ドミニオンは、その大きな格納庫の扉を開放して様々な物資をそこへと搬入していた。
特に食料等の生活必需品が大半を占め、武器弾薬は寧ろ一部をオーブに降ろすような、そんな大胆な行動が見て取れた。
大西洋連邦に限らず、ユニウスセブンの破片は地球各地に降り注ぎ、落着場所は大小様々な問題に見舞われていた。
特に問題となったのは、極地に住まう人々の生活必需品。である。
地球への被害は少ないものの、粉塵や道路網の寸断等が起こった場所に物資を運ぶのには、航空機ではあまりにも少ない。
そこで、比較的被害の少なかったオーブから備蓄物資を買い取ることで、其れ等を補おうとしたのだ。
勿論、オーブにはそれを拒否する権利はあったのだが、人道的見地に基づき其れ等を断る事はよろしく無い事とされた。
特に世界中で被害の少ない国として名が上がってしまっているのだから、そこから出さないと言うのは国際的に品位を下げる事に他ならず、枠組みを超えてそれを実行する他無かった。
積み込みも終盤に差し掛かると、今度は最後の晩餐と言うことでミネルバのクルー達との懇談会が開かれた。
一流、とは言えないが艦内のシェフが振る舞う、そこそこの料理はプラントと地球の食文化の違いを見せつけるには良い結果となった。
特に、オーブから出向してきたシェフのそれは所謂懐石料理や海鮮料理は注目を引いた。
大西洋連邦のような国は、ジャンクフードが中心になりやすく、プラントはその成り立ちからあまりそう言った料理が発展することは無い。特にマグロ等の大型海洋動物を使った料理ほど。
歴史のある料理と言う物を、彼等は初めて眼にするのだ。
例えどれほどの国境を創り出そうとしても、結局人間の舌はそれほど違いはない。
確かに慣れた味覚はあるにせよ、その本質が変質するには数万年の時を有するだろう。それは遺伝子改変等ではどうしようもないものだ。
そんな中で、シンはそのオーブの味に改めて懐かしさを感じていた。
鉄火丼や刺し身、干物等の懐かしい味。味噌汁や、その繁殖力故にコロニーでは取り扱い出来ない、納豆。
そんなものを口にする度に、眼から涙が出てくるような実際出て来ていることに、周囲はザワついたりもした。
周囲にはどう映ったのかは分かりかねるが、得体のしれないものを食し涙を流すというものは一般的には嫌な物を食べたときだろう。だが、シンにはその味は懐かし過ぎた。
心配するものの中には、ミネルバは勿論のことドミニオンの船員もいた。
それをきっかけに少しずつ交友がはじまり、終わり頃には幾つかのグループが出来ていた。
そんな懇談会もつつがなく終わりを迎え、そしてその翌日、盛大な見送りもなくドミニオンは出航したのだった。
だが、セレモニーこそ無かったがミネルバの艦内員達は、先行くドミニオンに各々別れの敬礼をした。
たった数時間の出来事が、彼等にナチュラルも同じ人間なのだと改めて実感させるには、充分な時間となったのだ。
だが、これが地獄の門であるとは誰もこのときは思っていなかった。
……
ドミニオンは数日の航海の後大西洋連邦北西、所謂アンカレッジと呼ばれる都市へと到着した。
そこは破片が落着した直ぐ近く、つまりは被災地であるがその場は北方大地である為に、道路網が完全に寸断されていた。
幾人もの餓死者が、この時既にでていた。
痩せ細った人々、老人や病弱な人間を切り捨てて健全な肉体を持った人々だけが、なんとか生き残る事に専念してやっと生き延びていた。
そんな場所は幾つもあるのだが、ドミニオンの運べる物資にも限りはある。
焼け石に水と言われればそれでおしまいであるが、それでもやらないよりかは遥かにマシだった。
MSを活用し、周囲に飛び散った瓦礫を取り除くパイロット達、ドミニオンの発電機能を使用した電気インフラ。
最低限の栄養を補給させる為の、味気ないMRE。
幸いな事に船舶が動けるだけの電力を供給出来れば、船乗りたちは海へと漕ぎ出すことが出来る。
それだけで、どれ程の食料が確保出来るだろうかおかげでドミニオンの仕事はそれだけで済むのだ。
「どうだった?」
「駄目でした、周辺の集落への物資投下がまだ行われていません。たぶん、まだ上が動けていないのでしょう集計に間に合っていないのかもしれません。」
