地球の空は少し霞がかっている……、ユニウスセブン破砕後その塵やガスが大気圏上層を飛び回り、日光を少しだけ遮断しているのだ。
つまり、太陽からの熱が届き辛くなっているということになり、これによって地球の寒冷化が始まるだとか、そういう話が各地に広がっている。
だが実際の処、地球と言う星を人類は過小評価している。
今回の事件は後に、〘ブレイク・ザ・ワールド〙と呼ばれる事となる。幾つもの都市が壊滅し、跡形も無くなった。
だが、彼等は知らないだろうが、地球は更に酷い状況の中人類を更に100年以上も支え切ったのだから、そこまで地球と言う星は凄い星だという事を。
さて、一人の少年。シン・アスカは、オーブからカーペンタリアへの帰還後、休憩時間に空を見上げる事が多くなった。
いや、どちらかと言えばと言うほどの頻度でしか無いが、彼は上の空で何かを考えている。
訓練生からの友人であるレイやルナマリアは、そんなシンの事が気になった。
何故だか知らないが、上の空のシンは時折頭を押さえるような仕草までするからだ。
「ねぇシン、アンタ本当にどうしたのよ。悩み事があるなら聞くけど?」
「ルナ…、いや良いんだ。コレは俺が決断しなくちゃならないんだ、それに……約束だからさ。」
レクリエーションルームにて、休憩時間にルナマリアはシンに聞くと、対してシンは約束だからの一点張り。
その約束が一体何なのか、それが気になって仕方がない。更に言えば、その約束の相手も誰なのかだとか検索してみたくなるのも、この位の年齢ならば致し方無いだろう。
「何よ、隠し事なんてらしく無いわよ。」
「うるさいなぁ!隠し事なんて、俺だって1つや2つ…。あ……、ごめん。」
一瞬声を、荒げるシンにルナマリアは身体をビクリとするが、それを見たシンは急に罪悪感が芽生えて謝る。
ルナマリアもまた、そんなに怒るような事を検索した自分を少しだけ恥た。乞食じゃあるまいし、そんな擦り寄るようなやり方人としてどうなのかと。
「オーブから帰ってから、態度変わり過ぎよ。こっちは皆心配してるんだから。レイもレイよ、男同士なんだから悩みくらい聞いてあげてもいいのに。」
レイは悩み事を顔には出さないタイプの人間だ。それ即ち、周囲に悟られないよう、必至に堪えるタイプとも言える。
彼も彼で悩み事があり、それがシンへの気遣いを超えてしまっているのだ。シンを心配しながらも、それを支えられるほど彼は大人ではなかった。
「シン、本当に大丈夫なの?」
「何か悩み事があるなら聞くわよ?」
ホーク姉妹に詰め寄られるシンは、ポツリポツリと語り始めた。
「俺、オーブの出身だろ?それでさ、家族がそこで死んだって話したよな。それでさ、共同墓地に行ったんだよ…。
綺麗な花畑になっててさ、潮被っちゃってたから枯れちまうかもしれないけど、そこであの連合のパイロットともう二人とあったんだ。」
それを聞く2人は痛ましい顔をするシンを見て、いたたまれなかった。家族を失ったと言う現実を突き付けられたシンに、同情はするも家族を失った事のない2人にはどうしようもない問題だったからだ。
「オーブ防衛戦の時に、パイロットをやっててそれに参加したんだって。それで……、護れなくてごめんって…謝られたんだ…。それが、おかしくてアンタのせいじゃないっていうのに、どうして謝るんだって言ったらさ、それでも謝られたんだ。
俺そこから逃げちゃってさ、ありがとうの一つも言わなくちゃならないのに…、それでずっとそれを考えてるんだ。」
シンと言う人間は恨みや、そう言う類のものを引きずるタイプである。しかし、それは逆に言えば自分の失敗に対しても同じであり、罪悪感等を引き摺りやすい。
かと思えば、あっけらかんとしている事もある。
本来の性格は非常に分かり辛いが、この場合PTSDは確定的に持っているとして、躁鬱症状に似ている為そのような性格に見えるのだろう。
「それは…、謝らなきゃ駄目でしょうね。それでもやっちゃったものはしょうがないじゃない。相手の名前はわかるのよね?」
「確か、キラ。キラ・ヤマトって言う名前だった…、レイ知ってるのか?」
キラの名前を聞いた瞬間、レイが大きく目を見開いた事にシンは気が付きそれを問いた。
