ネオ・ロアノークと言う男を知っているか?
彼は地球連合大佐、特殊部隊であるファントムペインの指揮官であり、様々な暗部案件に関与いしている人物である。
また、ザフトとの因縁深いガンダム強奪をやってのけた傑物でもある。
そんな人物であるが、その出自は謎に包まれている。
いつ何時連合へと入隊したのか、同期と呼ばれる者達も無く交友関係も無い。
そして不可解な事に、彼はマスクを被り己を誰ともその顔を分からせずにいる。そのマスクの奇怪なこと、まるでサーカスにでも参加するのかと言われてもおかしくはない、今では珍しいアイマスクを常備しているのだから目立つ。
そんな言動をしていても、声を聞けば誰か判断がつくのではないか?と思われるが、諸手を上げるものはいない。
その名の由来は何であろうか?
新たなる者か?ロアノーク、
だが、そんな彼もファントムペインを率いる所謂中間管理職であるから、直属の上司であるジブリールからの命令には絶対服従を決めていた。どうしてそこまで服従するのかは………分からない。
ネオは連絡用の画面の目の前にふんぞり返るジブリールの顔色を伺っていた。
今の彼の飼い主であるこの男、正直言って無能だと思っているがそれでも上司は上司。
一応反論をしたりもする。だが、結果は視えている。
「ですから、ドミニオン部隊を我々との戦闘に加えたいのです。彼等の戦力が有れば必ず。」
「くどいぞ、貴様は私の命令だけ聞いていれば良い。奴等を関わらせてみろ、またアズラエルの株が上がるだけだ。
そんな事になれば、ただでは済まさない。」
同じ連合、同じブルーコスモス。だが、残念な事に既に組織は四分五裂。
派閥によって亀裂が拡がり、もはや同じ名前の別々の組織と言っても良いだろう。
「……、わかりました。では彼等が戦闘に加わらないよう誘導します。」
「それで良い、くだらないことで報告をするな!私は結果を欲しているのだよ。」
期待出来る戦力も無く、高い壁に挑まなければならないと言う、何とも非情な結果だ。
本来部下を失う事を躊躇う質の彼にとって、その言葉はよく切れるナイフと同じであった。
そして、その結果から艦隊の今後を左右する会議へと移っていた。
JPジョーンズ 大西洋連邦によって建造された強襲揚陸艦。そしてエクテンデッドという生体CPU達の母艦。その艦内に備え付けられている会議室の中では、ドミニオンの今後と艦隊の作戦方針が語られていた。
「それでは、我々は戦闘に参加せずこの場から離れろと、そういう事でよろしいのか?」
そこに士官として招かれたナタルは、ネオの語るそれに対して答えた。折角、ミネルバを追い越し頭を抑えることが出来そうだと言う時に、その好機を不意にする様な選択肢を選ぼうとするこの男に、疑心を抱いた。
「そう言わないでくれないかな、一応コレは命令なんだから従ってくれないと。」
「従いはします。ですが不服なのです。到着するまではミネルバの頭を抑えろと言ったと来たら、今度は戦うなとは…我々軍人は都合の良い道具ではない。」
それを傍から見るオーブのトダカ1佐、彼はネオのその凶行に業を煮やしていた。
勝てる筈の戦に勝てなくなるなど、連合はオーブを消耗品としか捉えていない。
そう言った感覚を覚えるには充分なほどに、だがそんな彼の心境とは裏腹に、ネオを支持する者がいる。それはユウナだった。
「貴女も…連合の士官であるならばご理解願いたい、事は高度に政治的な話なんだ。我々としても、過剰な戦力は不要だとそう思っています。」
嘘である。本当は怖くて怖くてたまらないのだが、恐怖心よりも自分達の功績を横取りされたくなくて、ネオの肩を持っている…。つくづくこの男は戦争に向いていない、それどころか政治家としては最悪の部類だろう。無能な働き者という存在だからだ。
正直な話、オーブ軍内部に彼に忠誠を誓う人間はいない。オーブの暫定的な代表であるだけで、それ以外に彼の価値はない。外面上は命令であるから従っているだけで、本当ならばこんな戦闘すら望むものではない。
「わかりました。では、我々はアークエンジェルに対する警戒態勢のまま、戦闘への参加…という形で参加するということでよろしいか?」
「……、うん。まあ、良いんじゃないかな?不確定要素を受け持ってくれるんなら、俺達もやりやすいってもんだからね。」
