機動戦士ガンダム Red Fractal   作:丸亀導師

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第17話

艦内の特別室、大佐としては破格の対応。

ネオは自室においてそのマスクを脱いでいた。顔は暗がりで見え辛い、だからこそその素顔が見えないのだ。

それどころか、上半身を剥き出しにして只々椅子に座っているという奇妙な行動を取っていた。

 

その肉体は正しく鋼の如し、金属光沢と言うものは無いにせよ無駄な脂肪もなければ、無駄な筋肉もない。

戦闘の為に創られたと言っても良い程には計算され尽くされた肉体の作り方であろう。

 

そんな男が椅子に座ってただ黙々と目を瞑って、まるで瞑想しているかのように微動だにしない。

寧ろ、生きているかすら怪しい程に呼吸音すら微少なのだろうか、室内には艦内の音だけが響いてた。

 

ピーピーピー

 

と呼び出し音が鳴ると、ネオは徐ろに目を見開き直ぐに艦内電話器を手に取ると報告を聞いた。

 

「そうか、敵はおいでになられたか…。各艦に戦闘準備を取らせろ、後は……オーブ軍が独自に動いてくれるだろうさ…。」

 

ネオはその声色にまるで感情を乗せず平坦に言う。

受話器を収めれば、今度は仮面を手に取り被ると

 

「問題はこちらの戦力が、10%程落ちたことか。ステラの独断を許したのは痛いが、所詮は使い捨てのCPUに過ぎない。代替品があれば直ぐにでもスクラップヤードだ。」

 

この男はステラの事など微塵も心配していなかった。寧ろ、ステラと言う存在だけでなく生体CPUと言う存在そのものを、完全な使い捨て品として認識していたのだ。

コレには艦内の誰もが賛同しかねたし、もし施設の人間がいれば流石にここまで酷い者もいなかっただろう。

 

大事な大事な研究対象、それも成功品とそれを使い潰そうとする存在。施設の人間はまだ、人間味があった。

 

 

……

 

 

空に突発音が響き渡り、稲妻が鳴り響く様に辺りを震わせる。

幾つもの閃光が瞬く度に、それは拡大し続け彼方を照らしつける。

 

クレタ島、そこは古来より戦争の要所として戦争の中心にあった島。今そこでは、幾度も行われた戦いと同様に幾つもの生命が光と共に消えていっていた。

 

ザフト艦隊はジブラルタルへと向け航行を開始し、ミネルバはその旗艦として艦隊を率いそれを西進していた。

地中海と言うものは、それ程広いものではない。大小様々な島から形成された海が彼等を拒むかのように乱立し、連合オーブ艦隊は其れ等を利用して、ミネルバ等を包み込む様に戦闘を開始していた。

 

撃ち撃たれ、殺し殺され幾つものMSが海へと没する中、その戦場に再び混乱を持ち込む者達がいる。

アークエンジェル、そしてそこから発艦した幾つものMS達…、彼等はオーブ軍を説得しようと、連合ザフト問わず見境無しに武力を行使する。

 

カガリは、オーブ軍は戦闘を停止せよと言う。

言葉は聞こえは良いかもしれないがやはり受け入れ難い。既に始まっているものを停めるのはやはり、遅すぎる。

終いには、戦闘を止めようとしたオーブ軍機に攻撃をされ、防戦する羽目になっているのだから、始末が悪い。

 

護衛機であるトリコロールのムラサメは、そんな彼女のルージュを庇うべく割って入り落とされない様にと、掛かってくる者に容赦はしていなかった。

 

「おい!嬢ちゃんしっかりしろよ!お前が落とされたら、かなり不味いんだぞ!」

 

「わかってる!けど、私には彼等を!」

 

「覚悟が決まった連中を説得するのは並大抵じゃ出来ないんだ、それが戦争なんだよ!前の戦争でのお前の父親がそうだった様にな!!」

 