「いや、似た名前を聞いたことがあるだけだ。それに、赤の他人かもしれないしな。
シン、あまり気にしすぎるな。戦争墓地に墓参りに来るくらいだ、また行けば会えるだろうさ。」
それは要するに、シンがオーブに行くための口実として使える様にと、レイからの親切心だった。
「……、そうだな。わかったよ、これ以上心配してもしょうがないよな!」
今度は元気にそう言い放つと、いつも通りの明るい様なシンに戻って言った。外面上は
この時、シンは約束だけは律儀にも護っていた。キラ・ヤマトがフリーダムのパイロットであったという、その事実を。
……
アラスカは、季節的に冬へと突入し。周囲には氷も目立ってきている。
後続の救援物資も未だ到着する見込みが無い、仕方なくドミニオンは本国からの物質を受け取り、アラスカへと輸送するという任務を継続していた。
それに対して、艦内では苛立ちが積もり始めていた。
本国とアラスカを行ったり来たり、それもまるで郵便船のように数日置きに移動しなければならない。
これでは休まる日がないに等しい。
「艦長……、この行為おかしいとは思いませんか?」
苛立ちもピークと言ったところだろう、艦橋で突然副長が声を上げた。
普段は冷静な男であるが、戦時を生き抜いた人間である。それはそれは、この現在の状況において不適切な考えも浮かんでくる。
「副長、おかしいとは何か。我々は任務を遂行しているに過ぎない。尤も、貴官の言わんとしていることは分かっているが、今は詮索するだけ無駄だ。どうせ、本国との連絡が取れる時間は限られている。」
「ですが……、やはり確執があると言う噂は事実でしたか。」
ナタルを含め、この艦の乗員の大半が何らかの問題を抱えているのはそうだ。
だからといって、本来軍隊であれば私情を挟むところではないが、それがまかり通っている。
そして、今回のコレは明らかにこの艦全体を、大きな檻と見立てられている気がしてならなかったのだ。
「だったらなんだ?貴官もこの船に勤めているのだ、相応の問題を抱えているのではないか?」
艦長と副長が揉めている現場を見ている艦橋要員にはたまった話ではないが、実際自分達が何故この艦にいるのか皆何となく分かっている。
いくら気取られないようにとやっていても、結局は何処からか漏れてくる。
落ち零れ集団、失っても悲しくもない者達。
そして、フレイ及びナタルは別格の問題がある。
勿論それはブルーコスモス関連であるが、噂話程度のはずである。
だが、実際のこの状況。どう考えても、厄介払いである。
「おい、クルーが変な心配をしなくてもいい。こんなこと序の口だ。」
そんな艦橋の空気を
「私はアークエンジェルで、もっと酷い戦線に置かれた時もある。この程度の厄介払いでへこたれていては、有事の際は耐えられない。だから、そんな変な気を持たなくても良い。」
アークエンジェルの強行軍は、軍内でも有名な話である。宇宙で敵に奇襲され、追われながらも地球に降下すれば敵地のど真ん中。遠回りしてやっと、連合に戻って来たら今度は基地が陥落、泣く泣く軍を離れてしまった。
その中で軍に残った少ない人材の一人が、このナタルと言う艦長なのだから、経験が段違いだ。
「それよりもだ、今日運んでいる物資だが…アラスカ基地に運搬する予定となっている。クレーター湖を利用した小規模な基地だが、そこで半舷休息を取る。随分と時間をかけてしまったが、存分に休暇を楽しんでくれ。」
その休暇は、これから続く長く苦しい戦いの前の最後の休暇となってしまうことに、この時は誰も気が付かなかった。
……
ロゴス、それは政財界を牛耳る組織。
そう噂されているが実際のところは、そんなにキツキツとした組織ではない。寧ろ、足並みはどちらかと言えばバラバラで、烏合の衆と言うのが一番似合う者達である。
勿論、経済関係ならば協力もするがやはり経営者集団。私欲で動くものが大多数である。
そのメンバーであり第一人者である、ロード・ジブリールは同じくロゴスメンバーであり、ブルーコスモスの所謂擁護派と呼ばれるグループ、その盟主に改めて就任したムルタ・アズラエルとは犬猿の中となっていた。
