機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第71話

 

それは突然の出来事であった。

地球軍が占領したボアズから艦隊を移動させ、それをヤキン・ドゥーエと言うザフト方の要塞へと差し向けようとしたとき、一条の光がその艦隊を呑み込んだ。

 

プラント攻撃の要となるその艦隊は、一瞬の内に消し炭となり宇宙の塵となった。

 

ちょうど月面とヤキンの中間にいたドミニオンの所属する艦隊は、その光景を横合いから観ることとなった。

宇宙を一直線に進む、巨大な光がその艦隊を飲み込んだ瞬間にナタルは少しだけ頭に痛みがチクリと響いたような気がしたが、そんな事は直ぐに忘れてしまう。

 

「前に進んじゃダメ!」

 

そんな事よりも、そんな事態が始まる前に艦橋へと突撃してきたフレイの方がもっと、周囲に与えた影響が大きかったからだろう。

 

「人の……人の意思が…溶けて…溶けて…、全滅じゃないけど…でも、こんなのって…。」

 

何が起きたのか、NJの散布されていない空間の中で無線も大混乱の中そんな事態をまるで把握するかのような言い方は、周囲から見れば奇異のものだった。

だが、ナタルはそれを見て何かしらの重要な事が起きたのではないかと、そう判断された。

 

「アルスター中尉!フレイ!どうした!」

 

それは心からの言葉だった。寧ろ、状況の把握よりもフレイの事を心配していたということでもある。

だが、周囲にそんな感情を剥き出しにするような人物だとは露とも思われていないナタルがそんな事を言うのは、珍しく映った。

 

フレイは頭に手を当てながらその場に蹲り、宙を漂っている…。どんな影響があるのか、それは未知数であるがただ確かな事は良くない状況であるということだった。

 

「何をしている、早く医務室に!」

 

柄にもなく慌てる彼女の姿を横目に、アズラエルは一瞬驚いていたが次には笑みを浮かべていた。

 

 

……

 

連合の艦隊の被害の集計にドミニオンはその場から動く事が出来ない。

それは仕方の無いことだろう、なにせドミニオンいやAA級の艦艇はその形があまりにも特異なものであるからだ。

それ故に、ドミニオンは再集結地点の目標となっていた。

 

ナタルは短時間、それこそ数十分程度てあるがその時間を休息に当てるようにすると、急いで医務室へと足を向けた。

それは彼女がフレイの事を心配しての事であり、所謂職権乱用にもなるのだが、厳格な彼女にして非常に珍しいものである。

公私混同となるのだが、彼女にとってフレイはもはや他人ではなかったという事でもある。

 

「失礼する。」

 

艦長であるが傷病者は丁重に扱わなければならない、特に軍艦内の規律に関してはこの場は割と階級に左右されない場所である。

異常のない者は、ここでは邪魔者だ。

 

「おや、艦長どうかされましたかな?」

 

怪しげな白衣を着た医者たち、彼等は軍属ではあるがナタルに命令権はない。所謂アズラエルの取り巻きであるからだ。

それでも、階級紙をなさないというわけでも無かろう。

 

「アルスター中尉がこちらに運ばれたはずだが?何処にいる?」

 

「あぁ……、それなら。」

 

嫌なものを見るようにその方向へと目を向けると、ベッドの端に足を組みながら座り胸元で腕を組んで、まるで周囲の医者を睨みつけるようにしているその姿は、まるで男だ。

 

「艦長、彼等に言ってくれないか?俺はモルモットではないと。」

 

その言い方は聞いたことがある。そう、AAを救おうと戦闘を続けていた頃のフレイのそれににているのだ。

それこそ、纏う雰囲気はそれそのもので人が変わったようである。

だから、ナタルはその言葉に乗った。

 

「彼女の言う通りだ、アズラエル氏に何を言われているのか知らないが、この艦内でふざけた事をやっているのなら即刻叩き出す。」

 

これも脅しにならないようなものだが、実際反乱罪が適用出来るのならば彼女のその判断も可能だ。

尤もその場合は最終的に彼女の処罰が妥当であるか、軍事法廷が開かれるだろうが現状錯乱した相手を放逐したとでも言えば辻褄は合う。

 

それを恐れたのか、彼等はそそくさとその場から出て行った。軍医なのだからここに常駐するべきであるのだが、所詮はアズラエルの腰巾着である。

最初から、軍医の仕事などしたくもないのだろう。専ら人体実験を生業としているような連中なのだから。

 

