機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第7話

オーブ軍港に二隻の宇宙戦艦が停泊している。一方は乾ドックへと、一方はそのまま港だ。

乾ドックに停泊しているミネルバは、先の戦闘以前のコロニー脱出〜地球降下までの夥しい損傷によって、軍事行動は難しいものとなっていた。

そこで、地球圏を代表してここでの修理が特別に許されたのだ。

 

ドミニオンに関しても同様な事が言えたが、こちらは正面切ってそこに突入したわけではないため、港への停泊で終始することとなる。だが、ミネルバ内に存在するストライクを受領するという重要な物が残っていた。

 

「最終調整完了、何時でも行けますよ。」

 

ミネルバの格納庫では、連合の整備兵が入り込みストライクの状況を直ぐに点検すると、直ぐ様ストライクの起動に漕ぎ着けた。

 

「こんなとこに入れちまって良いんだろうか。」

 

何処からかそんな声が響くが、そんな事整備兵が一番分かっている。寧ろ、こんな場所居心地が悪くて居たくもないのだ。

 

「ご迷惑をおかけしました。」

 

そう言って帰るのが一番早いだろうと、整備兵はストライクのコックピットに乗り込みそれを動かしていく。歩行くらいならば、オートで行ける。

パイロットであるフレイは、一足先にドミニオンへと向い今頃は書類を作っていることだろう。

 

ちょうどその頃、艦長間並びにオーブの軍港最高官での中立国としての入国手続きなどをやりながら、時間は進んで行った。

 

……

 

艦長等の入国手続きが終わった頃、項垂れている人物がいた。

 

「あ〜ぁ、書類仕事ってあまり好きじゃないのよね〜。何でこうも面倒なのかしら、データ見れば済む話じゃない。」

 

「データとの整合性というものは案外馬鹿にならないものだ。虚偽を判断するにはこの手に限るからな。」

 

ドミニオンへと帰還を果たしたフレイに待っていたのは、書類の山との格闘であった。

今回の出撃の経緯と取った作戦、及び部隊の損耗度合い等数えたらきりが無い事をやらねばならなかった。

それを手慣れたように行うのが、ラウである。その手慣れたところから、流石は元ザフトの白服だろうか知っているものからすれば、当たり前の光景であろうが。

 

「さて、私の分は終わった。後は君の分だけだ、せいぜい頑張ってくれたまえ。」

 

「ちょっと何処に行くのよ!」

 

「野暮用でな、少し外を散歩してくるだけさ。」

 

そう言って部屋を出ていくとフレイは何か違和感を感じながらも一人取り残されて黙々と、報告書の作成を続ける他無かった。

 

同じ頃、ミネルバでは珍事が発生していた。

レイが何やら私服を取り出して、黙々と支度を始めているのだ。ザフト入隊からこっち、一人でその様な事をしている所を周囲の人間はあまり見たことがなかったのも有るだろう。

疑問の眼が向けられていた。

 

「ちょっとレイ、どこ行くのよ。」

 

廊下ですれ違ったルナマリアはそう声をかけた。

艦長からの外出許可、半舷休息が言い渡されて別々に休日を過ごす事となったとは言え、単独でオーブ。

しかも、連合の兵がいるような場所に自分達はいるのだから、あまりにも危険過ぎると言えた。

 

実際、プラントから出たことがない彼等にとって、地球という環境は特殊なものであり、何があるのか分かったものではないのだ。

皆が恐る恐ると言った具合の中、真っ先に外出許可を取るなど珍しい意外の何物でもなかった。

 

「野暮用でな、少し外を散歩してくるだけさ。」

 

そう言って彼は一人、ミネルバから外出した。

 

軍港ゲートから少し出た先には、バス停が存在する。

車を持っていないものもいるのだ、貸出も出来なくはないがそこはまだ交渉中であった。

一番の理由は、行き先を限定しやすいと言うメリットがあったからだが。

 

ともかく、レイはそのバス停へと足を向けるとスーツ姿の金髪、サングラスの男が既にそこに立っていた。

レイはそれをみると目を大きく見開いて驚くが、この場所はあまりにも公の場所であるから、それを表に出さなかったのは流石と言えた。

 

横に並び立つと、まるで歳の離れた兄弟のように瓜二つな背格好。時折レイはその男、ラウの方をジロジロと見ては目を伏せる。挙動不審とはこの事だが、もし彼の知り合いが一人でもいればこの事態は驚愕に値いした事だろう。

 

暫くするとバスが来る、そして2人はそれに乗車して一路市街地へと向かった。

 

バス車内でも終始無言であった、マナーという事もあるがレイからはチラチラとラウをみている。

ちなみに仲良く2人は隣の席に座っているから、別に変な雰囲気が周囲にあったかと言えば無かった。

 

