機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第69話

 

暗室の中、ディスプレイと〘にらめっこ〙をしながら、百面相している男がいた。

彼の名はアズラエル、世界有数の実業家でありブルーコスモスの盟主である。

 

この男が今目の前にしているのは、数時間ほど前フレイ・アルスターから齎されたものであった。

NJC(Neutron Jammer Canceller)

ザフトが地表地中深くに埋め込んだ、NJ(Neutron Jammer)それの効果を打ち消す装置である。

 

始めコレが齎された時、彼は狂喜乱舞した。

喉から手が出るほどに、核分裂炉を駆動させるには必要不可欠なものであり、コレが有れば地上の電力を回復させる事など造作もないものだろう。

 

だが、同時にコレを使用すれば核兵器も使用可能となる。

 

正直に言って、アズラエルにしてみればプラントに住まうコーディネイター達がどうなろうが知った事では無かった。

寧ろ、居なくなってくれても構わないとすら思えていた。

だが、同時にプラントという工場が無くなるのは些か嫌なものでもあった。

 

戦前、プラントに半依存状態となっていたプラント理事国は、プラントの利権を取り戻すべく今戦っているのだから、それが無くなってしまえば痛手どころではすまない。

国家財政破綻すら考えられた。

 

だからこそプラント本国への核攻撃など以ての外であり、それを考える一部の過激派の主張など聞く耳を持たなかった。

そう、核の威力を知らしめるにはたった1基の生贄さえ有れば良く、後はコレを如何にしてチラつかせるかで全ては丸く収まる筈なのだ。

 

だからこそアズラエルは考える。

コレを公開した場合どのような反響があり、どのような生産命令が下るのか。

まず、戦術核程度ならば許容範囲で確実に使用をするだろう。

 

そして、もう一つ重大な事があった。

コレをアズラエルに手渡したのは、フレイ・アルスターだ。

そう、アルスター(・・・・・)なのだ。

未だに権威主義が蔓延る地球と言う星で、一部地域に根強い影響力を持った人物だ。

 

もし、彼女が何の思慮も無くただの無垢な少女だったのなら、それは確実に利用できる道具であった。

だが、残念ながらそうではなかった。

今の彼女は、精強なパイロットであり尚且つアルスターを継ぐもの、当然それは周知の事実でありその為に余計な勢力が寄り付かない。

 

だからこそ厄介で、もし宣伝する能力が有ればアズラエルの抱きかかえるグループに大損害を出す可能性があるのだ。

なんと扱い辛い相手であろうか、だが残念ながらそれを選んだのはアズラエル自身なのだから同情の余地はない。

 

だからこそアズラエルは考える、自分への損害を最小限に尚且つ

軍の意向に沿うように誘導していくかを。

 

 

……

 

低軌道上で幾つもの星が瞬くと、数名若しくは数百名の生命が確実に宇宙の塵となって消えていく。

何としてでも本国へと部隊を送りたいザフトは、地球各地に残存する勢力のうち幾つかの戦力を宇宙へと戻そうと奔走するしていた。

 

だが、短期間の内に勢力を盛り返した連合はその物量に物を言わせ、ジブラルタル及びカーペンタリアの攻略作戦を立案していた。

この間の限られた時間で戦力を地上から宇宙へと引き戻すのには、並大抵の努力では足りず予定すらずれ込むことがある。

 

地上から宇宙に打ち上げられたばかりの者達には、気の毒ではあるがその時点で死が決定づけられている事もあった。

 

「総員第1戦闘配備、これよりカーペンタリア軌道上、敵物資集積部隊の掃討作戦を決行する。」

 

そしてそれは、見方を変えれば練度の低い部隊に実戦を経験させるにはまたとない機会であり、ドミニオンはその任に就いた。

大西洋連邦やユーラシア連邦など、所謂プラント常任理事国はその人口と言う武器から今はまだ、部分動員と志願兵を中心としている軍隊である。

 

艦隊運用をするにあたって志願兵を優先的に海上、及び宇宙へと優先的に配備していた。

だが、戦時急増である志願兵では自ずとその質は低下する。

実戦という経験値を稼ぐ場所での死のリスクの高さに、その急増の志願兵をすり潰すのには抵抗があったのだ。

そう言う観点から言えば、今回のこの作戦は非常に合理的なレベリングであった。

 

狩りにも例えられるような、この状況。

相手はコーディネイターであるが、宇宙機と地上機での扱いの違いを忘れているものも多い。

どれ程優秀といえど、忘れた感覚を取り戻すには常人であれば相応の時間が必要だろう。

 

「嫌な作戦ですね。」

 

ナタルの艦長席のコンソールには、その事に対して不満を口にするフレイが映っていた。

 

「だが、軍にとっては必要不可欠なものだ。余計な戦闘はせずに、練度の高そうな敵だけを相手にしてほしい。

それだけで、こちらの被害は少なく済むだろうからな。」

 

ナタルは淡々とそう語るも、その目にはフレイに対する謝罪の念が宿っていた。

やっている事は要するに手も足も出ない相手への、虐殺行為に近い。そんな事態に対し意気揚々と出てくるようなそんな精神異常を抱えているものがいない!等という事が言えないのが戦時というものである。

 

