「始めまして、フレイ・アルスター殿。私はプラント最高議長を務めている、ギルバート・デュランダルです、よろしく。」
「こちらこそ、アルスター公爵位継承者のフレイ・アルスターです。」
ミネルバ内の会合室にて、恐らくは二度目の公人同士の秘密裏の会談が今開かれている。
さてここに至った経緯を話すが、勿論コレを望んだのはフレイからであった。
現在彼女はアルスター家の当主であるが、年齢は17歳。所謂未成年である。
当主に年齢というものは不要ではあるが、それでもこの時代に於いても俄に若過ぎると言う傾向がある。
その為か、政治の表舞台には立ち辛くどう動こうとしても、付き人が必ず付いてくる。勿論それは監視という意味も多分に含まれており、特に条約後停戦したとしても敵国であったプラントを前にして、彼女をそんな場所に送るほど大西洋連邦の者達はばかではない。
彼女がどう望んだとしても、それだけは譲れないものであった。戦時ならともかく、平時にそんな事をしていては国家として批判の対象になるからだ。
だからこそ、彼女は間近でこのデュランダルと言う人物を見てみたかった。
そして、それを快く受け入れたデュランダルもまた、目の前に座る少女フレイの事を知りたかった。
彼の友人であり協力者であったラウを、どうやってか討ち取った人物をその目で見てみたかったのだ。
実際、2人にとっての互いの第一印象であるが、フレイにとってのデュランダルは胡散臭いの一言である。
まずその立ち居振る舞いは芝居がかっていて、計算の上で何かをなそうとしている人物であると、彼女は看破した。
そして、今回の事件に一番関わっているかもしれないと言うのが、彼女の第二印象だった。
対してデュランダルは、目の前に座るフレイの事をまだ年端も行かない子供だとは、そう判断しなかった。
そもそも、カガリとは違い突っかかる様な態度を見せず、寧ろこの状況で落ち着き払っている事に、場馴れを感じたからだ。
そしてそれは事実ではある。
カガリと同じ様に周囲の人間は彼女の事を利用しようとするが、それに対して真正面からズケズケと物を言う。
経験不足である筈の人間に、内面を見透かされたような物を言われるのだから、周囲の人間はそれに恐怖した。
恐怖とは力である。それは、カガリには無くてフレイにはあるものだった。
彼女は己の願望を叶えるために、自分の力を存分に扱えるように行動する。出来うる範囲で。
だからこそその態度を、デュランダルは注視した。並の人間ではないと。
そして同時に、ラウを殺せる程の人間の遺伝子に興味が沸いていたのは、職業病だろう。
「まさか自ら破砕作業に参加してくださるとは、思いもしませんでしたが我々としてはありがたい事でした。」
「いえ、民を護るものの宿命を果たした迄です。それに…、上手くは行きませんでしたが、御礼を言うのは私達の方です。」
ブルーコスモスと言うもの所属しているはずの少女が、コーディネイターである筈の自分に恥もなく頭を下げて御礼を言う。
それがどれ程のことか、いったい目の前の人間が何を考えているのか、得体のしれない気持ちの悪さがそこにはあった。
「我々としても、無為の民が亡くなるのは本望ではありませんのでね。アレは理不尽です。せっかく平和となったにも関わらず、あの様な者達が現れるのは私の力不足もあるでしょう。礼を言われる程のことではありません。」
互いに牽制するように互いを褒め、互いに礼を言う。
探り合いの始まりであった。
だが、残念な事にフレイには何となく分かってしまっていた。目の前の男が、アレを放置したのは態とであわよくば破壊もされなければ良かった。等と考えている事が。
別に思考を読んでいる訳では無い、ただ何となく分かってしまっているだけだが、それでもその精度は目を見張る物がある。
嘘とお世辞を織り交ぜた会話は、フレイが一方的に情報を抜き取ると言う結果に終わるだろう。
「有意義な時間でした。また、お話できることを楽しみにしています。」
その言葉で締めくくられた怪談は、何もおかしなことも無く終わりを告げるのであった。
……
楽しい時間も終わり、ただ仕事の時間がやってくる。
艦橋内で、オペレーターの仕事を再開したメイリンは小さく溜息を吐きながらも、粛々と仕事を片付け始めた。
「メイリン、どうだったの?あのパイロットは。」
艦長であるタリアがそう聞くと、メイリンは複雑そうな顔をしながら言った。
「アスランさんと仲があんまり良くなさそうでした。ただ、アスハ代表とはそれなりに良い仲というかその……、そういう関係だったのかなぁって。」
そういう関係と言うと要するに、18禁になるので割愛しよう。ただ、実際はカガリの兄ないし弟との肉体関係ではあるが、それを知るやつ等この世に殆どいない。
