パタパタ、タタタ。
小さな子供の手を取り、一人の女性が道を歩く。
いや、よく見れば一人ではない。無数の、それこそその周辺に住まう女性たち。母親達が、子供の手を取り道を一方向に向けて歩いているのだ。
それも、皆一様になって同じ様な風体であり、その顔は当に焦りから来るものだろうか、冷や汗が流れている。
そんな親の心配を他所に、子供は無邪気にしている。
「ねぇママ、何処に行くの?」
子供は何をしようとしているのか、まるでわかっていない。ただ、近所の友達も皆同じ方向に歩いているから、なんだかピクニックに行くのかとそう思っていた。
とある女の子が上を見上げると、
キラッキラッ
と、何やら
それは眩い光を発して、消えては点いてまた消える。それは非常に美しい光景であった。
いつも見ている夜空の星よりも綺麗に、光っている。
そして、そんな事を親に知らせたい為に子供は口にそれを出した。
「ねぇママ、お星さま!綺麗だよ!」
それを聞いた母親は、ゆっくりとその方向を見ると目を見開いて固唾を呑んだ。
そして、子どもを握る手に僅かに力が入ると子供はそれを痛がった。
ハッとして、母親は子供に謝ると今度は子どもを抱っこして、もう少し早く歩くようにした。
そこから少しずつ離れていくと、その場所の全容が見て取れるであろう。
砂時計型の巨大な、宇宙居住施設。
所謂プラントと呼ばれるコロニーの一角である。
既に、戦闘は始まり人々にその光が見えているのだ。
光が明滅する事に、何人か或いは何百人かの生命が確かに宇宙の塵となっているのだ。
だが、少女はそれを知らない。知ったとして、そんな事直ぐに忘れるだろう。例えその光が、自らの父親の発する生命の光で有ろうとも…。
……
幾つもの光を後ろに置いて、ただ戦場を駆ける一陣の光となって一機のMSが要塞へと突き進む。
その姿は傍から見れば、彗星か或いは流星のようだ。
近付く敵を薙ぎ倒し、阻むものを撃ち落とす。
必要最低限の回避行動と戦闘は、他の追随を許さぬ一方的な蹂躙劇だ。
そのエンブレムを見ればザフトは震え上がり、連合は士気旺盛となるだろう。
赤髪のヴァルキュリア、又は啓示の乙女と呼ばれるその者の名はフレイ・アルスター。
現アルスター大公であり、連合随一のMSパイロット。彼女の進む道は険しく、だがその通った道は人々の先導となって連合の部隊が雪崩込んでいる。
『啓示の乙女だとさ、どう思う?』
『乙女であるのはそうだろう、それよりもそれはセクハラに値するのではないか?』
フレイの頭の中は賑やかで、まるで現場を見ていないかのようにリラックスしている。
いや、軽口を言っているのが癪に障るのが当の本人なのだが。
『煩いわね、黙ってて!』
彼女にはそんな余裕はない。
単に気配を察知してそれを避ければ良い一対一の戦いとは違い、大規模戦で尤も注意しなければならないものは、所謂流れ弾と呼ばれるものだろう。
それはどの方向からやってくるということも無く、汎ゆる方向から飛び交うのだ。
特に宇宙での戦闘であるのだから、物理的な抵抗もなく炸裂した物は一切減速しない。故に、幾ら装甲強度を上げようとも大型のスペースデブリに衝突すれば命は無いのだ。
勿論、NTというものにはこの空間の汎ゆる物の動きを見ることが出来るから、そういったことも無いのだが彼女の進む道は、他のMSの通り道。
もっと言えば、更にそこからメビウスが通るのだから彼女が落ちるわけには行かないのだ。
「彼奴等も死にたくないみたいだから、楽な道に行くけどさ!」
不意を突くように攻撃が来るが、それをアポジモーターを少し明滅させるだけで避ける。
反撃の一撃でそれを葬り去る。
既に折り返し地点となった位置、ここが帰還限界点である。
これ以上進めば、帰還は極めて難しい。
と、そこで彼女の意識の外で何かが光速で動いているような感覚がした。
いや、実際に動いている。
その意識外の出来事を視認しようとその方向を見つめたとき、彼女の身体は咄嗟に動いた。
何かが攻撃を始めた。それも、連合、ザフト問わずに。
無差別なそれは、ピースメーカー隊へもその魔の手を差し伸べようとしている。
そのビームが降り注ぐ中、必死に前進しようとする彼らを護るために、フレイはショットライフルを最大出力で撃ちはなった。
