「核を使った?いったい誰が戦争を始めたんだ。」
アラスカはクレーターレイク、元連合軍最高司令部JOSH跡地。そこに、建造された小規模基地にドミニオンは停泊していた。
未だに傷を引き摺っている人々の為に、その物資を運んで来ていると言うのに、プラントへの宣戦布告と言う意味不明な文言が飛び出すと、困惑が周囲を包んだ。
艦橋から離れ、ブリーフィングルームにこの艦の幹部。及び、アラスカ基地司令(名ばかり大佐クラス)が集結していた。
尉官から佐官しかこの場にはいないが、それでも充分なほどにこの地域における地球軍の戦力は存在していなかった。
それは勿論、東アジア共同体が近くに存在する為に、無用な刺激を避ける為と言うところが大きいが、だとしてもこの戦力はお粗末なものだった。
配備されているのは、旧式も良いところのリニアガン・タンク数両、航空戦力は皆無。辺境の基地などこんなものなのだろうか?
「プラントに直接的な被害は無い、と言う情報は手に入りましたが攻撃は失敗したのでしょう。馬鹿ばかりが多いのが、今の連合ですかな?」
基地司令であるその男は、そう言うと中央司令部の悪口を始めた。どうやら、折り合い悪く左遷されたのが実態だろうが、良く周囲の住民には好意的に受け入れられているところを見るに、悪い奴ではないらしい。元々は、ブルーコスモスのアズラエル派だったらしいが。
「今後の我々の方針だが、この場で待機せよとそう言われている。正直に言って、ハイそうですかとそれだけで首を縦に振りたくはないのが、私の本音だ。」
ナタルは今の連合司令部とは折り合いが悪かった。アズラエル閥は、戦後武力の私的使用と言う事により大幅にその戦力を低下させている。
それ故に、各個バラバラに配置されておりその傘下であったドミニオンはここに留め置かれる可能性が高かった。
「それで知恵を借りたいと、尉官である私がこの場で何を意見すれば良いのですかな?」
幹部会において、最も階級の低い大尉であるラウが口を開くと、それに対してフレイが答えた。
「たぶんこの中で一番実戦経験があって、尚且つ謀略が得意なのはアンタくらいなんじゃないかって、私が推薦したのよ。」
「それは…ありがとうとでも言っておこうかな?昇進の機会に巡り会えると、そう思えば良いのか?」
皮肉を言うも、この男の出処が分からないのは基地司令とその部下だけであった。だが、連合の英雄が言うのだからと信じようとした。だが、疑問があった。
「そんなにも急いで、貴様等は何をしようとしているのか?だいたい、何処に行くつもりだ?」
「取り敢えずベルファスト、その後は南米に行くわ。」
何の抵抗もなくそう質問に答えるフレイと、その返答にナタルは驚愕し基地司令は眉を潜めた。
「アルスター少佐!貴様は、何故そうも軽率に!」
「この状況で隠したってしょうがないじゃない、それにこの人。そうそう裏切るなんてしないわよ、だってそのせいで左遷させられたって事だもの。
何より、ここにいる時点で隠したって無駄だとそう思うけど?」
この場にこの男が来ている時点で、既にこう言う話をすべきでは無い。かと言って、この場で一番階級的に上の存在を御座なりにする事は出来ないと、そうナタルが判断して入れただけに反論の余地はない。
だが、フレイはなんとなく、この男に対して嫌悪感は抱いていなかった。寧ろ、苦労人であると言う様に感じつつだからこそ、この場にラウを同席させたのだ。
そして、同時にこの男にラウと言う男真実を伝えても、何の影響もないと純粋にそう思っている。
