拉致監禁、と言う行為は世界的に見た場合重犯罪のそれに類する行為だ。いや、寧ろ重犯罪であろう。
そんな事を公にやる者達が果たしているのだろうか?
答えは
存在する
だ。
世界中に報道されていた物事の最中、突然MSを使用して国家の重要人物を拉致し、剰えそれを阻止しようとしたその国軍のMSを破損させ、自らは遁走した。
それをテロリストによる拉致と言わずして何というだろうか?
そして現在、それを行った彼等は国際的にテロリストと同様な指名手配をされている。
フリーダム、そのパイロット及び関係者に対する厳重なる処罰を行う為に、国際指名手配が行われているのだ。
そんな大事の最中、誘拐された当人はと言えば……
「それで、カガリ様?お湯加減はいかがですか?」
「あ、ああ私には少し温く感じるが、これもまた良いものだと思う。」
そのフリーダムの母艦たるアークエンジェルの内部にて、風呂に浸かっている等と、誰が予想できようか?
呑気に話をしている相手は、ラクスである。正直言って、カガリはこの状況下を完全に理解しているわけではなかった。
彼女等がどうして自分を拉致したのか、何故フリーダムを用いてアークエンジェル事国外に逃亡する様な事をしているのか、聞いた事は山程あるもののその全てが理解し難い事だった。
ラクスの生命を狙って、プラントの特殊部隊が家を強襲してきたこと、そもそもラクスやキラの居場所をオーブが事前にデュランダルに流していた事、大西洋連邦との同盟への参加によって自分達を捕縛する計画があった事など。
カガリには初耳の事ばかりで、自らの眼を耳を疑ったと同時に人間不信に陥っていた。
何が真実で何が虚偽なのか?果たして彼女等の言っていることは真実なのか?
自分が今のオーブ政府にとっては単なる神輿でしかないと言うことを、改めて痛感しつつ考え悶えていた。
「なあ…、今ならまだ私の口添えでプラントの方に連絡を。」
「無駄ですわ。もしも私がプラントに帰れば、即日暗殺されるでしょう。何より、デュランダルと言う人物は私の事を邪魔者のように思っていらっしゃるようですから。
オーブに帰ったとしても、政治の道具に利用されるだけですわよ?それにキラなんて、もっと悲惨な運命が待っているはずです。」
もう、キラもラクスも進退窮まっていた。
帰る家もなく、身よりもない状況でアークエンジェルだけが彼女等の支えとなれる場所だった。
「ならせめて、私をオーブに返してくれないか?私にはやるべき事が…。」
「今オーブに帰ったところで、貴女に何が出来ますか?政治的実権を握られている今帰っても、また傀儡にされるだけです。アスランがいればまだ何とかなったでしょうが…、あの人は本当に何をしているのでしょうね?」
こういった具合に、ただでさえオーブの事が気がかりであるカガリを、どんな手を使ってでもここに居させようとする。
それだけ、今のカガリの周辺環境は政治状よろしくないものであるのだが、如何せんカガリは政治というものがあまり得意ではない。
昨今、やっと帝王学と言うものが分かってきたような気がする、そんな少女が周囲に流されるのは必然だった。
だが、そんな状況でも何とかしようと考えるのがカガリと言う人物で、自分の持ちえる伝手で信頼できる人間が果たしてどれだけいるのか?
それを再認識するきっかけとなっていた。
「なあ、それならフレイの場所ならどうだ?あそこなら、大西洋連邦とは言え上手く匿ってくれると思うんだが。」
「フレイ様ですか?ですが…、少し恐ろしくもあります。」
フレイが恐ろしい、それが一体何でと言いたいところだが、このアークエンジェルに様々な情報を提供している者達。
所謂ターミナルと言う裏組織では、フレイの動向を探る者達がいた。
曰く、御伽話に関係している物を造っているということだった。
笑い話であれば其れでいい、だがそれが現実なら果たして良い未来が待っているのか?
それが、何であるか?それを探る事は困難を極めていたが、その御伽話が厄介であったのだ。
もし彼女が変わってしまっていたらと思うと…、最悪なシナリオがラクスの脳裏にはあった。
「星巡りの話をご存知でしょうか?」
「星巡り…?あぁ、星を渡る力を持った人々は故郷を訪れると、そこに住む人々と争いを始めてしまったとか言う?
