AA艦内、特に艦橋内はどよめきに彩られていた。
「嘘だろ、すげぇよ。」
誰が言ったのかわからない言葉、しかしそれが現していることは、今更ながらに現実的な物とは思い難かった。
G兵器同士の戦闘など本来は想定外の事であり、最も中途半端な、性能をしている筈のガンダムが、潜入用と中長距離戦闘用とはいえ、〘バスター、ブリッツ〙を相手に一方的に嬲ったのだ。
しかも、その姿は先程ジンに良いように翻弄され、苦労して撃墜した物とはうって変わり操縦者が変わったとすら形容できる運動性、そしてコーディネイターを上回る反応速度から繰り出されるその回避マニューバ。
既に機体は限界性能に近いものを出していた。
「あり得ないわ」
艦長であり計画を牽引していた一人として、その機体の特徴を知っているものとして、そう言う感想を漏らしたがそれを衆人が聞くことはなかった。
このときの彼女のそれは、正しい。
もし、このときこの艦に反応速度を推し量るものがあるのなら、その数値は異常値を検出していただろう。
MSの各種センサーが反応する、1秒前にフレイの身体はそれを入力しているという事を。
そしてそれが、彼女にどんな悪影響を及ぼしているかと言うことを。
その時、ミリアリアが悲鳴を上げた。
「キラ!キラ!」
マリューははっとして彼女に問いただした。
「どうしたの!?」
「ストライクが、イージスとデュエルにおされています! このままじゃキラが……!」
ストライクとイージスの戦闘は、イージスにデュエルが加勢したことにより、その性能から来るハンデによってストライク敗勢へと傾いていた。
「ストライクの援護に集中して!」
「駄目です!本艦の武装では、精密性に欠けます!」
一方の状況が良い方に向かうだけで、全ての状況を知った風に思ってはならない。どれ程喜んでいようとも、所詮は機体性能が戦力の差となるのはこの時は微差であったのだ。
「―ガンダム進路変更!ストライクの援護へと向かっています!」
そんな時にそれを覆さんと、悪魔の名を冠したMSが戦場を横断する。
この時、ガンダムのコックピット内のフレイには、身体的ダメージが蓄積していた。
目は血走り、今にも気絶してしまうのではないかと、そう思うほどに肉体に掛かる負荷は体を圧迫し、彼女の肉体が軋み始めていた。
バイタルチェックは、本来ミリアリアの担当であるがこのときの彼女は、正規の軍人でない為それを怠らざるをえなかった。
だが、それでもフレイはこれがあっても無くても、戦おうという決意がその時彼女にはあった。
「はぁあああ!」
という、気合を入れるのにも似た声を出し、戦場をかけていく。
「――イザーク!そちらに敵が行きました!注意してください!!」
同時に、ザフトの方でもそのガンダムの脅威度が跳ね上がった。
最新鋭MSと同系統の機体が、同等の2機を相手に一方的に立ち回り、戦況を見ながら戦場を渡る。
それがどれ程の脅威か、このときのニコルの判断は正しい。
「なんだとぉ!!」
イザークにその通信が入ったときには、既にガンダムは目と鼻の先の位置へと移動していて、一瞬のロックオンアラートの後ビーム砲を射撃していた。
咄嗟に彼は機体のスラスターを全開にすると、遮二無二機体を離脱させ弾かれるようにビームの奔流から回避してみせた。
「ニコル!ディアッカ!貴様ら何をやっている!!」
そんな怒りにも似た声が戦場に響く、尤も通信回線を開いている相手にのみ聞こえるが、その声には焦りも入っていた。
余裕から出た訳では無いその言葉を吐いて直ぐ、彼は迫りくるガンダムを迎撃せんと機体を駆る。
「―させるか!!」
デュエルから放たれたビームの筋を、機体を僅かに動かしてバレルロールしながら回避しつつ、急速に接近してくるガンダム。
デュエルはそれを見て直ぐ様、接近戦の覚悟を決めスラスターを全開にし、相対するように機体を翻す。
イージスとストライクの戦闘に割って入る隙もなく、ガンダムはデュエルをまず仕留める為に、その盾がマウントされた左手に斬刀をダラリと持たせて機体同士が交差する。
一瞬、縦に抜刀したビームサーベルとレーザー斬刀が触れ合い、塗布されているビームコーティングが反発し、スパークが飛び散る。
互いにすれ違い、機体を立て直すと今度は弧を描きながら機体が接近し、サーベルと斬刀が接触し機体の間には斥力が生じて、スパークする。
弾かれるように互いの剣が反発し2振り3振りとしていく内に、耐Bコーティングが剥がれてくる。
