サンクトペテルブルク、第二次世界大戦戦記に詳しい人間に対してはこう言えばもっとその場所がわかるだろうか?レニングラードと。
その場所は、東ヨーロッパにおいてかなり重要な場所である。
東征していく人々の為、この場所は一つの大公と共にその古い歴史を歩んだ古都である。
と言うのは建前であり、そこに建てられているものもその殆どは復元されたものである。
再構築戦争によって焼失した様々な物を建て替えたと言うのが、殆どの人々に知られている事実であるが、実際はそうではない。
その様な歴史的建造物は数百年という長い年月の間、この場所には存在すらしていなかった。
歴史を復刻する。
その名のもとに、様々な都市の名が始まりに戻り大陸の名も変更される。
そんな偽りでしかない歴史を受け入れた人々にとって、この都市はまさしく文化発祥の地なのだろう。
そして、そんな都市の中。雪がシンシンと降りしきる場所に、一団があった。
少年少女を後ろ手に、幾人かの大人がそれを引き連れる。
ある少年はその人々の襟元に着いている、ある物が気になって仕方がなかった。
ブルーコスモス
その花をかたどったピンバッジを着けているのだ。
少年には一人の妹がいた、彼女は所謂コーディネイターと言う存在である。
尤も遺伝子操作の方向性としては、病に強くなる程度でしか無いが…、だがそんな事でも彼の両親は彼に口酸っぱく言っていたのだ。
青い花には気をつけなさいと。
だが、そんな話をしていた両親はもういない。誰も彼もが凍死している。
少年は奇跡のような声に導かれ、温かな場所で待っていれば確かに助けが来たと言う事だけがこれが夢ではないと言う事を実感していた。
だが、彼等を助けた船はもうこの場所にはいない。
彼等をこの大人達に預け彼等は何処へとも知れぬ場所へと向かっていったのだ。
彼等を助けた、少し歳上のお姉さんが言った事をただひたすらに信じて、この大人達について行く……。
それしか彼等には生きる術は無いというのだから。
途中専用のバスに揺られながら、郊外に出ていくと直ぐ側に建物が見えてくる。所謂孤児院なのだろう、そこに行くと多くの子供達が出迎えてきた。
「今日からここが君達の家だ、何心配はいらないよ?兄妹であるなら離れ離れにはしないし、コーディネイターであろうと平等に接する。私もコーディネイターだからね。」
彼等を引き連れていた男が一人、そう口にすると少年の妹を見る。
そして、少年に手を伸ばすと頭を撫でながら言った。
「取って食いはしないよ、我々は奴等とは違う。アルスター様のご意思だ、必ず君たちを育て上げてみせる。」
少年は生きるだろう、辛いこともある嬉しいこともある。そんな人生を、自らの生い立ちを胸に世界を見て回るだろう。
……
とある町のとある人が空を見上げると、何やら大きな物が浮かんでいる…。
それは何であろうか?幻覚か?はたまたUFOか?ただ一つわかる事は、それは巨大な物体でどうやら飛行機ではないという事だろう。
そんな巨大な物体は、ウラル山脈を越えた辺りで周辺住民達の噂の的となった。
そして、その事実がザフト黒海守備隊に届かないと言うことは無かった。
だが、残念な事にその物体の事を信じるものは誰一人としていなかったのである。
それは何故か?