良く有るSF小説のような奴だろ?確か…、巨人を操って大地を焼き焦がしたとか言う。それがまた何かフレイと関係があるのか?」
カガリにとって御伽話は御伽話であった。
実際、そんな物語を真に受ける人間がどれ程いるのか?
だが実際、ラクスの周囲の人間たちはその事を事実のように受け止めていた。実際、その様なものがあるのだろう。確証がある分達が悪い。
「それがどの様な物なのか、私達には解りかねます。ですが、もし危険なものだったのなら、そしてそれを承知でやっているのだとすれば、私達には停める義務があるのではないかと…、その場合頼るわけには…。」
「アイツがそんな物使って世界征服でもしようって言うなら停めるさ、けどなアイツがそんな事すると思うか?」
カガリとフレイはそれなりに長い付き合いとなっていた。例え離れていても、互いに偶に連絡をし合う程度には。
だからだろう、ラクスのその言葉を杞憂だとそう判断していた。
「アイツが、自分と同じ様な境遇の人間を作りたいと、本当に想うと思うか?」
ラクスはそういう事を考えられない程度には、追い詰められていた。だが、決してそれを表に出そうとはしない。
それが自分の役割なのではないかと、勝手に決めつけ自己に着せている…。責任感ばかりが強すぎた。
カガリはそれをみていると、自分を見ている様な錯覚を覚え、ふと今迄のオーブでの政務を想い返す。
自分がもしプラントに赴かず、オーブにいればこんな事にならなかったのでは?と。
そして、自己中心的な正義感がこんな結果を招いたかもしれないと。
「私も人の事は言えない、確かに周囲に流されるだけだった。だけど、今なら分かる。
お前達に協力するよ、私の出来る範囲で。」
それを聞いたラクスは少しだけニコリとすると、カガリの手を取り共に立ち向かおうという彼女に首を縦に振った。
……
ブリザードが吹き荒び、周囲の針葉樹はその方向へと横たわるように伸びている。
だがその大地の尽くは何もない、ノッペリとしたそれが横たわる。
海は凍りつき、汎ゆる生命が死に絶えているのではないかと思う程に、その白銀の世界を闇へと落としている。
ドミニオンがヨーロッパ方面へと西進を始めて2日目、前後視界不良に見舞われて、その巨体は立ち往生していた。
そもそも、真冬に突入しようとする時季にそんな所を通るのは非常に難しい事なのだ。
だが、許された航路がこれしかないのだから彼女等に選択肢は無かった。
「偵察隊発進しろ、何か目印のような物が有れば逐次報告。」
ユーラシア連邦領サハ共和国チクシ、嘗ては5000人の人口を抱えていたこの街も、先の大戦でのNJの影響下でその半数の住民が寒冷化に置かれたことによって落命した。
だが、それでも人々は懸命に生きようとしていたが、この近辺にユニウスセブンの破片が落着したのだ。
街灯は無く、何も見えない。
それだけではない、人の気配もまるで無くその街は死んでいたとすら言える。
「………、生体反応…ありません。」
「分かっている、多少なりとも情報が有ればと思ったが、まさかこれほどの被害とはな。」
街の数km先には巨大なクレーターが形成されていて、その破片が街へと降り注いだのだろう。
建物も其の多くが倒壊し、それに下敷きになった人々が大勢いたようだ。
見つかる人見つかる人、それぞれが家族を抱きかかえるように蹲り、凍死している。
誰も生きている者はいない、そう思った時……不思議な現象が起きた。
「何…?誰が呼んでるの?」
最初に反応したのはフレイであった、彼女はその敏感な感応力でその違和感をいち早く察知し、ドミニオンへと報告した。
「バジルール中佐、さっきから誰かの声が聞こえない?」
「どういう事だ?お前は何を言って……、いや確かに聞こえるな。」
その言葉を皮切りに、艦内に留まらずドミニオン隊の面々全てがその声を聞いた。
決して幻聴ではない、だが耳から入った音ではない。寧ろ、頭に直接呼びかけているのだ。
「全機密集隊形…、このまま探索を続行するよ?」
「で、でも隊長!罠なんじゃ!」
罠であるはずが無い、こんな兵器を連合もザフトも果てはジャンク屋だって作る事は愚か、知ることも出来ない。
何故なら、この時代にこんなサイコ現象を引き出せるような、そんな装置存在しないのだから。