フラガはカガリに叱咤する、カガリはその言葉に自らを鼓舞するように説得を続けようとしたが、そこに新手が現れた。

 

『戦闘の邪魔はあまりしてほしく無いものだな!!』

 

ムウの脳裏にその言葉が駆けると、ムラサメは機体を急激に動作し来る1条のビームを避けてみせ、一転その方向へと引き金を引く。

 

急激に接近するのは、銀灰色に展開されたPSを空に輝かせたジェットストライカーを装備したストライク。

それに乗っている者が誰なのか、ムウにはすぐに分かった。

 

「お前は…!本当にしつこいぜ!ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

「そういう君も、相変わらず私の前に立ち塞がるかムウ・ラ・フラガ!」

 

互いに惹かれ合うように、その戦場で2機は激突する。

 

「フラガ機戦闘に入りました!目下、ドミニオン所属機と戦闘中!」

 

「ぬかったわね。」

 

ラミアスは唇を少し噛みながら、己の戦闘感と言った物の衰えを感じていた。いや、どちらかと言えば2年間のブランクと言ったところだろうか?

元はと言えば技術士官、艦長をやるような人間では無いのだがアークエンジェルの艦長を勤めている。

 

そんな彼女はこの2年の間、勿論いざという時の備えを怠った覚えはないのだが、如何せん戦闘が少なかったばかりにその感が鈍っていた。

そう、情報を頼りに敵の戦力を見誤ったと言った方が良いだろう。

 

そもそもドミニオンは新兵を乗船させながらの戦闘というところであり、手練であってもフラガ程では無いと高を括っていたところも大きい。

最大の敵となるであろうフレイはキラに着けられるとして、その場合機体の総合性能として、アップグレードされたとは言えストライクではパワーも、それから来る反応速度もフリーダムに劣っている。

 

だからこそ充分に対応可能だろうと、そう考えていた。

 

だが現実はどうだろうか?フラガは其処らのパイロットに負けるような生半可な腕を持っていない。

殆どのパイロットであれば圧倒されるだろうし、彼とムラサメの相性は頗る良いのだ。可変機故のトリッキーな動きもやってのける。

 

だが、敵のストライクはそれに完全対応しているのだ。

まるで、フラガの癖を良く理解しているかのように。

 

その時だ、操舵手であるノイマンが突如としてアークエンジェルの船体を固定から手動へと切り替えるのが、ラミアスの目の端に入った。

と、同時にラミアスは声を荒げて言い放つ。

 

「回避ー!」

 

声が発せられるよりも速く船体が動き始めるが、そんなもの構うことも無い。

ノイマンは操舵を任されているのだ、彼の咄嗟の判断はだいたい正しい。それを信頼してのこの動きなのだから、攻撃が来たということを示唆できた。

 

「レーザー照準も無しに撃ってくるとはね。」

 

実体弾、それも超高速のそれは海上艦のものではない。そんなもの積んでいる艦等、この海域には二隻しか存在していないのだから。

アークエンジェルとドミニオンだけである。

 

「しかし狙いは正確です、応戦しますか?」

 

チャンドラの進言は至極真っ当なものだが、ここで本気で応戦し撃沈した場合はそれこそ海賊と変わりはしない。だが、ここで沈められる訳にも行かない。

そして、その判断を一瞬にしなければならない。

 

「フリーダム、交戦中。新たな機影接近…、ストライクです!」

 

三つ巴の戦いは熾烈を極めていた。

 

3機のMSフリーダム、ストライク、セイバーがそれぞれを牽制し合いながら、その距離をジリジリと保っている。

どちらを誰が攻撃するのか、それに従って誰が誰を落とすのか、拮抗した時間が流れていく。

 

そんな中でも一番積極的に攻撃をするのは、フレイの駆るストライク。この中で最も継続戦闘時間が短い機体…、短期決戦を仕掛けなければ直ぐにでもPSダウンが待っている。確かにTPSによって戦闘時間は伸びてはいるが、所詮は旧世代機。それこそ、設計が一番古いのだから余計な部分に電力を割いていた。

