機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第75話

 

崩れた街並みと、崩壊した車道。燃えて炭化した木々の燃え残った株から、新芽が顔を出している。

その近くには広場があって、人々の話し声が聞こえてくる。やがて日が高く昇る頃には、そこかしこに置かれた簡易的なテントの下に野菜や果物。魚や肉等を売る市場が姿を現す。

 

どれだけ壊されたとしても、どれだけ焼け出されたとしても人々というものはそのうけた傷を引きずりながらも、逞しく生きていくのだ。

 

「お〜いヤマト君、こっちに持ってきてくれ。」

 

「はい、少し待ってください。」

 

キラはその場所に幾つかの荷を持ってくる、モルゲンレーテ製のMSM1アストレイを操縦して、少ない重機を代替しているのだ。

戦争の傷跡によって壊れた道路では、車で物を運べないのだから。

「よぉ〜し、良いぞ。ありがとうな。」

 

「いえ…どういたしまして…。」

 

戦争が休戦状態になってたったの2ヶ月、オーブが戦場になって5ヶ月が経った。

今もなお、家族を探し回る人々が避難所に寄りを固めている…、簡易的な建物も建ってはいるものの本格的な居住施設が建つには、まだまだ混乱が治まっていない。

やっと、オーブの指導者たるアスハが帰ってきて少しずつ、経済的な民間的な修繕が始まったような状態であった。

 

その過程でMSの操縦適性のある者や、それに慣れやすい者たち即ち肉体的強化を施された、パイロット適性の高い隠れコーディネイター達が炙り出される結果となった。

 

キラは〘フリーダムのパイロット〙という素性を隠す隠れ蓑として、その作業に従事している。

勿論、他のパイロット達へもその素性を隠しているものの、軍関係者、特に共に戦った戦友とも言える者たちにはバレバレであるが…。

 

一日の仕事の報酬は、それなりに振り込まれるもののその使い道など今のオーブにはあまり無い。だから、少ない食料を買い家へと戻る。

 

「ただいま…。」

 

キラの家もまだ仮設の物だ、尤ももうそろそろ新しく建つようなのだが、そこに住まうのは彼だけではない。

彼の家族である父母、そして身寄りをなくした戦災孤児たち。

更にもう2人、そこに身を置いている者たちがいた。

 

「キラ、お帰りなさい。お疲れでしょう?休んでください。」

 

「ありがとう、ラクス……アスランはまだ帰ってきてない?」

 

「今日はカガリ様の護衛で帰って来ませんわ。」

 

「そう。」

 

プラントでその身の振り方に悩んだ2人、アスランとラクスが家族同然に暮らしている。それに、父を亡くしたカガリもまた度々訪れているのだ。

この判断は仕方の無いことだ、何せ3人ともまだ年端のいかない子供。

ナチュラルであれば成人すらしていない、そんな精神年齢なのだから。

 

「お母様と一緒にお夕飯を作りましたの、是非食べてくださらない?」

 

「え?そうなの、今日は何かな?」

 

楽しげに言うラクスに対して、少しだけではあるがその光景への慣れと、戻って来た暮らしをキラは噛み締めていた。

ただ、この光景を護ろうとした護れなかった日常が、あたかも何も無かったかのように戻ってきてくれたことへの感動と、新しい光景への感動がごちゃ混ぜになって…

 

ツー

 

と、勝手に瞳から涙が溢れた。

 

「キラっ大丈夫ですか?」

 

「あっ、ごめんなんか勝手に出てきちゃってさ…、でも嬉しいんだ…戦争は終わったんだなって、平和が戻ったんだなって…。」

 

そこにいるのは単なる少年だ、強い心を持った戦士でもなく殺人を楽しむような狂人でもない。

彼は、ごく普通の少年なのだ。

 

だが、そんな言葉を言う彼はまだ両親に聞けずにいる、自分の境遇をどうして今まで育ててくれたのかと。

その日家の事に馴染んだのだろうラクスが、キラの両親にその事を話した。キラに秘密にして。それ聞いた父親であるハルマ・ヤマトはその日の夜、キラと共に近くの砂浜へとやってきていた。

