カツ……カツ……カツ……カツ……………
真っ直ぐに伸びている廊下を歩いて行く。
混濁する意識の中、私は廊下を歩いて行く。
今日だけは違う、いつも見る夢と違う……。
いつものように歩くだけでなく、私はそれで走ることが出来る。
でも、廊下の奥の扉へは一向に辿り着くことが出来ない、それがどういう事なのかといえば条件が違うんだろうと、夢の中で思考する。
それでも奥から声が聞こえ、そのハッキリしていなかったくぐもったパパの声が、一つ一つ聞こえてきていた。
「採掘場の件、許可を頂けないのですか?」
誰かがパパにそう言っている。
「駄目だ、あそこは私の家が代々管理しているのだ、そう安々と了承するわけにはいかない。
我々には古い契約があるのだよ。」
契約とはなんなのか、私には絶対に教えられていない事がそこにはあった。
「あの様な娘をどうして貴方のような方が育てているのか解りませんが、それが貴方の使命というなら私は止めません。
ですが、アレは我々の共有財産という事を肝に命じてください。」
「私の知っている事はもう貴様に筒抜けだろうに、それともいまだ、幼い命を狩ろうというのか?」
「御冗談を、ですがね?もしも何も頂けないのなら、そう考えて頂いても良いのですよ?」
脅しをかける誰かの声が、響く……。
「妻も私も屈することは無い、あの娘は決して護り抜く。」
『そろそろ起きたほうが良いぞ。』
その言葉の直後、世界は光に包まれた。
………
「フレイ……、フレイ起きたのか?」
「サ……イ…?っえ?」
ガバっとフレイは起き上がると、周囲を見渡す。無重力であるから、ベッドへと縛り付けられるように置かれているために、下半身が固定されている。
それでも彼女は、出来うる限り周囲を見渡した。
「キラがここに連れて来たんだ。君はコックピットの中で眠っていたんだそうだ。」
「眠っていた……?そう……、確かに格納庫に戻ってそれからハッチを開けようとしたんだけど、急激に眠気が襲って来てそれで……。
ねえ、キラは?彼は大丈夫だったの?」
フレイは気になっていた、キラとは殆ど初対面も良いような相手出会ったが、サイの友人ということはフレイにとっても友人と言う事だった。
その為に、彼女は戦闘に支障が出る程に彼を護ろうと奮闘したのだ。決して失いたくないだけに。
「アイツは大丈夫さ、少し疲れていたみたいだったけど君なんかよりも遥かに、疲れが少なかったみたいだ。」
「そう……、はぁ…良かった。ねぇ、私どれくらい眠っていたの?」
彼女は自分の眠っていた時間について聞いた、そんなには時間は経っていないように見えて、もうアルテミスに到着しているかもしれないのだ。
「2時間ってところさ、30分事に交代で見合ってたんだけど良かった。ちょっと皆を呼んでくるよ。」
「え……、あっうん。」
少し頭が混乱していた。
夢と現実の境界が曖昧になっている。それと同時に、戦闘中に起こった声の正体。
アレはいったい何だったのだろうかと、そう思わずにはいられない。
見知らぬ誰かの声が聞こえていて、身体を文字通り操られていた。変な話だが、パイロットをMSが操縦していたかのように。
暫くすると友人達がワラワラと現れるが……、その中にキラの姿は無かった。
聞く所によればストライクの調整をした後、仮眠を取りに言ったというのだ。
なのに、皆は心配していないかのように私の方ばかり来る、皆口々に言うのだ
「キラはコーディネイターだから。」
と、その言葉にフレイは彼の孤独を敏感に感じ取り、哀れんだ。
どれ程友人だと言葉を紡ごうとも、何処か特別視する彼等に対して、ある種の軽蔑するような感情があった。
「艦長さんがフレイに話があるんだって、なんでも機体の状態とかそう言うのを。開発者だったんだってさ。」
そんな事知っている、それでも一体何を聞きたいんだろうかと、彼女は考えた。
「わかったわ。何処に行けばいいの?」
「艦長室だって、艦長さんも少し休憩したいみたいだから。」
それを聞いた彼女は、友人たちが仕事があるからと、姿を消すと直ぐに艦長室へと赴いた。
さて、艦長室に到着した彼女だが、まず最初に思った事は、どうやって入ったら良いんだろうか?