フィルムカメラからデジタルカメラへと完全に切り替わり、フィルムを使うものなど最早博物館くらいしか無いそんな時代、その物体はあまりにもその時代にマッチしていた。
ユーラシア連邦領内であるため、情報量も限られている。
そこにいるにも関わらず、それはカメラに映ることはない。それだけならば良い、それが通過した後は非常に電波が乱れ、ありとあらゆる電子機器が誤作動を起こしている。
被害は大なり小なりありはするが、それを誰が補填してくれる等確証はなかった。
そんな事もあり、ザフト司令部にその事が伝わる頃には単なる噂話程度にまで信用度が下がっていたのは、情報化社会となった皮肉だろう。
デジタル映像に痕跡を残すことの無い、その異様な存在は刻一刻と黒海へと迫っていた。
時を同じくして、連合軍は黒海のザフト掃討のためオーブ艦隊を中心とした部隊を展開、それを迎撃する為にミネルバ以下ザフトの部隊は過半の戦力を前面に展開し、それを真正面から受ける形となっていた。
オーブの艦隊の練度は非常に高く、国土を一度は失ったものの戦時中最も人的被害が少なかった国である。
軍人の大半は実戦経験豊富であり、そんな上官の下で訓練に明け暮れた部下達は、ザフトのコーディネイター部隊に劣らず人種の壁というものを感じさせないものであった。
事ここに至り、コーディネイターとナチュラルの優位性は微差と言うものであった。
実際、連合には連合の技術的ノウハウのある兵器もあり、プラントにはプラントのノウハウのある兵器があるが、決定的な違いというものは、この戦場において観測する事は出来ない。
隔絶した技術差と言うものが存在しない以上は、後はどちらの戦力がより多くより強いか。
ただそれだけがこの戦場の行方を左右する事になるが、数の上で圧倒する連合は徐々に戦場を優位に駒を進めていた。
MS母艦として起死回生を狙ったミネルバは、艦首に備え付けられているタンホイザー、所謂陽電子破綻砲を撃つため船体をオーブ艦隊へと向ける。
残念な事であるが、オーブ軍にそれを防ぐ手立ては無い。
だからこそ、撃たれる前に撃つ必要がある。その為ミネルバへと攻撃が集中する中、それを防衛するミネルバ隷下のMS部隊は必死の抵抗でそれを征する。
撃てば勝ち、阻止されれば負け。そんな状況下でミネルバは発射体制を整えいざ砲撃を行おうとしたその時。
戦場は一機のMSの手によってかき乱された。
ミネルバの発射口は見事なまでに撃ち抜かれ、大規模な爆発と共にミネルバへと深刻なダメージとして姿を現す。
それによって乗組員の何%が死に至るだろうか?戦場において死人が出ない等ということはないが、この事態は予想が難しいものだった。
それだけではない、一方的な戦闘への介入を行ったものに対する衝撃はそれぞれであった。
まずそのMSフリーダムが戦場に現れた時、最も動揺したのはアスランであろう。
フリーダムに搭乗している人間など一人しかいない、そうキラだ。そもそも何故フリーダムがこんな場所にいるのかも分からないにも関わらず、どうして戦場に介入するのか?
この時のアスランの動揺は、彼の操縦の繊細さをみた目通り欠いていた。
そして、もう一人動揺していた人物がいた。
それは、シンだった。
フリーダムのパイロットをしていた。そう名乗っていた優しげな青年、キラの事をこの一瞬で思い出す。
誰にも打ち明けなかった、そんな秘事。
事もあろうに目の前にフリーダムが現れたのならば、そのパイロットはキラであろう。
そして、そんな優しげな人がどうしてミネルバを撃つのか?どうして自分達に敵対するのか、混乱するも直ぐ頭を切り替える必要があった。
次にはその後ろから、白亜の巨艦。アークエンジェルが姿を現すと、そこから一機のMSが現れる。ストライク・ルージュ。
そのエンブレムから搭乗者は、カガリである。そしてその護衛に、一機のノーマルなムラサメが傍らに仕える。
「カガリの嬢ちゃん、速いとこやってくれよ?俺はキラみたいには行かないからな。」
軽口をフラガがカガリの緊張を和ませる様に言う。
カガリはこの戦闘を停めたかった、オーブ軍が連合の手先となり口車に乗せられてザフトと戦っている。
そんな物を見たくは無かった。
そして同時に、少しの間ではあったが過ごしたミネルバのクルー達の事も救いたかった。
二兎追うものであるが、それを強制的に叶えるにはキラの力を借りる他無かった。
「私はカガリ・ユラ・アスハだ!オーブ軍は戦闘を停止し即座に撤退せよ!」
力強く言う彼女はその言葉に自信があった。自分の言葉であれば今戦闘を停められると。
だが戦場への介入そして、オーブ軍の説得を試みる彼女はその目論見は泡と消える。
そもそも戦闘が始まってしまったが最後、それを停める術は既に無かった。
今ここで停まれば、撃沈されるかもしれない。
