まぁ、比喩表現ならセーフですよね。
強い敵は落とし穴に落とせ、そんな言葉が日本には古くから存在する。
だから我はその言葉通りに、今回のボスとなる“毒の妃ミダ”を倒すべく、
現在攻略中の『土の塔』の風車に火をつけたところから今回の冒険は始まる。
……と、思いきや、イチャモンをつけてくる敵と出会っていた。
「常識ねぇのかよ!」
分かる人には分かるだろう。『土の塔』に現れる常識を問うてくるおっさん。そう、ギリガンだ。
折角だからということで、あの分かりにくい手すりを壊して会いに行ったギリガンは開口一番に我に定番のセリフを言ってきたのだ。
「だからな、常識ねぇのかよ、って言ってんだよ!」
「何が言いたいんだお前?」
本当に訳が分からない。出会って早々に、いきなりこの調子で「常識ねぇのかよ」と連呼するギリガン。
こいつ、こんなに会話が出来ないアホだったか?
終始この調子では、そう遠くないうちにリーシュさんの雷が落ちるだろう。
「わたくしの愛するトゥルさんを侮辱するのなら、雷を飲ませますわよ」
本当に彼女の雷が落ちるのは遠くなかった。
リーシュさんの雷を華麗に避けるギリガン。
「ウハハハハッ! さすがは俺が目をつけただけの美人さんだぜ!
俺が常識ねぇのかよ、って言うのはだな。
てめぇみたいな美女が俺ではなく、そこのデカブツにくっついているからだ!
恥ずかしいこと言わせんじゃねぇ、馬鹿野郎が!」
どうもギリガンが言うには、リーシュさんの美しさにひと目で惚れて自分の女にしようと思ったが、うまく言えないので我を馬鹿にして相対的に自分の評価を上げてリーシュさんに惚れてもらおうとしたらしい。
……常識ねぇのかよ。
「わたくしは髪の毛一本から血の一滴まで全てがトゥルさんのものです
あなたのようなゲスにくれてやるものなんてありませんわ!」
「あー……、そういうことだギリガン。
リーシュさんは我のものらしいからな。
少なくとも彼女が望まない限りは、我も手放すには惜しいのだ」
とまぁ、話し合いで解決できればそれが一番なのだが、ギリガンは常識がない男だ。
常識がないということはだ。何をしてくるかが分からない危険な男でもあるということだ。
「このドラングレイグでは常識に囚われてはいけねぇんだぜ?
だから俺は力尽くでてめぇを俺の物にしてやる!」
「こちらからも言ってやる。常識ねぇのかよ!」
女性を守るために戦う男の何とカッコイイことか! 自己陶酔!!
己の広い背中でリーシュさんを隠すと、両拳のセスタスを打ち鳴らして開戦の火花を散らす。
そして対人戦の基本でもある「一礼」をしたのだが、ギリガンはそういった挨拶の常識も持っていなかったようだ。
「バァ~カめ! 相手の一礼を待つような対人戦が何処にあるってんだ!?」
だが残念。挨拶中の攻撃など当然予想していた我はギリガンの見た目だけ派手な曲剣の一撃を危なげなく回避。
そもそも不意打ちというのは、相手が攻撃技を選択した時にのみ先制出来る技だ。
どうも『フトコロ・バケモノ(「ポケットモンスター」とも言う)』の影響が強いが、インド人はフトコロ・バケモノが大好きであり、ここ最近になってテレビでもアニメ放送が始まってからは大人から子どもまで、インドはフトコロ・バケモノ一色だ。
「なるほど、ギリガンは挨拶を軽んじる男か。
闇霊でも報復霊でも、対人戦を好む他世界の者たちは意外と礼儀があるというのに悲しい奴だ。
たまに『擬態』からの不意打ちをしてくる輩もいるが、ひたすらにこちらが一礼を繰り返していると大抵は返してくれるのにな」
もちろん、決して一礼することなく絶対殺すマンとして殺戮のみを目的に来る侵入者さんも居ないでも無いがな。
それはそれで面白いし、ギリガンがそういう奴らに属するというだけの話だ。
せいぜい、勝った後に「馬鹿にする」からの「私だ!」ジェスチャーで見送ってやるとしよう。
我も反撃として得意の接近戦に持ち込むべく突進を開始するのだが、そうはいかない出来事というのは往々にして突然起こるものである。
具体的には旅の友であるリーシュさんだ。
「トゥルさんの一礼の最中に攻撃したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!
