第1話
漆黒の宇宙、星々は瞬くこと無くただその世界を彩るだけである。大地は白く、地平線の彼方まで無味なものでありその世界を焼き付ける光は、其れ等に反射して周囲を照らす。
だが、その中で一際目を引く青い月がそこにはあった。
地球、それは人類発祥の地。母なる星は、それを取り巻く様々な環境によって変化する、様々な地域から成り立つ。
そんな美しい地球を前にして一隻の艦艇が今、月面宇宙港である
アルザッヘルから飛び立とうとしていた。
「メインエンジン点火、1分前。各員、シートベルト着用確認。」
「スラスター異常なし、ノズル異常なし総員準備良し!です。」
彼等の言葉からは、節々に自身の無さが現れていた。
嘗て足つきと言われ、ザフトに恐れられたアークエンジェル級その2番艦であるドミニオンは新兵を乗せて大海原へと漕ぎ出そうとしていた。
「ここまで後30秒早く出来るようになれ!まごついている間には、撃沈されてもおかしくはないぞ!」
そんなこの艦を指揮するのは、もはや手慣れたもの。この艦の事を知り尽くしている人物…、ナタル・バジルール中佐である。
建造から既に1年半以上の時が経ち、この艦の特性とその評価は連合内の司令部から喜ばしくない評価をされていた。
アークエンジェル級は特殊な艦艇である。元来実験艦として建造されたこの2隻であるが、その武装配置。並びに形状、運用目的等を鑑みて司令船としては拡張性に乏しく、MS運用母艦としてはアガメムノンに劣り、大型航空機としては遅すぎる。
また、地上母艦としては艦底部ががら空きとなる等々、その中途半端故に失敗作の烙印を押されていた。
そして、本来2隻あるはずのこの艦艇は実際には一隻しかおらず、1番艦は行方不明となっているという特殊な状況にその運用すら疑問視されていた。
そこで、ある意味全ての艦艇の能力を保持している事から、練習艦として、ここに配属されることとなったのだ。
「MS隊着艦許可願います。」
「最後列の機体から順次着艦せよ、繰り返す……。」
そこへ、月軌道上へいち早く待機していたMS隊が着艦していく。だが、その様子も何処か辿々しい。
艦内収容班もてんてこ舞いに、あたふたとしながらなんとかMSを着艦させていく。
「ストライクトレーナー収納完了、全機着艦確認。」
其れ等の作業を一段落させると、艦橋内では一瞬ホッとした空気が流れるが、それに一喝を入れるべくナタルは評価点を付与していく。
ナタルのこの艦での役割は、艦長兼艦橋内クルーの練成である。
所謂教官の立ち位置だが、彼女の年齢でその場に立つことは稀であるが、数々の戦いで培われたその戦術眼を評価されてのことだった。
だが、知っての通りドミニオンは特殊な艦である。
ビービーと艦長席のコンソールが鳴る
「なんだ?」
「こちらMS教導隊、アグレッサーのフレイ・アルスターです。本日のMS隊の評価点をそちらに送りたいんですけど。」
厄介者を集約したと言う意味でもまた、この艦は特殊なのである。
「了解した。ラウ・ラ大尉もいるのだろう、それも一緒に艦長室へと送っておいてくれ。
……
これより本艦は地球へ南アフリカへ降下、並びに地上戦闘訓練を経て一路パナマ基地へと寄港する。その後、再びマスドライバーを使用してアルザッヘルへと帰港する。
航海日程は大凡半年に渡る大規模なものとなるだろう、従って諸君等の中には疲労並びに病巣に苦しむものも現れるだろうが、其れ等への適切な対処もまた訓練であると心へて欲しい。
当直のものは、そのまま作業を続け非番の者は自由時間とする。以上だ。
副長、私はこれから採点をしなければならない。頼めるか?」
「はっ!了解しました。」
老練であろう加藤と言う40代の副長へと切り替える。
自分よりも遥かに歳下の人間には従うのはいったいどういう心境だろうか?