 

「二人とももう辞めるんだ!こんな戦闘をして、いったい何になるって!!」

 

フレイはより積極的にアスランを狙う傾向があった。それは勿論連合とザフトという敵であると言うところもあるが、個人的なムカつきもあった。

 

「煩いわねぇ!!ゴチャゴチャと軍人でもない一般人がそんなもの振り回して、キラ!アンタには関係ないでしょ!」

 

と言いながら2方向から飛んでくる攻撃を、まるで最初から知っていたかのようにヌルリと回避していくと、お返しとばかりに今度はビームライフルをセイバーに向ける。

 

咄嗟にアスランが回避行動を取るが、それを先に置くようにライフルは動きそれに対してアスランは自身の反射神経の限界で逸らしてみせる。

 

そんなフレイを狙うようにキラは接近戦を仕掛け、フレイは盾でそれを受け止める。だが、パワーが段違いである為に盾が一瞬吹き飛ばされ無防備を晒す。

そこに目掛けサーベルを四肢に斬り込もうとするところに、盾の反動を利用して蹴りでサーベルを逸らす。

 

すると今度はアスランは機体の加速を利用して、フリーダムに組み付こうとするが、キラはそれを見て機体を回転させて回避した。

 

一見すれば一進一退の攻防であるが、実際のところフレイはジリ貧でアスランは焦っている。

キラだけは余剰エネルギーがある為余裕があるが、一瞬の隙で落とされる危険を妊む。

 

「私はねぇ、アスラン・ザラ!!アンタに文句があんのよ、どうしてカガリの傍で支えてやんなかったのかって、巫山戯んじゃないわよ!心に決めた相手なら、最後まで一緒にいなさいよ!だからこんな事になってるんでしょうが!!」

 

「俺ただ、この選択が正しいと!だいたい!先に戦闘を仕掛けたのは!」

 

「だとしてもカガリは今泣いているんだ!」

 

三者三様の言い合い、戦闘というよりも喧嘩。しかも一方的にアスランを責め立てる二人。

そしてフレイは別に、連合が先制攻撃した事に反論はしない。実際そうなのだから。だが、だからといって…。

 

「あの腹黒のことをそんなに信用するなら根拠出しなさいよ!」

 

その言葉はアスランにあった迷いを増加させる。先の戦闘後キラを説得せんと話し合いを申し出て、キラに言われたことを一瞬思い出すのだ。

その一瞬が運命を分けた。

 

不運だったのはそれだけではない、この時キラとフレイの利害はある一点において一致していた。

キラはオーブの艦艇を落とされたくないし、オーブ軍を庇いたい。対してフレイは地球軍としているオーブを保護したい、と言うものだ。

 

フレイは元々キラの動きを制限するのが目的なのだから、アスランは邪魔だし、キラにとってもオーブ艦艇を狙うザフトのアスランは脅威だ。よって、限定的な共闘がこの一瞬にのみ現れた。

 

キラの動きがガラリと変化し、より鋭敏にアスランを捉えた。

seed、その力は使用者の本来の力を引き出す。何とか避けようとするが2対1である、如何に彼と言えどそれは不可能であった。

無残にも、セイバーは四肢を破壊された。

 

そして、アスランは消えゆくモニターの中でフリーダムとストライク。キラとフレイの戦闘を一瞬その目で見つめていた。

 

セイバーが破壊されると、今度は1対1の戦闘となりストライクとフリーダムの戦闘は続いている。

だが、この時既にストライクは限界に近付いていた。

 

コックピットには赤い警告色が点灯し、各種の関節駆動部が悲鳴を上げる。

いつ壊れてもおかしくない限界点、そこが目前へと迫っている。パイロット反応速度はキラよりもフレイの方が優れている、ただそれを活かし切る機体には巡り会えていない。

 

