『自分が何をしたいのか、何が出来るのかを考えて動く事が一番良いことだ。だが、一人で全てを抱えても良いことはない。それは俺の横にいるコイツが良く知っているからな。』
『だが、周囲に流されその場に縛り付けられるということも良いと言う事もない。それは私の横にいる、この男が良く知っている。』
過去を語る……、もうその事実を知るものはこの世に存在するわけもない。皆、星の海へと帰るに至る。
だが、意識だけが永遠に生きる者として彼等は今なおこの世にいるのだから、果たしてそれが良いことか?悪しき事か、それは彼等のみぞ知る。
そんな事を聞かされる、フレイの身にもなって見ろ。
彼等の過去を背負うには彼女はあまりにも幼い、だが彼女にはそれを知る事が出来る度量があった。
それは呪か、それともその血の定めか?彼女の地位に見合う、それだけの業がその名にはあった。
彼女は聡い、それを直ぐに理解した。そして、受け入れる道を選んだ。
NTと言うものは、その高度に発達した知覚能力によって周囲に存在する万物の物事を、誤解無く理解する事の出来るものである。
それは、傍から見れば超能力だとなんだのと思われるかも知れない。
だが、その力の本質は所詮は知覚能力である。が、上位の高次元を知覚することによる、時の流れを知覚する事によってMS戦。
ひいては肉弾戦等の汎ゆる戦闘の面において、コーディネイター含む
そしてその知覚能力を持つことにより他者を理解し、その人生すらも知る事が出来る。だが、NT同士という互いに理解し合える者であっても、其れ等が相容れないのならば争いを止めることは出来ない。理解し合っても、それを受け入れるには器が必要なのだから。
……
フレイ、彼女の知覚能力はこのヤキンの周囲一体に拡がっていた。それは、この戦場一帯のありとあらゆる事象を知覚しているというものと同義であった。
一人の人間がそれ程のキャパシタを持っているかといえばそれは無いだろう。
だが彼女の機体に搭載されているPF、それに宿る2人は彼女のそれを肩代わりしていた。
もとより肉体を持たないからこそ、その許容限界がない。もし、この戦場の様子全てを一人の人間が背負えば、廃人に帰すだろう。(それが超人的な精神力を持っていなければ。)
彼女は、次にどのようなアクションが起きるのか全てが見えていた。それは、戦いにおいても誰かを救うという事においても。
そんな存在に戦いを挑んで勝てるものがいるのかといえば、いないだろう。チートも良いところだ。
こんな戦争、早く終わらせたい。平和がほしいという、周囲の願い。その具象化が彼女に不可能を可能にさせている。つまりは奇跡だろうか?
戦場を横切る彼女の機体、MK2は既にそのエネルギー量と発電量を凌駕した機動によって動くはずもない。
だが、確かにMK2は動いている。人の感情をエネルギーとし、それが無限大に機体を動かしている…。
そして、ある局面に出くわすのだ。
キラとクルーゼの戦いは紙一重と言ったように、どちらの優勢とも言い難い。
キラとしては、目の前にいる存在にも死んでほしくはない。不殺主義、己の力を過信した傲慢とも言えるその所業それを生そうとしている。
だが勿論、クルーゼはそんな温い相手ではない。紙一重の戦いは、そんな傲慢な思いによってクルーゼに傾きつつある。
ドラグーンという遠隔操作端末から発せられる、幾重ものビームの嵐がフリーダムを襲う。
己の反射神経の限界値でキラはそれを避けるが、腐ってもクルーゼはそれを上回る
次第にフリーダムはその機体を削られている。
クルーゼのその力はフレイとの精神感応によって、飛躍的に高められた。それは、彼にとって力を与えられたと同義であり、勿論それはキラに牙を剥いている。
どれほど人の反射神経を上げたところで、時間を認識している存在に勝てる訳が無い。
ならばそれを相手出来るのは、同じような存在しかいないのだと。
フリーダムに送れること少し、ストライクを駆るフラガがその戦闘に割って入った。
「キラ!俺が誘導する、その隙を突け!」
その言葉通り、フラガはクルーゼとの戦闘を始めた。機体の性能差は歴然としていたが、メビウス・ゼロでシグーと戦闘していた頃とあまり変わりはない。