アークエンジェルとドミニオン。同型艦による戦闘は、前大戦でもあった事である。
一時的とは言え、嘗ては味方として共に戦った事だってあった。
それが今や敵として眼前にいる、それはこの戦闘がどれ程政治的な形で決まったかと言うその答えでもあった。
一方、JP艦内のレクリエーションルーム
「ねぇねぇ、お姉さんもパイロットなの?」
ナタルが頭の痛くなるような話をしている最中、フレイはJPに同行していたもののパイロットとの交流を最優先にしろと言うナタルの言葉に従って、この艦に有る3機のパイロット達と会っていた。
「……、私の事知らないの?」
有名人であると言う自覚は有るし、戦中は度々プロパガンダで使われた事もあって、大西洋連邦。ひいては連合内で彼女の顔を知らない人間は居ないほど、と思っていたが無邪気にも彼女にそんな事を聞く人物がいた。
「アンタ名前は?」
「わたし…?ステラ!お姉さんの名前は?」
フレイはステラと言う少女を見ているとどうしても違和感を感じていた。歳の頃は、フレイとさほど変わりはない。寧ろこの位の年齢であればもっとしっかりとしている筈だ。
だがどうだろうか?このステラと言う少女は、あまりにも精神的に幼すぎる。
「私はフレイ。フレイ・アルスター、聞いたこと無いかしら?」
「ううん?ステラ知らない、アウルとスティングなら知ってるかも?」
恐らくは彼女の同僚とも言える人物の名をだすと、3人という人数に思い当たる節があった。
それは、ヤキンや宇宙で共に戦ったあのブーステッドマン達のことだ。
あの3人は元々志願兵であり、自分達から進んで生体CPUになったのだが、目の前のこの幼気な少女はどうだろうか?
この精神的にあまりにも幼いところから、様々な虐待を受けたかそれに準ずる何かをされたのかもしれない。
だとすれば、戦争前から何かしらをやられていたのか…。
「あっ、いたいた。おいステラ何やって…、アンタは。いや失礼しました少佐。」
恐らくは兄貴分、緑髪の青年が姿を現すとフレイに対して礼儀正しく敬礼をする。
安定しているように見えるけれども、彼にも違和感を覚えた。
「結構、楽しててよ。少佐なんて肩書だけなんだから。ところで、アンタがスティング?」
「え…?どうして名を。ステラから聞いたのですか?」
そんなところと、フレイは喋ったがなんとなくこの男がスティングとわかったからこそのその答えだった。
他愛のない会話をしようかと、そう思っていた時フレイは帰還せよとの命令を受けてその場を離れるしか無かった。
「ねぇ、ステラちゃん。今って楽しい?」
「楽しい…?わかんない、でも皆いる淋しく無い。」
その言動は幼い、フレイはステラに対して一抹の不安を覚えたが、彼女たちとは別の派閥の人間だ。
だから、それに口出しをする事は出来なかった。
数刻後、フレイが半休に入り自室で仮眠を取っている頃、その不安が現実のものとなったのだが、ドミニオンには勿論事態の重要度によって公表されることはなかった。
……
「ふ〜ん、そうですか。ジブリールの関連施設がザフトの手に渡りましたか…。本当に詰めが甘い人ですねぇ、僕のように現場を見たことがないからそうやってふんぞり返るしか出来ない無能になるんですよ。」
ワイングラスを片手に、南アメリカ大統領と2者面談を直接おこなっているのは、ムルタ・アズラエルである。
独立国から再度連合へと加盟した南アメリカ合衆国、その最高権力者に対してアズラエルは、とある提案をしにやってきていた。
「いやぁ、貴方のおかげで随分と発掘調査も進みましたよ。これで、プラント理事国と渡り合えたりするかもしれませんよ?」
「こちらこそ、アズラエル氏には頭が上がらないところです。まさか、MS生産拠点をこの地に築いてくださるとは…」
「いやいや、
実際アズラエルは嘘を言っていなし、南アメリカ大統領も嘘は言っていない。
アマゾン川流域の大地に眠る巨大な地下洞窟、それをアズラエルは巨大な兵器工場へと変貌させていると、大統領は思っているのだが、アズラエルとして見れば元々あった施設を修理と共に、技術吸収をさせてもらっているに過ぎないのだ。
尤も、その金額は国家予算レベルであるのだから、このアズラエルと言う男の経済力は半端ではない。