すると、ビームとビームが重なり合いその手前でエネルギーが対消滅する。
相手は誰かなど、彼女は直ぐに分かった。キラそしてアスラン・ザラだろうと。
それと同時に、護衛の任務を彼女の副官であるカタリナへと引き継ぎを行った。
並の相手では敵わないという判断であった。
……
「後の護衛をお願い、私は奴らを食い止めるから。」
カタリナは通信機越しに聞こえるその声を聞き、判断を下した。
「了解しました。お気を付けて。」
彼女の精一杯の励ましの言葉は、素っ気ないものである。
彼女は、感情というものが希薄であった。なにせ、実験動物のように産まれ、育てられてきたのだから情操教育には最悪と言えよう。
そんな彼女の遺伝子は、服従遺伝子の関係上ナチュラルに危害を加えられないようになっていたが、そんな物は昔に切れている。
いや、昔と言ってもそれ程ではないがちょうどフレイとであった頃まで遡る。
その日彼女は夢を見た。
褐色の少女が現れて言ったのだ、
『貴方は貴方の意思で生きていけるのよ?』
と、その瞬間にその枷は外れたのだ。
始めそれは戸惑いの中にいた。もし知られればどうなるだろうかと、もしかしたら処分されるかもしれないと、それをひた隠し今まで戦ってきた。
だが、今ここでその真価が発揮される場面である。
どうやら、カタリナが口を噤んできたものは既に彼女には見破られていたのだと。
実際に、ドミニオンがメンデルへと向かった頃には既に知っていたのだろう。なにせ、MS隊の指揮を任せられたのだ。
ナチュラルに対して絶対服従の存在がそんな指揮、出来るはずもない。
それを知って敢えて、それを行っていたのだと。
だから今、その期待に応えなければならない。
例えこの身が滅びようとも、彼女から託されたこのミッションをやりきらなければならないのだと。
その熱意で、彼女は初めてナチュラルのパイロット達へと命令を下した。
「これより部隊の指揮は私が行う。各員、訓練の成果を見せてみろ!」
その言葉は、彼女の決意の表れであった。
……
幾つもの敵を超え、向かってくるものに容赦はせずただ目標へと突き進む。
ミーティアにその身を任せ、ジャスティスは戦場を横断するかのようにその姿を下した。
連合はMAメビウスに核を搭載して、プラントへと撃ち込もうとした。
それを阻止したが、今度もまた同じ様にそれを抱えているものが見えていた。
それは断じて許す訳には行かない、彼にとってそれは母を殺した光である。そして同時に、この戦争の元凶の光だ。
それを使わせてしまってはならないのだと。
そのメビウス隊に対して攻撃をしようとした。
そう言った矢先、彼は何かの違和感を感じ機体を動かした。動かしたと言うが、直線運動ばかりが得意な機体で軌道も読まれやすい。だが、そうやすやすと撃たれ無いよう避けていたのだが、次の瞬間機体が、揺れた。
いや、正確に言えば爆発した。
左舷前方収束火線砲が何処からか飛来したビームによって貫かれたのだ。
もし機体を動かすのが遅ければ、それはコックピットを直撃していたであろうコース。
そのビームの来た方向は、紛れもなくメビウスがいる方向であるもののよりそれよりも近いところからであった。
「アレが…、キラやはりお前の言っていた相手は俺達の敵になっている…。」
目の前の存在は、自分達の行く手を阻む為に現れる。
核を阻止するのを阻止する為に、たった一機のMSが一つの戦場を支配出来る程の火力を有するミーティアに挑もうとしているのだ。
だが、実際にはミーティア等の強力無比な存在とて倒せないものではない。
そう、人間を超越するようなそんな存在がいるのなら。
先手を取られたアスランは、まずは回避に専念しようとするがその巨大な機体の弱点を突くように、アスランの機敏な反応へとフェイントをかけるように、揺さぶられている。
そのせいか、当たりどころは悪くはないが何発かの命中弾を直ぐに受ける。
コレはアスランだけのせいではない。戦闘能力の高いコーディネイター全般に言えることなのだが、彼等はその驚異的な反応速度でもって目の端に来たものを、無意識の内に反応するという〘癖〙
がある。