特にフレイには良く聞こえていた、助けを呼ぶ子供達の声が。
声の方向へとゆっくりと進んで行く、するとその方面はクレーターの方へと近づいて行った。
段々と声が大きくなってくる、そして各々にもその悲痛な子供達の声が聞こえてくると、益々その恐怖は増えていく。
そして、クレーターの縁に辿り着くと其の場から見えた景色は、それはもう異様なものであった。
恐らくは元々は円環の形をしていたであろう、巨大な何かのブロックが大地に飲み込まれるように横たわっている。
隕石の落下の衝撃に耐えたのか、少なからず損傷はあるもののその物体は怪しく光を発していた。
その光に温度はない、だが何故だか暖かな光であると知覚できた。
「アルスター少佐、深入りは危険だと思うが?」
「ううん、危険じゃない。大丈夫よ。」
ラウの言葉にフレイは否定して、ズンズンと進んで行く…。
近付くとともに、その物体の全容が見えてくる。
完全に人工物だ、だがその機能も分からない物体の奥から声が聞こえてくる。
「こっちへ…ね、行く価値はあるわ。」
危険ではない、己の直感を信じその中へと部隊を引き連れて入っていく…。
MS程巨大な物がいとも簡単に収容できる程の空間を持っていながら、どうしてこんな物が地中にあったのか、それは誰にも分からない。ただ、元からこの様な形では無かっただろうことは、その物体の断面から理解できた。
奥へと進むこと5分、光が強くなり次第に辺りが照らされてくると、その発光元が露になった。
そこにいたのは…、十数人の子供達だ。妙な事に子供しかいない、そしてその子供達をうっすらと黄金に輝く光の膜が優しく包みこんでいた。
「なんなんですか?これ…まるで夢でも見ているみたいだ。」
「でも現実よ、こちらフレイ!生存者を発見、これよりドミニオンに搬送します。」
各機子供達をコックピットに入れて連れ帰ろうとした時、フレイに声が聞こえた。
『その子達をよろしく…』
その言葉に後ろ髪を引かれながら、各々それから外へと出ると同時に、その構造物が輝きを増しながら崩壊を始めた。
バラバラになり、そして塵となりそれは跡形も無く消え去った。
不思議な事に、それに不安を覚えるものは誰ひとりおらず、そのままドミニオンへと子供達を送り届けた。
「様態は安定しています。しかし、不思議な事もあるようですな。一体誰があんな物を…。」
艦内ではあの構造物の事で持ちきりであった。
未確認の文明の痕跡、それを目の当たりにしたのだから仕方もない事だろう。
そんな中で、ナタルはアレが何なのかをフレイに問い質すべく、艦長室へと呼びつけると、共にラウが着いてくるという誤算もあったものの、会話を始めた。
「フレイ…、お前はアレが何なのか知っているか?」
「まったく、ただ言えることはアレは私達が創った物じゃないってだけ。それに、あの現象もたぶんとかそういうことしか言えない。」
「旧人類関連ということか?だとしても、アレは異様なものだな。やはり、人間の精神に関係があるのか?」
古代文明の遺産、その中には人の意思を媒介に様々な物理現象を引き起こす何かが記されている。
だが、実際にそれを目にしたことがあるのは、フレイとラウそしてナタルだけだった。
「分からない、けど良くサイコミュとかそういう物の記述があったりするから、そういう類だと思う。尤も、今迄実現出来た物は殆ど無いし、あっても掘り起こした物を再利用したものばかり。例えば、私の持っていたあのT字の金属片とかね。」
「ではアレはさしずめ子供達の意思を力に変えたと?甚だオカルトな事だが…、それでも現実に起きているのだから笑えないな。」
だが、フレイはなんとなく理解していた。アレを動かしていたものは、子供達などではない。
親の子を思う気持ち、そしてその残留思念が引き起こした奇跡だったのだと。
だが、それを言ったとして報告したとして誰がわかるだろうか?もう、その証拠も物件もこの世には存在しないのだから。
だが確実に言えることは、最早古代文明があったということは彼女や周囲の人々にとっては当たり前で、奇跡のような技術があったということだった。
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