フレイ達パイロットは瓦礫の解体を行いつつも、周辺の状況を目視で確認するという作業を行っていた。
MSもバッテリーで駆動していることから、それほど長距離での行動は出来ないが、何もしないよりかはマシな結果だ。
NJの影響はここにきて、最悪の場合事態を招いていた。
これから冬季が始まるというのに、全くと言っていいほど情報が集まらない。
それだけではない、本来この地域の中心であった都市が被害を受けているのだから混乱が生じてしまっていたのだ。
「そう……、なりふり構ってはいられないって状況な理由ね、わかったわ。ありがとう、休憩に入って頂戴。」
この状況に合って、フレイは一つの決断をした。
それはこの非常時という物の中では、危険なカンフル剤のようなものだろうがそうも言っていられそうに無かった。
「この都市にも、支部はあった筈。本来の目的を忘れていなければ、きっと難民キャンプにいる。」
彼女はMSのバッテリーを確認すると、そのすぐ近くにある難民キャンプへと向かった。
キャンプには大小様々なテントが乱立していた。
近くの小村や街からの避難民がそこには集結し、この惨事を物語っている。
彼女は近場でストライクから降りるとその中で、医療財団等が居を構えるテントへと一目散に向かうと、とあるワッペンを探しそう言った人物を直ぐに発見した。
「ちょっと、そこの貴方良いかしら?」
「え…?はい。なんでしょうか急ぎでなければ、あまり余裕は無いのですが。」
何処にでもいるような医療従事者、それも恐らくは町医者なのだろう。そう言った、何の変哲もない雰囲気を持っている。
「清浄な世界を望むのなら、リーダーに伝えて?フレイ・アルスターから話があると。
連絡は…」
無線の中でも使用されていない周波数を教えると、彼女は再び同じ様なワッペンや腕章を付けている人物に声をかけ、その場を離れドミニオンへと帰還する。
そこで多少の補給を受けた後、彼女はコックピットの中で休憩を始めた。
他のパイロットから休憩しないのかと、そう声をかけられたが有事に対応するにはこれが一番手っ取り早いと、そう言ってコックピットで待ち続けた。
そして、とある周波数帯から連絡が入った。
NJの影響下でも、短距離無線は効果があるので彼女は再び機体を出撃させると、その場へと向かった。
MSは非常に目立つ、だがこのときはそうも言っていられないので、本来秘匿すべきものだが大ぴらにその姿を下していた。
「ごめんなさいね、こんな目立つような形で。」
「いえ、こちらもそれほど余裕がある訳ではありませんから。それで、如何様ですか?」
現れた男は、別に何処にでもいそうな一般人だ。
だが、それと同時にやはりそのワッペンを腕に着け自分の所属を案に示していた。
「組織に協力しているここ周辺のコーディネイター達に伝えて欲しいの、最後のチャンスだと。
ここに集結して欲しいって。」
「それは……、なるほどその為に私を呼んだのですか。わかりました、彼等に連絡し貴方の所属する軍艦へと向かわせます。連絡はどうします?」
真正面から入れば怪しまれる事もないと伝えると、男とはそのまま別れ再びドミニオンへと帰投する。
その時だ、ナタルから連絡が入った。
「アルスター少佐、何をやっている!無断出撃はご法度だと」
「情報収集の一環です、今出来ることはこれくらいしか無いので。」
フレイのその言葉の意味を理解出来無いほどナタルも馬鹿ではない、だから物腰を柔らかくした。
「そう言う事をするなら、まずは私に断りを入れてからやれ。別に、こういう時だ。黙認しないでもないのだからな。」
アークエンジェルからの腐れ縁は、この時生きた。
互いに秘密はあるものの、それほど深くは突っ込むことはない、特にフレイの後ろ暗い噂というものは、それなりにある。
だが、それを深く知る必要もない。表側で待っていればいいのだと、ナタルは昇格する為に様々な勉学で身を研ぎ続け、帰る場所はまだあるとそう安心させようとしていた。
……
ユニウスセブンの破片が各地に降り注ぎ、様々な問題が世界中を駆け巡って数週間、ある事象が起こっていた。
それは、在地球コーディネイター達が積極的にこの問題に対して動き出していると言うものだった。
彼等は口々に言う。
〘同胞がやったことなのだから、自分達も無責任に傍観していては同じ穴の狢だ。〙
