地上勤務の後、何処かしらの艦に転属になるのではないかと、そう思っていたのだが…。

 

「まさか、こんな事になるとはな。」

 

思った以上に、自分という存在は軍にとって大きな物なのだという、そんな感想だけだった。

今の軍には、練度が足りない。

開戦からというもの、多くの犠牲を払ったつけが回ってきたとも言える。

 

促成栽培の軍人、やる気のない士官候補生達。主義主張ばかりが強い、ブルーコスモス主義者達…。

そんな者達ばかりが蔓延り、軍というものの体裁を保つのもやっとだというそんな実情がここ数週間で見えてきていた。

貴重な実戦経験者を、軍は閑職に送るなどと思っていない。だが、だからといってAAはアラスカとともに消えたというのに…。

 

「こんな夢を見るのなら……、私の罪悪感も割とまともなのかもしれないな。」

 

PTSD、それがいったいどの様なものであるのか、教科書の中では知っていた筈なのにいざ自分がそれに似た症状を発するようになるとは、夢にも思わなかった。

 

「今日は転属命令が下る日だったな、何としても隠し通さなければな…。あの娘にあったら何と言われるだろうな。」

 

自らよりも早くにアラスカから姿を消した少女、フレイ・アルスター。

彼女は今、連合の宣伝戦の一部としてその戦果を大々的にアピールされている。

 

それこそ、連合屈指のMSパイロット。

赤髪の戦乙女(ヴァルキュリア)と呼ばれるほどに、それが彼女の望んでいる事なのか、そんな事は無いはずなのだ。

汚い大人の世界の身勝手な行い、その傀儡としての姿に私は無性に腹が立つ。

 

そうして述懐している間にも、式典というものは始まる。

私は用意された席に座り、耳当たりの良い言葉が右から左へと抜けていくのを感じながら、登壇者の後ろ海に浮かぶ巨艦ドミニオンというAAと良く似た艦艇を眺める。

 

アレは、前に見たことがある。

それはAAを模した宣伝映像で現れていたそれだろう事は明白で、元よりAAはこれの為の布石だった事を暗示していた。

あの戦いも、何もかもが良いように使われるだけの…愚かな事だ。

 

「ナタル・バジルール少佐!」

 

「はっ!」

 

声に出しながら、儀礼的な行為を粛々とこなす自らを恥じる。こんな事をして何になるのか、今もなお戦場で散っていく生命を前にして、私は一体何をしているのだろうな…。

 

式典が終わると、早速出港する。

既に艦内の備品は揃えられ、後はここを経つだけだ。

だが、ここに来て大きなアクシデントに見舞われる、それは錬成不足という事実だ。

 

「貴様等!モタモタするな、そんな事では戦場では格好の的になるだけだぞ!」

 

この艦に任せられているのは、反攻の象徴と言う意味合い。

本来ならば前線に出そうなどという考えではないのはわかっている。だが、だからこそその様な為体では駄目なのだとしれ!

 

錬成をしながら向かうはビクトリア宇宙港、我々はそのまま戦いもせず宇宙へと飛び出すだろう。

積荷を乗せて、我々の役目を果たす為に。

 

 

……

 

あまり良くない香りが部屋中に充満し、頭を悩ませている。

地球であるのなら、こんなにも困ったことにはならないというのに、この代用コーヒーというものには風情がない。

それどころか、味気のないものだろう。

 

「……、うっ。換気してください…。」

 

部屋のドアが開くと、そこから現れたのはマーチン・ダコスタ。珈琲の匂いが充満したこの部屋に対して、いつも文句を言う彼は今回もまたその言葉から切り始めた。

 

「君はそれだけを言いに来たのかね?」

 

そうというと、回転椅子に背を持たれかけクルリと半回転のるように、ダコスタの方へと顔を向ける。

左目は潰れすでに見ることも叶わない、そんな軍人としてはもはや半分機能的に死んでしまった男…、アンドリュー・バルトフェルドは質問した。

 

「あ、いえ。隊長にお会いしたいという方をお連れしました。」

 

ダコスタがそう言うと、彼の後ろから一人の少女が姿を現した。ピンク色の髪も、凛としたその顔筋も。このプラントならば知らぬ人はいないと言われる。

今やプラント内では、追われる身となってしまった一人の姫君ラクス・クラインであった。

 

「ほぉ…これはこれはいったい何のご用で?。」

 

一人の軍人として、彼は彼女の処遇をどうすべきか考え始めた。と云うのも、彼は別にクライン派に属しているという訳では無い。勿論、彼の取り巻きの人間にどれほどクライン派がいるのかわかったものではないが、彼自身は別にクライン派でも何でもなかった。