勝てるかもしれない戦いの中で、自ら首を絞めるものなどいない。
もしこの戦闘を停めたいのなら、戦闘が始まる前に彼女は矢面に立つべきであったのだ。それならば、国内の問題として提起する事により一時的にオーブ軍の動きを拘束する事は出来た。
士気が落ちた軍に戦闘続行は不可能であるからその影響はかなりのものとなっていたはず。カガリは自らの威光の過小評価していた。そして、全ては遅すぎた。
カガリが幾度となく発しても、それを本物の声として聞くのは聞き手の判断に委ねられる。
そして、この時カガリの声を聞いていたのはヒステリックなユウナである。
自己陶酔している者がそんな物を受け入れるわけがなかった。
……
フリーダムの介入によって連合ザフト共に大混乱の混戦状態となり、先に体制を立て直したのはザフトであった。
元来個々人での戦闘を目的にして創られた組織であったことが幸いし、独自裁量権でもって戦場を優位にして行く。
逆に連合は、巧妙な連携をかき乱された事によってそれが災いし、体制を立て直すに時間を要しすぎていた。
悪くなる一方の戦闘に撤退を指示する事が出来る指揮官こそ、優秀なものだが些かこの時の連合の足並みは揃ってはいなかった。唯一オーブ軍所属部隊は、連携が取れていたものの戦場を支配するには少なかった。
本来海上攻略戦の場合、母艦は安全圏にて周囲の絶対的防空能力によって部隊を展開する。
しかし、バッテリー機中心であり航空戦力の少ない現在、その戦闘半径は第二次世界大戦以前のものである。
だとするならば、余計に陸に近いというわけで…。
逃げるにしても、基地に近づき過ぎていた。
そんな窮地に追い込まれた連合艦隊は、一つの光明によって撤退を行った。
ドミニオンの登場である。
ザフトの基地司令部は突如として現れた、巨大なノイズによって防衛艦隊との連絡が途絶しパニック状態となっていた。
それだけではない、様々な機器類。量子コンピュータではない電子機器はもちろんのこと、果ては送電システムにすらその影響が発生している。
送電が停まればいかな量子コンピュータと言えど、運用も出来ない。
そして、その違和感がピークに達した時基地から爆煙が上がった。
「基地より緊急電!我、連合の攻撃を受ける!」
「伏兵がいたと言うの!」
ミネルバの艦橋はどよめく。
伏兵、この場合は単なる偶然のタイミングであるがそれはそうだろう。
だが、問題として今来たところで戦況全体への波及はそれ程ではない。
たった一隻の戦艦が現れたところで、ここを落としたところで全体として見れば意味の無い事だからだ。
それでもミネルバに動揺を生むには十分足りえた。
「これより本艦は敵中を抜け、連合艦隊と合流。退却を支援する!向かってくるものだけ撃て、MS隊は離れすぎるな!」
対して、そのドミニオンに基地攻撃の意図はない。寧ろ、こんなところ直ぐに脱出するに限るのだ。
結局のところ、最終的に基地施設を占拠するには陸戦隊が必要であるが、生憎ドミニオンにその様な戦力は無い。
よって、基地施設を無視して、一挙に艦隊へと肉薄攻撃の為に全速力を出して飛行する。
その高度は3000メートルを優に超え、基地防衛の為に存在したバビ等のMSもその高度に到達する頃には置いていかれる。
巨大な物体が大空を自由に駆ける、その姿は異様と言う他にない。地面効果も期待出来ない、そんな場所にあの巨体が揚力で浮かぶことは無い。
何らかの莫大な何かを搭載していると言うのは、簡単な結論だった。
無論、アークエンジェル級には重力下航行用レヴィテイターが備わってはいるが、こんな高度を維持する能力はない。
完全に別種の技術と言える。
それが向かってくるのだから、ミネルバ以下の艦隊には恐怖意外の何者でもない。
だが、当然の事ながらそれを無視しての強行突撃である。
ドミニオンには戦闘などしている暇はない、一刻も速く艦隊に合流するその一心だ。だから、露払い程度の戦闘が発生する。
そして、それを見るもう一つの勢力。アークエンジェルの艦橋にて、ラミアスはその光景を目の当たりにしつつもドミニオンを見据え、警戒感を強めた。
「ナタル……、大胆な事をするのね。キラ君やカガリさんに連絡。直ちに帰還せよ、今のこちらの戦力では抑えきれないかもしれない。」
ラミアスはドミニオンを認めると、直ぐ様撤退を指示する。ただでさえ連合ザフト両軍に喧嘩を売っているのに、要注意戦力の居るドミニオンと言う相手は分が悪いと言う判断からだった。
それに、ドミニオンはあまり積極的に戦闘を行っていないのも幸いしたのだろう。
キラにとっての優先撃墜順位が上位に登ることはなく、それによってフレイとキラの激突が避けられた。
ドミニオンの乱入によって連合艦隊は体制を立て直し、一時的撤退を決意。
クレタ島以西へと艦隊を後退することとなった。