斬刀は、熱によって赤熱していくが切断に時間がかかることを良いことに、右腕に所持していた突撃銃でコックピットを真正面から撃ち尽くす。
デュエルの内部はシェイクされ、パイロットであるイザークはその強烈な反動によって、胃の内容物を僅かに吐瀉する。
その隙を見逃すガンダムでなく、緩んだ力を柳のように利用し、忽ちデュエルの頭部を流れによって破壊しようと鋒が飛んでいく。
だが、それが頭部を破壊することはなかった。
切る寸前に、真横から飛び込んできたブリッツのトリケロスから発せられたビームサーベルを受け止めるため、サーベルの軌道を修正したのだ。
『仕留めきれないか、なかなかやるな。もっと君が鍛え上げられていれば、こんな戦いしていないのだが。』
「悪かったわね、こんな貧弱な身体で!」
彼女の肉体は決して貧弱ではない、寧ろ標準的なのだが声の主からすれば貧弱なのだろう。
「―キラッ!――さっさとやっちゃってよ!こっちもそろそろまずいんだから!」
「グッ、フレイ!なんで!」
焦りに焦っていたキラは、いきなりデュエルとイージスと戦闘していたところに、ガンダムが飛び込んできた事によって、思考の空白が出来た。
彼の脳はこのほんの一瞬の出来事で、焦りを切り替え眼の前の状況を的確に判断しようとした。
バラバラに撃っていたビームライフルは、その正確性が格段に上昇しイージスに搭乗しているアスランは、その豹変に戸惑いを隠せなかった。
「―キラッ!!おまえー!」
この後に続く言葉は、〘折角助けようとしているのに、どうしてそうやって拒絶するんだ〙と、彼は言いたい。
言葉足らずな彼らしい絶叫を聞き、キラはその声を怒りと判断する。
「僕はザフトになんか行けない!守らなくちゃならない人達がいるんだ!!」
5機による乱戦、単独行動の目立つザフトの戦闘マニューバに対して、ガンダムはストライクの動きに合わせるように、機体を動作させる。
ディアッカはその乱戦に介入する事が困難であると判断し、その乱戦に突入した。
この時、ストライクのエネルギー残量は少なく、ガンダムはその機体特性上、全ての機体の中で最も持久戦が得意な為に未だに半量のエネルギーを保持していた。
そんなMSの戦闘中AAで、チャンドラが計器を見なおし、叫び声を上げた。
「――前方ナスカ級よりレーザー照射、感あり! ロックされます!」
艦を無視して戦闘を行っていたモビルスーツに注意を集中していたラミアスたちは、その報告に青ざめた。
ナタルがそれに対して直ぐ様指示を出す。
「ローエングリン〟発射準備! 目標、前方のナスカ級!」
「待って! フラガ大尉の〘ゼロ〙が接近中です!」
それを制するように、ラミアスは言葉を放った。
「しかし、今撃たねばこちらがやられます!」
それは、そうだが戦闘に際して味方を信じられない行為というのは、逆に被害を増やす。
確実性の無い間にそれを行えばそれが広がることもある、しかしこれは二人共正しいものであった。
……
ザフトの軍艦、AAの前方に展開した軍艦ヴェサリウスの艦橋において、仮面を着けた男ラウ・ル・クルーゼは突然ハッとした。
そして、そのすっかり馴染んだその感覚を頼りに、彼は嫌な予感を感じ取った。
「アデス!機関最大、艦首下げろ!ピッチ角六○!」
彼の副官であるアデスという男に、クルーゼは咄嗟に命令を飛ばした。
レーダーに映る敵影はない、その突然の事に彼は反応が遅れた。
次の瞬間
「本艦底部より接近する熱源っ!―モビルアーマーです!」
「うおりゃあああっ!」
何処からともなく現れた、フラガの駆るメビウス・ゼロが声を上げながら、最大加速でヴェサリウスに迫る。
寸前でヴェサリウスのエンジンが轟音を立て、スラスターを噴射したが間に合わない。
ヴェサリウスは、果敢にこれに対して迎撃を行うが、それは後の祭り。
ゼロはガンバレルを展開し、次々に飽和攻撃を見舞うと次に機体本体に取り付けられたリニアガンによって、ヴェサリウスの機関を攻撃した。
ヴェサリウス艦内では
ゴゴゴ
と言う音を立てながら、艦が振動しその被害の大きさを物語った。
すれ違いざま機関部が火を噴くのを見て、ムウは
「おっしゃあ!」
とガッツポーズを作った。
ビリビリと響く、その爆音をその身に受けながらクルーゼは
「おのれ、ムウめ……。」
と唸りを上げた。
それとは無関係であるかのように、ヴェサリウスの外壁にアンカーを打ち込み、振り子のように慣性で方向転換した後、フラガはワイヤーを切り離し、素早くその宙域を離脱した。
激しい怒りに震えるクルーゼはその状況を冷静に分析し始め、そして命令を飛ばした。