「意外ね、彼女ブルーコスモスだそうだけど、それでアスラン君とは関係が悪そうだったということ?」
「いえ、寧ろ私には結構気を使ってくれて、場の空気を和ませようともしてくれましたし、本当にブルーコスモスに所属してるのかなぁって、そんな感じでした。」
タリアは少し考える。
フレイ・アルスターの父親は故人ではあるが、その筋の人間に関わらずその名前だけは知られている。
大西洋連邦元外務次官、ブルーコスモス穏健派で知られていたジョージ・アルスターである。
もしかすれば、その教育の賜物だったのではないかと。
「向こうも一枚岩ではないということが、わかってよかったわね。私達と同じ様なね。」
そんな話をしていると、今度はレーダー手から声がかかった。
「艦長!!レーダー情報消失!強烈なジャミング反応、NJの比では有りません!」
慌てた様にそういう声と同時に、光学センサーに切り替わるとその情報が、徐々に分かり始めた。
「未確認飛行物体、高度13000ftを飛行中。本艦から後方10キロ!」
「どうして今まで気が付かなかったの!」
叱咤が飛ぶが直ぐ様モニターに映し出されるその姿を確認すると、タリアは目を見開いた。
そこに映り込んでいたのは、海面を滑走するミネルバとは対照的に大空をゆっくりと飛行している、ドミニオンの姿であった。
どうやって浮いているのか?ミネルバ等のように、地面効果でもって浮遊しているというわけではない、13000ftと言う高さはもはや地面効果等期待することも不可能な高度である。
この高さを安定的に飛行するには、ミネルバは勿論のことアークエンジェル級の艦船もまた、同様に不可能であるはずだ。
にも関わらずこれではまるで浮遊しているのと等しい。
「発光信号!〘我ドミニオン、貴艦後方に着水する〙です!」
ミネルバは海をそれなりの速度で航行している筈だ、それに追い付くようにジリジリと接近し、斜め後方右舷に着水した。
と、同時にレーダー上の強烈なノイズが徐々に消えていく、一部モニターに存在していた不具合も改善していった。
「連合は…、反重力システムでも創り出したとそう言いたいわけなのかしら?」
タリアの声だけが、艦橋に響いた。
……
ミネルバ艦内では動揺が起きていた。
ドミニオンが着水し、そのままオーブへと向かうと言う状況になっていても、結局そのインパクトの大きさに騒然とした雰囲気は拭いきれていなかった。
「へぇ〜、やっぱりパイロットでもこうやって拳銃を扱ったりするのは、ザフトも同じなのね。」
ミネルバ艦外における試射場において、ルナマリアやシン、レイ達が拳銃を撃っていると、その後ろからそう問いかけられた。
イヤーマフを着けてはいるものの、銃撃音のみを除くことから其れ等を聞き取るには充分な聴力は確保されている。
だが、声をかけてきた相手の組み合わせが少々違和感のあるものだった。
フレイと共に、アスランがいるのだ。嫌悪な関係ということをメイリンから聞いていた3人は、それに疑問を抱いたのだ。
「…艦内、出歩いて良いんですね。」
口火を切ったのはルナマリアであった。同性であるからと言う事もあるが、それ以上にメイリンから聞いていたこの人物の素性を改めて聞いておいたほうが良いと思ったからだ。
「珍しい組み合わせですねっとか、聞かない訳ね。まあそれは良いわ、艦長と議長からは許可は貰っているわ。軍事機密に抵触するような事以外なら良いってね。」
自分が聞こうとした事を言われ、ドキリとするルナマリアにスラスラと質問を返すと、今度は逆に聞き返された。
「どうしてこの組み合わせが珍しいと思うの?あ、別に敬語とかは良いわよ?貴女私と同い年みたいだし。」
「えっと…、そりゃあ片や連合のエースとザフトの英雄ですから、浅からぬ因縁とかありそうだし…。それに、」
といってメイリンの方を見る、そのメイリンは少しビクついてた。もしかしたら、相手に嫌なことだったかもしれないと今更になって思ったからだ。
「ま、因縁はもちろんあるわよ?それ以上に、コイツの今の立場が気に入らないだけよ。血は力を持っているもの、それは目に見えないし感じられないけど、コイツは自分の影響力を過小してる、だから気に入らない。」
「過小しているか……、確かに今の今まで俺は父上のザラと言う物の大きさを過小していたかもしれない。それが、この事態に発展したのなら俺にもその責任はある。」
極端過ぎる物言いに、呆れ顔のフレイ。そして、何故そんな顔をしているのか理解に苦しむ周囲。状況があまりにも散らかっている。
「アンタねぇ……、いい加減その両極端過ぎる考え方辞めたほうが身のためだと思うんだけど、良い?血の力ってのはあくまでも道具としてという意味で、そうやって責任問題とかはどうだって良いのよ!