という疑問だった。自由奔放に育てられた彼女は一見すれば世間知らずだが、逆にそういう仕来りだとかそういう格式張った事だけは良く知っている。所謂〘上流階級の嗜み〙と言うやつだ。
少しの間ウロウロすると、決心が着いたのか3度ノックをする。
横にベルがあった事を確認し忘れていた事に気が付いた、彼女は少し恥ずかしくなった。
「はーい、入って良いわよ。」
「失礼します。フレイ・アルスターです。」
彼女の姿を確認したラミアスは、その姿を一瞥すると
「適当にかけて頂戴、私もまだ慣れて無くてね?」
と言いながら椅子を指さしながら言った。
その誘導に素直に答えつつ、彼女は呼ばれた理由をラミアスに問うた。
「何故、貴女を呼んだのか…。それは、まあ偏に貴女の搭乗している〘ガンダム〙に付いて、少し聞きたいことがあるからよ?」
「ガンダムに付いてですか…、でもなんでまた。艦長さんは設計者何じゃないんですか?」
フレイは訝しむ、設計者の一人がそんな事も知らないなんて考えられない。
ほぼ全ての機体の詳細を知っている艦長が、何故ガンダムだけを聞きたがるのか?
「飽く迄も、私は装甲材質と言う観点からの設計を担当しただけよ。PS装甲の理論を形にしただけ、だから全ての機体の深くまで関わっていた訳では無いの。
特に、貴女の機体であるガンダムは少し特殊な経緯があるから。」
「特殊……、確かに特殊だと思います。だって、話しかけて来るんですもの。」
その言葉を聞いた瞬間ラミアスは目を大きく見開いた。
「話し掛けてくるの?MSが?」
この時ラミアスの脳裏にあったのは、ガンダムに搭載されたというPFDという、正式名称不明の装置のことだった。
もしも、それが彼女に良い影響を与えていればと、心の何処かで思っていたのだが、想像以上に不味いものではないか、脳に障害がで始めているのでは?と、このときのラミアスは考えていた。
「はい、それも1度や二度じゃなくて。愚痴みたいにもっと身体を鍛えろだとか、後ろにも目をつけるんだとか言いながら。
それに酷いんですよ、私の身体を勝手に使うんです。」
「勝手に……使う……??」
理由が解らなかった。MSとは言ってしまえば戦闘機と同じで、単なる機械のはずだ。それが自我を持って、パイロットを使うとなればそれはもう〘アンドロイド〙だとかそう言う次元の、もっと悍ましい存在ではないかと。
「それで……、貴女は大丈夫なの?そう、身体とかそういうのは。」
「ええ、別に健康というか変な所は無いですけど。」
どうだろうか、本当に健康なのか。もはや脳まで侵されているのではないか?
そう言う考えが過る、大西洋連邦北米大陸出身の彼女はそう言うSF映画みたいな事に対して、比較的敏感だったのだ。
「もし何かあれば教えて頂戴、力になってあげるわ?」
「え?……、ありがとうございます。けど……、私じゃなくてキラの方を心配してください。」
「どうして?」
フレイにとってあのMSの力は手放し難い、だから別にそんな心配なんてしてほしくないのだ。
「だって彼コーディネイターでしょ?一人ぼっちだから。
それに、私は別に今のままで良いんです。だって、こんなにも素晴らしいものを手放したら、敵討ちなんて出来ないじゃないですか。」
ラミアスは己の耳を疑った、そしてそんな言葉を言った彼女をみた、
ニコニコ
と、可愛らしい笑顔でそう言葉を紡いでいた。
ラミアスは復讐というものを否定出来ない、彼女がG兵器を開発したのは、恋人の復讐という意味もあったのだから。
「………、アルテミスまでの間に私に出来る事ならやるわ。」
「はい、よろしくお願いします。」
礼儀正しい彼女の姿は、令嬢とかそういうものに見えたが…、その姿は悲哀に満ちていた。
……
一方のクルーゼ隊はその傷を癒そうと、潜伏していた。
「クルーゼ隊長へ、本国よりであります」
AA追討を一旦断念し、スペースデブリの陰で停泊していたヴェサリウスに、通信が届いた。通信兵がそのメッセージを、クルーゼに渡す。
クルーゼは文面に目を走らせると、それをアデスの前へ突き出した。それは、プラントの最高決定機関である評議会からの出頭命令だった。
「ヘリオポリス崩壊の件で、議会は今頃てんやわんやといったところだろう。まあ、仕方ない」
ラウは淡白に笑う。そしてその姿は何処か快活なものであった。たかだかコロニー一基の為に、そんな説明をしなければならないのかと、そう思いながらも立場のあるその身を感慨深く思っていた。
「ヴェサリウスもこの有様では、どうにもならんしな。修理の状況は?」
「ほどなく、航行に支障が無いまでには…。」
フンと、鼻でそう言うが彼は少し考えると、一言付け加えた。
