機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第68話

 

ある一人の男がいた。

その男は実業家であり、スポーツマンであり政治家であった。その男には不思議な力があった。

その男の家に大々的脈々と受け継がれて来たそれがあった。男の産まれてからの使命は、その力を次代に継ぐことであった。

 

男はその力を有用した。人々の会話を、その思念を汲み取り次に何が起こるのかそれを予測する。

聡明な男にとって其れ等の事象は実に、単純かつ明快な答えが提示されている気がした。

 

ある時、一人の女性に恋をした。

なまじ恋などというものを知らなかった男は、その女性の気を引く事に一心不乱に奮闘し、そしてその心を射止めた。

 

男には妻子が出来た。

息子は愛する妻に良くにて、とても優しく温厚な性格に育っていた。

だが、男は焦燥にかられた。

息子は自分等に似つかずに、そのドジでノロマで自らの先を見通す事に嫌悪を抱き、その直感を信じない。

 

男は絶望した。

どれ程先を見通せるとしたとして、妻子の先を見通す事が出来なかった自分を恥じた。

男は息子にキツく当たった、だがそこに自らに対する嫌悪があった。八つ当たりなどして何になると。

 

男は一つの結論に至った、息子が駄目ならば自分が長く生きれば良いと、そうすれば息子の肩の荷も降りるだろうと。

少なくとも男は妻子を愛していた、そして男は自らの運命それに抗おうとしたのだ。

 

 

 

……

 

誰かの言い争いが聞こえる。

外界と遮断された一室から、その声が聞こえてくるとフレイは聞き覚えのあるトーンに一瞬心を高鳴らせるが、それを感情を抑えるように深呼吸した。

 

父親であるジョージは、彼女の目の前で死んだ。

意識を保ちながらも、列車の窓からそれを眺めるかのように自意識以外からその姿を眺めたのだ、だからこそ間違えるはずもない。確かに、ジョージは死んだのだ。だからこそ、この声の主に対する望郷にも似た感情は嘘のそれであった。

 

『白兵戦は一筋縄には行かない、君にはその経験がないだろう?』

 

『知ってるわよ!でも、私はこの目で見たいの相手の顔を!』

 

『そこまでして殺したいのかね?私にはそうは見えないがね。』

 

声の主はラウ・ル・クルーゼに違いない、何故ならばもう一人の声はフラガのそれであるからだ。

と、物陰からその方へと向かおうとした時、十字路の右側から誰かがやってくる気配を察知して、フレイは走りながらそれに合わせてタックルをカマした。

 

「うわっ!」

 

その声は聞き覚えのあるもので、尚且つ懐かしい声だった。

いつも自分と一緒に戦ってくれた人、共犯者とすら言える人物。それでいて、身体を重ね慰めあった相手…。

 

「キラっ…。」

 

相手を取り押さえながらそう口にするフレイは、目の前の相手を涙を流しそうになりながら堪える。

それに対してキラは、ただ呆然としながらも取り押さえられた中一瞬の意識の混濁とその声に、その人物の事を直ぐに思い出した。

 

「フレイ…、本当に君だったんだね。」

 

「そう、私だったの。私が、貴方達を襲っているのでも本当に殺したいわけじゃないの!」

 

何かに弁明するようにそういう彼女の悲痛な叫びにも似た声は、キラに彼女の戦う理由を推し量るには短過ぎる時間だった。

キラにとって、彼女は何かに取り憑かれている存在でその存在が彼女をその様にしただけに感じていたからだ。

 

「フレイ……、そうだムウさんが」

 

キラがそう言うと、フレイは何かを察したのように拘束を解くと、潤んだ瞳を向けながらキラとともにその方へと向かっていた。

進んだ先では負傷したフラガと、無傷のクルーゼが遮蔽物を隔てて睨み合っていた。

 

そんなところに出たのだから、2人は各々に物陰に隠れキラはフラガの直ぐ側へ行きフレイは人が変わったかのように、その手に拳銃を握りしめては安全装置を手慣れたように解除した。

 

「招かれざる客というものは、いつの時代もいるものだな。」

 

その一言から始まる、まるで芝居じみた演説が始まった。

この場所がどういった場所で、一体何が行われて来たのか、自らの正体とその先にあるもの。そして、キラの出生の秘密。

 

「誰もが望むだろう、君のようでありたいと!」

 

だからなんだって言うの、愛された愛されたかった愛してほしかった。そんな相手を見下すように物を言っても、所詮はその程度の事でしょ!

キラの出生の秘密なんてどうでも良い、だって彼は心が弱くて引っ込み思案で、女の子を見ると引き気味になっちゃうような、単なる男の子よ!」

 

「上から目線で物を言える、その地位に胡座をかいている貴様には言われたくないものだな、フレイ・アルスター。

ニュータイプ(以下NT)と言う人の上の存在だからこその、その傲慢さか?」

 

クルーゼはNTというものがどういったものなのかを知らない。

ただ、フレイとのMSでの鍔迫り合いの結果頭の中に誰かしらの残留思念の中に、誰かが憧れていた人の革新と呼ばれた者達のことを知ったに過ぎない。

その思念では、NTこそ人の進む道の先に存在していてその思念には、確かにその存在がいたと言う。

それこそが今のフレイ・アルスターと言う人物を評するに最も適した存在であると、確信していた。

 

「違う!人も動物もありとあらゆる全ては変わっていくもの、だからどんなに新しいものであってもそれは通過点に過ぎない。

例え、キラが人として完成されていたとしても、それは現時点でのものでそこは未来への通過点に過ぎないもの、だからキラは怪物なんかじゃない、単なる人間だしアンタも私も同類よ!」

