広大な宇宙その中の一角に存在する砂時計型コロニー群、プラントを背にそれを護るかのように設置された、小惑星改造型宙域要塞、ヤキン・ドゥーエ。
それを目指すように小粒な点々が、それぞれ列をなしその宙域へと前進して行く。
次第に近づいて行くと相対速度を合わせるように、徐々に要塞に対するその表面積を増やしながら半包囲するように要塞に展開していく。
岩塊に紛れながらも、その運動をするにはそれなりの練度が必要であるが、促成でありながらも上手く立ち回っている。
昨日、突如として主力艦隊を襲撃したジェネシスから発射されたγ線レーザーによって、その半数を死に至らしめられた連合は残存艦艇を纏め上げ、そのコントロール施設と思われるヤキンへと取り付いた。
戦力比は地球軍4に対してザフト1、戦力としては地球軍が圧倒しているものの、要塞への直接攻撃に対して4倍という数字はあまりにも少ない。
最低でも3倍の数を要する要塞攻略戦は、正規のそれも損傷艦艇が無い状態でのそれであり、疲労困憊の部隊すらある地球軍の戦力は実質3倍程度であった。
それを穴埋めする為に、核兵器を要するピースメーカー対が再度敵地に対しての核兵器投入を行なうことを前提に作られた作戦は、それを如何にして護り切るかにかかっていた…。
対して防衛側であるザフトは、連合の戦力配置を未だに測りかねていた。
一見すれば艦艇の総数は並列的に置かれているように見えるが、その実連合の艦艇はMS運用能力が限定的な物を含めた混成部隊。
即ち、全ての艦艇が一律な性能ではないということである。
例えばMS運用能力が低ければ、逆に対艦対要塞戦力としては純粋な砲力が高い場合もあるのだ。つまり、後方支援艦としては非常に厄介な物である。
従って、ザフトは戦力の集中をある種諦めており、必要な駒を必要なところで出す事を強いられていた。
コレが防御と攻勢双方の難しいところである。
一点に戦力を集中させ、尚且つそれを隠匿出来たほうが勝つことが出来る。それが、要塞戦だ。
……
2度のジェネシスの発射によって戦力の低下した地球軍、その中で尤も重要な立ち位置となっていたドミニオンは、その戦力を全力投入し戦線を構築せざるおえなかった。
「アルスター中尉、聞いているか?」
艦長席でコックピットに座るフレイにそう言うナタルは、何処か心配そうな顔をしながらも頼りにしているという風に、フレイに話を振った。
ちょうどその時、席を外していたアズラエルの隙を見計らってナタルはフレイに一言話した。
「ピースメーカー対はあくまでもプラント本拠地を狙うつもりだ。それが理事の考えなのか、それとも奴等の独断なのか分からないが、我々の目標はあくまでもヤキン要塞だ。
だから、私の言いたいことはわかるか?」
「停めるために何やっても良いって事でしょ?この通信、記録されてるし艦橋の連中も聞こえてると思うけど、そんな事話してもいいの?」
「今更気にしても仕方あるまい、それに私は軍人だ。大量虐殺者ではない。」
既にナタルとアズラエルの関係には溝が出来ていた、何より二人共互いのやり方が気に入らないという、この狭い艦内で派閥が出来ているのがその証拠であり、艦橋はナタルが掌握していた。
厳しくも、その指示は的確だったからこそ信頼関係を勝ち得たというのだろう。
機械的に捨てられるような事はないという判断が、艦橋にはあった。
「そう…、わかった。じゃあ、私は私の仕事をしてくるけど…皆にも言っておいて?死なないでねって。」
「あぁ、分かっているそちらもな。では、頼むぞ。」
そう言い終わるとモニターを消す。するとちょうど良いタイミングでアズラエルが入室するのだが、そのタイミングはまるで計ったかのようだ。
ナタルはなんとなくではあるが、アズラエルが来るような気がした。だからあえて言葉を、飛ばしたのだ。
「これより戦闘に入ります、念の為安全な場所への退避をお願いしたいのですが?」
艦長であるから、軍属ではあるものの一応の民間人であるアズラエルにそう諭す。
「僕はね、縮こまってガタガタ震えてるのは性に合わないんですよ。何より、やり返せるチャンスなんですから、こんな特等席から出るなんてとんでもないですよ?」
そして、艦隊の時計が合わさり。
作戦が始まる。
各艦艇の砲門が開き、ミサイル群が飛び始めザフトの対物防御網へ穴を作るために次々と飛び込んでいく。
それと同時に、ビーム砲の嵐が要塞へと殺到しそれへの反撃が飛び込んでくる。
戦闘の初めには、艦載機を出していない。
こんなところで出したところで、推進剤もバッテリーも持ちはしない。
未だ、有効打のないままその距離は戦闘距離へと近づいて行くと、そこからMSの発艦が始まった。
