「手酷くやられたわねぇ…、こっちなんてバラバラだし。」
MS格納庫で直立している自らの機体、赤いザクウォーリアと横で四分五裂しているセイバーを見上げながらルナマリアは呟いた。
彼女の片腕は今回の出撃で痛めてしまった為に、胸の前で吊ってある。
だが、生きていると言うだけでも奇跡的な戦闘故に、こうやって何事もなく眺められる事に今でも信じられないと言ったところだ。
彼女は格納庫からレクリエーションルームへと歩みを進め、そこへと到着するとそこにはシンと、彼女の妹であるメイリンの姿があった。
「あ、お姉ちゃん。大丈夫だった?」
「大丈夫だった?じゃないわよ、一度も見舞いに来なかったくせに、薄情者ね。」
「だって、その時シフトだったし…。」
いつもの調子にしている妹の姿を見るに、彼女は安堵していた。しっかりと自分はこの艦を護ることが出来て、大切な妹を護る事が出来たのだと。これが夢や幻等では無いということを。
「ところで、何の話をしてたのよ?」
「いや、ルナには関係ないよ…。ただ、メイリンに愚痴ってただけで…。」
ルナマリアに答えるシンの姿は何処となく暗い感じがした。今にも消え入りそうなその姿は、いつものような快活な少年という姿ではなく。例えばそう、ディオキアの家族を失った人々に重なる姿だった。
「でも、シン凄かったんだよ!私に命令なんて飛ばしちゃって、本当に…」辞めてくれよ!!…あ、ごめん。」
「シン……、はぁ…。何があったのか、私にも聞かせてくれる?」
その言葉にシンはポツポツと話を始めた。自らがオーブ出身であるという事を改めて告げた後、彼は自らを救い出した一人の軍人の話を始めた。
そして、その事を話すと徐々に彼は手を震わせていった。
「俺は……俺はそんな人をこの手にかけようとしたんだ!これじゃあ、あの時の連合と何も!」
自分の家族を文字通り消し飛ばした、当時の連合と自分の姿を重ねているのだ。
良くない傾向、彼の心はあの時壊れている。そして、今度は修復され始めた心をハンマーで叩き割るように現実が彼を襲っているのだ。
その事に対して、ルナマリアは答えを持ち合わせていなかった。彼女は身内を失ったことも無ければ、身内を殺したことも無い…。ただその答えを持っているのは、唯一人だけだと言う認識はあった。
「ごめんなさい…、辛い話させて…。私にはかける言葉はないかもしれない、ただアスランならその答えを知ってるんじゃないかしら?」
身内殺し、それに近い行動を取ったことのある人物など一人しかいない。
「アスランが?」
「アスランさんなら甲板で黄昏てたよ、なんか近づき辛い感じで…ってシン!どこ行くの!」
部屋を駆け出すシンの後ろ姿をルナマリアは見つめる。こんなにも不安定なシンを見たのは、アカデミー以来だったからだ。
それだけに、これからの前途を憂いつつも自分が頑張らなければと心に誓った。
シンはアスランを甲板で見つけると、声をかけ辛そうに思いながらも、後ろから声をかけた。
「アンタも…やられたんだってな。」
いつもの調子で話しかけようとしても、何処となくぎこちない。シンは取り繕っていた。虚勢を張っているとも言える。
「シン……、そうだな。そうだろうさ、失望したのか?こんな無様にも落とされた俺の事を。」
「いや…そう言うんじゃ…。」
シンを見つめるアスランは溜息を吐くと、また黄昏るように海を眺め始める。
「何か心配事でもあったのか?それとも…問題が?俺の見ている写真が気になるのか?」
アスランは1枚の写真を指で挟みつつシンに見せつけるように言う。複雑そうな顔をして。
「アンタ…、フリーダムのパイロットと戦って何とも思ってないのかよ!」
「キラとか?何も思っていない理由無いだろ、俺だって本当は戦いたくはないさ。だがな、今の状況ではどうしようもないだろ?」
割り切るという方法、アスランはそうやって今迄も戦ってきた。勿論、本人にしても周囲にしても、その不完全さは危うさとなるが、それでも彼は折れずに戦ったのだ。
それしか出来ないが故に。
『俺は…どうすれば良いんだよ!』