つまり、格上の機体との戦闘には彼は慣れている。
キラよりもクルーゼに対しての相性は良い、だがそれも短時間しか保たないだろう。
核動力機とバッテリー機の性能はそれ程までに隔絶している。特に、機体のパワーは比ではない。
瞬く間に、ストライクは追い詰められるがクルーゼのプロヴィデンスから放たれる、遠隔操作端末。ドラグーンの攻撃を網の目を縫うように回避するのは、流石の腕だ。
そして、ドラグーンを使用する為に集中するクルーゼをその隙を突いて、キラは突貫した。
それを見てクルーゼは不敵に笑うと、待ってましたとばかりに左腕側のシールドからサーベルを展開して応戦すると共に、一瞬のフェイントでストライクの推進器を破壊した。
再び一対一、機体の機動性に身を任せストライクとの距離は広がるばかりだ。
そして、また同じようにクルーゼはキラを翻弄していく。
勝ち目のない戦いの中で、キラは諦めるということを知らない。
「確か君にはこう言うべきだったか?人の望み、人の業である君はどうして私に勝てないのか?わかるか?」
「そんな事!!」
今のクルーゼにとって、キラは超えるべき壁ではない。哀れな木偶人形であろう。別の視点、先の見えるその視点を得た彼にとって、所詮は人の限界であるキラ等もうどうでも良い。
「所詮は人の限界を突き詰めただけの存在である君は、人を超えた者には勝てないのだよ!」
彼は力に酔っていた、同時に一つのものに執着した。あの少女、フレイという存在にもう一度会いたいという意志の力が、彼に活力を与えていた。
フリーダムの左腕を落とし、留めとばかりにライフルを構え引き金を引く。
回避する方向は分かっている、だからそのビームは寸分違わずコックピットへと吸い込まれるように進んでいく、直前。
それが横から来た別のビームに掻き消された。
「来たか…。」
クルーゼはその時を待っていましたとばかりに狂喜した。
これ程までの感情の起伏、激情意外のその感情。高揚感が身を包む。
そして……、フリーダムを置いてその機体を追うようにスラスターを吹かした。
キラはそれをただ見ることしか出来なかった…、ただ目の前にあるその姿を。
……
ドミニオンの艦橋は慌ただしく蠢いているも、その中には緊張感というものがあまり感じられなかった。
どちらかといえば、少し苦笑いにも似た顔をしてパイロットに話をするオペレーターや、識別を気にしないレーダー手。
そして、天井を見上げて何かを思案するナタルの姿がそこにはあった。
「艦長、少し休んでは?だいぶ疲れも溜まっているご様子ですし。」
副長がそう声をかけた。
その顔は、安堵のものである。
「……、そうか。そうだな、少し席を外すがよろしく頼む。」
「はい、交代します。」
席を譲るとナタルは、ゆっくりと艦橋を出た。
戦闘は終わったのだ。連合、ザフト双方の司令部から戦闘停止命令が出され小一時間。
戦闘は散発的なものとなり、次第に宇宙に静寂が戻ってきていた。
星々のような美しい煌めきも、道標のような真っ直ぐに伸びる光の軌跡も無く。
ただそこに飛び交うのは、無線通信だけだ。
自軍を見失ったザフトのMSが、ドミニオンに近づいてくるもそれを迎撃する素振りもない。
どうやら推進器をやられているらしく、ただそこに漂着したのだろう。
しきりに救難信号を流している事に、流石に戦闘後であるから救助を出さない訳にはいかなかった。
それぞれがそれぞれの軍の漂着者を取り、それを丁重に扱う…。
戦場にきらびやかな、戦争神話にも似た美しい光景がそこにはあった。
日露戦争から始まる、戦争の英雄というものは一人の英雄によるものではなく、司令部の指揮官による暗い部屋の中にいた物語は宇宙という空間に出て再び、絵物語のように戻って来たのだ。
格納庫や艦内のそのような光景を見て、柄にもなくナタルは目を奪われていた。
こんな光景が、いがみ合っていても助け合えるというそんな戦争の理想的な姿がそこにはあったのだから。
「あの娘も大丈夫だろうか?まあ、今更心配しても遅いかもしれないが…。」
一人食堂で珈琲を入れ一口飲む。それはほろ苦く、だがそれでいて温かなものだった。
次回、seed編ラスト