 

「ラクスさんから聞いたよ、大変な事があったって。お前に、出生の秘密を知られた事も。」

 

キラは聞き出したかったことだが、このときでも怖くてビクビクしている。

真実がどうあれ、それが彼との一切の血縁が無いことを示しているからだ。

 

「私達二人の間には子供が出来なかった…。理由は色々あるんだろうが、それだけは事実だ。

だから、お前とカガリどちらかを養子にと言われたとき心底嬉しかった。

精一杯愛そうと、キラ・ヒビキではなくキラ・ヤマトとして育ててきたつもりだよ。」

 

「どうして…教えてくれなかったの?何時でも話せたんじゃないの?」

 

自分が養子であった等と知りたくもなかったし、試験管ベイビーだなんてそれこそ知りたくなかったが、あんな形で知るのはもっと嫌だったのだろう。

 

「普通に生きて欲しかった…、僕達も別に聖人とかそういうのじゃないから、不器用に色々と考えて独り立ちするまでは言わないでおこうと思っていたんだ。

 

それにだ、出生がなんだと言うんだ?お前は何でもやればできるのに面倒臭がりで、如何にも普通の子供に育ってくれた。それが嬉しくてね…、僕達の傲慢だったのかもしれないけれど教えなくても良いかなとも、思っていたんだ。

 

だからね、ごめんと謝ることしかできないけれど、これからも家族として生きてくれないかい?僕達はね伊達と酔狂で、キラお前を育てたわけじゃないんだ。」

 

キラはそう言われて何を返せばわからなかったが、一つ口に出したのは。

 

「育ててくれて、ありがとう。それと…、これからもよろしくお願いします。」

 

「他人行儀じゃないかぁ…、まこれからもよろしくな。」

 

これから生きていく再び家族として…。

二人の影はそのまま砂浜を去る、そしてその場には静寂が支配した。

 

帰り掛けにふと、キラは宇宙(ソラ)を見上げた。大地の光を喪いし満天の星空を。

そして思うのだ、あの日コックピットの中でフレイの機体から発せられていた、薄くてぼんやりとしたオーロラのような光の事を。戦場に拡がっていたかの景色を…。

アレがなんであったのか、未だに分かることではない。ただ、まるでその光に呼応するかのように、戦いは戦争は鳴りを潜めていたのだと…。

 

 

……

 

薄暗い部屋の中、ただ機材から発する光だけが周囲を照らし続け、あたかもそこが重要な場所であるかのように印象付けているが、実際はそんな事はない。

 

「誰だ!コンソールを点けっぱなしにしたやつは!!」

 

ダークグレーを身に纏い、特徴的な二本足を携えた軍艦。アークエンジェル級2番艦ドミニオン、その艦橋の中は重力化での遠洋航海を終えて今乾ドックでのメンテナンスを待つばかりとなっていた。

 

「申し訳ありません!急いでいたもので…。」

 

「全く…急がねば、帰りが遅くなってしまう。」

 

この艦の艦長たる女性、ナタル・バジルール少佐はこの艦の定期メンテナンスの間、長い間取ることの出来なかった休暇を取ろうと決意していた。

戦争だ、事務仕事だ等とそういう事ばかりが先に行き、今まで先延ばしにしていたそれを、やっとと言う事で行えるのだ。

 

「土産は…、いらないか。いや、家の使用人達に買って帰るべきではあるか。」

 

管理を使用人達に任せきりであった彼女の家には、家族と呼べるものは彼女と使用人達しかいない。

戦争で死んでいった父、兄弟。心労が祟り返らぬ人となった母、そんな中でも家の心配をするなと言っていた彼等に、感謝をしようと。

 

古くからのネイビー・ブレザーを身に纏い徒歩でその道を歩く。自家用車と言うものを持っていない彼女は、軍港のゲートから一歩足を踏み出すと、誰かを待つようにその近くで足を止めた。

 

「十分前だが…、本当に来るのだろうな。」

 

暫く待っていると、遠くからやたらと高級そうな車がリムジン、防弾仕様のザ・ビーストが走ってくるのを目で追った。

すると、彼女のすぐ近くでそれは止まると後部座席から現れたのは、白色でまとめたケープトップワンピースのフレイの姿であった。

 