元来経営者と言う方面で反りの合わない2人は、この度目出度くも二分したブルーコスモスを2人で分け合う事になったのだ。
「ふっ…、これでこちらの戦力は上がったな。向こうの影響力はだいぶ下がったようだからな、ここで一つ動くのも手だろう。」
口に出して確認しつつ、彼の側に着いた者達を率いて軍に働き掛けを行った。
もはや戦時ではない為に、アズラエルに軍との窓口は限定化されていない、その為独自の窓口を個々人が持っており其れ等を利用したのだろう。
彼が何のために戦争を行おうとするのか、それは現在プラントが製造販売している商品と、彼の経営しているものが競合している…と言うだけではない。
彼の個人的恨み、それはプラント全体に言えることだった。
彼の経営する場所は、プラントであった。それは国家連合体が金を出し建設したプラント、その受注と経営権を獲得したのが彼の家だった。
そこで様々な物を製造し、地球で販売する。至って健全な関係を築いていたのだが、そこから事態は一変する。
そう、プラントの自治権問題だ。
単なる一労働者である筈のプラント住民が、こぞって彼を目の敵にした。
それは、経営者に対する社員のボイコットに他ならない。そして最悪の事態が起こる。
前大戦前、契約していた品目が届かずに会社の経営が1時悪化した。コーディネイター、プラントは彼との約束を破り捨て溝に流したのだ。
それは裏切り行為に他ならず、そこから彼はプラントを敵視するようになった。
元来、我の強い彼は自己中心的な考えで物事を進めてきた。そんな人間にその事態は屈辱以外の何物でもない。
アズラエルが完全に経営者として物事を見て、土壇場での事はあったにせよ精神を1時病んでいたのに対して、彼のそれはあくまでも個人的恨み以外の何物でもない。
口車の巧みな彼は、同じ様な人間に声をかけ仲間を増やしていった。
そして、第一次連合プラント大戦が起きた。
今まで受けた屈辱を、契約不履行を……。そう、前大戦を引き起こしたのは、ブルーコスモスの過激派と言うものは、彼だった。確かにプラント側にも協力者はいたしそれを手引きした全く別の存在もいたが、彼の手の者がやったのに他ならなかった。
そして、今回もそれを行おうとしている。
しかも、またアズラエルの目をすり抜けて…。
ちょうどこの頃、アズラエルは南米を訪問していた。プラントに頼らない、地球独自の産業育成のため、旧世紀から治安を回復したそこに、新たな経済特区を建設する為に。勿論建前であるが。
その穴を突いたのだ。
大西洋連邦から離れ、未だにNJの影響下である地球では連絡手段は限られてくる。
そこを突かれれば、どれ程有能な存在であろうとも耳と目を封じられれば、聞こえも見えもしない。
アズラエルの現場主義が仇となったとも言える。
地球連合の宇宙艦隊はハルバートン亡き今、その尽くがブルーコスモスの過激派が幅を利かせている。
もっとも、その運営をする兵士一人一人が過激な思想を持っておらず、大半が明日の飯の為に動いている者達だ。
だが、脳が首が過激なら身体は動かない訳には行かない。
今日の朝食の為明日の朝食の為に、彼等は仕方なく命令に従うのだ。
確かに狂信的な反コーディネイター思想を持っているものもいるだろうが、大方そんなものだ。
ジブリールは大西洋連邦大統領でありロゴスの傀儡でもある冴えない男、ジョセフ・コープランドを使い、ブレイク・ザ・ワールドを口実にプラントへの戦争を宣言した。
ちょうど、ドミニオンはこの時アラスカ基地に到着し、同じ頃アズラエルは南米アマゾン川流域にある、地下施設見学の真っ最中であった。
互いに事態を把握したのは、その数時間後と言うジブリールの隠蔽能力の高さは、彼等を上回ったのだ。
この時、アズラエルは帯同する部下にぼやく様に言ったという。
「戦争はビジネスとしては最悪なんですよねぇ、平時に商品を売っている時のほうが、割高で尚且つ民生品が売れるんです。本当に…、儲からないんですよねぇ…。」
と。
そして、ドミニオンにいるフレイもまたこの事態を感じていた。
宇宙がざわめいている、嘆いている様なそんな感覚がそこにはあったのだ。
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