伊達に大西洋連邦での国防理事になっていた訳では無いし、何より連合兵器の大半はこの男の関連企業なのだから恐ろしい。
ジブリールは知らず知らずの内に、アズラエルの力を借りていることを知らないし、こうやって様々な国に浸透していっているというのも、この男の力である。
確かに軍人ではないし、学者でもない。
だが、この男以上の予算を片手間に動かすことが出来るコーディネイターが、果たしてこの世界にいるのかと言われれば、いない。
だからこそ、余裕がある。ジェネシスを地球にぶち込まれる様な、そんな切羽詰まった状況でもなければ彼は仕事熱心な人間だ。契約者には益を齎すし、彼自身もブルーコスモスとして大っぴらに先のユニウスセブンの件でボランティア活動をしている。
一般的に見た彼の評価は非常に高く、敵にとってはまさしく厄介な人物だった。
汚点という汚点すら利点に変えるその手腕。もはや才能である。
「ところで、一つお聞きしたいのですが…宇宙艦隊が欲しいという話を小耳に挟みまして…。」
その言葉を聞いた大統領は、目を大きく見開いて驚愕した。情報が一体どこから漏れたのだろうか?信頼における人間にしか話していない筈なのに…、冷や汗を流しながらその言葉に答えられない。
「もしよろしければ、弊社の物をお使いください。」
営業スマイル、嫌悪感も抱かせないものだ。だが、その姿は大統領から見れば不気味そのものだ。
大統領は、何も言われていないのに脅されていると、そう思ってしまう。ジブリールのように、大っぴらに権力を振りかざす事無く、静かにいつの間にか真綿を首にかけられていたのだから。
さて、これらの南アメリカ合衆国でのアズラエルの功績に、もう一つ重大な物事がある。
それは、MS開発において非常に重要なもの。発掘品の中にあった。後年、この物は世界中の汎ゆる物に取って代わられる。そして、コーディネイターの有用性も段々と下火になっていくもの…全自動CAMシステムという物が導入される。
コレは従来の人間の設計を汎ゆる状況で凌駕し、データさえあればどんな勢力でもMSの設計を極短時間で行えてしまう。
それによって戦争は下火になっていくが、それはまた別のお話。
……
アークエンジェルの艦橋にて、その艦長であるラミアスは考え込んでいた。
これからどのような動きをするのか、それはだいたいが決まっていたのだが、問題は相手である。
ラクスが地上からプラントへと赴く事になり、その護衛としてバルトフェルドと共に宇宙へと上がった後、連合とザフトの艦隊が再び激突した時、カガリから再度オーブ軍の説得をしたいという言葉が飛び出たのだ。
しおらしくすることも無く、堂々としていた姿は前大戦の頃のお転婆娘そのとおりであった。
勿論立場は変わってはいたのだが、ラミアスとしてもそれに反対する理由もない為否定はしなかった。
しなかったのだが、どうもドミニオンの事が頭から離れなかった。
「おいおい、そんな思い詰めた顔しちゃってぇ、可愛い顔が台無しだぜ?」
軽口を言うムウは、緊張を和ませるようにラミアスの肩を揉みそのまま胸の方へと手が滑るように向かうが、ラミアスはそれをはたき落とした。
「場所を選びなさい…。まったく、今はそれどころじゃないのよ。」
「あぁ、わかってるよ。
ムウやラミアスにとって、あの二人は未だに敵ではなかった。ナタルに関しても、フレイに関してもあの時のままに接していたかった。
だが、相対することとなってしまえばその話も有耶無耶にならざるおえない。それが、キラやフレイにどれ程の心労を及ぼす事になるか、考えただけでも胃が痛かった。
MSパイロットとして、友人殺しを強要するということでもあったからだ。
「私達が出ていけば、必ずドミニオンが立ちはだかる。そうなったら、勝てる勝てない以前に…。」
「なら、俺が相手を出来れば良いんだが…生憎俺もそんな余裕は無いだろうさ。あの艦からは、感じ慣れた気配がするんだ。ま、だからさ、ヤバくなったらずらかるのも手だぜ?
俺たちは軍隊じゃないからな、そこは自由に選ばせてもらおうぜ?」
CICの中にいるミリアリアにもその言葉は聞こえていた。彼女にとってもまた、フレイは後輩だったから。
キラの感じていたその重圧を、その身で始めて実感していた。