「ナタルさんお待たせしました。」

 

「いや、私も先程着いたばかりだ………。」

 

直ぐにナタルは、側に寄ると彼女にそう切り返す。

乗車しようとすると、対面座席式の後部座席所謂六人乗りの後ろ座席のフレイの座っていたであろう直ぐ横に、ある一人の青年の姿を確認した。

 

ナタルはそれを疑念の目で見るが、当の本人たる青年はそれをなんとも思っていない様子だ。

 

ラウ・ラ・フラガ元特務少尉、現在はフレイと共に中尉となっている青年。

特殊工作員として戦前のプラントに潜伏し、ザフトとしてその手腕を奮う中、様々な情報を連合へと提供した……らしいと言う事をナタルは聞いたのだが、どうも怪しい。

 

そもそも、フラガ姓を名乗っているところが胡散臭い所以である。エンデュミオンの鷹に、そんな弟や親戚がいるなど本人からも聞いたことがなかった。身内の事を話すなんてことはしないだろうが、それにしてもである。

 

戦闘終了後のドサクサの中、フレイが傷ついた彼を救出したと言ったところなのだが、果たしてそれを知るのは本人達だけだ。

確かに戸籍上そのような人物がいたり、軍籍を確認出来た(・・・・・・・・)りと、綺麗に揃うのだから疑えない。

 

「それで、送ってくれるのは良いのだがこれから何処に行くんだ?」

 

艦長たるナタルよりも、早く休暇を取ることが出来た彼女に今日の予定を聞く。別に気にしないが余計な詮索を避けるためだ。

 

「これからアズラエルさんとこ行くのよ、で彼はボディ・ガード。それと運転手も良く知ってるでしょ?」

 

運転席を見ればカタリナの姿、要するにフレイは上流階級の我儘、権力を使って何かを話そうとしているのだろう。

 

「あまり困らせてやるなよ、向こうは苦労しているだろうからな。」

 

戦後の余波、それの集計で忙しいだろうにとナタルは嘆いてみせた。

 

「フフフ、困らせてあげれば良いじゃない、核兵器なんて使ったんだもの、その報いよ。」

 

そう言う彼女の首元には、小さく小さく切り取られた、T字の金属片にも似たネックレスがかけられていた。

車は進む、その見果てぬ道へと。

 

……

 

人々はいつかいつの日かと夢に見る。

平和という大望とこの現実の間に生きていく、しかしあまりにも大きな現実というものに今日もまた、誰かの叫びが虚空へと消えていく…。

 

戦争は終わった、友人を亡くしたもの恋人を亡くしたもの家族を亡くしたもの、様々なモノを亡くした者たちはその心に憎悪を抱きつつも今日もまた生きていく。

溜まった鬱憤、それを発散するところもなく熟成された膿の如く、其れ等は周囲を蝕み腐らせる。

 

戦争が終わったのは一時的かも知れない、ただでさえ広い宇宙という物の中のちっぽけな地球圏の中で溺れる者ののように、足掻く。それが今の地球であろう。

 

フレイはその研ぎ澄まされた感覚で、現実を見続けなければならない。

その先を先導した者も、全てを知る訳では無い。

この星を脱した記録から失われた人々や、其れ等の足跡を今は辿る他ない。

 

彼女は必ずオーブへと赴く、その時見るのは泣き崩れる嘗ての仲間とその墓標。

何故ならば、彼女と彼等は敵であったのだから誰も死んでいないなど思ってはいけない。

 

トールは死んだ、戦争終盤突入するエターナルの盾となったのだ。そしてそれを撃ったのは、連合のMSである。

〘矛先が彼女に向くことはない。〙等とは口が裂けても言えない、どれほど仲が良く仲間と言えた間であっても、その現実だけは曲げようはないのだ。

 

だが、彼女は赴く必ず。自らの罪を知る為に。

 

 

 

 

 





ここまでご愛読ありがとうございました。
これにてseed編終了となります。
Destiny編も引き続き更新しますが、暫く時間を開けたいと思います。
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