それは戦場において本来ならば有利に働く素材であるが、フレイの攻撃はそれを利用しているのだ。つまり、対コーディネイター用に磨き上げられた技量ともいえる。
きっとそれは一人では編み出せなかった、寧ろ彼女のバックにいる者たちの存在が大きいのだろう。
回避を誘発させられている事にアスランは気が付くことが出来ない、もしこの戦闘の前にこのような戦い方のそれを見ていれば、彼ならば何らかの対処法を見つけ出すだろうが、今この時に彼はその対処法を考えつく余裕もない。
次第に目標から遠ざかっているという事実に、彼の中で焦りが積もるも現状を打破する方法がない。
と言ったところで、彼はミーティアから分離した大きな的を脱ぎ捨てて敵中に活路を見出そうとしたのだ。
その行動すら読んでいたとばかりに、フレイの機体は応戦する。
ビームショットガンを捨てライフルをマウントに戻し、肩のサーベルを抜き放つ。
サーベルとサーベルが交差する、この時普通ならば互いのサーベルは干渉せず互いに素通りして敵機を狙うのだが、今回はそうはいかなかった。
バジジジ
という放電と共に、サーベル同士が接触し反発を持って弾き返される。
アスランにとって、コレは未知の体験であった。
普遍的な概念に対して、あまりにも突拍子もない物事に一瞬動揺した。
その隙を突くように、MK2はジャスティスをあらん限りの出力で蹴り弾く。
その反動を利用して、互いに正反対の方向へと飛ばされるとMK2は戦闘を切り上げ、何処へとも知れずその場を離れていく。
突然の反動にアスランはしかめっ面をしつつも、気を取り直し追跡を始めようとした。
だが、何故相手がジャスティスを蹴り飛ばしたのか、疑問が生じ。そして、その答えはすぐに現れた。
「遅かったか!」
ヤキン要塞に、巨大な火球が一つ形成されたのだ。
これを見てアスランは不味いと、自分の父親がこれを見ればどのような手段をとるのか、直ぐその結果が現れるような形となる事を確信してしまった。
そして、今自分が何処にいるのかそれをハッとして周囲を見る。
「アスラン!大丈夫か!」
ストライクルージュが直ぐ側まで辿り着いている。
そう、フレイは戦いながら彼を誘導していた、彼がしなければならないことを
アスランは、MK2の追跡よりもやらねばならない事を確認し、エターナルと共に一路ヤキン中央司令部へと急いだ。
……
ドミニオンとアークエンジェルの戦いは大詰めになっていた。互いに消耗し、一進一退の中で互いの姿を前面に捉えている。
そんな中で、一人焦りを隠せずにいる者がいた。
「どうして核が要塞の方に行ったんだ!!」
アズラエルは怒髪天を衝くような形相をしながら、大声をあげた。それは、ピースメーカー隊がプラントへと行くのではなく、敢えて要塞の方へと行ってしまった事によるだろう。
どんなに意思が強くとも、活路を見いだせない道を通ろうとする者はいない。
道のない道を通るよりも、舗装されている道の方が通りやすいのと同じ事だ。
憎悪に駆られて、恐怖に駆られているのはアズラエルだけではないのだ。寧ろ、そういう側面を彼は理解できなかった。
自分と同じように、相手を憎んでいるのならプラントを攻撃することもなんとも思わない。
そういう奴らだけでは無いのだ。
彼もまた、ジェネシスがなければプラントへの核攻撃等行わなかっただろう事を挙げられればそう言う事だろう。
だから、艦内。特に艦橋要員に彼は動きを封じられた。
懐にしまわれていた拳銃も、それを取り出す前に保安隊に取り押さえられ、精神疾患を認められるとして彼は艦橋から叩き出された。
それと時を同じくして、ちょうどと言ったところでAAとの通信が行われた。
「お久しぶりね、ナタル。」
「こちらこそお久しぶりです、ラミアス艦長。」
敵同士であるにも関わらず、そのような会話から始まると言うことは、互いに何処かで落とし所があるのだろうと、そう言った考えからであった。
「こちらは退艦するつもりはありません。ですが、ジェネシス発射の阻止と言う利害であれば、我々も協力は吝かではありません。」
「そう…ありがとう。良かったわ、貴方がそう言う判断を下せるようで。」
今ここは戦場である。だが、2人の間には何処かほのぼのとした空気が流れていた。