 

NTなるものがどういうものなのか、キラにはわからない。当人たちにしか分からないものなのかも知れない、ただキラには分かったことがある。

それは、フレイはキラの事を決して化け物だとは思っていないということだろう。

 

「ならば、その人間の生み出した業を抱えて生きるがいいさ…。君の選択を楽しみにしているよ。」

 

クルーゼのその言葉は本心か、それとも単なる虚仮威しか?その言葉を最後に、彼はその場を離れていった。

 

「まったく…、親父も嫌なものを残していったもんだぜ…。イテテ。」

 

「ムウさん、あまり動かないで。」

 

フラガは、クルーゼがいなくなると軽口を叩きそれを心配するように、キラはフラガの手当をしようとする。

すると、フラガはかすり傷程度だからとキラに話す。

 

「もう、だいぶ遠くまで行ったみたい…。」

 

クルーゼが何処にいるのか、まるで分かるかのようにそう言うと

フレイは、二人に近づくとキラの顔を見る。

 

「ここで…、お別れね。」

 

そう言うと、踵を返してフレイは来た道を引き返そうとする。

 

「待ってフレイ!君は…、君も僕達と一緒に!」

 

キラはフレイを説得しようと声を掛けるが、フレイはそれに対して一つの答えを持っていた。

 

「ごめん、私ね。そっちにはいけないの…だって私。」

 

その言葉の後に付く名は、コーディネイターであるキラにとって、いやコーディネイター全般にとって最悪な名であった。

 

「私、今ブルーコスモスに所属している。そんなのが行ったところで白い目で見られるだけよ?それに…、私にはやらなきゃならないことがあるから。帰らなきゃならないところがあるから。」

 

「どうして君がブルーコスモスなんかに…。だって君は!」

 

キラのその言葉の前にフラガは何かを察した、そしてフラガはフレイに言葉を吐いた。

 

「人身御供ってか、おまえ自分を大切にしないやつだったんだな。」

 

「誰かがやらなきゃならないの、アレを止めるには外からじゃ無理。中から少しずつでも良いから、昔の姿に戻さなきゃならないの私にはその力があるから。」

 

その言葉にはフレイの決意があった、そして同時にこのどうしようもない戦争の解決の糸口が確かにそこにはあったのだ。

 

「あっ、そうだ。ラクスとバカガリによろしく言っといて、私はあんたらの一番の敵になるからって。」

 

そういうと同時に彼女は精一杯の笑顔をキラに託すと、もはやキラの制止の声も届かずただ前に進み続けた。

 

 

……

 

宇宙空間に浮かぶ船が対立し、そしてそれはすれ違った。

それぞれの全力を出し切った船は、今は羽を休めようとしていた。

 

「いやぁ、良いデータが取れましたよ。おかげで、取り逃がしましたが…、そういえばアルスターさんは何処に行ってしまったんでしょうかね?」

 

艦長席の隣で嫌味な言い方をするアズラエルに、ナタルは拳を強く握りしめた。

イライラとしつつも冷静に周囲の状況へと適切な措置を下すと、戦闘によって現れた被害状況が見えてきた。

 

「こちらフレイ・アルスター、帰還します。」

 

遅れて聞こえてきたのは、その声だった。

どうやら戦場の奥深くまで食い込んでいたらしく、帰ってくるのが遅れたらしい。

にも関わらず、MK2の手には何かが乗っていた。

 

「アルスター中尉、それはなんだ。」

 

ナタルが簡潔に聞くとフレイから返答があった。

曰く、コレは託されたもの。判断を下すのは私だと、ザフト内の連合へ加担する人物からそう言われて送られてきたのだと、そういう事だ。

だが、フレイの声には嫌に覇気というものが無かった。

 

戦線を離脱し安全圏に出たくらいだろう、ブリーフィングルームに彼女が現れた。その顔は疲れたようであったが同時にアズラエルに対して睨みつけるような目をしていた。

付き添いと監視の名目で、ナタルはアズラエルに同行した。

 

「僕に渡したいものがあるって言いましたけど、何ですか?ラブレターですかね。」

 

おちゃらけて見せるアズラエルは、ブルーコスモスの盟主。それに対して物申せる者は少ないが、フレイは目を見据えて言い始めた。

 

「このディスクです。中身は…たぶん、フリーダムやジャスティスと言う機体に搭載されているそれに関してだと思います。」

 

その言葉に、アズラエルは不気味な程に笑みを浮かべる。

そして、直ぐにでもそれを貰おうと手を伸ばすとフレイはそれに対して、ディスクを渡すが力強く手放さない。

 

「どうしました?」

 

「悪いようにはしないと、そう約束してください。

兵器転用なんてもってのほかだと思います、どうかインフラの方へと回してください。そうすれば、正攻法で相手を圧し潰せるんでしょ?」

 

アズラエルはその言葉に白けたような目をする。

だが、ここは営業を生業とする人物だ一定のリスクを鑑みて言葉を選んだ。

 

「それは顧客である地球連合に言ってください、僕がこの技術を公表した瞬間に飛び込んでくるのは、誰であれ連合でしょうから。」

 

その言葉にフレイは返す言葉が無かった。

そう、アズラエルは力があるとは言えただの一介の民間人に過ぎないのだ。

そして、その光景を眺めていたナタルはその光景の虚しさに、心が暗かった。

全ては自分達が不甲斐ないばかりに、このような事になっているという自責の念からであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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