だが、老練であるが故にその腕は確かなものだろう。
この歳で、艦長になっていないと言うその結果以外を除けば。
「アレで俺達と同い年何だぜ?やんなっちゃうよな」
「しょうがないわよ、私達よりも
「お前たちはパイロット候補生の…」
ナタルがゆったりと艦長室へと向かっている最中、パイロット控室から現れたのは3人の男女。
今回パイロット候補生となった者達だが、彼等もまた厄介者達である。
「ライラ・ライラックス少尉候補生!」
高飛車金髪ロールのお嬢様風の少女、軍人にあるまじき髪型である。
「同じく、ボーク・ミリシエル」
ボーズ頭の浅黒い中東系の顔立ちの少年。誠実そうで、気弱な雰囲気がある。
「同じく、クリストファー・ノーマッド」
赤毛の北欧系の顔立ち。自信家ではあるものの、そのかわり座学の点数が赤字一歩手前の少年。
それぞれ名前を言うが、ナタルは彼等とは初対面だ。この艦への着任の挨拶もまだ間際していない。
それどころか、この艦の乗員は殆どが訓練生でその他の教官がそれぞれの位置についているくらいである。
「先程の着艦、リトライしたのはどちらだ?確か、男だということは理解しているが?」
「は……、はっ!ボーク、自分であります!け、計器の操作に手間取り…!」
彼等は所謂落ち零れ、捨てても良いと言われている者達。
全員が何かしらの問題を抱えている。特に注意が必要なのは、ライラックス少尉候補生。
不特定多数との猥褻な行為を行っているという常習犯。
特に問題なのは、父親が大西洋連邦の代議士の一人だというところだろう。
軍隊の中でも彼女に取り入ろうとするものがいるほどだ。
「その一瞬が命取りになる、今は訓練であるから良いが本番は特に注意しろ。」
彼等がしていた話をナタルは気になっていたが、それを他所に仕事に戻らなければならない。
「自己紹介ありがとう。私はナタル・バジルールだ以後よろしく頼む。」
命を預ける者同士、少しは関わりを持とうとそう返すと彼女はスイーっとその場を後にした。
そして始まるのは、フレイ・アルスターへのやっかみであった。
そんな彼等も、そしてこの艦にいるものも。そして、後援者であるアズラエルもまた、巨大な組織にとっては異端な存在であった。
つまり、ドミニオンは純粋にブルーコスモスのアズラエル、アルスター派が保有しているようなものであった。
……
出航から2日目、相変わらず月軌道の周囲を回っているドミニオンは、口うるさく喧しい艦長とそれに辟易した乗組員によって運営されていた。
誰もが反論しようと考えるも、このナタル・バジルール艦長は、非常に合理的に反論出来るような要因を、片っ端から片付けていくが故に、反論のしようがない。
また、MSパイロット達もフレイとラウに揉まれている。
何一つ模擬弾が掠りもしない、データ上でも実際の動きでも適うはずもないかのように、その動きに翻弄され続けているのだ。
どんなに成績優秀であろうとも、一般的なパイロットでは勝てない。そう言う領域の存在であるからとも言える。だから、グチグチと陰口を言うのだろう。それが本人達に筒抜けとも知らずに。
「成績は至って普通、寧ろ良いほうだと私は思うわよ?アレで落ち零れだったら、基地の連中どうなっちゃうのよ。」
フレイとナタルは戦争での戦友であるから、口が軽くなる。艦長室で、そんな雑談興じる程にまでその中は良くなっていた。
「やはり素行不良と親の七光りが原因ということか、だとしてもこの艦に送られるのだからそれ相応の成績はあるのか。
いや、この艦が不測の事態で沈んでも良いと考えているのなら、敢えてそう言う選択を残すのもやりそうな手口だな。
こういう事に慣れてるだろうラウ大尉の意見を聞きたい。」
「私としては、反骨精神も嫌いではない。寧ろあったほうが期待できるというものだよ?君達は慣れていないだろうが、そう言うのもまた経験だ。」
この中で特に歳上という訳では無いが、彼は率直にそう言った。実際、ザフトでの彼はそう言った精神でコーディネイターを蹴落として、その座に点いたのだ。嫌いなわけが無い。
「だとしても、こっちだってイライラしてるのにああも態度を出されちゃ気が付かないなんて事も無いわよ?」
フレイは苛立たしげに言った、彼女はまだほんの17歳である。その年齢に見合わない階級と、その指揮官としての立場を与えられているものの、まだまだ思春期真っ盛りである。
そんな彼女が、それに我慢できるかと言えばそこまで大人ではないだろう。
「はぁ……、カタリナだったらたぶん殴ってるだろうなぁ。あの娘、最近感情が芽生えて来たみたいだから、怖いわよ?」
「良く怒られている本人が言うのだ、それ程までに怖いのだろうな。さて、艦長このまま地球に向かうのだろうが、少々手荒な行いをしてもよいだろうか?」
「度合いによる、何をするつもりだ?」
ラウはその言葉に対して口角を上げると、少し嬉しそうに言葉を発しようとして。フレイが、何かを感じていることを理解した。
「どうした?」
「うん?いや、何ていうかなんだろう嫌な予感がするっていうか、急いで地球の方に行ったほうが良いかもしれないなぁって。」
彼女の勘はだいたい正しい、そしてその自体が発覚するのは地球軍の行動は遅かったとも言える。
だからこそ、彼女のこの発言のおかげか?それともそれが原因か、ドミニオンは予定を繰り上げて地球へと針路をとった。
「予定を繰り上げ、これより本艦は地球へと針路をとる。軍事行動中、予定が変わることは当たり前にある。後ろにずれ込む事も、前に倒れる事もな。
今回は私の一存としての、臨時的な行動である。諸君等にも理解してもらいたい。以上だ。」
艦橋内では、彼女が何故その様な事をするのか分かっていない。ただ、一つ言えることがあるとすればこの後彼等は災難に見舞われると言ったところだろう。
……
宇宙空間に浮かぶデブリは、その近辺に存在する惑星の重力の影響を受けている。
そして其れ等の動きは、極端な動揺が無ければ動くことも無くただその力にとって従うのみである。
しかし、そこに存在する残骸であるユニウスセブン。
それが、動きを新たにすること等当に人為的なもの以外にはありえないものであり、その不自然さは直ぐに知れ渡る事だろう。
ただ、其れ等に関して何の興味のない人間には、それに気が付く様なことも無い。
だが、その動きに密かにも気が付くことが出来る存在がいる。
それこそ、
昨今確認され始めた、コーディネイターとはまた違った人類の可能性の姿。
尤も、その定義も曖昧な存在そのものを否定する者も多く、一般的に言えばお伽噺か、はたまたオカルト世界だろうか。
そんな存在達は、確かに違和感を感じていた事だろう。宇宙のざわめきを、死人たちの叫びを。
ストライクトレーナー
アグレッサー機として、ストライクガンダムを小改良された機体。特に反応速度が飛躍的に向上している。ストライカーパックに対応。機体各部の部品は連合の規格品の中でも、選りすぐりのものから選ばれている。
機体性能はウィンダムに準拠、ウィンダム量産の為に放棄が決定される。
機体は所謂ジムカラーである。