「有りたけの推力で回避行動!敵の砲撃が来るぞ!!」
その声と共に、AA直線上から離れようとするヴェサリウスのすぐ近くを、巨大なビームの奔流が掠めた。
「くっ……、これ程してやられるとは!」
クルーゼはこの事態を鑑みて、1度撤退するようにMSに呼びかけるよう檄を飛ばした。
……
「フラガ大尉よりレーザー通信! 『作戦成功。これより帰投する』!」
AAの艦橋ではその通信により歓声があがる、それと同時に極めて冷静に艦長は次の手に撃って出た。
「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます!」
クルーに再び緊張感が走る、迅速な行動により速やかに次の行動ヘと移ろうとした。
「了解! ローエングリン一番、二番、発射準備!」
AAが強襲機動特装艦と呼ばれる、極めて特殊な艦級と言われる所以は、単にMSの運用に特化しているだけではない。
特装のその意味は、この試作兵器である〘陽電子破城砲・ローエングリン〙を指し示していた。
「――てぇッ!」
その合図とともに、直線上にある汎ゆるものを破壊しながら突き進むその威力は絶大なものである。
この時の攻撃によりヴェサリウスはその戦闘機能の半数を失い、AA追撃不可能な状況へと陥った。
そして、ザフトのMS部隊には撤退命令が飛ばされたのだ。
しかし、そんな状況でも直ぐ様撤退を始めるパイロット達ではなかった。
戦闘を続行していると、周囲が見えなくなる事もある。
別に彼等が独断専行しやすいたちという訳でもなく、単に状況が悪く、視野狭窄という誰もが陥る事態へと陥っただけの話だった。
その中でも、ニコルは違った。
「皆さん!撤退命令です!アスラン!直ぐにストライクから離れてください!」
「駄目だッ!俺にはやらなければならない事が!」
ストライク単機との戦闘とは違い、そこにはガンダムという機体が来たことにより、僚機がストライクを攻撃する事に許容しなければならないアスランは、焦りに焦った。
このままではキラを落とされてしまうのではないか?と。
それと同時に、ストライクを救援に来たガンダムを完全な邪魔者と認識し、最重要撃破目標に自らするなど、彼のキラに対する執念は非常に深い。
「ほらほらッ!こっちにも無線は聞こえてるんだから、さっさと引けば良いじゃない!負け犬さん!!」
「巫山戯るなよ貴様!!」
イザークもイザークで、ガンダムのパイロット、その挑発に乗る。
ニコルは呆れるばかりだが、このまま行けばヴェサリウスが撃沈される可能性もある。
事は一刻を争う事なのだ。
一方の余裕のできたAA側は、その艦内データからMSの現状の把握に努めていた。
「艦長! フラガ大尉よりレーザー通信『これよりMS隊の援護へ向かう!』です!」
「艦長、ストライクのバッテリー残量が心配です。1度、退避させるのも手だと、具申します。」
既に敵艦へのダメージが予測され、敵の撤退も予想に入られる程度に安定した戦況に、ナタルはそう言う。
フラガが彼等の支えている戦線へと赴けば、現在の戦況から一気に好転するのは確実であったからだ。
そしてそれは現実のものとなった。
「クソッ!キラッ!!………、邪魔をするなよ貴様!」
「邪魔するなって?冗談じゃないわよ、そっちこそさっさと後退しちゃえば!!」
アスランは焦っていた、そしてもう一機のガンダムの手によって引っ掻き回された戦況は、そこから好転することなく、ズルズルと平行線を辿っていった。
そして、そんな中で煌めく機体が1つ乱入した。
「よおよお、楽しそうにやってんじゃないの。1つ俺も混ぜくれませんかねえ!!」
軽口を叩きながら宇宙を切り裂き、一機のゼロがその膠着した戦況をAA
優位へと天秤を傾けた。
「MAなど、たった2機のMSだぞ!!」
そう言う言葉が混じり合うその時、ヴェサリウスから照明弾という形で、撤退の合図が出る。
「皆さん!撤退の合図です!引き上げるしかないんですよ!!」
「―クソッーー!」
その声が宇宙へと解き放たれ、ザフトのMS部隊はその足取りを止め、艦へと撤退を始めた。
その間も、追撃と称してフレイは攻撃を続けつつ、ゆっくりとストライクの傍へと寄り添っていく。
『鮮やかな引き際だな、感情は兎も角パイロットとしては優秀か。
フレイ、身体は大丈夫か?』
「ハァ……ハァ……、心配するくらいなら……、もっと優しくしなさいよ……。」
脂汗を流しながら、彼女は肩で息を切っていた。どれ程彼女の肉体に負荷がかかっていたのだろうか?