トゥルさんのッ! 素敵なッ! 一礼をッ! 邪魔したァァァァァァァァーーー!!!」
我の一礼が邪魔されたことで切れたリーシュさんは、奇跡の力で多次元世界へと干渉して別世界の己自身を霊体として召喚。その数ナンと三人!!
霊体三人と本人一人による奇跡『太陽の光の槍』の一斉掃射が放たれる。
両手で交互に撃ちだすので人数も相まって連射性能は凄まじいものを誇り、筆舌に尽くしがたい圧倒的な数の暴力。囲んで棒で叩くとはこのことだな。常識に囚われない自由すぎる宣布だ。
「ストップだ、リーシュさん!
ほら、ギリガンが消えている!!」
「……本当ですね、逃げたんでしょうか。チッ」
ギリガンはあの雷の雨の中をどうくぐり抜けたのか分からないが、この場から消えたということは死んだのか、はたまたマデューラに移動したのか。
まぁ、どうでもいいがな。
我の勘だと、あの手の常識の無い男はそうそう簡単には死なないだろう。
いつか、そう遠くない未来で出会うことになるだろう。
「というか、リーシュさん。白霊召喚は普通は二人までだ。
攻略はホストを含めて三人まででしか出来ないのに、ナンか多くない?」
「いいえ、トゥルさん。
別の世界……ボーレタリアと呼ばれる地では霊体を三人召喚出来るそうなのです」
「いや、それ普通にバグだから!
というか召喚したのが三人! 我とリーシュさん本体を含めて五人この場にいることになってる!!
このまま五人でボス戦に挑む気なのか?」
「ふふっ、慌てるトゥルさんも可愛らしいですわね♪
でも大丈夫です。
今回のエリアボスは毒の沼という自分の得意な場所を用意しているのですから、数的優位に立つのは卑怯ではありませんわ♪
それに彼女たちも、トゥルさんを助けるための協力なら惜しまないようですし♪」
「「「……♪」」」
白霊のリーシュさん×三人も嬉しそうに笑みを浮かべている。
なるほど、確かに彼女の言うとおり、このエリアのボス“毒の妃ミダ”はトリッキーな動きでパターンが読みにくいし数的優位の戦法は悪くない。
しかし結果は誰もが予想できるだろう一方的なものしか考えられないな。
召喚された白霊のリーシュさんたちは言葉を交わすことは出来ないが、我に対してリーシュさん本体と変わらない熱視線を向けてきている。
たぶん、彼女たちもそれぞれの世界の我との仲も良好なんだろうな。
◆ ◆ ◆
「ぱるぱるぅ!!!」
ボス部屋に入った瞬間、“毒の妃ミダ”の
しかし、それを予測していた我は、黄金の鉄の塊とも言える己の鍛えた肉体を盾とし、両腕に縄のような筋肉を浮かべて耐える。
白霊はホストが入るまでボス部屋には入れないので、リーシュさんの異次元同位体さんたちが全員入ってくるまでの時間稼ぎだ。
「……(ゾワリ)」
すぐ後に入ってきたリーシュさん(本体)は、敵の奇襲で少し焼けた我の腕を見て一瞬にして戦闘モードの鬼の形相になった。
同様に召喚された三人の白霊リーシュさんたちも激怒。ボス“毒の妃ミダ”よりも怒髪天を突く勢いで超サイヤ人オーラをまとっている。これは頼もしいものだ。
「トゥルさんの腕がぁぁぁぁぁぁぁー!
うぶ毛がチリチリになってるぅぅぅぅーーー!」
「いやいや、うぶ毛くらいで大げさでは?」
しかし我のツッコミはスルーされた。
白霊リーシュさん達も同じ反応。
本当に別世界の住人なのか疑問に思うほどにリーシュさん本人とそっくりだ。
一人くらいはツンデレとかクーデレとか、もっとそっけない感じのリーシュさんが居ても良いと思うのだが、これだけの数の美女に慕われているというのは男としてドヤ顔を晒すべきだろうな。
「ぱるぱるぅ!!!」
だが、怒っているのはボスも同様のようだ。
リーシュさんたち四人は奇跡『太陽の光の槍』を両手で連射するが、“毒の妃ミダ”は華麗に回避。
蛇のような下半身を巧みに使い、トライダガーXめいて壁走りから天井まで這い登る空間を上手く利用した回避方法だ。
ミダが手に持つ槍はストロー状になっているらしく、天井からエリア周りの毒沼へと伸ばしてジュルジュルと吸っている。
天井から毒を飲んで回復! そういうのもあるのか。
「リーシュさん達!