対してフリーダムは、元々コーディネイター用に開発されているものだ。極限の反応速度に追従出来る物だから、そこが自ずと結果に繋がってくる。

徐々に機体限界が近づくストライクは、バグのように幾つかの挙動が不完全となっていく。

 

そんな最中、フレイは意識の外で何かが起こりそうなそんな気配を察知し、ビームライフルを向ける方をフリーダムからずらすと、引き金を引く…。

それは明後日の方向へと飛んでいく、それをキラは腕ごとライフルを破壊して、ストライクを戦闘続行不可能にすると戦場を駆け抜けた。

 

ムウやカガリに加勢するために、急ぎ戦場を抜けて行く…それをムウに対していたラウは気がつくと、一目散にそこから離れる。勿論、その穴を埋めなければならないが、両軍から攻撃のある彼等は撤退を支援する火力に立ち往生し、それを眺めるしか出来なかった。

 

フレイがキラにやられた頃、シンはオーブ艦隊旗艦タケミカヅチへとインパルスを屹立させていた。

巨大な実体剣エクスカリバーを振り上げ、艦橋を破壊しようとした時、その目の前に一つのビームの帯が着弾し、タケミカヅチを小さく揺さぶる。

 

すると、振りかぶった先は艦橋から僅かに反れ艦橋の横っ面確かに斬りつける。

艦橋内に残存していた人員は唯一人、オーブ軍トダカ一佐。彼は死を覚悟していながら、その様な奇跡が起こったことを何とも苦々しい顔をしながら見た。

 

自らが生命を落とす事で、オーブ軍のその威容を貶めること無く、自らの責任とする事によって護ろうとした彼は死に損なった。だが、そんなものこの状況下では些事である。

 

半壊した艦橋を見る一人の少年が、インパルスにはいたのだ。

 

「ト…トダカ…さん?」

 

シンは恐怖した。目の前にいた人物は、自分を死地から救い出した人だと言うことを真っ先に理解した。

と同時に、自分が何をしようとしていたのかを理解してしまった。

 

恩人を、自分の知り合いに手をかけようとしたというその事実に驚愕し、スピーカーを入れた。

 

「トダカ…トダカさんですよね!!」

 

トダカにはその人物が誰であったのか分からない、それはそうだろう。コックピットの中は見えないし、スピーカー越しの声は少し劣化するのだから。

 

「…、君が誰かはわからないが、私を撃て!!」

 

トダカはオーブを護るために、自らを贄として無能を傘に着る覚悟を決めていたのだが、その宛が外れてしまった。

 

「俺です!シン…、シン・アスカ!」

 

その名前には聞き覚えがあった、シン・アスカ。自らが奇跡的に救うことの出来た、一人の少年の名を。

そんな少年に自分を撃てと言うのは、あまりにも酷な事だろう。トダカは流石にそこまでは非情になる事は出来なかった。

 

だからこそ、彼は拳銃を取り出した。

 

「生きていてくれたのか…良かった。」

 

たった一言、MSで拾えたのかはわからない。だがシンには物悲しげにこちらを向きながら何かを呟く彼の事が見えていた。

 

そして、ある一人の人間の決断を目にした。

こめかみに銃口を向け、引き金を引く。

彼の脳の一部が甲板に溢れ、それを小さく赤く染め上げる。

 

それを目撃した彼はあまりの出来事に目を逸らすと、は辺りを見回して始めて戦場の全容を目撃した。

自分が、どれだけの人間を殺したのかと言う事を…この時始めて理解し、そして…アスランの言っていた事を僅かながら理解した。

 

戦争はヒーローごっこ等ではない、互いに殺し殺される単なる、単なる獣の戦いにすぎない。

英雄なんてものは、所詮は戦意高揚の為の体の良い道具に過ぎないと言うことを。

 

 

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