「ハァ……、キラ……、そっちは大丈夫?」
「大丈夫だよ…、それよりもフレイ。君の方こそ大丈夫?僕は後で良いから先にAAに戻ったほうが良いよ?」
そして3機は、ザフトのMSが撤退するのを見送ると直ぐ様機体を翻し、AAへと帰投した。
2機の帰投を確認した後、フラガはゼロを着艦させると直ぐ様二人の無事を確認する為に、自身から2機の方へと向かった。
一応の上司となるのだから、そういった労いくらいしなければと言う、細やかな考えだ。
しかし、初めにストライクの方へと向かうと、そこにはコックピット周りで塊を作ったら整備士たちの姿があった。
「おいおい、どうしたんだ?戦士の帰還だって言うのに。」
「ああ大尉、丁度いい所に。実はですね、坊主も嬢ちゃんも出て来ないんですよ。」
初陣で生死の危険のある戦闘を生き延びた、それだけでも褒められるべきなのだ。
それでも、きちんと出てこなければそう言うのすら確認出来ない。
「はぁ…、おいキラ・ヤマト。もう戦闘は終わったんだ、良い加減出て来いよ。」
そんな声と共にハッチが開くと手を震わせながら、自らの掌を見つめる少年の姿があった。
「よぉ…、良く頑張ったな。お嬢ちゃんも同じような事になってるらしんだ、お前から言った上げたほうが良いんじゃないか?」
軽口を叩くようにそういう彼の声を聞いたキラは、ハッとしながらコックピットから勢い良く飛び出し、フレイの機体へと向かう。
その後ろをゆっくりと着いていくように、フラガは進む。
「フレイ!大丈夫?」
………、反応がない。まるで生きていないかのようだ。
それだけでキラは彼女の安否が心配になった。
「フレイ……?―フレイ!」
矢継ぎ早にそう言うと、勝手にコックピットハッチを開き内部の彼女の安否を確認すべく行動した。
ハッチが開いても、ピクリとも動かない彼女。
暫くすると、音が聞こえてきた。
……すぅ……すぅ
という寝息だ。
「豪胆なんだか、図太いんだかどっちなんだかな……。いや、これは…、なんか違うようなものだな。」
フラガは真剣な眼差しに切り替わり、彼女の事を見つめた。
キラはそんな彼女が寝息を立てているのを聴きつつも、ゆっくりと椅子から外して彼女を医務室へと運搬する。
戦闘の結果AAは見事、殆どの損害無くクルーゼ隊に勝利したのだった。
一方、戦闘に敗北したクルーゼ隊の面々は意気消沈していた。
「今回の敗北の結果は、私の戦力分析のミスから招かれたものだ、皆済まないことをした。
次の戦闘はきちんとした準備を整えてから、行いたい。
パイロット各員は、きちんとした休憩を取るように。」
と、言ったクルーゼのそんな言葉も。吾輩者のパイロット達は重く受け止めた。
「今回の戦闘…、俺のせいだ。」
まず口火を切ってのは、アスランだった。
彼としてはもっと時間を稼げていれば、キラを連れて行く事だって出来たはずだ。と、そう思っているのだが現実そう上手くいくものではなかった。
「おい、アスラン。貴様、もしや自分だけのせいで負けた等と言う訳ではないだろうな?」
イザークは苛つきながらそう言うと、
「そうですよ、僕とディアッカだってガンダムを抑えていられなかった。僕たちが何とか出来ていれば、こんな惨めな事には…。」
「ソイツはそうだな、にしても。アイツ、本当に人間なのかよ一種の戦闘マシーンみたいだったぜ?」
ニコルとディアッカがそう言いながら、顔を青褪めさせていた。
「だが、俺がもっとストライクを引き剥がしていれば……!」
「―煩い! 貴様はいつもいつも!戦っていたのは、貴様だけでは無いんだぞ!!」
そんな具合に、仲間意識が強くなっていた。
団結力の少なかった彼等に良い具合にそれが伴う事ほど、恐ろしい結果はない。
彼等の戦力目は兎も角、パイロットとしての腕は確かなのだから。
と言うことでね、フェイズシフトダウンが無くなりました。
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