だが、シンにして見ればそんな回答が欲しいわけではなかった、もっと苦悩やそれに対する何かしらの方法があるかもしれないという、淡い期待は露と消えた。本来であれば、たった2年で克服出来るほど彼の傷は浅くはない、そのトラウマをほじくり返されたのだ。
後に残ったのは、どうすれば良いのかというメビウスの輪の用に終わりのない苦悩だけだった。
ではどうすれば良いのだろうか?彼の心の支えはただ一つ、妹のように思っている、ステラ・ルーシェ。彼女の様態が回復するという見込みの無い希望に縋るだけだった
……
ドミニオンの格納庫では、半壊したストライクを必死に戦力復帰させようと、整備班による粉骨砕身の努力が行われていた。
右腕を切断され、頭部を破壊されそれでも帰還した姿は、戦闘の熾烈さを物語っていた。
ただ、損壊しているだけならば問題は無かったのだが、所謂駆動系という部分に負荷が集中している事が判明してから、それの修復にかかりきりになっている。
寧ろ、この場合オーバーホールの必要が出てきて艦内での整備では限界があった。
「無茶苦茶な操縦をしたな。」
パイロット待機室でラウはフレイとともにその様子をモニター越しに見つめていた。その声には呆れと同時に、叱咤が入り混じっていた。
「分かってるわよ…柄にもないことしたくらい…。けどね、あれくらいやらなきゃキラだってわからないわよ。」
「手心を加えるのは良い、だがそれで君が死んでしまっては元も子もないというものだろう?折角見えてきた希望が曇るところは、私とて見たくはないからな。」
心配しているということでもあった。
だが、この時フレイは苛立っていた。
自らの挙動についてこれていないストライクに、足枷となっているその機体に、そしてそんな無茶な機動を彼女にさせたキラと、アスランに。
ガンッ!
と、ロッカーを叩いて彼女は部屋を後にする。自分が扱っても壊れない機体、壊れ辛い機体はもうドミニオンにはない。
ドミニオンの戦力はこれによって大きく落ちていた。
同じ頃、戦力を損失した連合の艦隊。その最高司令官であるネオと協議していたナタルは、その言葉に驚愕していた。
「我々にはこのまま戦線を離脱せよと?この戦力でまだ戦うおつもりですか?大敗した後ですが?」
「手厳しい事を言うね君も、まあ君の言う通りだが敵はこちらの損害をあまり把握していない。我々が留まっていれば牽制にはなる筈だよ。
それにだ…、君たちの方も消耗激しいのではないかな?」
戦闘は望むものではない、ナタルとしてもここで引けるのならば良いと思っている。だが、ここには未だに多くのオーブ艦艇が残留しているのだ。連合に加盟したとは言え、その戦力を完全に磨り潰す魂胆であることは容易に想像できた。
「まあ、そう言うことだから。コレは命令だ、良いな?」
ナタルはそれを渋々承服する他無かった、そしてこの戦線を抜け後方へと移動する自分達を、申し訳なく思っていた。
きっとこのまま行けばオーブ艦隊は大部分がいなくなる、そうなればオーブは完全に連合へと反旗を翻すことすら出来なくなる。
ナタルはこの気持ちの悪い政治ショーに辟易していた。
そして同時に、目の前のネオと呼ばれる男に違和感を覚えていた。一貫性の無い人間性にそれがあからさまに作り物なのではないかと、勘繰った。
実際、この時ネオはナタルやドミニオンにはさほど興味は無かった。
いや、無いと言うのは語弊だろうか?ドミニオンの一部分、新設されたジェネレータにだけは興味を持っていた。
だが、新しくジェネレータが搭載された事を知るものは連合でも極々一部であり、それをどうやって知ったのかは本人にしか分からないだろう。
かくして、ドミニオンは集結地からベルファストへとその歩みを再び進めるのであった。
優美に空を駆ける天馬のように、その巨体は大地から離れ徐々に高空へと昇っていく…。
「ほお…、素晴らしいな。これならレーダーにもセンサーにも反応されない。ミノフスキー物理学の解析もやっとここまで来たのかな?」
ネオは呟く…、それを見上げながら眼光を鋭くし口角を上げる。
「さて、もう人仕事しますか?女神様を食い止めるのは、たぶんここまでだろうからなぁ、どれだけの生贄を用意してくれるのか実に見ものだよ、ロード・ジブリール。」