 

彼は所謂どっちつかずの思想家であり、それでも戦争というものの中に身を置く人間としては、かなり異端な人物でもあった。

勿論終戦を考えていなかったという訳では無い、それでもどちらかの派閥に入ると言われれば嫌だと言うタイプの人間だろう。

 

「初めまして、私はラクス・クラインです。今日は、智将と名高いバルトフェルド隊長にお力をお借りしたく、こうして馳せ参じました。」

 

「ふぅん、僕にね。ねぇ、ちょっと聞きたいんだけれどどうして僕なのかな?もしかすると、君をザラ派に売るかもしれないよ?」

 

バルトフェルドが忠告するように言うが、ラクスの眼差しは虚空を称えるほどに何か濁っていた。

バルトフェルドはその瞳を覗くと、何やら背筋が凍るかのようなそんな感覚を覚えた。

そう、それはまるであのAAと戦った時のような。

 

「私には戦う力がございません。そんな時、ある人から聞いた貴方のお人柄を頼りに、このような場所に来たのです。勿論、その話を信じるだけで貴方のお人柄が分かるとは申しませんが、今この地において誰が最も信頼に足るか、その判断材料はそれだけでした。賭けをしたとも言えますね。」

 

「正直者だねぇ、僕は嫌いじゃないよそう言うの、利己的なものなしで僕に声をかけてくれるの。」

 

バルトフェルドにしてみれば、面白い相手が見つかったと言っても過言ではない。

彼は今死に場所を求めているとも言える。最愛の人物を無くし、その後の顛末を自分で決め兼ねているのだ。

 

「それで?聞かせてもらっても良いかな、君の描くこの戦争の顛末、そしてその後の世界を。」

 

バルトフェルドがそう言うと、ラクスの顔は少し強張り緊張の色が見える。

そこは年相応に、大人に対する警戒心というものがあるのだろう、だからこそ彼女は意を決して言葉を発した。

 

 

……

 

身体を包むかのように、自らが浮いているかのようにそう錯覚するのは、コレが夢だと言う事実だろう。

現に自分が宇宙に等まだ行っていないということを、フレイは自覚しているからこそその結論に至る。

 

『覚悟は出来ているのか…?』

 

ふわりと浮かぶその虚空の中で、声が響く。

いつも頭の中にだけ響いて来るその声が、目の前から聞こえてくるのだ。それも、彼女を気遣うように。

 

「覚悟ってなんの覚悟?まさか、キラを殺すっていう事?」

 

「それだけじゃない、友人を…知り合いをそれこそ君の思い出を…その全てを殺す事に他ならない。その覚悟が君には有るのかと…そう聞いているんだ。」

 

いつの間にか、意識の外から目の前に人が立っている。それこそ、身長はそれ程高くは無いもののMSパイロットなのだろう、軍人らしく割とがっしりとした体型だ。そして、見慣れない軍服を身に纏っている。

それでいて、その顔は何処か優しげなものでもある。

一度もその顔を見たことがなかった、だが何処かその顔を見ていると安心を感じた。

 

「そんな全部を掛けるなんて…そんな事…、でもやらなくちゃならないなら私は…!」

 

「それが嫌なら、俺は君を止める。どんな手を使ったとしても、君に友人殺しをして欲しくない。そんな事に君の手を汚させたくない。」

 

一方的な物言いだ、だがフレイはその言葉に少し引っかかった。

 

「私に必要だからって人の殺し方を教えたくせに…今更!」

 

「だからさ…、まだ間に合う段階で止めたい。そう思っていたとして、それは俺のエゴさ。」

 

自覚をしているからこそ、それをやらせたくない。男はそう告げると、フレイに一歩一歩近づいてく。

それに対してフレイは後退る事も出来なければ、前に進むことも出来ない。

 

「だからその時は、俺が代わりに…。」

 

「結局は私の身体を使うじゃない。」

 

それでも…、と男が口を開こうとしてまた知らない声が響いた。

 

「生易しいな、復讐をしたいのならば私が手助けをしてやらんでもない。」

 

「貴様は余計な口を出すな!」

 

目の前の男は激昂し、その声の方へと叫ぶ。

と、同時にフレイの意識は浮上してベッドの上で目を見開いた。

 

「………、変な夢。」

 

果たしてそれは夢か、それとも現実か?

だが一つ事実があるとすれば、次にキラと会うときは必ず敵同士という。そんな、避けようのないものであった。

 

 

 

 

 

 




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