我が足止めをするから、その隙にみんなで電気ビリビリを打ち込んでくれ!」
脳筋は聖職者や魔術師を守る肉の盾! 彼女たちを守るために前線を維持することこそパーフェクト筋肉戦士の最高の誉れ!
このボスは部屋の床に広がる毒液を体内に取り込むことで回復し、逆に挑戦者は足元から毒になってしまうという厄介なボス部屋だ。
道中の風車を燃やすことで毒の量は減っているが、それでも周囲にまだ少し毒液は残っており、“毒の妃ミダ”はこちらの攻撃を避けつつ毒液を体内に取り込んで回復を続けている。
となれば、取るべき戦法は一つ! 落とし穴だ!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉー! 手に入れる方法が誰も思いつかないだろう武器の〈つるはし〉を最大強化し、さらにパーフェクト脳筋の筋力とスタミナで高速落とし穴を掘るぞぉぉぉー!」
穴を掘るならスコップやシャベルだろうが、つるはししかないのだから仕方がない。
しかもこのつるはしは手に入れるのがか~な~り、面倒臭いのだ!
使わなければ損だろ!
“毒の妃ミダ”、ものの数秒で出来上がった落とし穴につるはしを投擲して落下させると、すっぽりとハマる。
「かかったなアホがぁ!
リーシュさん達、雷の一斉掃射を頼む!」
「愛の雷で灰にしてあげますッ!」
「「「……ッ!」」」
白霊リーシュさんたちも無言で、しかし嬉しそうに雷を手にし、投擲。
哀れ、“毒の妃ミダ”は回避も防御も出来ずに全身を雷に貫かれて爆発四散。ワザマエ!
「終わりましたね、トゥルさん。お疲れ様です♪」
「ああ、リーシュさん達もお疲れ。
これからも辛く苦しい戦いはあるだろうが、『ミスタードリラー』をやりこんだ我の穴掘り技術とリーシュさんの雷が合わされば実際最強に見える!
これからもよろしく頼むよ」
投擲に使ったつるはしを拾い、肩に担いで爽やかな笑みを浮かべると、リーシュさんはポ~っとしたように表情を蕩けさせ、そして一言。
「そうですわ、トゥルさん。
その穴掘り技術を見込んで、もう一つ掘って欲しい穴があるんですの♪」
「はっはっは、我にお任せを!
いつもお世話になっているリーシュさんのためなら、穴の一つや二つ余裕で掘ってあげるぞ♪」
「では……、わたくしの穴を、貫いてください」
一瞬ですっぽんぽんになるリーシュさん。ダニィ!?
「え? ちょっリーシュさん!?」
彼女が着ている聖女シリーズは防御力は低めだが、服であるため脱ぐのは鎧よりもずっと早い。それにしてもなんという速さ!
一糸まとわぬ彼女の裸体に、目は釘付けになってしまう。
それでもリーシュさんは落ち着いた口調で我に近づいてくる。
「楽にしていてください。
わたくしがリードします。
あなたの立派な『槍』をわたくしに磨かせて欲しいのです」
「……フムウ、なるほど。少し落ち着いてきたがどうやらこれは現実のようだな。
なれば我も男だ。ここまで女性に言い寄られて断るわけにはいかぬ。
だが最後に聞いておく。本当に我で良いのか?」
「あなたが良いのです。あなたでなくては駄目なのです!
さぁ、わたくしの『炉』はすでに暖まっております。
パン生地をこねるように、わたくしの手で大切に『炉』に入れさせてもらいます」
こうして、毒液があるボス部屋で我とリーシュさんは『パン作り』をする。
彼女の濡れそぼった『炉』に、『槍』を磨くべく、我の太くて長い筋力99にふさわしい『パン』を挿れて熱を高める。
ふふ、まさかこの我が聖女を相手にヤってしまう日が来ようとはな。
仏の教えというのは時代と地域で大きく変わるものだし、我もインドと仏教の魅力に独自のアレンジを加えてこのドラングレイグの地に広めるとするか。
まずは恋人同士となったリーシュさんの『炉』の具合を確かめてから。ハァハァ♪
なので、我は落とし穴を掘る戦法こそがもっとも有利だと判断した。
毒タイプは地面タイプの技に弱い。タイプ相性とは非常なほどに残酷であり、リーシュさんの奇跡の力は愛によって信仰ステ以上のダメージを叩きだすのであった。
この二人はどこまでいくのでしょうねぇ~。
あと、私は今日が誕生日だったりします♪