ふざけているのか、彼は幾百人の兵士が死んだと言うのに笑っている。それがあたかも当然の出来事であるかのように。
「やっと…やっと願いが叶うんだ、それまで君たちが倒れられても困るからねぇ。私としても、それなりに支えさせてもらうよ。」
彼の白濁した双眼は、虚空を見つめていた。
……
宇宙空間を漂う、一隻の
ただ、その姿はあまりにも目立つ為に大っぴらに姿を晒す事は叶わない為に、今は暗礁空域にてただ巣に籠もっていた。
そんな場所へと、連絡用シャトルとそれに掴まる様に搭載されている漆黒のザクウォーリアが一艇横付けされていた。
「道中ご苦労さまです。」
彼等を出迎える為に、ラクスは最前線に立って労いの言葉をかける。
シャトルの搭乗員達は、所謂クライン派。その中でもよりラクスに近しい人物達である。
勿論、それらの人物にはターミナルという裏組織のメンバーもいる中、彼女には見知った人物が現れた。
「いえ、貴女のやった無茶よりかは割と楽だと思いましたよ。」
緑髪の青年…、ザフトのパイロットスーツを黒くしたような物に身を包んだ稚さを失いつつある青年が答えた。恐らくは彼がザクのパイロットであろう、疲れたように溜息をこぼす。
「ニコル様はお世辞が美味いですわね。」
ニコル・アマルフィ、彼はザフトに復隊することなくラクス・クラインを援助するべくターミナルに参加していた。
それは別に下心だとかそういったものではなく、今のプラント及び連合双方に違和感を覚えての事だ。
外側から其れ等を見るという選択肢が彼にはあったのだ。
暫くした後、場所をエターナルの艦橋に移す。流石にパイロットスーツは窮屈であった。
「それでは話を始めてくださいませんか?」
エターナル内で隠し事は出来ない、潔く艦内放送としてその事実が克明に話される。そう、艦橋で話をするのだから。
「まず、デュランダル現議長ですがその前歴を洗い出しました。元々は遺伝子工学を専攻していた様です。それと同時に、こんな物も…。」
取り出されたるは、乱れた文書。幾つかの破壊工作によってそれらは殆ど曖昧になっていたが、一部の文字だけはハッキリと見えていた。
「彼は昔、メンデルに務めていた可能性が浮上したんです。これがどういう意味か…、それにデスティニープランと言う計画…。それがどう関連するのか。
ただ、良いものでは無いという確信はありますが。」
「それはどうしてでしょうか?」
ラクスが問うた。それをニコルは微笑みながらザクの事を話す。
「アレを持ち出さなければならない状況でしたから…、やましい事が無ければ、僕らを襲撃なんてしないでしょう?」
そういった事から、彼女等はメンデルに向かう事になる。だが、もう一つの懸念事項に関しても、ニコルは彼女等に報告をする。
「もう一つ重要な事があります。」
決断をしようとしたラクスに対して、ニコルが口にした言葉は意外なものだった。
「連合内部の情報なんですけどね、月面で何かしらの物を発見したらしいんです。」
「何かしらとは?」
何かしら、それがわからないからこそそう言った呼び名であろうことは、ラクスにもなんとなく分かる。だが、だからこそ気にはなるものだ。名前が分かる現実的な脅威と名が分からない脅威と言うものは、それぞれ見方が違うから。
「部分的な解読は出来たんです。只管に連呼する文がありましたので」
「NEO…ですか?」
NEOそれは新しいという意味か、それともまったく別のなにかか…。ただ、その意味は決して無意味なものではないはずである。でなければ、連呼するものではないからだ。
「こちらも調査しなければなりませんね、わかりました。ですが、今はメンデルに行く方が先ですね。連合の伝手はあまりにも少なすぎますから…。」
選択肢が多い分、それを決断するには時間を要する。
だがラクスは即決した、悩んでいても仕方がないからだ。だが、勿論メンデルの関係者であるのなら、相応の警備がいるだろう事も予想される。それでも、手に入れなければならない物があるのだ。
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