「アスランをガモフから帰投させろ。修理が終わり次第、本艦は本国へ向かう。あれはガモフに、引き続き追わせよう。」
既に戦力の過半をガモフへと移しているが、議会を動かすには承認となる人物が必要であった。
アスランは暫くの間戦力となる事が出来ないと判断したのだ、実際彼は迷いに迷っていたのだから、その通りだった。
……
そして、苦難の末AAはとうとうアルテミス要塞へと到達する。
やっとの思いで連合勢力圏に入ったラミアス等は、一息つけると内心思っていたが、そんな中フラガだけは要塞を訝しんでいた。
その為に彼は、キラとフレイにある事を言う。
〘MSの起動プログラムをロックしておけ〙という事を。
キラにはその言葉の意味がわからなかった。しかし、ほどなくして彼は、その意味を知ることになる。
そしてフレイはそんなキラとは違い、自らの力を取られることを拒むために、その言葉に従った。
ユーラシアの軍事基地アルテミス。
辺境の小惑星に造られた小規模なもので、軍事拠点としては大したものではない。
だがこの基地は、小惑星全体を光波防御帯がすっぽりと取り巻き、どんな物体も兵器そのシールドを通さない。
通称、〘アルテミスの傘〙と言われるそれは、その要塞のシンボルでもあった。
AAはこの時、2つの誤算があった。
1つは、AAには現在軍の識別信号が無いというもの。
もう一つは、AAは大西洋連邦の所属艦艇であるという事だ。
大西洋連邦とユーラシア連邦は、長らくの間対立構造を維持していた。
しかし、今時大戦のおり対プラントという形で間借り形にも協力関係にあるという、その可能性にAAは賭けたのだが、それは良い方向へは進むことはなかった。
アルテミス要塞へと入港した途端にAA艦内へと侵入する、ユーラシアの海兵隊達。
彼等はライフルを手に、次々にAAを制圧していった。
それはもう、軍民問わず誰彼構わずに銃を向ける程に。
「これはどういうことです!」
マリューはそう言って反論しようとするが、ユーラシアの兵はニンマリと気色悪く笑った。
「一応の措置として、艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただくだけです。仕方ないでしょう? 貴艦には船籍登録もなく、無論我が軍の認識コードも無い。
状況から判断して入港は許可しましたが、残念ながら貴艦はまだ、友軍と認められたわけではない」
軍としては当然の措置であるが、こんな目立つような軍艦を使って大胆不敵にアルテミス要塞を落す等、まるでトロイの木馬のような、面倒くさい事をする価値など、この要塞にはない。
そんな事、この基地に所属している人間からしたら当たり前のことだが、それは方便だ。
彼等が欲しているのは、大西洋連邦のMS技術。
そして、それを運用するノウハウそのものだ。
元々敵対していたのだから、解らない間に有耶無耶にするなど彼等は何でもするだろう。
士官たちはAAから離され、この要塞の司令室へと連れて行かれた。
その間にAA内にある格納庫にはストライクとガンダムを解析しようと、アルテミスの技術スタッフが乗り込んでいる。
それを見ながら、フレイは思っていた。
こんな下らない事をするなんて、本当に馬鹿じゃないか?と。
本当に戦争に勝ちたいのなら、協力しあった方が遥かに有利であるのは明白なのに、こんな無駄な事をと。
キラがセッティングしたファイアーウォールは非常に強力で、アルテミスのスタッフ達は苛立ち始めていた。
「ねぇキラ、あれってどれくらい保つの?」
ヒソヒソと、フレイはキラにそう問う。
それを見た人間はいないが、キラはその言葉に気が気ではなかった。
「フレイ、今はだめだよ静かにしてなきゃ。」
「おいッ!貴様ら何を話している!!」
直ぐ様それを聞き、兵士がやって来る。
「なによ、トイレに行きたいなぁってそう話してただけじゃない!!
それとも何?ここで私が漏らしても良いってわけ?
一応私達民間人なのよ?それをこんな手荒なことして、私のパパに知れたら、ユーラシアの立場は駄目になるんじゃない?」
「お前の父親だと……?名を名乗れ!」
兵士は彼女の名前を聞く、それは悪手だ。
「私は、フレイ・アルスター。大西洋連邦外務次官の娘ですけど、私に良いようにすれば外交交渉とか上手く行くと思わない?」
一兵士にはその判断は難しすぎる、もし彼女の言っている事が真実ならば、大変な外交問題である。
本当に不味いことは起こした後に気が付くもの、もし外交問題に発展したらこの要塞の司令官など、あっという間に職を失う。
彼等の顔は青褪めていた。
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