……
連合とザフトの戦闘宙域から少し離れた場所に、三隻の軍艦。AA、エターナル、クサナギの姿があった。
彼等は戦闘に参加するような形ではなく、寧ろ戦闘の行方を観察するように、その船体を戦場へと向けていた。
「キラ、聞こえますか?」
エターナルの艦橋で、指揮官席に座り前面に大きく映し出されたフリーダムのコックピット、その中にいるキラへとラクスは声をかけた。
「うん、聞こえてるよ。」
「ミーティアはフリーダムとジャスティスの為に創られた兵装ですが、小回りはあまり効きません。もし、その様な相手が出てきたら。」
逃げてくださいと、ラクスはハッキリとキラに言った。
小回りの利くような相手、それはつまりはMSではあるが普通の機体がその様な事を出来るなど、通常は想定していない。
ミーティアは、エターナル前方側面に装着されている対艦砲兼用のアームド・ベースでありフリーダムとジャスティスの火力及び、機動力を戦場で十全に発揮する為に開発されたものである。その機動力は戦艦に使用されているエンジンを利用することにより、莫大な推力が得られる。
そんな存在に近づける存在はいないだろう。
だが、世の中には例外というものがいる。
「ありがとう…、そうだね。確かに、彼女ならやりかねないからね。アスラン、聞こえてる?」
「ああ、こちらも準備は出来ている。だが、本当にそのアルスターは、お前の言っているような存在なのか?」
キラが話した内容は、フレイに関する事だろう。
彼女がどういったものなのか、何が彼女を変えたのかそれは分からないが、彼女が口にした言葉。
それの意味がまさしく、彼女の言った通りならば今までの出来事も合点がいってしまうのだ。
「たぶんね、彼女もそう言ってたし…でもたぶん僕達のやろうとしていることだって分かってる筈だから。
助けになるかもしれないし、その時は攻撃しないで。」
「だが、もしこちらを害そうとするのなら、容赦はしないそれでも良いんだな?」
それは戦場でのあたり前のことである。
本来敵対している筈なのだから、そうならないのは逆におかしい。寧ろ、こうやっている事自体奇跡的な出来事なのだから。
「…うん、たぶんフレイも分かってると思うから。」
キラは気がついているだろうか?彼がフレイという名を紡ぐ度に、ラクスは少し悲しそうな顔をする。
彼はラクスの事をあまり見ていない。寧ろ、フレイの事ばかりを考えているということを無意識に、そうしているのだと。
「皆様、ご武運を。」
その言葉と共に、各艦からMSが発艦していく。彼等歌姫の騎士団は、この過ちの戦いの中でただ前を見据えて表舞台に立つ。
自らの選んだ選択肢、それが正しい道だと信じて。
……
その日、戦いの始まる日。
クルーゼの心は何故か、軽かった。仮眠の中にと現れる褐色の女に辟易するが、その女の言う事も一理ある。
もう時間もないのだからと、その言葉に肯定も否定もしなかった。
憑き物が落ちたかのような感覚と、この戦場におけるザフト連合の動きとまるで関係があるかのように、彼は心穏やかであった。
そもそも、戦争などという事象は別にどうでもいいのだ。彼はただ普通に暮らしたかっただけである。
しかし、己の身体の宿痾に苛まれた日々が彼という存在に、普通に生きるという選択肢をなくしてしまった。
それ故に己を生んだ世界を恨んだりしたものの、それも今日が最後の日になるということが、なんとなくわかってしまってからは何もかもがどうでも良くなってしまったのだ。
唯一の心残りは、自らの唯一の身内である弟分とも言えるあの子だけだが、それも友人に託したのだからもう手は離れている。
「人というものはこれ程までに愚かなものか…。」
確かに種は蒔いた、だがそれをこのような形で芽生えさせる事になろうとは、クルーゼは考えもつかなかった。
結局、人というものは数ある選択肢の内尤も安易なものを選ぶのだ。
互いに勝つ為に、大量破壊兵器に手を出すのは当たり前である。だが、それを耐えることが出来なかったというところが、実に愚かしいものに彼には見えていた。
そして同時に、自らがまるで他人事のように其れ等を見ると言う、なんとも馬鹿げた立ち位置にいようとする己の矮小さにも笑いがこみ上げてきた。
乾いた笑いが周囲に響くが、それを聞くものはいない。
たった一機のMSを手渡され、これで戦況を支えろという馬鹿げた事を言われ命令には従うものの、やる気はとんと無かった。
常用していた薬も底をつき、今や自らの死を受け入れるばかりであるが、身体が軽い。まるで何かから解き放たれたかのように。
だからただ願う事ならば、あの少女ともう一度話をしてみたい。人の進む未来を信じるあの少女に。