「では、異論はないな?話を、進めさせてもらう。この場を借りて私が何者であるか、司令にも必要であらば打ち明けるが?」
「いや、それは良い。どう聞いたところで、私の現状が変わるわけでもない。寄り良い方向に転ぶのならば、君達に蹴られたほうがまだマシだ。」
そう言うと、机上に地図が映し出される。世界地図だが、所謂航路図と言うものだ。
現在、世界中で使われている一般的なそれであるが、そこにはこの季節限定で色を敢えて変更させられている場所があった。
「これから、この季節この北極航路は氷に閉ざされている。当然、ここを航行出来る艦艇等皆無に等しい。また、氷塊の厚みから言って潜水艦等も浮上は困難だろう。」
「なるほどだがこの季節、冬至となると非常に高空航行は危険を伴う。特に、低高度でのそれはブリザードに突っ込むようなものだ。視界不良と、猛烈な暴風。何より、−気温を大きく取ることになる。君らの艦は大丈夫なのかね?」
心配するのも当然のこと、ただでさえ
特に、どうやらこの司令はアークエンジェル級の電力システムの欠点。太陽光発電の無効化と言う暗闇を知っていたようだ。
だが、ドミニオンにはこの時代の艦艇には存在しないあるものがあった。
「コレは軍事機密に該当するのだが、本艦は小規模ながら核融合炉を搭載している。」
「……?それはどういう事だ、確かにアークエンジェル級は核融合炉パルス推進を使用しているが、だからといって核融合発電を出来るようには出来ていない。
寧ろ、核融合炉が作れるのならNJに苦労など…、まて何を隠している?軍ではないな、何かもっと…。」
「それ以上の詮索は後戻りできなくなるけど良いですか?」
基地司令は冷や汗を流した、いつの間にか自分は世界の最も暗い部分に足を踏み入れていたらしいと言うことを、認識し居住まいを正して顔をキッと力んだ。
「私も軍人だ、その程度飲み込んでみせねばな。」
話は続く
「2基だけですが、バリアント砲の弾薬庫を少し、削りその小スペースに詰め込んでいるのです。
核融合炉パルスを使用して余りある電力を作り出すことは、容易です。」
「だとしてもだ、レーダーが機能していないとしても自殺行為は変わりない。大陸棚に沿って、北海航路を行くがいい。その場合熱感知にも捉えられる危険もあるから…、結局はブリザードを利用することになるか…。
わかった、こちらからもそれなりの準備をしよう。」
聞き分けが良いのか、彼は快くそう打診した。
そして、付け加えるようにその日程を指定してきた。
「出航は2週間待って欲しい、それだけ有ればこちらも色々と準備が出来る。」
「と言うと?」
男のその言いぐさに、ナタルは再度問う。それに対して、ラウはなるほどと頷きつつフレイは、余り良くわからないが悪い事ではないと頷いた。
「貴艦は、命令違反をする事になるからな。隠蔽の為、貴官らがその様な行動に出てもおかしくないような、そんな口実を創り出そうと思う。」
盛大なブラフ…、レーダーや光学機器が発達したこの時代に、もはや無用の長物と言われるもの。
ダミーバルーンを、用いた大戦力偽装工作を行うというものだった。
連合はカーペンタリアへの攻撃を行っているものの、その作戦は失敗する公算大であると言う、自らの予想の中彼は密かにそれを行おうとしていたものを、早めようとしたのだ。
我慢の限界と言ったものだったのかもしれない、無意味な戦争に無意味な思想、それに何よりこの事態を放置して戦争に明け暮れることが出来るという、明らかに民を馬鹿にしている者達に。
そういう物に、年甲斐も無く正義感が湧くのも悪くはないのでは無いだろうか?