私が言いたいのは、自分の血に振り回されるなって事、良い?わかった?」
それに対するアスランもどちらかと言えば難しい顔をしている、両極端な彼の性格は無自覚なものである。
仕方のない事と言えば仕方のない事で、それで今まで問題がなかったのだから…、いや多少問題はあったがそれを自覚する前に優秀な彼は問題を片付けるのだからたちが悪かった。
「じゃあ、改めて…フレイ・アルスター少佐です。よろしく。」
嵐のような女、そう形容するには十分な性格だった。勿論、自分の性格など百も承知、やりたい事をやるのが彼女のもっとうであり、抑圧されのは大嫌いだ。
だが、自分でそれを制限出来るのだ。それは誰のおかげか、そういう物が身についていた。
「えっと、ルナマリア・ホークです。であっちが」
「レイ・ザ・バレルだ。」
「………、シン・アスカ。」
3人もそれぞれ自己紹介をするが、やはりシンは気に入らないのだろう。連合兵がここにいること自体、彼は機嫌が悪くなる。
「ここに来たのは暇だからですか?」
「そうよ?近い年齢なら、それなりに親睦も深まるだろって寸法みたいね。それにドミニオンに移乗するにはオーブに近すぎるから、向こうで離艦する予定それまでよろしく。
あ、ちなみにコイツはカガリから行って来いされただけよ、気晴らしにね。」
「余計な御世話だ。だいたい、撃つ気には。」
アスランがそう言おうとすると、フレイはそれに火をつけるように言った。
「へぇ、腕には自信がないの?お手本見せてやんなよ、ちなみに私はこういうの苦手だから。」
「やるのは構わないですけど、ちなみにアスランさんは非常に腕が良いって聞いてますけど、貴女はどうなんです?」
聞くと同時にルナマリアはフレイに拳銃を手渡す。信頼というよりかは、純粋な興味からだった。
パン
パン
と言う乾いた音が数度響き、射撃が終わる。
アスランは勿論高得点、寧ろミネルバ隊の面々よりも優秀だ。一方でフレイはと言えば、ルナマリアと同じ点数である。
「この程度よ、あまり得意じゃないって言ったでしょ?」
コーディネイターであり、赤服であるルナマリアと同程度の射撃精度ならそれは必要十分を完全に満たしているのだが、それを誇る事もしない。
「俺は戻るとするよ、君は?」
「私はもう少し見学するわ、勿論監視がいないと動き回れないしね。」
その後、射撃を続けるルナマリア等の後ろから、それを観察し続けるフレイの姿がそこにはあった。
……
ざぶんと飛沫が辺りを染め上げ、花々にそれらがかかったのであろう、濡れてしまっている。
至るところに瓦礫が打ち上げられ、そこに高波が来たということが良くわかった。
その瓦礫の中でもそれなりに大きな物を、MSアストレイの廃棄機体が最後の奉公として、手で掴み上げては運搬していく。
「おい、キラそっちは終わりだ。次行くぞ次。」
「わかりましたムウさん。」
軍だけでは手が足りず、大西洋連邦からオーブへと亡命したムウと、軍属ではないキラにもその声はかけられオーブの沿岸地域に送られていた。
「せっかく復興したのに、これじゃあ。」
「そうだな、だけどさ死人も無く事が済んだんだ。俺たちが生きてりゃなんとかなるさ。」
作業の終わりには、2人は所属するモルゲンレーテへと足を運びアストレイを返却し帰路に着くのだ。
ムウは愛すべき女のいる場所、ラミアスの待つ場所へと帰る。互いに亡命者であるから監視という意味を込めて、マルキオの住む場所に厄介になっているのだ。
キラはと言えば……。
「ただいま。」
その言葉とともにバタバタと言う足音がたくさん聞こえる。
子供たちの待つ孤児院、キラの両親が経営するその場所。
そして、
「おかえりなさい、キラ。」
ラクスが彼を出迎えた。
ラクス・クラインは、プラントに自分の居場所はないとそう思っていた。
実際、彼女に今身を寄せられる場所などありはしなかった。
身内は死に絶え、たった一人残された場所にいたいと思うだろうか?
敵対する人々のいる中でたった一人、いたいと思うだろうか?
彼女にとって、クラインと言う名は所謂呪縛となり彼女を締め付けていた。
そんな時、声をかけてくれたのは他でもないキラとその両親であった。
共に暮らしていく内に、ヤマト夫妻は2人にとっての大きな秘密を打ち明けた。
戦争に巻き込まれ、キラが出生の秘密を知った今それを隠し通す事など出来ないと悟ったのだろう。
そして、ラクスにとって思い掛けない言葉を聞いたのだ。
〘キラとラクスは同じメンデルで産まれた〙
実際、ヤマト夫妻はシーゲルとの関係は無くとも、面識だけは持っていた。
ただそれだけしか2人は知らないが、だからといって人を愛さない事など、出来る2人ではない。
そんな事実を知って尚、2人はラクスを受け入れているのだ。
そう、ここは様々な隠し事を唯一隠さずにいられる、そんな場所なのだ。
血の呪いから、唯一外に出られる場所であるのだ。なら、そんな場所居心地が悪いわけがなかった。
そして……、ラクスはキラの事を心から愛していた。
似たような境遇であるが、だからといって依存するのではないと何処かで心に引っかかりを覚えながらも、彼女は今日もキラと共に生きる日々が好きであった。
だからこそ、この後2人に降りかかる災禍は決して許容し難いものではないのだ。