だが、知っての通り戦時の志願兵と言うものは相手への憎しみから志願するものが多い。

と言うことは、相手への憎しみを抱えているものが多数を占めることを意味する。

虐殺行為に対して同情を抱くものは少なく、寧ろそれこそが正常な空間となってしまった場合、その空間での世界は覆る。

 

ここ数日の間、フレイの下に着いているカタリナ以外の者達。

即ちは、ブーステッドマン達(彼等は調整中)以外の者達は入れ替わり立ち替わりで、その戦闘を行っているのだ。

練度は鰻登り、尚且つ復讐心を満たすことが出来るので士気もまた高い。もちろん、ザフトに対する殺意も同様に。

 

『寒い世の中だな、憎しみだけで始める戦いなんて碌なものじゃない。

君はもう分かっているだろうが、こんな事は間違っている。』

 

『でも、止められるわけないじゃない。私は単なる中尉…、立場は弱いのよ。』

 

『だが、それでも自らの家の力を利用するという手立てがあるという事を忘れてはならないぞ?私ならば、利用できるものは何でも利用するだろう。』

 

頭の中でフレイを励ますものや、もっと上手くやるだろうと言う諭す言葉も聞こえるが、所詮フレイはまだ子供である。

どれ程の物事を瞬時に理解できたとしても、それを活かすための土壌が不足している。

経験不足からくるものだが、それはもうどうしようも無い事だ。

 

戦争が終わらなければ日常は戻ってくることはない、ならば一刻も早く終わらせる為に出来る限りの事をしようと、密かに彼女は決意し己の抱えていた復讐心を忘却しようとしていた。

 

 

……

 

「キラ…どうかされましたか?」

 

エターナルの船内で、一人宇宙を眺めていたキラの直ぐ側にラクスが現れるとそう声をかけた。

周囲に人の気配はない、彼女単独でここへと来たのだろうということは、当のキラは直ぐに気が付いた。

 

「え……?うん…、ちょっとね。ラクス、君にも話しただろう?フレイの事…。」

 

「…ええ、お話しはキラから直接お聞きしましたから。」

 

フレイという名前が出た瞬間、ラクスは少しだけほんの少しだけ眉を潜めたが、宇宙をずっと眺めていたキラはその僅かな挙動に気が付くことはなかった。

 

「僕が…、人工子宮で創られた…モルモットだってことも…。」

 

キラがそう自虐気味に言うと、そのことに対して今度はラクスはあからさまに深刻そうな顔をすると、キラの直ぐ横に立って腕を絡めた。

 

「えっ!…、ラクス何をして…!」

 

「あら?いけませんか?こういう行為をする事に、忌避感がありまして?私は一向に構いません。」

 

ラクスは自らの欲望に忠実であった。

彼女にはライバルと言える存在がいる。それこそ、恋敵とも言える存在だが、それは今や遠くにいる。それこそ、今彼女がその心を向けている相手はそのライバルの方へと向いているが、寧ろだからこそ彼女は引けなかった。

 

本来ならば、彼女はそれ程前向きに恋愛をする者ではない、だが露骨に心を病んでいるキラを放置できるほど彼女は薄情ではないし、寧ろ守ってあげたいくらいなのだ。

あまりにも強力な相手に対し、怯んでしまっては彼女は自ら選択する力を失ってしまうという考えもあった。

 

「いや…でも。」

 

「私…、私はフレイ様ではありません。ですが、私は貴方をお守りしたいという気持ちは変わりありません。ですから、今はこうさせていただけませんか?」

 

グイグイと来るラクスに対してキラは拒否権を自ら手放した。今はこの温もりを感じていたいという、雄の本能もあったのかもしれないが、子供心にある安心を感じたかったのかも知れない。

何れにせよキラは悪い気はしなかった。

 

尤も、彼等がこうしている内に戦争というものはある種の局面を迎えているのだが、この時の彼等にはそんな事等知るよしも無かった。

 

 

……

 

ダンっ!!と言う音と共に、何かを床に投げつけては己のその理解不能な出来事に対する整理をつけようとする。

だが、そんな事等何になるとその幻覚は日に日に大きくなっていくのだ。

 

「悪女め…、私に取り憑いて何をしたい!」

 

夢の中で彼は囁かれていた。

戦争などと言うものに、心底どうでも良いという感情を彼が抱いていることを。

本当は目の前にいる存在を助けたいと思う、狂い切れない自らのその心を。

ああなりたいと、フラガに対する嫉妬にも似たその感情のことを。

 

その黒い肌の少女は、エメラルドの瞳を讃えるように彼を真っ直ぐに見つめては、彼に語りかけてくるのだ。

 

『貴方にも護るものはあるのでしょう?どうして、その彼に対して護ろうとしないの?そうすれば、貴方はもっと強くなれるのに。』

と、

 

護りたいもの、彼にとってそういったものは極力排除したつもりでいた。

だが、唯一の肉親、いや親類とも言える一人の少年の事を思うと何故かその怒りが馬鹿らしく思えてしまい、ますます彼は怒りをぶち撒けたかった。

 

彼がどれ程人類を憎もうとも、どれ程嘲笑おうとも、音の優しい彼にとってそれは完全に憎む事が出来ない。

中途半端な己に、彼は程々嫌気がさしてしまうほどに彼は自らの深層心理を下してくる、その褐色の少女が怖かった。

 

 

 

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