……
アイルランド、アルスター邸地下実験場。
ピピピピと言う、アラートが響き渡ると宇宙空間を滑るように敵機が加速していき、攻撃を見事に避けていく。
乱戦模様のその場所を、なんとか捌こうとするもののパイロットはその数と速度に対応出来ずに押されているのだろう。
コンソールの被弾箇所が増えていく。
そして、画面が一瞬赤に染まると暗転し、撃墜された旨が表示される。
それは実戦ではない。
所謂フィッティングマンと言う、テストパイロットのようなものだろう。大体の動作をコンピュータに覚えさせる為に、誰かがそれをしなければならない。
通常量産機であるならば、それは余り必要は無いのだがこの機体は別であった。
コックピットから降りると、金属剥き出しの足場へと降り立つパイロットスーツを着た人物。
ヘルメットを取ると、人形のように整えられた白髪の少女がその姿を現した。
「アンタも良くやるよ、カタリナ中尉。こんな機体設定でまともに動かせるのは、本当に指で数えられる程度だからな。」
「いえ、私は私のやれる事をやっているだけです。それに……、アルスターさんならもっと上手く、それこそ撃墜等されません。」
無感情な表情であるが、その声からは信頼する人物への畏敬の念が込められていた。
戦闘用としてデザインされた彼女は、前大戦からフレイの傍らで彼女の事を見ていた。
自分とそうは変わらない、しかし決して戦争などするようなそんな風を感じないにも関わらず、その強さは本物だった。
戦闘用として造られたにも関わらず、失敗作としてすり潰される運命だった自分を受け入れた者に、忠誠を誓う……。
それは誰よりも深く、一人の為にと。
「そういえば、地上はややこしい事になっているそうだが、君は大丈夫かね?召集などされたら…」
「実験が滞る…ですか?大丈夫です、私は保護対象…のようですから。それに、コーディネイターは戦場で裏切るかもしれないと、そう思われているでしょう。それでも召集するのならば余程追い詰められていることでしょう。それよりも…コレの方が問題です。」
振り向きながら、自分が出て来たMSの方を見上げる。
未だに装甲を取り付けられておらず、内部フレームが剥き出しになっているそれは、周辺各国の技術とは明らかに異なる部分があった。
まず、第一にバッテリーに対するケーブルの本数が少なかった事。コレは内部に存在するエネルギーコンデンサが、従来のそれよりも充電効率が非常に優れているという事だ。
そして次が問題だった。
冷却システムが埋め込まれており、そのすぐ近くにはこう刻印されたものがある。
余りにも小さく、そしてそれはこの時代に存在してはならないもの。それがもし口外されれば、どういう事が起きるだろうか?
単なる軍人が、口から出任せのように言うのではなく、実物が目の前にあったのなら、それをどう使うか等考えるのも易い。
「これについてはアズラエル氏も考えている。無闇矢鱈に表に出せば、混沌に巻き込まれるし。何より、確実なデータが揃うまで表に出せない代物だ。安定供給が出来るまでは秘匿するようですから、まあそこは任せる他無いかもしれないですな。」
無責任であるが、人にはそれぞれの役割というものがある。どれだけ力が強くとも、学者になれるほど頭が良いとは限らないし、0から1を創り出せるかといえばそうでもない。
「では、返ってくるのを待つだけですか…、嫌なものですね。」
それ故に、待たされる者は待たされるものだ。
……
「全く、考えもせずに手を下すなんて、本当に馬鹿ばかりですね、大統領閣下?」
大西洋連邦大統領府、通称ホワイトハウスと呼ばれるその場所の一つの部屋に、たった2人の人間がいた。
1人は冴えない顔で、ビクビクと周囲を気にしながらそこのソファに腰掛ける。この部屋の主である筈の男。
対するは特徴的な金髪に、やはり自信家なその顔は何処となく嫌気がさしたような顔をしていた。
「本当に大丈夫なんですか?アズラエルさん、言っておきますが私は傀儡です。いつ誰がこの会話を聞いているとも…」
「お構いなく、僕の手の内の人間がカウンターを用意していますから、それよりも今回の宣戦布告。やはり、ジブリールの行動ですよね?大統領」
大統領と言われた男は目を逸らし、その言葉に口を閉ざす。沈黙は肯定と言う事だ。
ただ国に出せば最後、それが本当に聞かれていないなどという保証はない。
「まあ良いでしょう。
それでなんですけども、是非やっていただきたい事業がありまして、コレはその企画書なのですが…ご検討の程よろしくお願いします。」
「コレは…、ですがよろしいので?」
それに対してアズラエルは沈黙で答えた。
にこやかな笑顔と同時に、その奥にはきっと暗い何かがあるのだろう。大統領は生唾を呑み、その文書をマジマジと読み込み始めた。
その内容が何にせよ、彼にとっては悪い話ではないのだ。何故なら、それを見ている大統領の顔は綻んでいるのだ。
それはあたかも、鳥籠から解き放たれた野鳥のように羽搏き急ぐように。
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