繁華街に到着すると観光名所など見向きもせずに、2人はさっさと喫茶店へと入る。チェーン店であり、どこにでもある普通の場所だがそこで2人は1つの席に座った。

互いに無言を貫き通しながら、同じメニューを頼み同じ様に受け取り、同じ様にそれを口にする。息の合った良い兄弟に見える。

 

そして、一息ついた時口を開いたのはラウの方からであった。

 

「元気にしていたか、レイ。身体の具合はどうだ?」

 

開口一言目はレイへの心配だった、ただその一言にどれ程の内容が隠れているのか、周囲には分かるはずもない。

そして、その質問に答えることはせずレイは、質問に質問で返した。

 

「今まで何処にいたかと思えば、まさか連合にいるなんて…どうして生きているのなら連絡をくれなかったのですか?」

 

大きな声では言えないが、そう投げかけた。

 

「私にも事情はあるのだ、だが悪いところではない。寧ろ…、今こうして君に会えるということがどれ程の好機かと、そう思うほどには。」

 

そう言うと、スーツのポケットから記録媒体を取り出すとそれをレイに手渡す。

 

「コレは?」

 

「開かずともお前ならば何となく検討はつくだろう、君の未来の為にもこうして渡しておくのがベストであると、私は確信している。

私に残されている時間はそれほど多くはないが、君の猶予期間は私のそれよりも遥かにに長いのだ。それを誰にどう渡すのか、君なりに考えろ。」

 

そう言うとグイッと一息にカップを飲み干し、席を立つ。

 

「ギルにこの事を教えても?」

 

「それは君の勝手にすることだ、もうお前も良い頃合いだろう。己の判断で生きてみたいと、そうは思わんか?」

 

足を止めてその一言だけ言うと、今度は2人分の料金を支払いラウはその店を後にした。

残されたレイは、手渡されたそれを見ながら苦悶の表情を浮かべて判断に杞憂していた。

 

 

……

 

軍港直ぐ近くに2台のバイクが停まってた。

何処のモデルだろうか、きっとオーブ製に違いないのは確かだろう。

黒のバイク。黒いヘルメットに、黒のジャケット。

全身黒ずくめ、怪しい姿だと言われればそれまでの格好だが、不思議とその人物からは威圧感など出ていない。

 

寧ろ、よくよく見れば少しナヨっとしているようにも見えて病的な痩せ方では無い、単なるバイカーなのだと思われる。

その直ぐ後ろに、白色のバイクが置かれていて少しピンクの刺繍の入ったジャケットを着込んでいる人物がいた。

 

軍港をそんなに直ぐに内部を見れて良いものなのだろうかと思うかもしれないが、ここはオーブ。

表の軍港等、外港用の備品に過ぎず実際は要塞化された秘密軍港が島嶼部に点在している。だから、諸外国の艦船を見られる絶好の機会がここにはあるのだ。

ミネルバの姿も、カメラにきちんと収まるくらいには。

 

「アレが新しいザフトの軍艦なんだね。」

 

「そうですね、でも…私の偽物様を操っている人も乗っているらしいですわ。」

 

偽物、彼女の言うそれは最近プラント内で復活したラクス・クラインの事を指していた。

本人は此処にいるにも関わらず、そのラクスが姿を現すと瞬く間に宣伝に利用されている。

歌姫の復活、聞こえは言いがその歌は歌手というよりかは、安っぽいアイドルのそれだ。

 

ヘルメットを被りながら互いにインカムで会話をする。

走りながらの会話もしたいからと、そんな機能を付けている。完全に趣味用だ。

 

「本当にそんな人乗ってるのかな、でももしそんな人が乗っているのなら…、何でそんな事をしているのか聞きたいくらいだね。」

 

「えぇ、私は私という椅子に座るつもりは有りませんから、話し合って和解できれば喜んでその座から退きますのに。」

 

彼女は疲れていた。神輿として担ぎ上げられることに。

彼女はまだ18歳だ。19世紀以前ならいざ知らず、今や宇宙に進出したほどに成熟している筈の人間が、どうしてそんな年齢の子供に縋らなければならないのか?