「それで、貴官は一体何者なのか話をしたいところだが……、フレイは無事なのだろうな?」

 

「無事さ、少し精神的に参ってしまっているから俺が表側に出て、連中を留めていたに過ぎない。」

 

その声は落ち着き払っている。まるでこの出来事が既に決まり事であったかのように言す様子に、ナタルは苛立ちを覚えていた。

 

「では聞くが、お前はなんだ?それと、彼女は一体どういう身体になってしまったのか?彼女は…、生き残れるのか?」

 

この子は(・・・・)生き残れるさ、俺が保証しよう。何より、生き残らせる何があっても。」

 

それを聞いてナタルはホッとしていた、自分でも驚くほどに誰かに執着しているのだと思いながら。

だからこそ自分が辿る結末を聞こうとはしない、自分がどうなろうともフレイが無事ならばと。

 

「悲しむと思う。だがな、そうやって悲観するよりも寧ろ前向きに足掻いてみたほうがいい。そうすれば、自ずと奇跡が起こるかもしれないぞ?」

 

「奇跡か…、もしあるのなら見てみたいものだな。お前はなんなんだ?」

 

奇跡など信じるに値しないものの筈であった、だが彼女にしてみれば既に幾つもの非現実的な出来事が起きていた。

故にただ不可解なものを信じる土壌が出来ていた。

 

「俺はそうだな奇跡の産物のようなものさ」

 

抽象的な者が抽象的にそう言うが、ナタルにはどうでも良い事だった。ただ、目の前の少女こそ生き延びて欲しかっただけなのだから。

 

 

……

 

プラントへの連合からの核攻撃を防いだ、ラクス率いる3隻同盟は目の前に起きた惨状を目にして絶句していた。

ジェネシス。その破壊力は想像以上のものであり、そんなものが再び使用されればどういう結果が待ち受けているのか、簡単に理解できてしまった。

 

そこから判断するに、如何にして効率良くザフト防衛部隊を突破して、尚且つジェネシスを破壊するのかその最終決定が採決された。

ミーティアを使用した、フリーダム及びジャスティスによる戦術的奇襲攻撃、これによって敵陣を突破する。

簡単な事だが、それに見合うほどのパイロットでなければ宝の持ち腐れというものだった。だが、現実にそのパイロットがいてしまった。

 

ミーティアの最終チェックは各部門の人間が行っているが、それでも人手が足りずそこに、手が空いていたニコルが紛れていた。

直ぐ近くにはキラの姿もあった。

 

「本当に…いいの?」

 

「え?どうしたんですか急に。」

 

互いに作業をしながら軽く話を始めた。2人は別に仲が良いという訳では無い、だがだからこそ遠慮なく話を始めることが出来る。

 

「だって、君にとっては家族を…殺してしまうかもしれないんだよ?」

 

「まあ、そうですけど。でも、僕は自分の信じるように戦おうと思っているんです。あんな兵器、無くなってしまったほうがいい、どんなに嫌でも大量殺戮を赦してはならないんです。

じゃないと、僕は何のために戦争しているのか分からなくなりますので。」

 

そんなものなのだろうか、家族とはそんなに軽いものなのだろうか?

キラにはわからなかった。

父と母は実は義理の関係で、自分は完全なデザインベイビー。そんな自分が迷っている事を、さも当然のように言う彼にアスランとは違う何かを感じていた。

 

「スーパーコーディネイターでしたっけ?でも、実際は僕なんかよりも悩んでるみたいですし、そんな変わり無いですね。」

 

「え…?」

 

会話の内容がいきなり変わるが、ニコルがそう言うとキラは何やらおかしな感覚がした。

お世辞だろうか?だけれども、本心かも知れない一縷の望みすら抱く。

 

「人間なんてナチュラル、コーディネイター関係なく大量破壊兵器を使うし、小さな事で悩んだりする。じゃあ、こんな人間の中で特別って思うほうが、馬鹿馬鹿しくないですか?」

 

「……、そんなものなの?」

 

悩み事が一気に解消されたようだった、彼の言うことに一理あると思ってしまったから。

 

「そんなものですよ、さて次のタスクに行きましょうか。」

 

会話は弾まない、だが時間はしっかりと過ぎていく。

決戦までは既に秒読みに入っていた。

 

 

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