と、その様なニュアンスの事を言うのだ。
それは様々な組織の中で潜伏していた彼等が、初めて大々的に姿を現したと言うのが如何に勇気がいることであった事だろうか?また迫害が始まるかもしれないと、そう縮こまる者達の中から最初に立ち上がったのは、ブルーコスモスに所属していた彼等であった。
ブルーコスモス内部でも、自分の事をコーディネイターであるという事を秘匿する者達はいる。
その地域の纏め役の人間しか知らない者達などもいるのだと、そういう人々が内側から殺される可能性がありながらも、立ち上がったのだ。
危険極まりないその勇気ある行動は、様々なメディアに取り上げられる。
そして、もう一つの現象が起こる。それは至って小さな変化であった。
昨日まで互いにナチュラルだと思っていた友人同士が、なんとコーディネイターであった。だとか、昨日まで普通に遊んでいた友人が実はコーディネイターである事を隠していたけれど、肉体的な強度はナチュラルと比べて全然高くない、寧ろ運動神経は壊滅的だった。だとか。
所謂、免疫疾患への治療としてのコーディネイターが多数を占めていたと言う事実だった。
そんな日常の中に潜んでいた事実が表に出てきたのだ。
それによって、人々の中にある潜在的なコーディネイターに対する違和感は、少しずつだが確実に目減りしていった。
要するに
なんだ、コーディネイターなんてこんなものか。
と言う呆れや、人の良い部分を持つ力がなせる所業が拡散していった。
そうした中で、ブルーコスモスもまた変革の時を迎えようとしていた。
これまで、ブルーコスモスは過激派穏健派問わず、反コーディネイターの旗の下行動してきた。
だが、ここに来て過激派と穏健派に完全な軋轢が産まれてしまった。免疫疾患治療が果たしてコーディネイターだろうか?いやいや遺伝子を弄っているのならコーディネイターだ。
様々な意見が入り乱れ混沌とし、そして最終的に2つの巨大なグループが出来上がる。
1つは汎ゆる遺伝子調整も許さない、純然たるナチュラル至上主義者。
もう一つは、治療としてのコーディネイター技術を容認し、筋力等へと過剰な施工を禁止にすべきと言う者達だ。
外から見れば同じ様に見えるだろうが、実態はこれだった。
治療擁護派(以下擁護派)は、プラントへのある程度の融和。これから人口が減少していくだろうプラントへ、助け舟。即ち、ナチュラルとの婚姻を推し進めていくべきと言う言葉を話し。
ナチュラル至上主義派(以下ナチュラリスト)は、汎ゆるコーディネイターを抹殺すべきという短絡的な思考に陥った。
決定的な食い違いによって、この2つのブルーコスモスは分裂することとなる。
さて、分裂の後に待っていたのは予算の奪い合いというものなのだが、ブルーコスモスの盟主であるアズラエルであるが、この男は使える者は使う主義である。
このアズラエルにとって、この時の在地球コーディネイター達は、所謂使える駒であった。
従って、一番のパトロンであるアズラエルが擁護派へと傾く。
勿論他の財界人もいるだろうが、イデオロギーよりも実利を取るのが経営者たちである。
素晴らしいイデオロギーであっても、金儲けの為には利用する道具に他ならないのだから、其の者達も必然的にアズラエル側へと流れていく。
ナチュラリスト達の資金源は目減りしていく一方になり、徐々に彼等は後退を余儀なくされるはずである。
だが、そうはならない。
アズラエルと言う人物と対立する経営者達、所謂ロゴスと言う者達もいる。
必然的にナチュラリスト達と、ロゴスは接近して行き先鋭化して行った者達はより過激に、コーディネイター感情を発達していくととなる。
そしてそれは、第2の戦争の引き金を引くには必要十分な量の狂気でもあった。
そして、それはドミニオンで養成されたパイロット達の運命にも降りかかっていく。
彼等がどれ程足掻き藻掻き、抗おうとも歴史という大河の流れにとって、小さな砂粒の一つにすぎない。
「お〜い、そこのとってくれよ。」
「はいよ〜!」
と、格納庫に響く若々しい声を発する者達は、いったいどれだけ
生き延びることが出来るか
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