 

「もし、そうなれば僕は…僕も君と一緒に行っても良いかな?」

 

キラも疲れていた。

確かに現実的に彼等の出自は良いとは言えない、そんな現実を受け入れ難いという事もある。

だからだろう、彼等は逃げたいのだ道を選ぶことが出来ないと言うこの不条理から。

 

「キラ……、その言葉有り難く頂いておきます。誰か、連絡が取れる方を探してみましょう。そうすれば、話し合いも出来るでしょうから。」

 

そうして2人はバイクに乗り帰路に着く、その判断が間違いだと気が付いたのは、少し後になってからであった。

 

 

……

 

二隻が停泊してから暫く経ったある日、シンは一人でオーブのとある場所へと訪れていた。

それは草花が生い茂り、綺麗な花畑となっていた円形の広場。中央にあるのは、モニュメント。

 

だが、その場に合った草花達は濡れていた。

雨も降っていないのに、其れ等は濡れてしまっていた。

海辺に創られたそこは、ユニウスセブンの断片が地球に降り注いだ時、大規模な災害によって海の水を諸に被り、アチラコチラにキラキラと光る小さな粒が付いていた。

 

そんな事を知らずに、シンはそのモニュメントを目指していたが意外な人物が既にそこに膝立ちで祈りを捧げていた。

 

「はあ?なんで。」

 

シンは嫌悪感で胸中がいっぱいになっていた。

オーブのこの花畑を創り出した元凶である地球連合、その軍人である筈のフレイがそこにいたからだ。

 

「私がここにいちゃ不満?それとも、連合兵がこんなところに来てほしくないってこと?」

 

立ち上がりながら振り返ってくる彼女の瞳には、涙の跡があった。何故、彼女は涙を流していたのだろうか?シンにはそれは分かりかねた。

 

「ここにはね、ヘリオポリスで死んだ友達がいるの。勿論、身体とかそう言うのは埋まってはいないけど、確かにここに眠っている。」

 

「友達って、アンタ。」

 

シンにはわからない、フレイの友人と言う人物たちがどうしてオーブと関係があるのかと。

そう、宣伝の中フレイと言う人物は限りなく美化されてきた。

連合のエースとして、その素性を隠されてきた。

本心は単純に、復讐心から手を血に染めただけであるのに。

 

「良い?軍人になったからには覚悟しなさい。貴方は分かってるのか知らないけれど、いつかは戦争で貴方は貴方の家族を殺した奴等と同じ存在になるってことを。

理解っていなさい、その選択に迷う時が必ず来るって事を。」

 

曖昧なアドバイス、それがシンに対しての言葉なのか自分に対しての言葉なのか、だが1つ確かな事は、彼女は確かに誰かの仇であるという事実だろう。

 

「だけどね、そんな事になっても信念を曲げずに戦い続けた、貴方達を護ろうとした人がいるってことも、忘れないであげて。」

 

そう言っている彼女の視線の先には、シンはいない。

シンの後ろの方に向いている。

シンはその意図に気付いて振り返ると、一人の青年と黒髪の美しい女性が寄り添う様に立っていた。

 

「フレイ…、とそっちは。」

 

「コイツはシン・アスカ、ザフトのパイロット。

久しぶりねキラ、それに……。」

 

シンは目の前の人物がどういった相手なのかわからない、だが何となくフレイが語りかけていたのだから、オーブのあの戦闘に関わりがあることは確かだと、そう思った。

 

「レイラ。2人とも元気してた?」

 

「はい、お元気でした。キラと、2人で暮らしていますわ。」

 

そういうと、キラの腕を掴み離すまいとするレイラと言う女性。

急な展開にシンは何が起こっているのか判断がつかないが、嫌悪な雰囲気というものではなかった。

 

「フレイはどうしてここに?」

 

「お墓参りするのに理由が必要?ま、寄ったからには行かないという選択肢は無いわよ。ここに、私の原点があるんだから。まあ、もう用事も済んだ事だし、そろそろ帰るけどまた何かあったら来るわ。」

 

そう言うとシンを置いて、2人の横を通り過ぎようとした時ふと何かを言うために立ち止まった。

 

「キラ、彼に話してあげなさいよ。彼、元々はオーブの人だったみたいだから、あの時何があったのかとかさ。後、たぶんだけど彼口は硬いわよ。色々と思う所あると思うけれど、アンタが何にに乗って何をしたのかとか、話しても良いかもしれないわよ?」

 

「……わかったよ、ラ…レイラもそれでも良いかい?」

 

「…私はキラの判断に身を委ねます。それでは、フレイさんまたいつか。」

 

そして後ろ姿が見えなくなっていくと、キラと言う青年はシンを目の前にして、何かの決心をして言葉を紡いだ。

 

「改めまして、キラ・ヤマトです。オーブ防衛戦では……、フリーダムに乗っていたパイロットです。」

 

シンは驚愕した、いきなりの発言に理解が追いつかない事ばかりだったが、こればかりは意味が分からなかった。

混乱する頭の中で、目の前の人がいったいどういう人であるか、わかることもない。

初見であるにも関わらず、そんな事を言う意味すら分からない。

ただ、1つ分かることがあるとすれば目の前の青年が、苦悶の表情でシンにそう言ったと言う、紛れもない事実だった。

 

 




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